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アーリオーリ王国編
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座り込むアフロディーテに、ノアリアストは言った。
「すぐに始めますか。それとも日を改めますか」
美しい少年が自分を見ていることに、アフロディーテはこの上なく幸せだった。そして、この美しい少年が自分のものになると、まったく疑っていない。
「手を、手を、貸してはくださらないのかしら」
頬を染め、手を差し出すアフロディーテに、ノアリアストは無表情だった。
「私は私が認める者以外の体に触れることはありません。質問に答えてください。すぐ始めるか、日を改めるか」
アフロディーテはムッとしつつ、
「あたくし、剣など触ったこともありませんわ。そんな野蛮なこと出来るはずないでしょう」
そう宣いやがりました。女官も護衛も平伏している。最早謝り続けることしか出来ない。なぜこんなにもこんななのだろう。王族どころか貴族の器も持ち合わせていない。危惧した通りの恥曝し。これを止めることなんて、命を賭けるしかないではないか。一つの無礼を止めるために命を差し出していたら、一体どれだけの人数を連れて来なくてはならないというのか。
「そうだわ。あたくしの代わりにこの者が戦うわ。あたくしのモノですもの。あたくしが戦うのと同じことでしょう?」
護衛隊長を指して、アフロディーテは言った。その発言に、護衛隊長は愕然とする。戦うことが嫌なのではない。筆頭公爵家の仕来りだと言っていたではないか。それを蔑ろにする発言。自己都合でねじ曲げるその神経に、謝ることすら出来ない。
一方レイガード国の者たちは、欲しいものを手に入れるための努力もしないのかと呆れていた。
「あなたでは百年経っても無理でしょうね。特別に許可しましょう。ただし」
ノアリアストはアフロディーテを冷たく見下ろす。
「この一度で勝負が決まります。本人ではないのですから、何度も挑めると思わないでください。よろしいですね?」
「何でですの!そんなのおか」
「こちらが譲歩しているのに飲めないというのであれば、この話は白紙です。どうしますか」
アフロディーテの言葉を遮り、ノアリアストは畳み掛ける。それでも尚抵抗の言葉をアフロディーテは吐き出す。
「一度だけなんて聞いてませんわ!何度でも挑んでいいと言っていたではありませんの!だからあたくしのモノにするまで何度でも」
「例外を持ち出したのは殿下です。それなりの対応になるのは当然でしょう」
呆れたようにノアリアストは言う。都合のいいところだけは覚えているようだ。溜め息しか出ない。
「あたくしは」
「黙れ。やるかやらないかだ。それ以外の言葉を発するな」
騒がしいことを厭うエリアストが、静かな怒気を放つ。それにアフロディーテは気圧された。
「う、わ、わか、り、まし、た。やり、ます」
さすがのアフロディーテも、エリアストは怖いらしい。それでもその怒気にあてられて意識を保っていられることは、ある意味大物である。
「この勝負について結果を含め一切の異議申し立てをしない。これを破ったらどんなことでも甘んじて受け入れる。いいな」
エリアストの言葉に、護衛も女官も顔を青ざめさせる。必死にアフロディーテを止める。エリアストは嗤う。優秀な者が側にいるのに宝の持ち腐れだと。知らぬは愚かな王女のみ。これから何が起こるのか。自分たちの国の未来がひっくり返る。側にいる者たちはよく、わかっている。この勝負の行く末も、王女の性格も。自分たちの命を差し出してでも止めなくては。そんな者たちの思いなど慮れるはずもないアフロディーテは、ひとり立ち上がると、暴走機関車のように暴れて護衛や女官を悉く弾き飛ばす。その体自体が凶器であった。
「護衛、いらなくないかな」
ノアリアストの言葉に、ダリアは笑った。
周囲の奮闘虚しく、誓約書が交わされた。
*つづく*
「すぐに始めますか。それとも日を改めますか」
美しい少年が自分を見ていることに、アフロディーテはこの上なく幸せだった。そして、この美しい少年が自分のものになると、まったく疑っていない。
「手を、手を、貸してはくださらないのかしら」
頬を染め、手を差し出すアフロディーテに、ノアリアストは無表情だった。
「私は私が認める者以外の体に触れることはありません。質問に答えてください。すぐ始めるか、日を改めるか」
アフロディーテはムッとしつつ、
「あたくし、剣など触ったこともありませんわ。そんな野蛮なこと出来るはずないでしょう」
そう宣いやがりました。女官も護衛も平伏している。最早謝り続けることしか出来ない。なぜこんなにもこんななのだろう。王族どころか貴族の器も持ち合わせていない。危惧した通りの恥曝し。これを止めることなんて、命を賭けるしかないではないか。一つの無礼を止めるために命を差し出していたら、一体どれだけの人数を連れて来なくてはならないというのか。
「そうだわ。あたくしの代わりにこの者が戦うわ。あたくしのモノですもの。あたくしが戦うのと同じことでしょう?」
護衛隊長を指して、アフロディーテは言った。その発言に、護衛隊長は愕然とする。戦うことが嫌なのではない。筆頭公爵家の仕来りだと言っていたではないか。それを蔑ろにする発言。自己都合でねじ曲げるその神経に、謝ることすら出来ない。
一方レイガード国の者たちは、欲しいものを手に入れるための努力もしないのかと呆れていた。
「あなたでは百年経っても無理でしょうね。特別に許可しましょう。ただし」
ノアリアストはアフロディーテを冷たく見下ろす。
「この一度で勝負が決まります。本人ではないのですから、何度も挑めると思わないでください。よろしいですね?」
「何でですの!そんなのおか」
「こちらが譲歩しているのに飲めないというのであれば、この話は白紙です。どうしますか」
アフロディーテの言葉を遮り、ノアリアストは畳み掛ける。それでも尚抵抗の言葉をアフロディーテは吐き出す。
「一度だけなんて聞いてませんわ!何度でも挑んでいいと言っていたではありませんの!だからあたくしのモノにするまで何度でも」
「例外を持ち出したのは殿下です。それなりの対応になるのは当然でしょう」
呆れたようにノアリアストは言う。都合のいいところだけは覚えているようだ。溜め息しか出ない。
「あたくしは」
「黙れ。やるかやらないかだ。それ以外の言葉を発するな」
騒がしいことを厭うエリアストが、静かな怒気を放つ。それにアフロディーテは気圧された。
「う、わ、わか、り、まし、た。やり、ます」
さすがのアフロディーテも、エリアストは怖いらしい。それでもその怒気にあてられて意識を保っていられることは、ある意味大物である。
「この勝負について結果を含め一切の異議申し立てをしない。これを破ったらどんなことでも甘んじて受け入れる。いいな」
エリアストの言葉に、護衛も女官も顔を青ざめさせる。必死にアフロディーテを止める。エリアストは嗤う。優秀な者が側にいるのに宝の持ち腐れだと。知らぬは愚かな王女のみ。これから何が起こるのか。自分たちの国の未来がひっくり返る。側にいる者たちはよく、わかっている。この勝負の行く末も、王女の性格も。自分たちの命を差し出してでも止めなくては。そんな者たちの思いなど慮れるはずもないアフロディーテは、ひとり立ち上がると、暴走機関車のように暴れて護衛や女官を悉く弾き飛ばす。その体自体が凶器であった。
「護衛、いらなくないかな」
ノアリアストの言葉に、ダリアは笑った。
周囲の奮闘虚しく、誓約書が交わされた。
*つづく*
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