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第三章 魔法学園

噂の人物は脱出します

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側から見たらおかしな行列に見えただろう。

一例で歩きながらモヤモヤした何もない空間を進んでいく。
しばらく黙って歩いていると黒い奴がチラッと振り返ってから話しかけてきた。

(お主、ずいぶんと落ち着いているな。)

(そうかな?)

(これほど念話に長けているならば色々と尋ねてきそうなものだが…)

(聞いたら教えてくれるのか?)

(答えられることならばな。)

俺は意外な気持ちで黒い奴の揺らめく尻尾を見つめた。

ずいぶん親切な奴だ。

(この空間はあの女が作ったものなのか?)

(そうだ。あれが不要だと思ったものが放り込まれる。物や生き物、そなたのように精神体だけのものもな。)

そうだ。俺の身体大丈夫かな~ソーマが隠して守ってくれてればいいけど。

(君らはここに住んでるの?)

 (住んでいると言うのは語弊がある。この空間に漂うモヤに触れれば物は瞬時に消える生き物は時間はかかるが少しずつ消えていく我らもいずれは消えゆく運命だ。
だが我らは他のものに比べずいぶんと長くこの場所に留まっている。
何故だか知りたいか?)

からかうような顔つきが気になって俺はすぐにうなずいた。

(ここに放り込まれたものの魔力を喰らうのよ。)

俺が怖気付くのを待つかのように足を止めて振り返りジッと見つめてくる。
喰らう?魔力って食えるもんなのか?

(美味いのか?)

(はっ?)

(いや、他のやつの魔力って食ったことないな~と思って気になってさ。)

黒い奴は釣り上がった目を丸くして首を振りながらまた歩き始めた。

(待ってくれよ。そっちが言い出したんだろ?おぃ…あーそういや名前は?俺はのぞ…いや。アロイス。
アロイス・エシャルロットだ。)

(名などない。)

(え?)

黒い奴は足を早めながら短く答えた。

(聞こえなんだか?名などもたぬ。我らは望まれず捨てられたものだ。名をつけるものなど居らなんだ。)

名前がないとは何とも不便だ。呼びかけることもできないし。

(そっか、じゃあ不便だからリーダーって呼んでいい?)

黒い奴は再び足を止め俺を振り返った。
他のやつも後ろでジッと息をひそめている。

そのまま固まっていたかと思うと大袈裟に息を吐き出してから黙って歩き始めた。

肯定なのか否定なのかよく分からないが、試しに呼びかけてみる。

(なぁ、リーダー魔力を喰らうって相手はどうなるんだ?)

(空虚になり消える。そもそもこの場所には魔力がなければ存在できぬ。そなたも実体ではないから魔力が豊富とは言いがたい状態だ。急がねば消えてしまうぞ。)

(消えたら実体はどうなるんだ?)

(目覚めなくなる。お前としてはな。あの女の狙いはそこであろう。)

(空になった俺の体に他の精神体を入れるってこと?)

(左様。察しが良いな。)

褒められたけど喜んでる場合じゃないな。

(そんなことになったら気持ち悪いな。急ぐよ。)

そこからは黙々と歩いた。周りの景色はずっと変わらずモヤがかったままだ。リーダーたちがいなければ出口なんて到底見つけられなかっただろう。

相変わらず何もない空間でリーダーが足を止めた。

(さぁ、ここが出口だ。早々に立ち去るがよい。)

リーダーがちょんっと前足で空間をつつくと光の輪が出現し、ゆっくりと広がっていく。どうやらこの中心を通って出て行けばいいらしい。

(案内してくれてありがとう。でも何で俺に親切にしてくれるんだ?)

リーダーが出現させてくれた出口を眺めながら聞いてみる。
リーダーはまた綺麗に前足を揃えて座り目を細めて俺を見上げる。

(一族のものが世話になっただろう?)

(ヴェルフィアウルフの女帝のことかな?)

(左様。ヴェルフィアウルフとサバニアタイガーの一族は義理堅いのだ世話になったものには印をつける。一族にしか見えぬ印をな。
我ら異形のものとて一族の端くれだ。このくらいのことはする。)

俺はリーダーやその後ろに集まった一団を眺めた。

(お前らはここに居続けるのか?)

(ここに居続ける以外の道などない。いずれ時がきて消えゆくまで多少抗いながら生きるさ。)

(出口を知っているのに何故出ようと思わないんだ?)

(何故だって?見てわからぬか。我らは異形のものだ。外の世界では疎まれる。
それに彼らのように生まれ落ちてから魔法実験をなされたものはこの空間を離れれば苦痛が襲いかかる。
ここで穏やかに過ごさせたいのだ。)

(確かに彼らは無理矢理作り替えられた痕跡がある。でもあまり腕のいい魔法使いじゃなかったんだな。綻びがある。上手く元に戻せると思うよ。)

リーダーは金色の目を大きく広げ固まった。

(そのようなことを軽々しく口にするのも罪なこと。
彼らが己の運命にどれほど翻弄されてきたか分かっていて言っているのだろうな?)

(軽々しい気持ちで言っているわけじゃ無いよ。俺は確実にできそうな事しか口にしない。現にリーダー。君の魔力は解けそうにない。おそらく母親の腹の中にいるときにいじられたんだろう。)

俺の言葉に後ろでおろおろウロウロしていた1匹が牙をむいた。リーダーがすぐさまチラリと振り返り黙らせる。

(なるほど適当に我々を欺こうとしているわけではないようだ。
だが今の状態のそなたでは難しいのではないか?)

指摘されて俺は頭に手をやる。

(そうなんだよな~本当は一緒にここを出ようって言いたいんだけどそれは難しそうだ。
おまけにあの女に気づかれずに再びこの空間に来るのは難しいだろうし。)

そうしてじっとリーダーを見るとあちらもすぐ俺の意図に気づいたらしく。フンっと鼻を鳴らした。

(先に我だけを連れ出したいと言うのだろう?)

リーダーの言葉に他の仲間たちは落ち着かない様子で動いたりうずくまったりしている。

(リーダーが仲間を大事に思っているのはわかっているけど…)

(ああ。仲間を置いていくことはできない。だからそなたが我をリーダーと呼ぶことを許してやろう。)

(?さっきから勝手に呼んでるけど)

(だが許可はしていなかった。今からしてやろう。私に名をつけることを許す。)

(それってつまり…)

(そうだ。そなたに仕え助けとなろう。アロイス・エシャルロット。我が名はなんだ?)

(リーダー…でいいか?)

(良かろう。)

サァっとリーダーの身体が光始め、そのままヒョイっと俺の両手に飛び乗ってきた。
小さな身体なのに力が強く後ろによろめいた俺はそのまま光の輪を背中からくぐり抜けた。
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