25 / 53
第五章
Ⅳ
しおりを挟む「え、あ…」
数秒固まった奏ちゃんの口から出た言葉は、言葉にならない、ただの音だった。
そんな奏ちゃんの反応を見て急に冷汗が背中に伝うのを感じる。
「あ…ごめん、あの、調子に乗った、かも…」
どうしよう、またやった。
また勢いでいった。
いっつもこうなってから焦り始める。
そして、
「一緒にいるだけで嬉しいとか言ったけど…
あの、ずっと、奏ちゃんのことぎゅっとしたくて…」
正直に白状し始める。
「何かしたいことないかって聞かれて、ちょっと甘えちゃったかも…
無理させたくないとか言っておいて、ごめん…
忘れて。」
奏ちゃんの目が見れない。
もう本当にかっこわるい。
こんなことばっかりで嫌になる。
僕は、奏ちゃんに僕のことを好きになって欲しいのに。
こんなんじゃ全然駄目だ。
奏ちゃんはなにも言わない。
もう、耐えられない。
「じゃ」
踵を返し帰ろうとした、が、
「おっと」
奏ちゃんに服の裾を掴まれた。
振り替えるのが怖い。
けれども無視して帰るわけにはいかない。
「…奏ちゃん?」
そんなこと言うなんて最低です。
急に抱き締めたいとか体目当てですか。
もう会いません。
…そんなこと言われたらどうしよう。
違うんだよ。
いや、将来的にそんなことも気兼ねなく出来たらいいなと思うけれど。
「あの…」
終わった…
「大丈夫ですよ。」
「え?」
だいじょうぶ?
何が?
「…どうぞ、」
奏ちゃんはそう言って服の裾から手を離し、遠慮がちに腕を広げた。
そう言ったあとに顔を真っ赤にして目を閉じた。
少し、震えている。
一歩歩みを進めると簡単に彼女の腕のなかへ。
そのまま彼女の背中に手を回す。
…わぁ、なんか、
何も考えられない。
「…ありがとう。」
「は、い…」
小さくそう答えて、奏ちゃんも僕の背中に腕を回す。
心臓がきゅう、と締め付けられる。
胸が苦しい。
きっとこの心臓の音は、奏ちゃんにも聞こえている。
ちょっと恥ずかしい。
けど、それ以上に嬉しい。
あぁ、温かいなぁ。
それに、柔らかい。
可愛い。
「奏ちゃんが許してくれる限り、側にいさせてね。」
物わかりが良いようなことを言う。
許してくれない日が来ても、どうにかしようとするんだろうけれど。
「僕には君が、必要だから。」
君も、僕を必要としてくれていたらいいな。
最後にぎゅっと力を込めて抱き締め、彼女から離れる。
相変わらず、奏ちゃんの頬は赤く色づいたままだった。
…いつか、僕の恋が君の良心の上に成り立っているような独りよがりなものでなくなりますように。
彼女の顔を見つめながら、そう思った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる