ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第9回 芸術品

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「いやぁ、随分と楽しませてもらったぜえぇ……」

「…………」

 俺の耳に届いたのは、確実に聞き覚えのある声だった。

 あ、あいつだっていうのか……?

 ただ、が発したとは思えないくらい、あまりにも堂々としていて、なおかつ途轍もない威圧感を孕んでいたので違和感が凄かった。

「……お、お前、は……」

「これぜーんぶ、私が作ったものでなあ。至高の芸術品、楽しんでもらえたかなあぁ?」

 得意げにネクタイを弄る男は、紛れもなくセールスマンの羽田京志郎だった。

「私はこう見えてレベル137のスレイヤーでね……。珍しく、かなり早くからダンジョンに巻き込まれることになったので、虐殺を愉しみつつも、たまには凡人を演じて、パーティープレイを楽しもうかと……」

「…………」

 ス、スレイヤーだと? レベル137のスレイヤーがこんなことをしたっていうのか……。俺はこの男に対して恐怖心だけでなく、言いしれようのない怒りを覚えていた。

「ただ、弱い振りをするのはもう飽きたし、ここからはいつものようにやる。お前たち、私のあとについてこい。死にたくなければな」

 羽田の口調は大人しいものだったが、嘘ではないと確信できる程度には迫力があった。

「大丈夫だ。すぐには殺さん。一応、お前たちは私の仲間だったからなあぁ」

「「「「「……」」」」」

 俺たちはやつに言われた通り、黙ってそのあとをついていくことしかできなかった。

 悔しいがこれが現実だろう。相手はレベル137のスレイヤー。従わなければすぐに殺される可能性が極めて高いし、逃げても捕まるだけなのは目に見えている。

 ただ、それでも俺の脳裏に引っ掛かっていたことがあった。それは、虐殺者クエストというやつだ。

 やつを倒すことは今の俺たちでは不可能だと思うが、その魔の手から逃れることでもクリアできるわけで、これなら達成できる可能性はなくもないのでは?

 もちろん、やつから逃れられる確率だって相当に低いと思うが、もし達成できたら【超レアスキル】っていうのを獲得することができる。

 あんな残虐なことを平気でする男だ。どうせ最後には俺たちを皆殺しにしてしまうつもりだろうから、チャンスがあれば一か八か、やるしかないだろう……。



 それから、俺たちは元いた場所まで戻ってきた。

 当然だろうが、巻き込まれた客の数が増えているのがわかる。多分、これから外部では警察によって規制線が張られるんだろう。

「ん-、大して観客が増えていないが、まあいい。が来る前に、少し演説でもやるとするかぁ」

 虐殺者の羽田がゾッとするような笑みを浮かべてみせた。

「私は虐殺者と呼ばれているが、単に殺すことが好きなのではなく、人の死体が好きなだけだ。死体というのは、あらゆるしがらみから解放された、そんな安らかな表情を見せてくれる。たとえそれが苦痛や恐怖に満ちたありふれたものであっても、だ。そこには一切の欺瞞がない。芸術品にありがちなわざとらしさが皆無なのだ。それこそ、至高の創造物を作り出す手段として、この手で殺しているだけのこと……」

 サイコパスの演説に対し、周囲からは息を呑む声やすすり泣く声が漏れた。

 一方的に殺しておいてそれを自分の創造物に見立てるなんて、ふざけたやつだ。どこまで傲慢なんだよ。神様にでもなったつもりなのか……?

「ここで死体クリエイターとしてのお手本を見せようと思う」

 羽田が前に差し出した手の平を上部に向けて広げると、コンビニ客の一人の体が浮き上がった。

「あ、あひゃっ!? い、嫌だっ、殺さないでくれっ、お願いだからあぁっ!」

 どよめきが上がる中、眼鏡を曇らせた男が空中でじたばたともがく。

 こ、これは……念力だ。スレイヤーには色んなタイプがあるわけだが、中でも一番使いこなすのが難しいといわれるのが念力タイプだといわれている。

「さあ、刮目するがいい。平凡なゴミ人間が最高のアートに変化する、その記念すべき瞬間をっ!」

 羽田が凄みのある笑みを浮かべて宙を掴む仕草をしたときだった。

「――ぎっ!?」

 宙に浮いていた眼鏡の男が、絞られた雑巾のように酷くねじられ、血の雨が降り注いだ。

「ひ……ひいいいいぃぃっ!」

 それがトリガーとなったのか、一人の女性が悲鳴を上げながら逃げ出した。

「創造につきものなのが、一種のひらめきというものだ。それはクリエイター側だけの意図ではなく、作られる側との共同作業でもある」

 逃げた女のほうを見ようともせずに語り出す羽田だったが、その直後に信じられないスピードで駆け出し、ほぼ一瞬で追いついてしまった。

「――がはっ……」

「…………」

 羽田の右手は、女性の背中から胸板にかけてあっさり貫通していた。

 信じられないパワーだと思ったが、あいつが返り血で真っ赤に染まることはなく、鮮血は羽田を避けるように周辺に飛び散っていた。

 ということは、あれはおそらく念力を込めた一撃ってことだ……。
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