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幕間話2
SS アクリの観察日記
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その日、私――ユーリシアが本を読んでいると、アクリが部屋にやってきた。
アクリはちゃんと扉をノックし、そのノックされている音の高さから私も部屋に来たのがアクリだとわかる。
彼女がノックをするのはリーゼが礼儀作法を叩きこんだからという理由ではなく、単純にドアのノブに手が届かないからだ。
まぁ、その前は転移して部屋に入ってきたりしたので、その頃に比べたら礼儀作法ができてきたことになるが。
「ユーリママ! ノートがほしいの!」
「ノート? 何に使うんだ?」
「これもらったの!」
アクリが私に見せてくれたのは何かの植物の種だ。
黒いということはわかるが、何の種かはわからない。
「これ、何の種だ?」
「アサガオなの!」
「へぇ、朝顔の種か。てことは、観察日記だな?」
「うん! アサガオのタネをまいて、はながさくまでにっきをつけるの!」
たぶん、リーゼがしている情操教育の一環だろう。
いい試みだと思う。
植物を原料とする紙が開発されてから、羊皮紙に頼っていた昔と違ってその値段は大きく下がった。
インクだって決して安い値段ではない。
ただ、この工房だとクルトがいるお陰で紙もインクもいくらでも手に入る。
しかも品質は最高級品か、それ以上だ。
アクリが使ってるのは炭とロウ、顔料を混ぜて作られたクレヨンだが、これだって王都で売ってる宮廷絵師が使ってるものより遥かにいいものだ。
「よし、じゃあこれを使え。ちゃんと花が咲くまで面倒を見るんだぞ」
私はアクリにそう言ってノートを渡した。
アクリは笑顔で頷き、床にノートを置くと寝転がって「あさがおのかんさつにっき」と書いた。
字は崩れているが、しかし形は一切間違ってない。
生まれて一カ月くらいなのにこんなに文字が書けるなんて、うちの娘天才過ぎる。
大きくなったら偉い学者さんになるかもしれないな。
そして、結婚相手を連れてきて……ダメだ、それを想像したら涙が出てきた。
碌な男じゃなかったら叩き斬ってやるぞ。
「ママ、ありがとうなの! パパとあさがおをうめてくるの!」
私が将来について考えている間にアクリはノートを持って立ち上がり、部屋を出ていった。
って、転移魔法を使うな!
部屋に入る時に転移魔法はダメだって教えたけど、出るときもダメだって言わないといけないな。
それから三日後。
私は工房の仕事で留守にしていたが、ようやく家に帰ることができた。
アクリの部屋に行くと、絶賛お昼寝中だった。
一緒に遊んでいたはずのシーナも寝ているが、まぁファントムが護衛についているから大丈夫だろう。
部屋には観察日記が落ちていた。
しっかりあさがおを育てているだろうか?
とノートを捲ったがほとんど白紙だ。
三日坊主どころか、一日しか書いていないじゃないか。
子供は飽きっぽいっていうけれど、さすがにこれはダメだろう。
アクリが起きたらちゃんと教育を――
最初のページ目を読んで考えを変えた。
教育をしないのはアクリではなく、クルトのようだ。
『あさがおのかんさつにっき1にちめ
ぱぱといっしょにあさがおのたねをうえたの
すぐにきれいなおはながさいたの』
ノートの最初のページには、綺麗に咲いている紫色の朝顔が描かれていた。
生まれて一カ月の子が書いたとは思えないくらい上手だ。
アクリは将来芸術家になるかもしれない。
アクリはちゃんと扉をノックし、そのノックされている音の高さから私も部屋に来たのがアクリだとわかる。
彼女がノックをするのはリーゼが礼儀作法を叩きこんだからという理由ではなく、単純にドアのノブに手が届かないからだ。
まぁ、その前は転移して部屋に入ってきたりしたので、その頃に比べたら礼儀作法ができてきたことになるが。
「ユーリママ! ノートがほしいの!」
「ノート? 何に使うんだ?」
「これもらったの!」
アクリが私に見せてくれたのは何かの植物の種だ。
黒いということはわかるが、何の種かはわからない。
「これ、何の種だ?」
「アサガオなの!」
「へぇ、朝顔の種か。てことは、観察日記だな?」
「うん! アサガオのタネをまいて、はながさくまでにっきをつけるの!」
たぶん、リーゼがしている情操教育の一環だろう。
いい試みだと思う。
植物を原料とする紙が開発されてから、羊皮紙に頼っていた昔と違ってその値段は大きく下がった。
インクだって決して安い値段ではない。
ただ、この工房だとクルトがいるお陰で紙もインクもいくらでも手に入る。
しかも品質は最高級品か、それ以上だ。
アクリが使ってるのは炭とロウ、顔料を混ぜて作られたクレヨンだが、これだって王都で売ってる宮廷絵師が使ってるものより遥かにいいものだ。
「よし、じゃあこれを使え。ちゃんと花が咲くまで面倒を見るんだぞ」
私はアクリにそう言ってノートを渡した。
アクリは笑顔で頷き、床にノートを置くと寝転がって「あさがおのかんさつにっき」と書いた。
字は崩れているが、しかし形は一切間違ってない。
生まれて一カ月くらいなのにこんなに文字が書けるなんて、うちの娘天才過ぎる。
大きくなったら偉い学者さんになるかもしれないな。
そして、結婚相手を連れてきて……ダメだ、それを想像したら涙が出てきた。
碌な男じゃなかったら叩き斬ってやるぞ。
「ママ、ありがとうなの! パパとあさがおをうめてくるの!」
私が将来について考えている間にアクリはノートを持って立ち上がり、部屋を出ていった。
って、転移魔法を使うな!
部屋に入る時に転移魔法はダメだって教えたけど、出るときもダメだって言わないといけないな。
それから三日後。
私は工房の仕事で留守にしていたが、ようやく家に帰ることができた。
アクリの部屋に行くと、絶賛お昼寝中だった。
一緒に遊んでいたはずのシーナも寝ているが、まぁファントムが護衛についているから大丈夫だろう。
部屋には観察日記が落ちていた。
しっかりあさがおを育てているだろうか?
とノートを捲ったがほとんど白紙だ。
三日坊主どころか、一日しか書いていないじゃないか。
子供は飽きっぽいっていうけれど、さすがにこれはダメだろう。
アクリが起きたらちゃんと教育を――
最初のページ目を読んで考えを変えた。
教育をしないのはアクリではなく、クルトのようだ。
『あさがおのかんさつにっき1にちめ
ぱぱといっしょにあさがおのたねをうえたの
すぐにきれいなおはながさいたの』
ノートの最初のページには、綺麗に咲いている紫色の朝顔が描かれていた。
生まれて一カ月の子が書いたとは思えないくらい上手だ。
アクリは将来芸術家になるかもしれない。
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