隣の席の、あなた

双子のたまご

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第五章

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「…恋愛としては、わかりません。」

「そっか。」

そうだよね。
分かってた。

言わせておいて、勝手にがっかりしている。

「…してもらいたいこと、というか、一緒にしたいことは沢山あるよ。」

「じゃあ…」

「でも今は一緒にいてくれるだけで嬉しい。
奏ちゃんに無理させたくない。」

本心だよ。
それに、君の気持ちが僕に向いてないと、虚しいだけだ。

「無理なんて…」

…奏ちゃんは、優しいね。
そんな彼女の左手を掴む。

「隣にいてくれるだけで良いよ。」

僕の恋人の椅子も一つだし、君の恋人の椅子も一つ。
それぞれにお互いが座っている。

親指で彼女の手の甲を撫でる。
こうやって触れられる。
充分じゃないか。

一緒にいてくれるだけで嬉しい。






…本心だよ。


















なんとなく、なんとも言えない空気のまま食事は終わった。

「帰ろう。」

「はい。」

そう返事をするが、歩き出さない奏ちゃんを不思議に思い目をやる。
彼女は頭上を見上げていた。
同じように空を見上げる。

「星、見えないね。」

都会の空は、明るくて狭い。

「でも月は綺麗です。」

彼女が眩しそうに月を見つめている。

「…奏ちゃんは月みたいだね。」

太陽よりは、月のようだと思う。
一見冷たいけれど、穏やかな温かみがある。
君の隣は心地いいよ。

「ちょっと嬉しい、です。」

照れたように笑う奏ちゃんと目が合う。

「…月みたいな人間に、なりたかったから。」

「月みたいな人間?」

「…」

どういう意味だろうかと聞き返すも、答えは返ってこない。
ただ、微笑んでいるだけ。

「…でも儚くて消えちゃいそうで、心配になるなぁ」

「…ふふ、そんなか弱い感じじゃないですよ、私は。」

…でも強くもないじゃない。
君は弱さを隠したまま、いつも一人で泣いてはいないだろうか。

行きましょうか、と言った奏ちゃんがそのまま消えてしまわないか、やっぱり不安になった。












「今日もありがとうございました。」

「こちらこそありがとう。」

繋いでいた手が離れる。
それでもまだ、近い距離。
昼間のプラネタリウムの時と、同じような距離。
頬を赤く染めた彼女の顔を思い出す。

…可愛かったなぁ。
抱き締めたい。

「…どうかしました?」

別れの挨拶もせずに動かない僕に、奏ちゃんが不思議そうに声をかけてきた。
その瞳がじっと僕を見つめる。
今度は食事の時間を思い出す。







『私に何かしてもらいたいことはありませんか?』








「う~ん…」

…言ってみても、いいかな。
特に痒くもない首を掻いてみる。
手を繋ぐことだってもう断られないし、
昼間だって今だって、肩が触れ合う距離でも嫌がられなかった。



隣にいてくれるだけでいいと言っていたくせに。









「…ぎゅって、していい?」






結局、自分の欲望に逆らえない。
僕も自分勝手で馬鹿な男なんだな。
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