隣の席の、あなた

双子のたまご

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第五章

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「え、あ…」

数秒固まった奏ちゃんの口から出た言葉は、言葉にならない、ただの音だった。
そんな奏ちゃんの反応を見て急に冷汗が背中に伝うのを感じる。

「あ…ごめん、あの、調子に乗った、かも…」

どうしよう、またやった。
また勢いでいった。

いっつもこうなってから焦り始める。
そして、

「一緒にいるだけで嬉しいとか言ったけど…
あの、ずっと、奏ちゃんのことぎゅっとしたくて…」

正直に白状し始める。

「何かしたいことないかって聞かれて、ちょっと甘えちゃったかも…
無理させたくないとか言っておいて、ごめん…
忘れて。」

奏ちゃんの目が見れない。
もう本当にかっこわるい。
こんなことばっかりで嫌になる。
僕は、奏ちゃんに僕のことを好きになって欲しいのに。
こんなんじゃ全然駄目だ。

奏ちゃんはなにも言わない。
もう、耐えられない。

「じゃ」

踵を返し帰ろうとした、が、

「おっと」

奏ちゃんに服の裾を掴まれた。
振り替えるのが怖い。
けれども無視して帰るわけにはいかない。

「…奏ちゃん?」

そんなこと言うなんて最低です。
急に抱き締めたいとか体目当てですか。
もう会いません。

…そんなこと言われたらどうしよう。

違うんだよ。
いや、将来的にそんなことも気兼ねなく出来たらいいなと思うけれど。

「あの…」

終わった…








「大丈夫ですよ。」









「え?」




だいじょうぶ?
何が?



「…どうぞ、」


奏ちゃんはそう言って服の裾から手を離し、遠慮がちに腕を広げた。
そう言ったあとに顔を真っ赤にして目を閉じた。

少し、震えている。

一歩歩みを進めると簡単に彼女の腕のなかへ。
そのまま彼女の背中に手を回す。

…わぁ、なんか、
何も考えられない。

「…ありがとう。」

「は、い…」

小さくそう答えて、奏ちゃんも僕の背中に腕を回す。
心臓がきゅう、と締め付けられる。
胸が苦しい。
きっとこの心臓の音は、奏ちゃんにも聞こえている。
ちょっと恥ずかしい。
けど、それ以上に嬉しい。

あぁ、温かいなぁ。
それに、柔らかい。
可愛い。

「奏ちゃんが許してくれる限り、側にいさせてね。」

物わかりが良いようなことを言う。
許してくれない日が来ても、どうにかしようとするんだろうけれど。

「僕には君が、必要だから。」

君も、僕を必要としてくれていたらいいな。

最後にぎゅっと力を込めて抱き締め、彼女から離れる。

相変わらず、奏ちゃんの頬は赤く色づいたままだった。



…いつか、僕の恋が君の良心の上に成り立っているような独りよがりなものでなくなりますように。



彼女の顔を見つめながら、そう思った。
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