吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

文字の大きさ
37 / 40
第一部

36、吸血鬼と人狼執事

しおりを挟む
 
 
 時は少し遡って、とある地にて──

「おおおお早い!さっすがゼルストア様、狼化した僕の全力疾走より早いなあ」
「……お前がもう少し軽ければ、もっと早く走れるんだがな」
「いやだ、そこは『お前はとても軽いな』とか優しく言ってくださいよ」
「落とすぞ、全力で落とすぞ!」

 全力で落とすってなんですかぁぁ!
 と、叫ぶ僕の声は凄まじい速さで移動し続ける。

 いや~、さすがに早いなあ。馬車で3日はかかるところを一晩で──ていうか一晩かかってないや。まだ夜明け前だし。暗いし。吸血鬼ってチートだよなあ。

 人狼の自分もかなり早く走れる自信があるが、絶対的に吸血鬼には敵わない。

 過去に幾度となく吸血鬼に戦いを挑んでは、負けてきた人狼族。
 いつしか諦めて配下となったのも当然と言えよう。

 どう足掻いても勝てない存在。

 それが吸血鬼だ。

 とは言っても、そんなの遠い先祖の話で、僕はゼルストア様の祖父にあたる「あの方」に、死にかけてたとこを助けられたのが出会いだったわけだけど。

 それからずっと仕えてたら、いつの間にか孫の公爵に仕えていた。

 始祖やその息子──ゼルストア様のお父上に比べて、ゼルストア様はかなり人間くさい。

 とは言え、人に無関心すぎるところは妙に吸血鬼くさいというか何と言うか。
 人よりフワモフ達が大好きだ!と公言してた頃には頭痛が日常だったなあ。

 そんな日も遠い昔のように感じる現在。

 まさかゼルストア様が、愛する女性の為に全力疾走するとは!

 誰も予想しなかったに違いない。
 僕も当然予想してなかった。

 ゼルストア様が生まれた瞬間からお側にいた身としては感慨深いものがあるなあ……。

 などとしみじみしていたら、急に公爵が止まった。

「うわっと、急に止まらないでくださいよ!」
「次はどの方向だ!?」

 指示した場所に到着したのだろう。さすが早い。

「えーっとどっちだっけ」
「早くしろ!落とされるのと落ちるのとどちらが良いか選びたいか!?」
「それどっちも落ちる事に変わりないでしょ!」

 焦ってるのか、結構ひどいこと言ってくるなこの人。

「あ、あっちですね」

 吸血鬼同様、人狼も夜目がきく。目的地の方角を見やって、指さした。

「だいぶ近づいてきましたね、かすかにフィーリアラ様の匂いがします」
「今すぐその鼻を切り落とせ!」

 いやこっわいな!もう怖いわ!何言ってんのこの公爵!

 フィーリアラ様大事すぎて、僕が匂い覚えてるのすら不快ってか!

 ちょっとドン引きになり呆れる僕を、それでも公爵は担いだまま走り出した。

 人狼が吸血鬼より勝ってる部分──それは鼻が利く事くらいだろう。

 でもそろそろ、公爵にも感じるんじゃないかな。
 それくらい、目的の別荘は近付いてきていたから。

「あ、見えた!」
「あそこか!」

 荒野にポツンと佇む、少し大きめの──けれど王族が住むには小さい、白い屋敷。
 こんなとこ不便じゃないの?と思わなくもない場所に、それは在った。

 ポツンと在る一軒家に灯された明かり。
 二階の一部屋が明るいのが見てとれた。

 間違いなく、フィーリアラ様はあそこに居るだろう。

 その時だった。

『あは……気付……か!』
『気…か……か!』

 微かに聞こえる二人の会話。
 これは間違いない、王太子とフィーリアラ様の……。

 僕より耳が良い公爵には、きっとハッキリ会話が聞こえてることだろう。

 走るスピードが増した気がする。

 あ、なんか嫌な気配がする。
 見えないけど……何だろう、フィーリアラ様がすんごい嫌がってる気配がするわあ。

『キスもまだ……』

 あー、不穏なワード言ってるなあ。公爵から殺気感じる、ビシビシ痛い殺気が!

『い、いや……!』

 あ、マジやべ。これヤベ。真剣にやっべ。

「フィー!」

 公爵は叫ぶや否や。



ポイッ



「え?」

 えええええ!
 ポイって捨てられた!
 肩に担いでた僕を、いとも簡単に投げ捨てたぁ!

 ひ~ど~いぃ~~~!
 なんて叫びは公爵の耳に届く事は無く、公爵は走り去って行った。

 ゴミのように捨てられた僕の体は宙に舞い──そのまま地面に激突……はしないけどね。

 かっこよくスタッと着地したさ!
 見たか10点満点!

 って誰も見てないのが悲しい!
 公爵もう点にしか見えないし。もう別荘着くし!

 仕方ないなあ、僕も走るかあ。

 公爵がマジになってるなら自分はいいかとノンビリしてたら、その耳に届いてしまった。



『私が好きなのはゼル様だけなんだからぁぁ!!!!』



 フィーリアラ様の叫びが。
 壁におもっきし体当たりして、公爵が部屋に飛び込む音が。

 そして僕のため息が。

 全てがゆっくり、けれど実際は一瞬で。
 僕の耳に届いたのだ。

「あ~……ゼンソン王子、大丈夫かなあ。王家って他に後継ぎ候補いたっけか」

 そんな僕の呟きだけは、誰の耳にも届かなかったのだけれど。


しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...