6 / 178
6「うちに泊まることは許さん」
しおりを挟む
「ん、警備隊に騎士団の魔術師が来た?」
予想通り書類が再提出になって残業が決定したカイを見ない振りで、ユランはその日の夜もエイダールの家に帰宅した。子供のように今日あった出来事を話す。
「はい、慌ただしく来て慌ただしく帰って行きました。騎士団の人って何かというと難癖付けて来る印象だったので緊張しましたけど、大丈夫でした」
貴族らしい物言いだったが、見下しているという感じはなく、礼儀は正しかった。
「今の騎士団長になってからは、身分を笠に着てってのは改善されて来てるんだよ。前は警備隊の指揮系統にまで口を出すような連中が大勢いたからな。それで? その魔術師は何をしに来てたんだ」
「何の用だったのかは僕らには知らされなかったんですけど、例の事件で進展があったっぽいって隊長が言ってました」
仮に詳しい説明があっても、守秘義務もあるのだが。
「その件なら、一つ前の事件の被害者の意識が戻ったそうだ、ほら、唯一未遂で済んだやつ」
先日の回復術師の行方不明事件の前に、誘拐されかかったが未遂で済んだ事件があった。未遂と言っても誘拐されなかっただけで、被害者は頭を何かで殴られて意識不明だったのが、昨日、目を覚ましたらしい。
「良かったですね。じゃあその人から何か重要な手掛かりが得られたのかな」
「まあそういうことだな……その件で応援を頼まれた。明日から数日、騎士団へ出向する。泊まり込みになるから暫くここには戻らん」
さらっと留守を告げられて、ユランはしょんぼりとした。
「先生、何日も居ないんですか? そんなの困る」
顔を見たり話したりたまに触れたりして、エイダール成分を補給しないと心の栄養が足りなくなってしまう。
「別に俺がいなくてもこの家使っていいぞ? 合鍵だって渡してあるだろ」
出入り自由で、あるものは何でも使っていいという甘やかしっぷりなのに、何が困るのか、理解できないエイダール。
「そういう問題じゃありません……あ、でも先生がいないってことは、先生のベッドに潜り込んでもいいってことですよね」
「は?」
ユランには部屋もベッドも与えてあるのに、その行動の意味が分からない。
「自分のベッドで寝ろよ、お前の体格に合わせてでかいの入れてやったんだから」
「僕、先生の首筋に顔を埋めて匂い嗅ぎながら一緒に寝るの好きだったのに」
「……………………」
思わず無言になり、匂い嗅ぎながらとかお前は犬か! と心の中で叫ぶエイダールを置き去りに、ユランの語りは続く。
「合鍵貰った時は嬉しいばっかりだったけど、ベッドを入れて貰った時はちょっと残念でした」
入り浸りすぎて失敗したと思った瞬間だ。程々にしておけば、多少不自由しようとも、ユラン専用のベッドを入れられたりしなかっただろうに。
「いやいや、お前だって俺と一緒じゃ狭かったろ? 今は広々眠れていいだろ?」
かなりの頻度で転がり込んできて、一つしかないベッドで無理矢理一緒に寝ようとするので、体を使う仕事なのに疲れが取れないだろうと、空き部屋を整理してベッドを入れたエイダールの気遣いは余計なお世話だったのだろうか。
「先生の匂いがする方がいいです、先生がいなくても、例えば夜勤明けに先生のベッドに潜り込むと先生の匂いが残ってて、先生に包まれてるみたいで幸せだったのに」
うっかり妄想が捗って、エイダールのベッドで自家発電してしまったこともあるが、絶対怒られるので、そこは伏せておく。あの時は証拠隠滅が大変だった。
「という訳で、先生のいない間は先生のベッドに癒されることにしますね!」
「いやお前、明日から暫く自分で借りてる部屋に戻れ、うちに泊まることは許さん」
変態を留守宅に放置などできない。
「えええええっ、何で!? 何がいけなかったんですか」
「自分の胸に手を当ててよく考えろおおおお」
どう考えてもユランが悪かった。
予想通り書類が再提出になって残業が決定したカイを見ない振りで、ユランはその日の夜もエイダールの家に帰宅した。子供のように今日あった出来事を話す。
「はい、慌ただしく来て慌ただしく帰って行きました。騎士団の人って何かというと難癖付けて来る印象だったので緊張しましたけど、大丈夫でした」
貴族らしい物言いだったが、見下しているという感じはなく、礼儀は正しかった。
「今の騎士団長になってからは、身分を笠に着てってのは改善されて来てるんだよ。前は警備隊の指揮系統にまで口を出すような連中が大勢いたからな。それで? その魔術師は何をしに来てたんだ」
「何の用だったのかは僕らには知らされなかったんですけど、例の事件で進展があったっぽいって隊長が言ってました」
仮に詳しい説明があっても、守秘義務もあるのだが。
「その件なら、一つ前の事件の被害者の意識が戻ったそうだ、ほら、唯一未遂で済んだやつ」
先日の回復術師の行方不明事件の前に、誘拐されかかったが未遂で済んだ事件があった。未遂と言っても誘拐されなかっただけで、被害者は頭を何かで殴られて意識不明だったのが、昨日、目を覚ましたらしい。
「良かったですね。じゃあその人から何か重要な手掛かりが得られたのかな」
「まあそういうことだな……その件で応援を頼まれた。明日から数日、騎士団へ出向する。泊まり込みになるから暫くここには戻らん」
さらっと留守を告げられて、ユランはしょんぼりとした。
「先生、何日も居ないんですか? そんなの困る」
顔を見たり話したりたまに触れたりして、エイダール成分を補給しないと心の栄養が足りなくなってしまう。
「別に俺がいなくてもこの家使っていいぞ? 合鍵だって渡してあるだろ」
出入り自由で、あるものは何でも使っていいという甘やかしっぷりなのに、何が困るのか、理解できないエイダール。
「そういう問題じゃありません……あ、でも先生がいないってことは、先生のベッドに潜り込んでもいいってことですよね」
「は?」
ユランには部屋もベッドも与えてあるのに、その行動の意味が分からない。
「自分のベッドで寝ろよ、お前の体格に合わせてでかいの入れてやったんだから」
「僕、先生の首筋に顔を埋めて匂い嗅ぎながら一緒に寝るの好きだったのに」
「……………………」
思わず無言になり、匂い嗅ぎながらとかお前は犬か! と心の中で叫ぶエイダールを置き去りに、ユランの語りは続く。
「合鍵貰った時は嬉しいばっかりだったけど、ベッドを入れて貰った時はちょっと残念でした」
入り浸りすぎて失敗したと思った瞬間だ。程々にしておけば、多少不自由しようとも、ユラン専用のベッドを入れられたりしなかっただろうに。
「いやいや、お前だって俺と一緒じゃ狭かったろ? 今は広々眠れていいだろ?」
かなりの頻度で転がり込んできて、一つしかないベッドで無理矢理一緒に寝ようとするので、体を使う仕事なのに疲れが取れないだろうと、空き部屋を整理してベッドを入れたエイダールの気遣いは余計なお世話だったのだろうか。
「先生の匂いがする方がいいです、先生がいなくても、例えば夜勤明けに先生のベッドに潜り込むと先生の匂いが残ってて、先生に包まれてるみたいで幸せだったのに」
うっかり妄想が捗って、エイダールのベッドで自家発電してしまったこともあるが、絶対怒られるので、そこは伏せておく。あの時は証拠隠滅が大変だった。
「という訳で、先生のいない間は先生のベッドに癒されることにしますね!」
「いやお前、明日から暫く自分で借りてる部屋に戻れ、うちに泊まることは許さん」
変態を留守宅に放置などできない。
「えええええっ、何で!? 何がいけなかったんですか」
「自分の胸に手を当ててよく考えろおおおお」
どう考えてもユランが悪かった。
2
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!
晴森 詩悠
BL
ハヴィことハヴィエスは若くして第二騎士団の副団長をしていた。
今日はこの国王太子と幼馴染である親友の婚約式。
従兄弟のオルトと共に警備をしていたが、どうやら婚約式での会場の様子がおかしい。
不穏な空気を感じつつ会場に入ると、そこにはアンセルが無理やり床に押し付けられていたーー。
物語は完結済みで、毎日10時更新で最後まで読めます。(全29話+閉話)
(1話が大体3000字↑あります。なるべく2000文字で抑えたい所ではありますが、あんこたっぷりのあんぱんみたいな感じなので、短い章が好きな人には先に謝っておきます、ゴメンネ。)
ここでは初投稿になりますので、気になったり苦手な部分がありましたら速やかにソッ閉じの方向で!(土下座
性的描写はありませんが、嗜好描写があります。その時は▷がついてそうな感じです。
好き勝手描きたいので、作品の内容の苦情や批判は受け付けておりませんので、ご了承下されば幸いです。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
悪役王子の幼少期が天使なのですが
しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる