チャラ男は愛されたい

梅茶

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入学式編

怖いよぉ〜!!

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「お前らなぁ~、体育館からここまでどんだけ時間かけてんだよ。先生定時で帰りたいから、取り敢えず生徒会の立候補だけするぞ~」


教室に戻り相変わらずの教師失格発言をするホスト先生。あの後結局20分ほど全員が戻ってくるのを待ち、たった今HRが始まった訳だが、なるほど。生徒会は立候補制なのか。先生の説明によると、今空いている生徒会の席は会計と書記なので1年生で各クラス2人ずつ立候補を出し、その後投票で1学年全体から2人選ばれるそうだ。

千歳が言ってた俺でも入れるって言うのは立候補する人が少なかったら入れるよってことかな…?それなら確かに入れるか…?
そう思ってホッとしたのもつかの間、俺はこの立候補の恐ろしさを知る。


「んじゃ、やりたいやつ手ぇ上げろ~」

「はいはいはいっ!」
「あっ、ずるいずるい僕もぉ!」
「チワワ共うっさいわよ!私がやるわ!」
「黙れよカマ野郎!!お前に生徒会は荷が重いんじゃねぇの!!?」
「あ"ぁ!?犬っころはせいぜいハンカチ噛みながら生徒会の周りでキャンキャン吠えとけばぁ?!!」
「ンだとテメェ!!!」
「はいはい俺も立候補!」
「副会長様にお近付きのチャンス…!!」
「僕もこれでお近付きになって生徒会長様に食べてもらうんだ~!!」
「おいテメェら不純な動機で生徒会の皆様に近づこうとすんじゃねぇ!!!ここは責任もって俺がやる!!」
「てめぇだって不純だろうがこの淫乱くそビッチ野郎がよォ!!」
……



…………いや…こわ……それに立候補者がクソ多いというかこのクラスのほぼほぼの生徒が手を挙げている。そして飛び交う罵詈雑言。隣の教室からも怒鳴り声が聞こえ、先生が何も反応しないところを見るにこれがこの学園の普通なのだろうか。いや頭おかしいだろ。もっとお淑やかにしろよ。
なんて思っていたら埒が明かないと思ったのかホスト先生が長いチョークを1本持って教卓に置く。


「うっせぇ~、あ~、まあ決まらなさそうだから、いつも通りこのチョークで黒板に名前書いたやつが代表な」


…その瞬間、この教室で1本のチョークを巡る醜い争いが起こった。ひぇ…あれ顔殴ってない?髪の毛引っこ抜いてない???不良学校にいた頃と大差ないんだがやっぱこれ学園選びミスったかな???というか、俺は基本的に怖いのも暴力的なのも嫌いなんだが…!不良校の恐怖を思い出してしまいちょっと涙目になり、上げかけて中途半端になってしまっていた手を静かに下ろす。

なんでお金持ち学校なのにこんなに口が悪いし暴力的なんだよ…!!怖いよ~~!!この中で立候補なんて出来ないよ千歳~~!!
隣でずっと黙ったままの千歳の方を見て、手でばつを作る。俺は無理の意である。すると千歳はこちらを見て親指を立て、俺に任せろとても言うように頷いてくる。いやもう諦めてもらっていいんだが…

何をするのかと見守っていると千年がスっと静かに立ち上がる。それだけであんなに喧しかった教室は静まり返った。
…え…??もしかして千歳さんって超能力者でしたっけ??そんな一斉に黙ることあるか??そうして誰の邪魔も受けないままチョークを手に取って自分の名前をササッと書いてしまった千歳さん。そのまま教卓にチョークを置いて席に座る。

そして生徒会だけでなく千歳とも近づけるチャンスだと巻き起こる大歓声。益々激しくなるチョークの奪い合い。隣の席からあれが手本だとでもいうようにこちらをみる千歳。
…ここがこの世の地獄か…???
あんなものを見せられて誰が真似できるってんだ。てかあそこまで行ったなら俺の名前も書いて欲しかった!!

