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幕間話2
SS 勘違いの池の主
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俺の名前はスリーフラット。
世界を股にかける釣り野郎だ。
今日、俺はホムーロス王国にあるとある池に、幻の主がいるという情報を手にやってきた。なんでも、この池にはバスは全てが体長五メートルを超える化け物がわんさかいるのだとか。さすがにそれは眉唾だとは思うが、その噂の元くらいは確かめたい。
谷池タイプで、透明度が高く推進が深い。こういう池では障害物が多く、バスなどの魚が好んで生息する。こういう場所では、朝や夕方、風が吹いたときに魚は回遊することが多い。昨日は下見だけで終わったが、今日からが本番だ。
朝のうちに勝負を終わらせる――そんな意気込みで俺はやってきた。
「あ、おはようございます」
想定外だった。まさか、先客がいやがるとは。
銀色の髪の少年――まさか、こいつも主を狙ってここまでやってきたのだろうか?
「はじめまして、僕はクルトと申します。ここでは美味しい魚がいるんで、今日の昼食にしようと来たんです。お兄さんもマスを狙って?」
「……まぁそんなもんだ」
なるほど、地元の子供か。
三十歳半ばになろうかという俺のことをおじさんではなく、お兄さんと呼んだことだけは評価してやるが、しかし、素人がいるのは厄介だな。
まぁいい、少し離れた場所から狙うとするか。
しかし、ここはハズレかもしれん。
池の浅い場所を見ると、おたまじゃくしが群れをなしていた。巨大な肉食魚がいる池でおたまじゃくしが繁殖することはあまりない。そう思って少年の方を見たら、立派なバスを釣り上げていた。
――訂正する。ここはどうやら大きな魚がいるようだ。
俺は針に羽虫をつける。この羽虫はまだ生きており、ずっと羽を動かして逃げようとしている。これが魚をおびき寄せるのだ。
そして、俺は竿を振るった。
いきなり竿に反応があった。
釣り上げる――なかなかの大きさのバスだ。しかも色もいい。これなら、軽く泥を吐かせればいい値で売れるだろう。
俺は水の張った桶の中にバスを入れた。
どうだ、俺のテクニックを見たか――と少年の方を見ると、少年は人間の頭サイズの亀に噛みつかれていた。
なんでそうなるっ!?
あの亀は基本、自分より大きな生物には襲い掛からない。よほど少年のことを弱そうに見えたのだろうか?
さすがに放っておけない。
そうだ、助けるついでに、「亀にやられるようならこの場所は危ない。そうそうに町に帰るんだ」とでも警告して追い出そう。
――そう思ったとき、どこからともなく矢が飛んできて、亀に突き刺さった。
なにがあったのかわからない。
それは少年も同じのようで、亀から矢を抜いて、不思議そうにしている。
「あなたが矢を放ったことにしてください。あと、クルト様の邪魔はしてはいけませんよ」
突然、背後から女の声が聞こえてきた。
振り返ってもそこには誰もいない――まるで幻でも見たかのようだ。だが、それは幻聴ではなかった。なぜか俺の汗ばむ手には弓が握られていた。
恐ろしい――いったいなんなのだ? 森の精霊のいたずらか?
少年は俺が弓を持っていることに気付き、近付いてきて、
「ありがとうございました。助かりました」
と矢を俺に渡した。返しにきてくれたつもりだろう。
「あ、あぁ、気にするな。釣り人同士、助け合うのはマナーだからな」
少年が尊敬する眼差しで俺を見てきた。
居心地が悪い。俺は助けようとはしたが、この少年を池から追い出そうとしていたのに
その後、私は少年のことが気になってしかたがなかった。
少年が竿を振るう。
魚が食いつく。
竿を上げる。
ひとつの針にバスが三匹食いついている。
「――ってなんでだっ!」
「え? どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
俺は首を振った。
間違いだ。何かの間違いだ。同じ針で魚が三匹も釣れるなんて、どういう現象だ?
