30 / 40
第一部
29、吸血鬼と侵入者
しおりを挟む突然の声に驚いて顔を向ける。
部屋の外、ベランダに佇む男が一人。……ここは二階だというのに、どうやって上がったのか。
短い髪は暗闇の中で分かりずらい黒。オールバックにしてるせいか年齢が分かりにくい。
整った顔立ちは、色白のせいか髪に比べて奇妙に闇に浮かび上がって、不気味さを醸し出していた。
白いシャツはラフに第二ボタンまで開かれている。にもかかわらず、なぜか気品を感じさせた。
何より目を引いたのは、その目。
闇に浮かぶそれは、血の様に赤い──公爵と同じ色を持っていた。
コツリ
足音を響かせて、男が部屋に入ってくる。
「いやほんと、面白いものが見れ──」
「くせ者ぉぉぉっ!!!!!」
なんか分からんが、優雅に話をさせてたまるかぁっ!
私は近くにあった分厚~い本を、おもっきし……投げた!!
鈍い音と共に「ぐおっ!?」と変な声を出して男は倒れる。ナイス私!素晴らしいコントロールに惚れ惚れするわ!
いきなり人んちのベランダに現れて、無断で侵入してくる。
これ、どう見ても不審者!犯罪者!異常者!変人!変態!
「最後の方はちょっと違うような……」
ツッコミ担当ヨシュがいつの間にか私の横に立っていた。取ってきたお肉は右手にしっかり持ってるのね。綺麗にしてから焼いて食べようね、それ。
「どう見ても犯罪の匂いしかしないわよ、これ」
これ、と言いながら、近くにあったポールハンガーを手に、ツンツンする。動かないわね、やだ、死んだのかしら。
「どうしよう、これ」
「あ~……フィーリアラ様、まずいですねえ。これは……」
「これは?」
「王家ですねえ」
聞き返す私に、言いにくそうにヨシュがボソッと言った。
「おーけ?」
「王家」
「おーけー?」
「王家」
「おっけー?」
「いやだから王家」
なんとしても認めたくない脳が拒否するのか。
言葉を受け入れるのに時間がかかってしまった。
おーけ、おうけ、王家……
「王家!?」
「オッケー!」
ようやく認めた私に、ヨシュがグッと親指立ててニカッと笑った。いや笑うとこじゃないからこれ。
「次期国王……王太子のゼンソンだな」
「全損……なんて恐ろしい響き」
「フィーリアラ様、今絶対漢字にして考えたでしょ」
公爵が教えてくれた名前に戦慄を覚えていたら、ヨシュが苦笑しながら言ってきた。よく私の考えが分かったわね。てか漢字とか言うな。
努めて冷静を保って、私はもう一度床に寝そべるそれを見た。
うーん、そもそも私は領地に閉じこもってたからなあ。王族なんて見た事ないし。公爵やヨシュがそう言うならそうなんだろうけど。
にしても、なんで……
「どうしてこの人、目が赤いんでしょうか?」
この世界において、人に赤目は存在しない。茶系とかが稀に赤みが強い場合もあるけれど。血の様に赤い目を持つ、それ即ち──吸血鬼である証となるのだ。
今の国王夫妻は共に普通の人間だ。会った事なくてもそれくらい知っている。てことはどちらかが不貞を働いたのか、それとも養子なのか──?
首を捻っていると、公爵が私からポールをとって、自らツンツンし始めた。やりたかったんですか、それ。
「こやつは、いわゆる先祖返りというやつだ」
「先祖返り?」
「どうやら王家に嫁いできた王妃に、その血が流れていたようだ。遠い遠い、もはや力も何も受け継がれぬ程に遠い先祖に吸血鬼がいたのだろうな。それが突如現れたというやつだ」
つまり、紛れもなく国王夫妻の息子だけど、先祖返りで吸血鬼の力を手にしたと。
「多くはないが稀にあるらしい」
「そうなんですね」
じゃあ血を飲むのかな、この人。先祖返りってどこまで返ってくるんだろうか。聞いたことないので、ちょっと怖いなあ。
と、恐る恐るその顔を覗き込んでみる。
公爵とはまた別の始祖を先祖に持った王太子は、けれど目を閉じていてもどこか公爵と見目が似てるように感じた。
「まあ吸血鬼はどれも美形ですからねえ。それも似たような美形なもんで、ある意味面白くないんですよ」
美形に面白い面白くないとかあるのかな。まあ確かに美形なんだろうけど。
「確かに美形ですけど、ゼル様とは全然違いますよね。私はゼル様の方が断然好み……」
言いかけて口を閉じる。なんかキラキラした目で見られてるのを感じたから。
「フィー……」
「あーっとこの人、何しにきたんでしょうねえ」
公爵の手をかわしつつ、もう一度その顔を覗き込んだ。今はイチャイチャしてる場合ではないのですよ、公爵。
もはや忘れそうになってる妹といい、この王太子といい。厄介ごとが山積みなんですから。
「フィーリアラ様、あまり近づかない方が……」
何か危ないもの持ってないかなと近づいたところで、ヨシュが静止するのが聞こえた。
まさにその瞬間。
ガッと腕を掴まれた!
「ふえ!?」
「フィー!」
いやいつからその呼び方に!?
というツッコミを言う余裕はない。
突如目を開けた王太子に、私は腕を掴まれた……と思った直後、羽交い絞めにされていたのだ!
===作者の呟き=================
ゼンソン……当初はゼファーソンでした(^^;)
なんか別連載の壁と展開がかぶるなあ。意識してるわけではないけど、どうしても影響出て来るのかな(汗
21
お気に入りに追加
1,840
あなたにおすすめの小説

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。

【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる
当麻リコ
恋愛
美しすぎるがゆえに嫉妬で嘘の噂を流され、それを信じた婚約者に婚約を破棄され人間嫌いになっていたシェリル。
過ぎた美貌で近付く女性がメンヘラストーカー化するがゆえに女性不信になっていたエドガー。
恋愛至上の社交界から遠ざかりたい二人は、跡取りを残すためという利害の一致により、愛のない政略結婚をすることに決めた。
◇お互いに「自分を好きにならないから」という理由で結婚した相手を好きになってしまい、夫婦なのに想いを伝えられずにいる両片想いのお話です。
※やや同性愛表現があります。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる