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96「寝床を分ける以外の解決法はないけどな」
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「何でそんなに疲れてるんだ」
ぼんやりとした顔で朝食の席に着いたユランを、エイダールは怪訝そうに見る。
「もしかして俺、寝相悪かったか?」
今まで寝相が悪いという指摘を受けたことはないが、寝返りの際などに打撃技を決めている可能性がないとは言えない。
「いえ、そんなことはなかったです」
一晩中衝動に耐えながら、眠るエイダールを見ていたユランは、自信をもって否定する。
「じゃあなんで俺、上掛けでぐるぐる巻きにされてたんだ」
目覚めたら上掛けが体に巻きついていて、その上でユランに背中側から首筋に顔を埋めるように抱きつかれていたので、ベッドから出るのに苦労した。
「あれは、必要な処置だったんです」
手を突っ込む隙間があると、自分でも何を仕出かすか分からなくて、手を出せないように巻いてしまった。
「処置ってなんだよ。やっぱり俺、寝相が悪かったんだな?」
寝相が悪いのに耐えかねて軽く拘束したのだとエイダールは判断した。今までは、二人で眠るには狭い自分のベッドに大柄なユランが乱入していたので、身動きが取れなくて発覚していなかったが、ユランのベッドだと動く隙間があったのだろう。
「そんなことありませんよ」
「別に気を遣ってかばわなくていいぞ。指摘されても寝相を直すのなんて無理だから、寝床を分ける以外の解決法はないけどな」
「だから、そんなことありませんからっ! 今後は別々に寝ようだなんて言い出さないでくださいよ?」
寝相を理由に寝床を分けるという流れになりそうで、ユランは慌てる。
「いや、俺たち、もともと寝室もベッドも別だからな?」
前提がおかしいぞ? とエイダールが指摘する。
「それはそうですけど、そうじゃなくて」
二度と機会が与えられなかったらどうしようという話である。
「とにかく今日は一人でぐっすり眠るように」
「……はい」
二日連続で寝不足になるのはユランとしても避けたかった。
「おはようございますギルシェ先生」
「ああ、スウェンおはよう」
スウェンは、出勤して研究室に入ってきたエイダールに挨拶をした。エイダールと研究所の前まで一緒に来たユランが、通りを渡って警備隊の詰所に向かうのを窓越しに見る。
「先生、ユランくんはどうかしたんですか? なんだかふらふらしてますけど」
「寝不足らしい、俺の寝相が悪かったみたいで」
「そうですか、寝不足ですか。ユランくんは体調管理は割としっかりしてるのに、珍しいですね」
ユランは丈夫な体を持っているが、それを過信してはいない。食事も睡眠もしっかりとる方である。
「そうなんだよ、俺の寝相が想定外だったんだろうな」
同じベッドで眠ると寝不足になるくらい酷いとは思わなかったのだろう。
「ん? 先生の寝相とユランくんの寝不足に何の関係が?」
スウェンは疑問を覚える。先程は聞き流してしまったが、よく考えるとおかしい。
「昨夜、一緒に寝たいって言いだしたから、俺がユランのベッドに……」
告白の返事を保留にしたままで多少罪悪感もあり、希望を叶えてやったのだ。
「…………」
「スウェン? どうした」
何故か赤くなって固まったスウェンの肩を、エイダールはぽんぽんと叩く。
「つ、つまり、ユランくんと同衾したと……?」
「そうだな?」
何を狼狽えているのだろうと、エイダールは訝しむ。
「お体は大丈夫なんですか? その、腰が痛いとか、そういうことは……」
「特に異常はないが?」
昨日は遠出したので疲れはしたが、派手に使ったのは魔法だけで、体の方はたいして使っていない。エイダールはぐっすり眠ったので疲労も残っていない。
「もしかしてユランくん、意外に床上手なんですか」
エイダールは一瞬、床上手ってなんだっけ、と考えた。
「どういう意味だ」
「え、ユランくんとナニしたんですよね? 彼とだと体格差もありますし」
普通だと結構大変なんじゃないかと、と言い出すスウェンの肩を、エイダールはがしっと掴んだ。
「待て、どんな誤解をしてる? 一緒に寝ただけだぞ? ユランが俺に何をするっていうんだ」
「……え?」
「え?」
暫く顔を見合わせて。
「ユランくんがギルシェ先生に向けているのは恋愛感情だって話を、この間したばかりですよね?」
スウェンが、確認するように言葉を紡ぐ。
「ああ。その前提で考えると、反省することが多いが」
「恋愛感情には当然性欲も含まれます。ユランくんはもう子供じゃないし、むしろやりたい盛りですよね」
「そうなのか?」
結局まだ、ユランを弟のように、子供のように思っているエイダールは、それを理解できていない。
「ユランくんが気の毒でなりません。生殺しもいいところですよ」
誘えばベッドに入って来るのに、その気が全くないのである。
「え、俺ってそういう対象に入ってんの?」
「恋愛対象であることは理解したみたいだったのに、どうしてそっちはないと思うんですか」
「だってユランだぞ」
分かってもらえないかもしれないが、他に言いようがない。
「そうですよ、先生のことが目茶苦茶好きなユランくんですよ」
スウェンは溜息をつく。
「あ、そういや、一度襲われたっけ……」
あの時は女の子相手に失恋したと思い込んでいたので、強かに酔ったユランがその女の子と自分を混同して襲ったのだと思っていたが。
「えっ?」
「騒ぐな、未遂だ」
「あ、はい」
よく考えれば失恋相手は自分だった訳で。
「あれが人違いじゃなかったってことは、そういうことなのか……うわあ」
襲われても全然おかしくなかった状況で、エイダールは朝まで一度も起きることなくすやすやと眠っていた。
「というか、ユランのやつ、我慢強いな?」
手も出さず文句も言わず。
「ほめてやりたい」
「その前に先生は反省してください」
その鈍さと自覚のなさを、とスウェンに怒られる。
「お、おう」
ここのところ反省することの多い日々だった。
ぼんやりとした顔で朝食の席に着いたユランを、エイダールは怪訝そうに見る。
「もしかして俺、寝相悪かったか?」
今まで寝相が悪いという指摘を受けたことはないが、寝返りの際などに打撃技を決めている可能性がないとは言えない。
「いえ、そんなことはなかったです」
一晩中衝動に耐えながら、眠るエイダールを見ていたユランは、自信をもって否定する。
「じゃあなんで俺、上掛けでぐるぐる巻きにされてたんだ」
目覚めたら上掛けが体に巻きついていて、その上でユランに背中側から首筋に顔を埋めるように抱きつかれていたので、ベッドから出るのに苦労した。
「あれは、必要な処置だったんです」
手を突っ込む隙間があると、自分でも何を仕出かすか分からなくて、手を出せないように巻いてしまった。
「処置ってなんだよ。やっぱり俺、寝相が悪かったんだな?」
寝相が悪いのに耐えかねて軽く拘束したのだとエイダールは判断した。今までは、二人で眠るには狭い自分のベッドに大柄なユランが乱入していたので、身動きが取れなくて発覚していなかったが、ユランのベッドだと動く隙間があったのだろう。
「そんなことありませんよ」
「別に気を遣ってかばわなくていいぞ。指摘されても寝相を直すのなんて無理だから、寝床を分ける以外の解決法はないけどな」
「だから、そんなことありませんからっ! 今後は別々に寝ようだなんて言い出さないでくださいよ?」
寝相を理由に寝床を分けるという流れになりそうで、ユランは慌てる。
「いや、俺たち、もともと寝室もベッドも別だからな?」
前提がおかしいぞ? とエイダールが指摘する。
「それはそうですけど、そうじゃなくて」
二度と機会が与えられなかったらどうしようという話である。
「とにかく今日は一人でぐっすり眠るように」
「……はい」
二日連続で寝不足になるのはユランとしても避けたかった。
「おはようございますギルシェ先生」
「ああ、スウェンおはよう」
スウェンは、出勤して研究室に入ってきたエイダールに挨拶をした。エイダールと研究所の前まで一緒に来たユランが、通りを渡って警備隊の詰所に向かうのを窓越しに見る。
「先生、ユランくんはどうかしたんですか? なんだかふらふらしてますけど」
「寝不足らしい、俺の寝相が悪かったみたいで」
「そうですか、寝不足ですか。ユランくんは体調管理は割としっかりしてるのに、珍しいですね」
ユランは丈夫な体を持っているが、それを過信してはいない。食事も睡眠もしっかりとる方である。
「そうなんだよ、俺の寝相が想定外だったんだろうな」
同じベッドで眠ると寝不足になるくらい酷いとは思わなかったのだろう。
「ん? 先生の寝相とユランくんの寝不足に何の関係が?」
スウェンは疑問を覚える。先程は聞き流してしまったが、よく考えるとおかしい。
「昨夜、一緒に寝たいって言いだしたから、俺がユランのベッドに……」
告白の返事を保留にしたままで多少罪悪感もあり、希望を叶えてやったのだ。
「…………」
「スウェン? どうした」
何故か赤くなって固まったスウェンの肩を、エイダールはぽんぽんと叩く。
「つ、つまり、ユランくんと同衾したと……?」
「そうだな?」
何を狼狽えているのだろうと、エイダールは訝しむ。
「お体は大丈夫なんですか? その、腰が痛いとか、そういうことは……」
「特に異常はないが?」
昨日は遠出したので疲れはしたが、派手に使ったのは魔法だけで、体の方はたいして使っていない。エイダールはぐっすり眠ったので疲労も残っていない。
「もしかしてユランくん、意外に床上手なんですか」
エイダールは一瞬、床上手ってなんだっけ、と考えた。
「どういう意味だ」
「え、ユランくんとナニしたんですよね? 彼とだと体格差もありますし」
普通だと結構大変なんじゃないかと、と言い出すスウェンの肩を、エイダールはがしっと掴んだ。
「待て、どんな誤解をしてる? 一緒に寝ただけだぞ? ユランが俺に何をするっていうんだ」
「……え?」
「え?」
暫く顔を見合わせて。
「ユランくんがギルシェ先生に向けているのは恋愛感情だって話を、この間したばかりですよね?」
スウェンが、確認するように言葉を紡ぐ。
「ああ。その前提で考えると、反省することが多いが」
「恋愛感情には当然性欲も含まれます。ユランくんはもう子供じゃないし、むしろやりたい盛りですよね」
「そうなのか?」
結局まだ、ユランを弟のように、子供のように思っているエイダールは、それを理解できていない。
「ユランくんが気の毒でなりません。生殺しもいいところですよ」
誘えばベッドに入って来るのに、その気が全くないのである。
「え、俺ってそういう対象に入ってんの?」
「恋愛対象であることは理解したみたいだったのに、どうしてそっちはないと思うんですか」
「だってユランだぞ」
分かってもらえないかもしれないが、他に言いようがない。
「そうですよ、先生のことが目茶苦茶好きなユランくんですよ」
スウェンは溜息をつく。
「あ、そういや、一度襲われたっけ……」
あの時は女の子相手に失恋したと思い込んでいたので、強かに酔ったユランがその女の子と自分を混同して襲ったのだと思っていたが。
「えっ?」
「騒ぐな、未遂だ」
「あ、はい」
よく考えれば失恋相手は自分だった訳で。
「あれが人違いじゃなかったってことは、そういうことなのか……うわあ」
襲われても全然おかしくなかった状況で、エイダールは朝まで一度も起きることなくすやすやと眠っていた。
「というか、ユランのやつ、我慢強いな?」
手も出さず文句も言わず。
「ほめてやりたい」
「その前に先生は反省してください」
その鈍さと自覚のなさを、とスウェンに怒られる。
「お、おう」
ここのところ反省することの多い日々だった。
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