「ん?」
ふと池の変化に気付いた。
池の様子がおかしい。
俺ほどの熟練者になると、魚がどこにいるかだいたいわかる。
しかし、俺の前にいたはずの魚がどこにもいなくなっていた。すべての魚が少年の前に行ったのだ。まるで、自分から釣られに行っているかのように。
池の魚だけではない。俺が釣り上げた魚までも、少年の方に行こうと桶の淵に体当たりしている。
もしや――
「少年っ!」
俺は少年の方に駆け寄った。
邪魔するなと言われたが、そんなこと関係ない。
「その餌なんだが――」
「これですか?」
少年が差し出したのは、練り餌だった。
通常、この池で釣れるバスに練り餌は有効ではない。なぜなら、鯉や鮒と違い、ここにいる奴らは匂いにあまり敏感ではない。練り餌は動かないから、匂いを感じても動かなければ興味を失せてしまうのだ。
にもかかわらず、三匹も同時に釣った。
「俺もここで釣っていいだろうか?」
「ええ、構いませんよ。よかったら僕の餌も使いますか? 朝御飯の残りで作ったんですけど」
「あ、あぁ、使わせてもらおうかな」
俺はそう言って、数回分の練り餌を貰った。
物は試しだ。
俺はその練り餌を使ってみることにした。
(え? 朝御飯の残りって言わなかったか?)
いまさらそんなことを考える。
竿を振った。
餌が着水する直前、バスが水から飛び出して食いついた。
海上で、トビウオを網で捕まえたことはある。しかし、空中でバスを釣るのは生まれて初めての感覚だった。というか、もうこれは釣りではない。
「……あぁ、ありがとう。俺はもう帰るよ」
「え? もう帰られるんですか?」
「ああ、これで十分だ」
俺は荷物を片付け、釣った魚を持って立ち去った。
この池には主がいる――そんな噂を聞いてここまでやってきたが、なんてことはない。
主はこの少年だった。
こんな化け物と一緒に釣りをしていたら、俺の釣りの概念が壊れてしまう。
そうだ、今度は東の国にでも行ってみるか。
少年から貰った練り餌の残りを食べながら(とっても美味だった)。
※※※
「クルト様、バス釣りはいかがでしたか?」
「リーゼさん。結構釣れましたよ……あれ? なんで僕がバス釣りをしていたってわかったんですか?」
「それは……風の噂です! そういえば、クルト様、バス釣りに行かれるのは久しぶりですわね。前は三日に一度は行っていらっしゃったのに」
「ユーリシアさんに止められたんです。僕の餌を食べ過ぎると、バスが巨大化して生態系が破壊されるそうで、回数制限しているんです。大袈裟だと思うんですけどね」
「本当に大袈裟な人ですわね(それで先週ファントム十人がかりで巨大バスを処理したのでしたね)」
世界を股にかける釣り野郎だ。
今日、俺はホムーロス王国にあるとある池に、幻の主がいるという情報を手にやってきた。なんでも、この池にはバスは全てが体長五メートルを超える化け物がわんさかいるのだとか。さすがにそれは眉唾だとは思うが、その噂の元くらいは確かめたい。
谷池タイプで、透明度が高く推進が深い。こういう池では障害物が多く、バスなどの魚が好んで生息する。こういう場所では、朝や夕方、風が吹いたときに魚は回遊することが多い。昨日は下見だけで終わったが、今日からが本番だ。
朝のうちに勝負を終わらせる――そんな意気込みで俺はやってきた。
「あ、おはようございます」
想定外だった。まさか、先客がいやがるとは。
銀色の髪の少年――まさか、こいつも主を狙ってここまでやってきたのだろうか?
「はじめまして、僕はクルトと申します。ここでは美味しい魚がいるんで、今日の昼食にしようと来たんです。お兄さんもマスを狙って?」
「……まぁそんなもんだ」
なるほど、地元の子供か。
三十歳半ばになろうかという俺のことをおじさんではなく、お兄さんと呼んだことだけは評価してやるが、しかし、素人がいるのは厄介だな。
まぁいい、少し離れた場所から狙うとするか。
しかし、ここはハズレかもしれん。
池の浅い場所を見ると、おたまじゃくしが群れをなしていた。巨大な肉食魚がいる池でおたまじゃくしが繁殖することはあまりない。そう思って少年の方を見たら、立派なバスを釣り上げていた。
――訂正する。ここはどうやら大きな魚がいるようだ。
俺は針に羽虫をつける。この羽虫はまだ生きており、ずっと羽を動かして逃げようとしている。これが魚をおびき寄せるのだ。
そして、俺は竿を振るった。
いきなり竿に反応があった。
釣り上げる――なかなかの大きさのバスだ。しかも色もいい。これなら、軽く泥を吐かせればいい値で売れるだろう。
俺は水の張った桶の中にバスを入れた。
どうだ、俺のテクニックを見たか――と少年の方を見ると、少年は人間の頭サイズの亀に噛みつかれていた。
なんでそうなるっ!?
