鬼村という作家

篠崎マーティ

文字の大きさ
4 / 56

四話「鴉の警告」

しおりを挟む
 私がこの出版社に入社した時「もし担当する作家が”鴉の警告”と言う話を書いたらボツにしろ」と聞かされた。意味が分からずその時は生返事をして終わり、そのまま記憶の片隅に追いやっていたその言葉が、突然息を吹き返したのは鬼村が”鴉の警告”を書き上げたせいだった。
「先生、これ、鴉の警告」と私が言うと鬼村は小さな目を丸くして原稿を見下ろした。
「あれ、とうとうアタシも書いちゃったか」
「書いちゃったかって、自分で書いたんでしょ?」
「ん。あんた編集長から聞いてないの?」
 鬼村は私の手からひょいと原稿を取り上げると、それを机にトントンと叩きつけて綺麗にひとまとめにしながら話して聞かせてくれた。
「これは昔書かれた短編なんだけど、覚えてる人が少なくなってくると誰かが同じ話を書くように仕向けて来るんだよ。自分の話を世間に広めて欲しいんだろうね。でも、我々商業の作家が同じ話書いて出版したら盗作だから、会社は気を付けてンの」
 彼女は原稿をA4の茶封筒にしまうと、綺麗とは言えない字で「鴉の警告」と書きなぐり、机の端に寄せた。
「後で燃やしとくわ」
 ゴミとして捨てれば良いだけなのではと思ったが、燃やすという手間が必要と言う事は、何かしら普通ではない存在なのだろう。私は机の上の封筒をじっと見つめた。
「……それ」
「うん」
「どんな話なんですか?」
 鬼村は小さな口をにんまりと吊り上げ、普通の人のそれより二倍はあろうかと言う大きな前歯を覗かせた。
「読んだらアタシみたいに、そこにあるのに気づけなくなるから駄目」
「あらすじだけでも?」
「実はあんまり覚えてないんだ」
 鬼村はちらりと封筒を見やり、腕を組んで独り言のように呟いた。
「多分、純粋に、そんなに面白くない話なんだろうね」
 はあ、と曖昧な相槌を打ちつつ、その小説を書き上げたいつかのどこかの誰かにふと思いを馳せた。
 まったく、小説家とは因果な職業だ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...