ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第7回 遺言

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「ゴホッ、ゴホッ……こ、康介、母さんと妹のこと、頼んだぞ……」

「あ、あぁ、わかったよ、父さん……」

 そこは病院の一室、目の前にはすっかり痩せ細った父の姿があった。

 数年前までは憎たらしいくらい元気だったっていうのに、病魔に侵されてからはあっという間に痩せ細り、別人のようにガリガリになってしまった。

 思えば父とは喧嘩ばかりだった。俺が一人暮らしを始めてから数年後、倒れたと聞いて駆けつけてからここまで、ほんの一瞬のようにすら感じた。

 いつだって自分が一番偉い、自分さえよければいい、そんな自分勝手な男だったから、早くこの世からいなくなればいいとまで思っていたのに、もうすぐ別れると思うと複雑な気持ちになってしまう自分が嫌だった。

 どんなに頑強な生き物であっても、等しく中身は脆い。だからいくら人間が成り上がろうと病には勝てない。それが作家である父の遺した最期の言葉でもあった。

「…………」

 そうだ。があった。

 父の遺言を思い出したとき、俺はひらめいたことがあった。あのときはだからなんだよとしか思えなかったが。

「それをっ、それをこっちにっ……!」

「これかっ!?」

 俺は風間が放り投げてきた折れた傘を受け取ると、それを子供ゾンビの口に突っ込んだ。

「ぐぎゃっ!? あ……あぎゃあああぁっ!」

 やつは口から血を吐きながらしばらく暴れ回ると、やがてうつ伏せに倒れ、血だまりの中で動かなくなった。外側がいくら強かろうと、内側は脆い。それはゾンビであっても例外ではなかったわけだ。

「あ、あんた、あの状況で倒しちまったのかよ、すげーな……」

「た、大したもんだな、最近の若いモンは……」

「正直、尊敬します……」

「チッ、悪運が強いんだな、お前……」

「お、お、お見事ですうぅ……」

「いやいや、俺だけじゃどうにもならなかったよ。逃げろなんて言ってすまなかった」

 声をかけてきた黒坂、風間、山室、藤賀、羽田の5人に、俺は感謝の言葉を伝えた。彼らが最後まで逃げずに助けようとしてくれたから、俺も勇気をもって諦めずに戦えたんだと思う。

 どんなに外側を鍛えても、中身を強くするのは難しいからな。父も自分さえよければいいように見えて、内心では葛藤を覚えていたからこそああいう発言が出たのかもしれない。



 それ以降、俺たち一般人パーティーの快進撃が始まった。

 傘はもう使い物にならなくなったので、俺は藤賀に頼み込んでようやくバットを貸してもらうことなったわけだが、これが思いのほか役に立った。

 ほかのメンバーが囮になってゾンビに捕まり、食べられようとした際に俺がバットを口内に叩き込むというやり方が上手く嵌ったんだ。

 こうして戦っていれば、いずれスレイヤーがコンビニに入ってくるだろうし、俺たちは無事に外へ帰還できるはず。それまで待っていて食われるよりはずっとマシだ。

 その意気がみんなに伝わったのか、ちょろちょろと動き回ることでゾンビの気を引いたり、突進してきたゾンビの足を引っかけて転倒させたりと、仲間たちの連携が大分よくなっていた。

 あのセールスマンだけはひたすらゾンビから逃げ回っていたが、ろくに動けないなら下手に勇気を出して死なれるよりはいいだろう。

「よしっ! この調子で、あとはボスを探し出して倒せば、あたしらでもダンジョンを攻略できるよっ!」

 黒坂優菜がそんな壮大なことを言い出した。

「いやいや、黒坂。それはさすがに難しい」

「えー、佐嶋、なんでだよ? こんだけ順調なのによ!」

「俺はスレイヤーに憧れてたからよくわかるんだ。ボスは通常のモンスターより何百倍も強いらしい。そんなのを相手にして、今までのようにやれるわけがない」

「んじゃ、もしボスが出てきたらもう終わりってことかよ?」

「そういうわけじゃないが、死を覚悟したほうがいいレベルだろうな」

「ま、マジかよ。こええな……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、佐嶋とやら、わしも聞きたいことがあるんだが!」

「あぁ、風間さん、何かな?」

「こうして、ウロウロしてたらボスと遭遇する可能性があるんじゃないのか? だったら、大人しくしとったほうがいいんじゃ?」

「いや、ボスはボスはうろうろしてる場合もあるし、いきなり出てくる場合もあるらしい。だから、じっとしててもいきなり目の前に出現する可能性があるってことだよ。それは通知でわかるにせよ、動き回っていたほうが神経も活発になるし、異変を察知しやすくなるからボスを回避することだってできると思うんだけどな」

「「「「「……」」」」」

 みんな不安そうな表情を隠せないものの、俺の説明でちょっとは安心したらしくてうなずいていた。

「そういうわけだから、行こうか」

 こうして、俺を先頭にして再び歩き始めたわけなんだが、しばらくして俺たちはを目にすることになった。

 こ、こ、これは……こんなことがありうるっていうのか……。
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