あの亀は基本、自分より大きな生物には襲い掛からない。よほど少年のことを弱そうに見えたのだろうか?
さすがに放っておけない。
そうだ、助けるついでに、「亀にやられるようならこの場所は危ない。そうそうに町に帰るんだ」とでも警告して追い出そう。
――そう思ったとき、どこからともなく矢が飛んできて、亀に突き刺さった。
なにがあったのかわからない。
それは少年も同じのようで、亀から矢を抜いて、不思議そうにしている。
「あなたが矢を放ったことにしてください。あと、クルト様の邪魔はしてはいけませんよ」
突然、背後から女の声が聞こえてきた。
振り返ってもそこには誰もいない――まるで幻でも見たかのようだ。だが、それは幻聴ではなかった。なぜか俺の汗ばむ手には弓が握られていた。
恐ろしい――いったいなんなのだ? 森の精霊のいたずらか?
少年は俺が弓を持っていることに気付き、近付いてきて、
「ありがとうございました。助かりました」
と矢を俺に渡した。返しにきてくれたつもりだろう。
「あ、あぁ、気にするな。釣り人同士、助け合うのはマナーだからな」
少年が尊敬する眼差しで俺を見てきた。
居心地が悪い。俺は助けようとはしたが、この少年を池から追い出そうとしていたのに
その後、私は少年のことが気になってしかたがなかった。
少年が竿を振るう。
魚が食いつく。
竿を上げる。
ひとつの針にバスが三匹食いついている。
「――ってなんでだっ!」
「え? どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
俺は首を振った。
間違いだ。何かの間違いだ。同じ針で魚が三匹も釣れるなんて、どういう現象だ?
「ん?」
ふと池の変化に気付いた。
池の様子がおかしい。
俺ほどの熟練者になると、魚がどこにいるかだいたいわかる。
しかし、俺の前にいたはずの魚がどこにもいなくなっていた。すべての魚が少年の前に行ったのだ。まるで、自分から釣られに行っているかのように。
池の魚だけではない。俺が釣り上げた魚までも、少年の方に行こうと桶の淵に体当たりしている。
もしや――
「少年っ!」
俺は少年の方に駆け寄った。
邪魔するなと言われたが、そんなこと関係ない。
「その餌なんだが――」
「これですか?」
少年が差し出したのは、練り餌だった。
通常、この池で釣れるバスに練り餌は有効ではない。なぜなら、鯉や鮒と違い、ここにいる奴らは匂いにあまり敏感ではない。練り餌は動かないから、匂いを感じても動かなければ興味を失せてしまうのだ。
にもかかわらず、三匹も同時に釣った。
「俺もここで釣っていいだろうか?」
「ええ、構いませんよ。よかったら僕の餌も使いますか? 朝御飯の残りで作ったんですけど」
「あ、あぁ、使わせてもらおうかな」
俺はそう言って、数回分の練り餌を貰った。
物は試しだ。
俺はその練り餌を使ってみることにした。
(え? 朝御飯の残りって言わなかったか?)
いまさらそんなことを考える。
竿を振った。
餌が着水する直前、バスが水から飛び出して食いついた。
海上で、トビウオを網で捕まえたことはある。しかし、空中でバスを釣るのは生まれて初めての感覚だった。というか、もうこれは釣りではない。
「……あぁ、ありがとう。俺はもう帰るよ」
「え? もう帰られるんですか?」
「ああ、これで十分だ」
俺は荷物を片付け、釣った魚を持って立ち去った。
この池には主がいる――そんな噂を聞いてここまでやってきたが、なんてことはない。
主はこの少年だった。
こんな化け物と一緒に釣りをしていたら、俺の釣りの概念が壊れてしまう。
そうだ、今度は東の国にでも行ってみるか。
少年から貰った練り餌の残りを食べながら(とっても美味だった)。
※※※
「クルト様、バス釣りはいかがでしたか?」
「リーゼさん。結構釣れましたよ……あれ? なんで僕がバス釣りをしていたってわかったんですか?」
「それは……風の噂です! そういえば、クルト様、バス釣りに行かれるのは久しぶりですわね。前は三日に一度は行っていらっしゃったのに」
「ユーリシアさんに止められたんです。僕の餌を食べ過ぎると、バスが巨大化して生態系が破壊されるそうで、回数制限しているんです。大袈裟だと思うんですけどね」
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