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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

257【挨拶回りの前後編09】班長らしく

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【パラディン大佐隊・執務室】

 パラディン、自分の端末のディスプレイを見ながら苦笑い。

パラディン
「三班長は退役の道を選んだか」

モルトヴァン
「二回連続で〝留守番〟ですから、気持ちはわからないでもありませんが……退役を希望する理由は、部下の不正の責任をとって、なんですね」

パラディン
「不正ねえ……私は三班第二号の攻撃は有効と判定したんだが。まあ正直に、これ以上班長を続けたくないから、とは書けないか」

モルトヴァン
「上官の都合で不正扱いされて、退役希望理由にまでされるなんて……三班第二号が気の毒すぎます……」

パラディン
「エリゴール中佐のように、一身上の都合ということにしておけばいいのにな。本当に、つまらないところで見栄を張る」

モルトヴァン
「まったくもって同感ですが……大佐、どうします?」

パラディン
「そうだな。今日の十四時にここに来させて、退役届を書かせるか」

モルトヴァン
「え? 退役願ではなく、退役届ですか?」

パラディン
「ああ。もう願う必要はない。部下の不正の責任をとって、今日付でスッパリ退役してもらおう」

モルトヴァン
「三班長……余計なことを書くから……」

パラディン
「その余計なことを書いてしまうところが、班長が務まらなかった原因の一つだろうね」

モルトヴァン
「エリゴール中佐には、何も言わなくていいんですか?」

パラディン
「ドレイク大佐の挨拶回りが終わったら、ここに呼んで直接話すよ。三班長を今日付で退役にすることも含めて」

モルトヴァン
「そうしていただけると非常に助かります」

パラディン
「さて。それではドレイク大佐の来訪に備えて、ここを掃除させるか」

モルトヴァン
「今朝、私が掃除しましたけど……」

 パラディン、人差指で執務机の表面を撫でる。

パラディン
「モルトヴァン。……いったいどこを掃除したのかな?」

モルトヴァン
「……嫁をいびる姑ですか。似合いすぎます」

 ***

【パラディン大佐隊・第三班小会議室】

副班長(第三班第六号艦長)
「班長。……今度は何ですか?」

 真っ青な顔で震えているプライスを見て、若干うんざりしている副班長。
 返事を待たずに、プライスの対面の椅子に腰かける。

プライス
「……ついさっき、大佐からメールが届いた。今日の十四時、大佐の執務室で退役届を書けと」

副班長
「え……退役届ですか? 退役願ではなく?」

プライス
「そうだ。しかも、今日付で退役にするそうだ……」

副班長
「今日付……まさか、懲戒免職にされたんですか? 自己都合ではなく?」

プライス
「いや、自己都合だ。……自己都合ということにしてやるから、今日付で退役しろと」

副班長
「……班長。大佐にはメールで伺いを立てたんですよね?」

プライス
「あ、ああ?」

副班長
「すみませんが、そのメール。見せてもらってもいいですか?」

プライス
「かまわないが……ちょっと待て」

 プライス、上着から業務用の携帯電話を取り出して操作し、副班長に渡す。
 副班長はすばやく文面を読んで、思わず額に手を当てる。

プライス
「どうした? 何かまずいところでもあったか?」

副班長
「班長……あなたはこんなにも浅はかだったんですね……」

プライス
「あ、浅はか!?」

副班長
「この理由にすれば、班長らしく辞められると思いましたか? 大佐も納得すると思いましたか?」

プライス
「……違うのか?」

副班長
「あなたにとって、二号は〝気に入らない〟なんでしょうが、大佐は二号が不正を働いたとは断じていません。二号の攻撃も正当と認めて、『連合』役をした俺たちが勝ったことにしてくれました。それをあなたは、よりにもよって……これでは二号だけでなく、大佐の判断も否定していることになってしまいます」

プライス
「そんな……そんなつもりはまったく……!」

 ますます蒼白になるプライス。
 副班長は泣き笑いしているような顔になる。

副班長
「だから、浅はかなんです。自己都合にしてくれたのは、大佐の温情ですよ。……こんなことなら、つまらない見栄を張らずに、一班長に付き添ってもらえばよかったですね。一班長なら、誰も悪者にしないで辞める方法を代わりに考えてくれたでしょう」

プライス
「クライン……おまえまで俺を責めるのか? おまえは、おまえだけは、俺の味方だと思っていたのに!」

副班長
「班長にとっては、俺以外は敵だったんですか?」

プライス
「それは……」

副班長
「それなら、今この瞬間から、俺も班長の敵でいいです。早く退役して、ここから逃げてください。今ここでした話も、聞かなかったことにしておきますから」

プライス
「……元四班長が来なければ……」

副班長
「そうですね。元四班長が来なければ、あなたを切ってもらえませんでした。今は俺も心から元四班長に感謝しています。あなたの退役を思いとどまらせようとした、あのときの自分を殴り飛ばしたいくらいです」

プライス
「……おまえ。やっぱり班長に繰り上げになったんだな?」

副班長
「今度はパラディン大佐を愚弄するんですか? あの方は班長にふさわしい人間しか班長にしません。十一班長や十二班長のように。……アルスター大佐とは違います」

 副班長、心底うんざりしたように席を立つ。

副班長
「今朝、あなたが無断欠席したミーティングで決まったそうですが、次の三班長が任命されるまで、俺が代理としてミーティングや班長会議に出席することになりました。……班長の自覚のある班長とはどういう班長か、よく勉強させてもらおうと思っています」

プライス
「おまえ……!」

副班長
「班長。今まで本当にお疲れ様でした。そろそろ班員にご自分の退役を明かしたほうがいいのではないかと思いますが、班長が班長として最後にできるご判断でしょうから、これ以上は何も申しません。……それでは、失礼いたします」

 副班長、一礼して背中を向ける。
 プライスは呼び止めようとするができないまま、両手で頭を抱えこむ。

プライス
「どうして……どうしてこんなことに……!」

 副班長、退室。
 自動ドアが閉まってから独りごちる。

副班長
「そんなの、自分で言ってたじゃないですか。……アルスター大佐は人を見る目がなかったんですよ」
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