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51「一番最初に確認するのがそれなのか?」
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「お、漸く来たなユランくん」
「カスペルさん……?」
文官らしき人に案内され、入った部屋にはカスペルがいた。
「宰相府所属のカスペル・サルバトーリです、本日は御足労いただきありがとうございます。先日は巻き込んでしまった上に捜査協力までいただいたこと、お詫びとお礼を申し上げます」
立ち上がったカスペルは流れるように口上を述べ、丁寧に一礼する。
「え、いえ、はい……」
ユランはどう答えていいのか分からないまま頭を下げる。
「……という格式張った挨拶はここまでとして、もう体の方は大丈夫かな? そこにどうぞ」
カスペルはソファを示した。
「はい、大丈夫です」
「先にこれを返しておくよ。特に手を加えられた形跡はなかったとのことだけれど、念の為に、何かなくなっていたり、逆に入れた覚えのないものが入っていないか確認して欲しい」
転移させられた時に持っていた鞄を渡された。
「はい……あ、良かった、あった」
真っ先に確認したのは、エイダールの家の鍵である。
「一番最初に確認するのがそれなのか? それ、エイダールの家の鍵だよな?」
何故か微笑ましいものを見るような顔で尋ねられる。
「はい……どうして先生の家の鍵だって分かるんですか?」
「見たことあるし、ちょっと特殊な形をしてるだろう? 家を買ってすぐに、何かあった時のために、合鍵を作って私に預けてほしいと言ったことがあるんだが、複製が面倒だからと断られた」
カスペルは肩を竦める。
「なのに、君が王都に来たら、割とすぐに合鍵を渡していたから、少し妬いてしまったよ」
弟のようなものだと分かっていても、婚約者目線だとかなり酷い話である。
「僕は入り浸ってたからだと思いますけど……」
朝に行って夕方に帰ってくるという規則的なエイダールと比べて、ユランの勤務時間は日によってまちまちなので、出掛ける時間も一定しない。いつでも入れるようにという意味の合鍵ではなく、いつでも鍵をかけて出掛けられるようにという意味で渡されたように思う。
「そっか、僕だけなんだ」
必要に駆られてだとは思うが、自分だけが渡されていることが嬉しくて、ユランは小さく呟くと、鍵を握りしめた。
「他のものはどうかな」
「無くなってるものはないと思います」
もともとハンカチと財布、筆記具程度しか入っていないので、確認はすぐ済んだ。
「覚えのないものも入ってないですね」
何かを仕込まれた形跡もない。
「鞄じゃなく、身につけていたものは返してもらえないんでしょうか」
エイダールからもらった青い守護石のことを思い出して尋ねる。
「身につけていた? 服は着たままだったと……ああ、あの守護石か」
カスペルも何のことだか思い当たったらしい。
「申し訳ないが、あれは窃盗の証拠品の扱いで、裁判が終わるまでは返却出来ない。かなり時間が掛かると思う。返せるようになったら還付申請の手続きをしてもらって返却という流れになる。その頃には魔術師団の魔術師たちも気が済んでいるだろう」
「魔術師たちの気が済む?」
窃盗の証拠品調べというのは、気が済むまでなどという感情的な基準でするものなのだろうか。
「素材自体が珍しいのと、付与の詰め込み方が尋常じゃないとかで、魔術師団が持って行ったきり返してくれなくてね。研究材料にされそうになっている」
ユランは知らないが、売ればとんでもない額になる代物である。
「え、先生が作ってくれた、僕のなのに」
今は国が窃盗犯から没収している形なので、正確にはユランのものではない。
「なるべく無事に返却するように通達しておくよ」
防御系の性能が凄すぎるとかで、すでに爆破実験なども行われていることを、カスペルは伏せた。
「うん、聞きたいことはこれで全部聞けたかな、お疲れさま」
事情聴取は小一時間で終わり、書類をぺらぺらと確認して、カスペルはペンを置いた。
「お疲れさまでした」
ユランもほっと肩から力を抜く。難しいことは聞かれなかったが、最初に『正確に』と言われたので緊張した。
「ユランくんからは何か質問あるかな?」
「えっと、結……局どういう事件だったんですか?」
この人が先生と結婚するんだ、という切ない気持ちでカスペルを見ていたユランは、思わず『結婚』と言い掛けたが、途中で飲み込んで言い換える。
「それに関しては緘口令が敷かれていて話せない。魔力欲しさの単純な誘拐事件ではなかったくらいのことしか言えないな。君も口外しないように」
「はい、分かりました」
枢機卿が巻き込まれていたこともだが、実はユランが蹴り倒した魔術師が隣国の手の者で、政治的にも大きい事件になっている。
「まあ、私の仕事はこれで一段落だ。資料を揃えたら、あとは上の判断になるからね。やっと長期の休みが取れるから、結婚の話も進められそうだ」
書類を重ねて綴じると、カスペルは立ち上がる。
「結婚、ですか……」
ユランの声が震える。
「まだ本決まりではないけれど、父の気が変わらないうちに、向こうの御両親に御挨拶と申し入れに行こうと思って」
自分の前で具体的な話をするのはやめてほしい。
「そうだ、エイダールに伝言を頼めるかな。私が戻ってくるまでに、ある程度の枠組みを決めておいて欲しいと」