俺が必死に首を横に振りNoを突きつけていると、また千歳が手を握ってくる。
で、でた~~~!!絶対こうやったら俺が絆されるって理解してるだろ。お前思ったよりあくどい性格してるなぁ~~!!何をされるかわかっているのに手を握ったまま眉を下げられたら何も言えない。そしてトドメに耳元に口を寄せられる。


「……俺…遥と一緒がいい…」
「んぐぅ…ッ!!」


それ俺が今朝やったやつ~~~!!!!わかったよわかったやればいんでしょ!?本当に綺麗な顔してるな~もうッ!!!
まんまと乗せられてしまっているというかもう手のひらの上で転びまくってる感はあるが、自分も今朝人様に対しやったところだし、この綺麗な顔、もう好きにしてくれって感じだ。

うじうじしてても終わらないと、勇気をだしてそろりと席を立つ。俺には千歳のような特殊な力は備わってないので、千歳が名前を書いた後さらに激しく競い出したクラスメートには気づかれていない。まあ気づかれていっせに見られても困るんだが。

そろりそろりと教卓近くにまで行ってみるが、とてもじゃないけどこれ以上近づけなさそうだ。思わず千歳を見ると、きょとりと首を傾げられてしまう。そりゃ千歳さんには俺の苦労がわからないでしょうよ!!ちなみに先生はこいつらよくやるなーとでも言うように腕を組み壁にもたれながら教室を眺めていた。

ふぅーー…よしっ!俺なら行ける絶対行ける!!まあ多少体や顔にアザが出来るかもしれないがそれも男の勲章だ!…ま、まあチョークの奪い合いでついた傷は正直不名誉だが……

そう思い1歩近づいた瞬間、獣共の領域に入ってしまったことを悟った。自分たちの縄張りに新しい敵が入ってきたことを感じとり勢いよくこちらを向く殺気を込めた視線、近づく人間を確認もせず無造作に繰り出される拳。硬直しきった俺の体が避けられるわけなく、なんとか顔の前に手を持ってくるだけで精一杯。怖すぎて目をつぶる時に、んッなんて変な声が出てしまった。

ひぇっ…!!こんなん死んじゃうよ~!!!本当にここ金持ち学校なのかよ絶対違うだろ~~!!!というかこんなガチで殴られそうになるとは思わなかった。躊躇ってもんが感じられねぇ…!
あぁ…どうかこのまま顔を殴られても鼻とか歯が折れませんように……!あんまり痛みを感じないと尚嬉しいですというか殴られたくないよ~~!!誰か助けてぇ!!

怖さのせいで感覚が引き伸ばされているのか一向に拳がやってこない。それに何かに引き寄せられたような感覚がある。ひぃーそんなオプションいらないよぉ怖いよぉ~!!恐怖で泣いちゃいそう…

しかし、おかしい。人間が危機を感じた時に、いくら走馬灯を見るかのように感覚が引き伸ばされるって言ってもこんな遅いもん???どうなってんだ?とうとう我慢できなくなり片方だけ薄めに目を開く。

そこには今殴りかかってますと言わんばかりの体勢であるムキムキな男子生徒と、その男子生徒の振り上げた手を片手で受け止め俺を抱き寄せるホストの姿が………………あぇ!??先生!!??

なんとホスト先生が俺を庇ってくれたっぽい。助かったことへの安堵から涙が出そうになる。うぅ…怖かったぁ…先生ガチありがとうもう教師失格とか言いません…!!

でも今まで殴り合いをしていたのになんで俺の時だけ止めたんだろ…?そんなに俺が貧弱そうに見えたか???いや勿論俺は暴力関連においては貧弱もやしボーイなんでとても助かりましたが。あのまま殴られていたらと想像してしまい、今更恐怖がぶり返してきて先生にギュッと抱きつく。


「はいストップ~、お前ら一旦落ち着け」
「せ、せ"ん"せ"ぇ~!!!!」
「おぉ、よしよし怖かったなぁ~」
「じ、じぬかとおもった…ッ!!!」
「まァ外部生にはキツいわなー」


あぁ、外部生だから助けてくれたのか。確かに外部生の俺にとってはもうこの学園が恐怖だ。先生に頭を撫でられながらどうにか気分をおちつけようとする。今まで争っていた生徒たちは今は静かにというか少しザワザワしながらこちらを見ている。ちょっと今泣きそうで酷い顔してるだろうからそんなにこちらを見ないで欲しい。恥ずかしくなってきて先生の腕の中から脱出する。

殴りかかろうとした生徒は慌てて拳をおろし、俺に向かってブォンッと勢いよく頭を下げてきた。先程殴られそうになったことを思い出しビクッと俺の肩が揺れてしまったのを見たのか、更に頭を下げてしまった。そのまま土下座しそうな勢いだ。


「すっ、すみません!俺、喧嘩してると周りが見えなくなっちゃって…!!お怪我はありませんか!?!?」
「え、だ、大丈夫だよぉ~、俺こそ大袈裟に怖がっちゃってゴメンねー…?そんな気にしないで?」
「っ!お、俺、こんな優しい人に殴りかかって…!自分が許せないッス…ッ!!本当にすみません!頭冷やしてきます!!!」


確かに怖かったがそんなに謝られては何も言えないし、まあこれがこの学園の普通なら…俺の方が大袈裟にビビっておかしい…の、か?それはそれでおかしいだろ。まあ今それを言っても仕方が無いので気にするなと伝える。

しかし何故か余計に苦しそうな顔をし、もう一度謝られて嵐のように去っていってしまった。というかやっぱり喧嘩のつもりだったんだアレ…


「……遥」
「ひぇっ!?ち、ちとせ!?」


ポカーンと立っていたら横から急に千歳が顔を覗き込んでくる。そのまま頬を俺より少し大きな手で包まれ親指で目の下をなぞられる。ち、ち、千歳さん!!??いつの間に傍にいたの!??更に、心配そうな顔をおでこがくっつくまで近づけられてしまい、至近距離で超絶美しい顔を浴びせられ顔が赤くなる。か、顔がいい…!!


「……ごめんね…」
「えっ?!///な、なんでぇ…?」
「……俺、いつも普通に黒板に書いてたから…大変だって知らなくて…」
「あ、あぁ!っていうかち、ちとせさん!?ちょっと顔近すぎかも~!!」
「…だって遥泣いてる…怖い思いさせてごめんね…?これからは、俺が守るから…」


……いや、どこの乙女ゲームだよ…ッ!!?なんかもうキャパオーバーすぎるし今ちょっと目が潤んでるのは恥ずかしすぎてだ。ていうか千歳さんここ教室っ!!!///
誰か早く助けてくれという願いが届いたのか、いつの間にか怪我した生徒たちを保健室に送っていたホスト先生がガラッと教室の扉を勢いよく開けて入ってくる。


「おら、お前ら席つけ~!」


その言葉でまだ立っていた生徒やこちらをちらちら見ていた生徒が席につく。俺も何とか千歳を振り切り席に座る。隣からの熱視線は無視の方向で……


「あ?お前らにしてはやるじゃねーか。候補者2人決まったな。よし、俺は報告行って帰るからお前らも解散~」


先生のその言葉にみんなが立ち上がったり教室を出て行ったりと自由に過ごしだす。しかし俺は先生から看過できないセリフを聞いて慌てて黒板を見る。候補者2人決定!!?嘘だろいつの間に…!!別に生徒会に入りたいとは今も思ってないが、千歳と約束までしているしあんなに念を押されたのだ。自分で了承した手前これで入れなかったら申し訳なさすぎる。

そう思いながら黒板を確認すると、確かに黒板にはいつの間にか名前が二つ書かれていた。やばぁ…結局俺書けなかったじゃん~!と焦るが、もう一度書かれた名前をよく見て困惑する。ひとつは勿論千歳の名前。そしてもう1つが『久遠遥』……俺!!!?

