ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第8回 鬼

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「…………」

 ダンジョン化したコンビニルームの陳列棚にあるのは、商品なんかじゃなかった。人の首がずらっと並んでいて、血まみれの床には首なしの胴体が転がっていたのだ……。

「おえっ……な、なんてことしやがるんだよ……」

「お、おそろしや……南無阿弥陀仏……!」

「ひ、酷すぎますね……」

「なっ……なんなんだよ、こりゃ……」

「あひっ、あひぃぃぃ……」

 黒坂たちが口を押さえてうずくまるのもわかる。

「どう見てもモンスターの仕業じゃないな、これは……」

 俺の台詞に、みんな青ざめつつうなずいていた。

 こんなことをやるのは人間しかありえないって思うのは悲しいことだが、これが紛れもない現実だ。人間の残虐性は本物のモンスターすら超えるんだ。

 ご丁寧に顔は全部こっちに向けられてるし、脅しや挑発の意味合いも込められてそうだな。

 そういえば、スレイヤーの中には快楽殺人が目的の殺人鬼もいるって話を聞いたことがあるが、こんな残虐なことをスレイヤーがやるなんて思いたくない……。

 ダンジョン内は特殊な電磁波なようなもので溢れていて、動画や音声を撮れないから証拠は出せないみたいだが、スレイヤーを語る掲示板でそんなレスを見たことがある。

「「「「「……」」」」」

 しかし、まずいことになったな。みんなすっかり戦意を喪失したっぽくて沈黙に支配されてしまっている。

 ここは、はっきり言わなきゃいけないだろう。

「なあ、こういうとき、弱気になるのは簡単だ。誰にでもできる。けどなあ、平静でいられるやつはそうはいない。もちろん、俺だってそうだ」

「「「「「……」」」」」

 みんな、黙ってはいるがちゃんと耳を傾けているのは伝わってくる。

「だったら、虚勢でもいいじゃないか。平静でいられなくても、向かっていく気持ちが少しでもあるなら、それに縋りつくんだ。やられるにしても前のめりでいこう」

「あ、あんた、結構いいこと言うじゃねーか……」

「そ、そうだな。若いモンの割りには……」

「で、ですね――」

「――い、いや、待て、ちょっと待てよ!」

 そこで不満そうな声を上げた少年がいた。野球帽の藤賀真優だ。

「工事帽……なんでお前はそんなに冷静でいられるんだ? ま、まさか、お前がこれをやった犯人じゃないのか?」

「おいおい……野球帽、俺たちは今までずっと一緒だったのに、仲間を疑うっていうのか?」

「そんなのわからないだろ。仲間になる前にこうやって殺したあと、何事もなかったように戻ってきただけかもしれない」

「おい……」

「それこそ、そこにいるセールスマンのような反応が普通だ。お前みたいなのが一番怪しいんだよ、工事帽」

「あ、あひっ、あひあひっ……」

「…………」

 ちらっとセールスマンのほうを一瞥すると、彼は鞄で頭をガードしたまま座り込んでいた。怪しい人間扱いされて黙ってはいられないし、俺も言わせてもらうか。

「そうだな。確かに、羽田さんのような反応が一般人としては普通なのかもしれない。でもその理屈だと、野球帽、お前みたいに仲間を平気で犯人扱いするようなやつだって充分に怪しいだろ」

「は? お、おい工事帽、なんだよそれ!」

「意図的に疑心暗鬼に陥らせようとしてるかもしれないってことだ、野球帽」

「こ、こいつ、出鱈目抜かすなっ! それに、俺のことは名前で呼べって言ってるだろ、工事帽!」

「俺のことも名前で呼んでくれないか? なあ、それを指摘するんだったら」

「ちょ、ちょっと、二人とも、こんなところで喧嘩はやめなって、な?」

 俺と野球帽の言い争いがヒートアップしてきたところで黒坂に止められる。

「そ、そうだそうだ、若いモン同士が争ったところで、殺人鬼が笑うだけだぞ……」

「自分もそう思います……」

 風間と山室も間に入ってきて、俺はようやく我に返った。

「……確かにそうだな。平静になれって言った俺が冷静さを欠いてしまってバカだったよ……」

「チッ……!」

 野球帽の舌打ちで若干また苛立ってきたが、止めてきた三人の手前、俺はそれ以上何も言わなかった。

 ん、視界に大きなウィンドウが出てきた。こ、これは……。

 クエスト【コンビニの虐殺者】が解放されました。

 クエストランク:S

 クリア条件:虐殺者を倒すか、その魔の手から逃れるか。

 成功報酬:【超レアスキル】獲得。

 注意事項:失敗した場合、100%死亡します。

 虐殺者クエスト、だと……? ということは、近くにいるってことなのか? それってつまり、ってことだよな……?

 そう思った矢先、視界の片隅にあった黄色のマーカーが一つ減っているのがわかった。

 つまり、これは誰かがパーティーを抜けたわけで、俺の推測が完全に当たっているということを意味していた……。
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