結婚式の式次第か何かの話だろうかと、ユランの目が虚ろになった。
「カスペルさん……?」
文官らしき人に案内され、入った部屋にはカスペルがいた。
「宰相府所属のカスペル・サルバトーリです、本日は御足労いただきありがとうございます。先日は巻き込んでしまった上に捜査協力までいただいたこと、お詫びとお礼を申し上げます」
立ち上がったカスペルは流れるように口上を述べ、丁寧に一礼する。
「え、いえ、はい……」
ユランはどう答えていいのか分からないまま頭を下げる。
「……という格式張った挨拶はここまでとして、もう体の方は大丈夫かな? そこにどうぞ」
カスペルはソファを示した。
「はい、大丈夫です」
「先にこれを返しておくよ。特に手を加えられた形跡はなかったとのことだけれど、念の為に、何かなくなっていたり、逆に入れた覚えのないものが入っていないか確認して欲しい」
転移させられた時に持っていた鞄を渡された。
「はい……あ、良かった、あった」
真っ先に確認したのは、エイダールの家の鍵である。
「一番最初に確認するのがそれなのか? それ、エイダールの家の鍵だよな?」
何故か微笑ましいものを見るような顔で尋ねられる。
「はい……どうして先生の家の鍵だって分かるんですか?」
「見たことあるし、ちょっと特殊な形をしてるだろう? 家を買ってすぐに、何かあった時のために、合鍵を作って私に預けてほしいと言ったことがあるんだが、複製が面倒だからと断られた」
カスペルは肩を竦める。
「なのに、君が王都に来たら、割とすぐに合鍵を渡していたから、少し妬いてしまったよ」
弟のようなものだと分かっていても、婚約者目線だとかなり酷い話である。
「僕は入り浸ってたからだと思いますけど……」
朝に行って夕方に帰ってくるという規則的なエイダールと比べて、ユランの勤務時間は日によってまちまちなので、出掛ける時間も一定しない。いつでも入れるようにという意味の合鍵ではなく、いつでも鍵をかけて出掛けられるようにという意味で渡されたように思う。
「そっか、僕だけなんだ」
必要に駆られてだとは思うが、自分だけが渡されていることが嬉しくて、ユランは小さく呟くと、鍵を握りしめた。
「他のものはどうかな」
「無くなってるものはないと思います」
もともとハンカチと財布、筆記具程度しか入っていないので、確認はすぐ済んだ。
「覚えのないものも入ってないですね」
何かを仕込まれた形跡もない。
「鞄じゃなく、身につけていたものは返してもらえないんでしょうか」
エイダールからもらった青い守護石のことを思い出して尋ねる。
「身につけていた? 服は着たままだったと……ああ、あの守護石か」
カスペルも何のことだか思い当たったらしい。
「申し訳ないが、あれは窃盗の証拠品の扱いで、裁判が終わるまでは返却出来ない。かなり時間が掛かると思う。返せるようになったら還付申請の手続きをしてもらって返却という流れになる。その頃には魔術師団の魔術師たちも気が済んでいるだろう」
「魔術師たちの気が済む?」
窃盗の証拠品調べというのは、気が済むまでなどという感情的な基準でするものなのだろうか。
「素材自体が珍しいのと、付与の詰め込み方が尋常じゃないとかで、魔術師団が持って行ったきり返してくれなくてね。研究材料にされそうになっている」
ユランは知らないが、売ればとんでもない額になる代物である。
「え、先生が作ってくれた、僕のなのに」
今は国が窃盗犯から没収している形なので、正確にはユランのものではない。
「なるべく無事に返却するように通達しておくよ」
防御系の性能が凄すぎるとかで、すでに爆破実験なども行われていることを、カスペルは伏せた。
「うん、聞きたいことはこれで全部聞けたかな、お疲れさま」
事情聴取は小一時間で終わり、書類をぺらぺらと確認して、カスペルはペンを置いた。
「お疲れさまでした」
ユランもほっと肩から力を抜く。難しいことは聞かれなかったが、最初に『正確に』と言われたので緊張した。
「ユランくんからは何か質問あるかな?」
「えっと、結……局どういう事件だったんですか?」
この人が先生と結婚するんだ、という切ない気持ちでカスペルを見ていたユランは、思わず『結婚』と言い掛けたが、途中で飲み込んで言い換える。
「それに関しては緘口令が敷かれていて話せない。魔力欲しさの単純な誘拐事件ではなかったくらいのことしか言えないな。君も口外しないように」
「はい、分かりました」
枢機卿が巻き込まれていたこともだが、実はユランが蹴り倒した魔術師が隣国の手の者で、政治的にも大きい事件になっている。
「まあ、私の仕事はこれで一段落だ。資料を揃えたら、あとは上の判断になるからね。やっと長期の休みが取れるから、結婚の話も進められそうだ」
書類を重ねて綴じると、カスペルは立ち上がる。
「結婚、ですか……」
ユランの声が震える。
「まだ本決まりではないけれど、父の気が変わらないうちに、向こうの御両親に御挨拶と申し入れに行こうと思って」
自分の前で具体的な話をするのはやめてほしい。
「そうだ、エイダールに伝言を頼めるかな。私が戻ってくるまでに、ある程度の枠組みを決めておいて欲しいと」
結婚式の式次第か何かの話だろうかと、ユランの目が虚ろになった。
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