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第一部
27、吸血鬼と悪妹
しおりを挟むや、やっと見つけたわよ!
屋敷内を散々歩き回った私は、肩で息をしつつ目の前の扉を睨みつけた。
他の部屋とは明らかに雰囲気を異にする、豪華で重々しい扉。
これは確実にそうでしょ!──吸血鬼公爵の部屋でしょ!
……なんか犬猫やら鳥やら何やらの可愛いドアプレートがすっごい気になるけど。
さっき見た光景から察するに、この屋敷には動物が多数いるみたいだから。
気になるけど気にしないでおきましょ。
大事なのは、今まさにここに公爵が居るって事!
実は居ない可能性もあるけど、私の勘が告げている、女の勘が告げてるのよ。ここに公爵がいるって!
確信のもと、私は羽織っていたナイトローブを脱ぎ捨てた。
パサリと音を立てローブの下から現れた私の姿は、さっきあてがわれた部屋の鏡で何度もチェックしたけれど。
完璧なまでの妖艶さを醸し出していた。
この日のために流行のベビードールをゲットしたかいがあったというもの!
完璧な着こなしをしてる自分にため息出ちゃったわよ!
ああ、なんて美しいのかしら、あたくしって……。
と、何度も何度も鏡を見ては見惚れちゃったわよん。
これならあの公爵もいちころでしょ♪いきなり襲われたらどうしましょ、あーんどうしましょ!
私は思わず、自分の体を抱きしめた。
思い出すのは赤い瞳のあのお方……。
まさか恐ろしいと噂の吸血鬼が、あんなに美しい方だったなんて!
見た瞬間に体が痺れたわ!体のあちこちが疼いて仕方ないのよう!
ほんと、私ってなんて強運なのかしら。
と、今日のことを振り返る。
あの時、とりあえず一番近い町へと着いてから、さてどうしたものかと悩んでいたのだけれど。
まさかまさかのお姉さま発見!あれには流石に驚いたわあ。
お姉さまが生きてたことにも、だけど……何よりも強運な自分に。
普通そんな偶然ないでしょ!?どんだけ神に愛されてるの、私!?
それから屋敷に連れられて目にした、とてつもない美しい存在。
あれはきっと美しい私へと神が届けてくれた、私の運命の相手に違いないわ!
ちょっと手違いでお姉さまが最初に来ちゃったけけれど。
思わず抱きついた時の、あの公爵の反応。
──いける!
確信をもって私はグッと拳を握りしめた。
とにかく、私の色気で悩殺⇒既成事実⇒公爵とけこーん
完っっっっ璧!
自分の天才的計画に眩暈がするわ!
頭を押さえて軽く振って。
そして深呼吸一つ。
あらやだ柄にもなく緊張してきちゃった。
だってだって!これからあーんな美しい人と、くんずほぐれつしちゃうとか考えると……流石の私も緊張するわよ!
もう一度深呼吸。
そして。
扉に手をかけた。
ギイ……
重々しい音と共に扉は開いた。
そして。
その人は、居た。
部屋の奥、大きなベッドの上に。
体を起こして、こちらを見つめていた。
暗くてよく見えないのに、真っ赤な目だけが闇に浮かぶようにハッキリと見て取れた。
その目を見た途端。
あたしの理性がプツンと吹っ飛んだ──!!
「ゼル様あぁぁ~~~~~ん!!!!!」
受け止めて!この妖艶で美しい肢体をぉぉ!
両手を広げて公爵に走り寄る。
そして抱きつく!!!
抱き!
抱き……
抱き…………あれ?
なぜか抱きつけない私は、伸ばした両腕をスカスカと振り続けていた。
あれ、なんで?目の前に公爵はいるのに、どうして私は彼に抱きつけてないの?
「…………なんのつもりだ、貴様……」
絞り出したような低い小さな声で。
ようやく公爵が声を出してくれた。
あ、私の手よりも長い公爵の手が、私の頭を押さえてるのか。
ちょっとちょっと、そんなことしたら抱きつけないじゃない!
「ゼル様……お慕いしております」
ええい、仕方ない。頭を押さえられながら、私は胸の前で手を組んで上目遣いに公爵を見た。
必殺悩殺ビーム!
「ふざけてるのか、貴様は」
あれ、効かない?おかしいわねえ。内心首を傾げつつ、負けじと私は言葉を続ける。
「公爵様の花嫁候補は我がファインド家の娘。ということは、わたくしでも何ら問題が無いはずです。お慕いしております、ゼル様。どうかわたくしを花嫁にしてくださいませ」
そして今夜、愛し合いましょう!
とは心の声。でも伝わるよね、伝わってるよね!?
さあその手をどけて、私を受け入れて!
そうして熱い眼差しを向けていたら。
スッと手が離された。
落ちた────!!
そうよ、私は誰より美しい!私を愛さない男なんて居ないのよ!
障害が無くなった私は一気に公爵へ抱きついて──
否、抱きつこうとした、まさにその瞬間!
「……さん」
「え?」
思わずピタッと体が止まってしまった。
なになに、何ですか公爵?
俯いた公爵の顔を覗き込もうとして。
次いで、物凄い衝撃を感じた。
「あああああ悪霊退散んんんっ!!!!!!」
「ぎゃぼう!!??」
体が吹っ飛ぶのを感じ、頭に凄い衝撃を感じて──私は意識を手放した。
===作者の呟き=================
悪霊妹、略して悪妹。
私が言うのも何ですが、凄いなこの悪霊……
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