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第一部
28、吸血鬼と悪妹の姉
しおりを挟む時刻は深夜。
ウェンティの気配がしないか気にしていたはずなのに、いつの間にか寝そうになっていたようだ。
コックリコックリと……夢が始まろうとしていた、まさにその時。
『ぎゃぼう!!??』
突然響いた悲鳴に、私の意識は一気に覚醒した!
「え、何!?」
飛び起きて、慌ててベッドから降りる。上を羽織って廊下に飛び出した。
右見て左見て、でも何ら変化ないように見えるのだけど。
「まさか……!」
考えたくないけど、予想の範囲内。
私は悪妹の部屋へとダッシュして、そして、バンッと勢いよく扉を開いた。
「……いない」
案の定、そこはもぬけの殻。
すぐさま踵を返すと、私はまたもダッシュした。
確信を持ってそこへ向かう。──公爵の部屋へと。
部屋の前まで来ると、既にヨシュが来ていた。何だか困った顔で部屋の中を見ているようだ。
走るのをやめて、私は歩いて近づく。
「ヨシュ、今のは何?」
「あ、フィーリアラ様!えっと、あのですね……!」
何だか私を見て慌てふためいてるようだけど。
なぜ私の前に立つの。
なぜ通せんぼするの。
「ちょっとヨシュ、通れないわ……退いてちょうだいな」
「あーえーっと、今公爵は取り込み中でして~」
なんつー怪しい。
怪しんでくれと言ってるような態度のヨシュに、知らず眉が寄る。
「ヨシュ……」
「はい!」
私は彼を睨んで、おもむろに右手に握ったものを──投げた!
「取ってこーい!」
「わおーん!」
うむ、やはり狼を釣るのは肉だわね。
骨付き肉を投げたら、思わずヨシュはそっちに向かって走り出した。
「どこから出したんですかー!」とか叫びながら肉を追うな。
食べ物を投げてごめんなさい。
お肉に心の中で謝って。
私は公爵の部屋に足を踏み入れた。
そこで見たものは──
「ふぃ、フィーリアラ!いやあの、これは、その、だな……!!!!」
あわあわと慌てふためく公爵可愛い。
じゃなくて。
「これは一体、どういう状況ですの?」
扉の真横の壁。
そこに背を預け座り込んだ状態の。
「────え~……」
私は絶句してしまった。
ピンクの!べ、べ……ベビードール(!)を着たピンク頭が……!
鼻血を出して。
白目向いて。
気を失っていたのだった。
「…………なんですの、これ」
たっぷり間を置いて質問しましたわ。
絶句。
ほんと何があったのこれ。
いや、何となくは分かるよ、妹のこんな姿見たら。
どうせ夜這いかけたんだろーなー。
イケメン公爵に惚れて夜這いかけちゃったんだろーなー。
お姉ちゃんは悲しいよ。けして予想を裏切らないお馬鹿な妹の行動に。
予想が当たってもなんも嬉しくないわ、これ。
私はしゃがみ込んで間抜けな妹の様を見て……溜め息をついた。
「ふぃ、フィーリアラ!ちちち違うんだコレは、違うんだ!」
公爵が泣きそうな声で必死に言いつのるのを聞きながら。間抜け顔の妹を見てると、こう……無性に……
「けしてキミの妹と不埒な行為をしたわけじゃないんだ!何もしてない、いやしたのか、いやそれは殴ったという意味で……けしてキミへの気持ちを裏切るようなことをしたわけでは……て、フィーリアラ何してるの」
「あ、思わず」
何処からともなく出したペンを片手に。妹の顔に落書きしようとしてた自分の手を、慌てて止める。
いやでもこれ、誰でも絶対書きたくなるって!こんな間抜け顔見たら書きたくなるって!
「ちょ……こ、これだけ……」
駄目だ理性が勝てない!私の右手が言うことを聞いてくれない!
「……ふう……まあ、今日はこれくらいで……」
オデコに文字を書くのは止めてあげるわ。ホッペにグルグル渦巻きで勘弁してやろう!ヒゲは……うん、ダメダメ。一応伯爵令嬢の私が、そんな……ヒゲの落書きなんて……く……!
どうにか理性が勝って、ヒゲはやめておいた。
ひと仕事終えて、満足げに私は額の汗をぬぐう。ふー、いい仕事出来た!
それから立ち上がって、私は公爵の顔を見た。私に怒られる、嫌われると不安そうな泣きそうな顔の彼を。
そんな彼を安心させるべく、私は彼の顔にそっと両手を添えた。
「大丈夫ですよ、ゼル様。ウェンティの行動は想定内です。けしてゼル様を疑いはしませんよ」
ハッキリ言われたわけではないけれど、まあ……さすがに。公爵の私への好意はあからさまで。
妹と過ちがあるなど、絶対に疑うことはない。
「そ、そうか……」
心底ホッとした顔に、微笑みを返す。
すると、両手を包まれてしまった。
「そやつに『ゼル様』と呼ばれて、つい頭に血が上ってしまったんだ。もうその呼び方は……キミ以外には呼んで欲しく無いというのに……」
ああなるほど。公爵のこだわりなんですね。長年そう呼んできたヨシュにまで止めさせる、徹底ぶりですもんねえ。
……て、握り締めた私の手に口付けないで下さい!恥ずかしくて爆発するわ!
照れること無くサラッとそんなこと出来てしまうの凄いですね!
部屋の照明は薄暗いから、私の顔が赤くなってるの分からないよね。多分……
そうして暫しの沈黙の後。
私の手から唇を離した公爵は、熱い目で──暗くてもハッキリ見える赤い、情熱を持った目で私を見つめてきた。
ん?何だろ、何か……何も言えない雰囲気だな、これ。
何も言えない私は、黙って公爵の言葉を待つ。
多分……私が予想している、その言葉を。
「フィーリアラ……私は……」
「これはこれは。全くもって予想外、けれど面白い事になってるようだね」
その時。
完全なる想定外、予想外の声が、部屋に響き渡るのだった。
===作者の呟き=================
ラブ、ラブが欲しい!イチャラブ書きたい!(壊
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