書いた覚えが無さすぎて混乱してきた。えっ無意識に書いてた???なわけねーだろ俺にそんな隙は与えられなかった。ってことは他の生徒が…?思わずクラスメイトを見ると、何人かが恥ずかしそうに視線を逸らす中、男の子たちが3人ほど集まって、こちらに親指を立ててきていた。

お、お前ら~~~!!誰かわからないけどありがと~~!!!ガタッと席を立ち上がりそちらの方に行く。まさか俺が近づいてくるとは思わなかったのか慌てだしたが、そりゃお礼は直接言うべきだろ。


「ねぇ、君たちが名前書いてくれたの?」
「ひぇっ、アッハイ…!」
「勝手なことしてスミマセン…!!」
「アッアッ顔がいい…!!」
「ううん、めっちゃ助かったよ~!一緒に入りたい子がいたからさ、ありがとぉ!」


なんでか分からないがすごく謙虚してくるので真ん中に立っていた子の手を掴んでニコニコ笑いながら感謝を伝える。わ~色々あって絶対無理だと思ってたからなんで協力してくれたかわかんないけどめっちゃ嬉しい~!!


「ひ~供給過多すぎる…!!」
「え…?これ死んだ?推しが尊すぎて辛いんだが…?」
「てか一緒に入りたいってなになにもうまじで助かりますありがとうございます」
「??ご、ごめんね~、ちょっと聞き取れなかったや…」
「い、いやいや本当聞く価値もないことなんで気にしないでくださると嬉しいです」
「推しの困り顔ヤバすぎる…アッいやなんでもないです気にしないでください」
「よ、喜んでもらえたなら幸いです!!睡蓮の君と仲良くしてください~~!!」


それからポツポツと話して、親衛隊に怒られないかとビクビク聞いてくるので、俺は外部生だからと言うと急に興奮し出して驚いた。そんなに外部生が珍しいんだろうか?てか俺金持ちじゃないけど親衛隊ってできるのか…?なんかソウウケとかアイサレ?ってめっちゃ言ってるけどこの学校の専門用語かなんかかな?後で千歳に聞こう。

興奮したままの3人に別れを告げて席に戻ろうとすると、待っていてくれたのか千歳がカバンを持ってきてくれた。そのまま教室から廊下に出ると、まだ争いの声が聞こえるクラスがある。ついそちらを向くと、ちょうどチワワみたいな男の子が倒れた大男の上で拳を上げているところだった。……あんな小さくて可愛い子でも暴力的なんだ…この学園やっぱヤベェな……

俺が暴力的なものが苦手なことに気づいたのか、千歳が間に立って見えないようにしてくれた。嬉しいけどこんな美形に気を遣ってもらうのってなんかむず痒いな…!!つい俺が守る発言をされたことを思い出し恥ずかしくなる。

ま、まあ何はともあれ生徒会に立候補出来て良かった。ここから選ばれるかは正直分からないけど、ここまで来たなら入りたい気持ちにもなってきた。だいたい、俺は自分の優秀さで目立つことが好きなんだ。今のところチャラいことで誰かに何か言われることは無いし、生徒会も悪くないかもしれない。


「ちとせ~」
「……?」
「ふふ、改めて、俺の事ちゃんと守ってね?俺、ちとせのせいで、ちとせと一緒に生徒会に入りたくなっちゃったから」


ちょっと冗談めかしてそう伝える。もう千歳なしにこの学園で過ごせる気がしないからさ、ここまでやってくれたならこれからも俺と仲良くしてくれよな。そんな気持ちを込めて笑いかけると、千歳は驚いた顔をした後、「…任せて」と言って笑顔を見せてくれた。
そういえば何か忘れてる気がするんだよなぁ…なんだっけ……?


「……あ、遥、風紀委員長に外部生は呼ばれてなかった…?」


あぁ~~~~っ!!!!




*****************
お久しぶりです。長らく更新出来ずすみません…リアルが少し忙しくて!!(言い訳)
こんなに小説を書くのは初めてなのでこれのどこが面白いんだ?なんて思っちゃって全然書けなくなっちゃいました。小説かける人本当に尊敬します。
これからも遅くはありますが絶対更新していきますので、お付き合い頂けたら幸いです。

















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