弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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5「魔力を分けていただきたい」

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「僕たち、今日は一日詰所待機ですね」
 朝の申し送りを終え、勤務予定表を見ながらユランがヴェイセルに確認する。
「午前が門番、午後は鍛錬と書類仕事だな。カイは今日も再提出コースかな」
 カイは、書式や内容には間違いがないのに、字の汚さで毎回のように提出書類を突き返されて泣きがちである。
「予言するのやめてくださいよ先輩。くそう、澄ました顔で『あなたの字は芸術的すぎて』とか言いやがるあの事務官、どっかに異動になればいいのにっ」
 ぐるるるるるる、と唸るカイ。
「カイの字は、下手を通り越して象形文字か抽象画かってレベルだから仕方ないだろ、芸術的なんて言い方にはむしろ愛を感じるぞ……何だあの馬」
 ヴェイセルが警戒の色を見せるとほぼ同時に、ローブを着た男を乗せて通りをかなりの勢いで駆けてきた馬が、門の前で嘶いて脚を止めた。
「馬上から失礼する。急ぎ警備隊隊長殿にお目に掛かりたい、取り次いでいただけるだろうか」
 ローブの男は、馬から降りると、懐から取り出した認識票を提示した。
「私は第一騎士団所属の魔術師、イーレン・ストレイムスという」


「第一騎士団の魔術師殿、ですね……カイ、隊長に」
「はい!」
 ヴェイセルに目配せされたカイが、伝令にすっ飛んでいく。
 王都を護るという職務は似ているが、騎士団と警備隊では身分も権力も違う。余程の無茶を要求されない限りは迅速に従い、ケチをつけさせないという対応が原則だ。




「お待たせした。西区警備隊隊長の、オロフス・アルムグレーンだ」
「第一騎士団のイーレン・ストレイムスです。先触れも出さず訪れたことをお詫びします、アルムグレーン殿」
 応接室に現れたアルムグレーンに、気忙しげな様子で立ったまま待っていたイーレンは頭を下げた。


「それで、騎士団の方が何用だろうか」
「こちらに所属する魔術師の方に、魔力を分けていただきたいのです」
「魔力提供しろということか? うちは騎士団と違って魔術師の人数も少ないし、そう高い能力持ちがいる訳でもないのに?」
 殆どが平民の警備隊に高魔力持ちは少なく、そんなところから搾り取っても大した量にはならない。質、量ともに豊富な人材を誇る騎士団からの依頼としては筋が通らない。
 魔力提供は魔術師にとっては身を削る行為に等しく、それでも無理をさせなければならない状況もあることはあるが、相応の理由がない場合は許可出来ない。上司は部下を守らねばならない。
「いえ、紋様符に試料として少量を採取させていただきたいのです」
「紋様符? 試料?」
 アルムグレーンは、ますます訳が分からなくなった。
 紋様符は魔法を封じ込めた小さな紙だ。大きく分けて、破り捨てることによって発動するものと、魔力を込めることで発動するものがある。魔力が必要というのならば後者なのだろう。だが、そもそも騎士団所属の魔術師ならば、紋様符を使わずとも魔法を発動できる筈である。それなのに他の魔術師の魔力を得ようとするのはどういうことなのか。


「何かの偽装に俺の部下を使うのか?」
「違います、妙な使い方はしません。今は詳しく説明する時間がありませんが、お願いしますアルムグレーン殿、早くしないと痕跡が消えてしまう。詳細は後程きっちり文書で提出することをお約束します。昨日、中央区の捜索に当たった魔術師の方だけで構いません、どうかすぐに試料採取の許可を」
 イーレンは、再度深く頭を下げた。
「昨日の捜索ってことは例の誘拐事件絡みか」
 アルムグレーンは、魔法には詳しくないが、魔法痕跡が時間が経てば経つほど薄くなるのは知っている。この様子であれば、本当に急ぐのだろう。
「分かった、今回に限り特別に許可する」


「ありがとうございます、御協力に感謝します!」
 ぱっと表情の明るくなったイーレンに、アルムグレーンは一言釘を刺しておく。
「万一、納得のいかない説明が届いた場合は正式に抗議させてもらうけどな」
「……そのようなことがないよう、最善を尽くします」
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