精霊の使い?いいえ、違います。

らがまふぃん

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 お兄様を見習いなさい。
 お姉様をお手本にしなさい。
 なぜ出来ない。なぜわからない。
 お兄様はもっと幼い内にそれは出来ていた。
 お姉様はおまえの歳の頃にはその数段先をやっていた。
 頑張りが足りない。甘えるな。もっと出来るだろう。まだまだ努力が足りないのだ。頑張りなさい。努力しなさい。
 もっと。もっとだ。


 長い歴史を持つアビアント侯爵家。代々国の重要なポジションを任され続けている。今代の侯爵は宰相補佐。現宰相は高齢のため、あと数年で退く。その後は侯爵が宰相となる予定だ。
 侯爵には息子一人と娘二人の三人の子がいた。侯爵家は誰も精霊の使いではなかったが、息子のユーリは文武共に非常に優秀だった。一を言えば十を知り、剣を持たせれば面白いように上達していく。上の娘ラーナも優秀で、マナーもダンスも社交もそつなく熟し、語学も三カ国語をマスターしていた。この二人がいれば、侯爵家の将来は安泰だ。ただ、問題は末の娘、シーナの存在。
 シーナは上二人の出涸らしだと陰で使用人たちに嗤われていた。そんな使用人を、両親も兄姉も咎めず、見て見ぬ振りをしている。それはシーナへの対応はそれでいいと、家族が認めているも同義だった。
 アビアント家は、三歳にもならないうちから教育に力を入れている。
 最初のうちは、みんな優しかった。だが、一年も経つと、シーナは出来損ないのレッテルを貼られていた。
 勉強が出来ない、マナーがなっていない、ダンスも下手。それに加えてよく喋っている。ひとりで。突然笑ったり怒ったりもする。その奇行により、余計に疎まれた。


*~*~*~*~*


 「あのね、しぃな、きれいに、かけたのよ」
 シーナは忙しく動き回る使用人を呼び止めて、丁寧に書いた文字を見せる。
 「ああもう!こちらは忙しいのです!邪魔をしないで!」
 五歳になったシーナは、家族や使用人に虐げられる存在となっていた。
 睨みつける使用人に、それでもシーナは笑う。
 「ごめんなさい。でも、だれかに、みてほしかったのよ」
 使用人は無視をして通り過ぎた。そんなシーナの背中に衝撃が走る。幼い体が容赦なく床に倒れると、持っていた紙が手から離れた。
 「そんなところにいたら邪魔でしょう!おとなしく部屋にいなさい!」
 転んだシーナの頭上から怒鳴りつけるのは、メイド長。シーナの背中にワザとぶつかったのも彼女だ。
 「あの、」
 「ほらほら、どいて!」
 今度は前方から別のメイドがやって来て、シーナの手から離れた、丁寧に書いた紙を容赦なく踏みつける。
 「ああもう!何です、こんなところにゴミを置いて!本当に手間のかかる!」
 メイドは紙を拾い上げると、意地悪く口の端を上げる。見せつけるようにその紙をグシャグシャにまるめると、シーナに投げつけた。
 「おまえ!仕事の邪魔をするとは何事なの!」
 まるめられた紙に手を伸ばすと、今度は母である侯爵夫人がやって来た。使用人たちは頭を下げる。
 「あ、おかあさま!みてください。しぃな」
 侯爵夫人に近付くと、
 「近寄らないで!汚らわしい!部屋に戻りなさい!今すぐに!」
 そう酷く冷たい目で睨むと、扇でシーナの手を叩いた。持っていたくしゃくしゃになった紙をまた落としてしまう。侯爵夫人はその紙を踏みつけて、さっさと踵を返した。使用人たちは頭を上げると、シーナを突き飛ばす。
 「奥様がすぐに戻れと仰せですっ。さっさとしなさい、グズなんだからっ」
 「やめて、そんなにひっぱらなくても、しぃな、ちゃんとあるけるわ」
 「うるさいっ!早くしなっ」
 「煩わせるんじゃないよ!」
 引きずられるように腕を引かれるシーナは、笑う。
 「だいじょうぶだいじょうぶよー。おこらないおこらないの、ね?」
 使用人たちはますます腹を立てる。
 「おまえのその態度が怒らせる原因なんだよ!本当に頭にくるガキだね!」
 「どこかに閉じ込めてくれないものかしら!一生出て来られないようにしてくれたらいいのに!」
 そんな鋭利な言葉を投げつけられても、シーナは笑うのだ。



*つづく*
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