風に凪ぐ花

みん

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過去との邂逅

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「歪みの討伐自体は大したことなかったから、前衛と後衛の二人に任せて、サポートに回ってたんだー」

 ライルは風花の全てを知っているわけではない。
 風花はライルに何も語ってはいない。
 魔力行使の素養が感じられないことから、魔術は得意ではないと思っているかもしれなかった。
 精霊に好かれていることは理解しているだろう。

 風花とライルの過ごして来た時間の中には、二人の個人的なことは一切含まれていなかった。
 二人で穏やかな一時が刻めれば、それで良かったのだ。
 風花はライルの素性を知らないし、知ろうとも思わない。ライルも同じだった。
 二人が惹かれ合うことは、必然だったのかもしれない。そうでないかもしれない。
 けれど、二人の間にそんな思惑は不要だった。

「魔騎士になりたいんだったら、隊長の命令に従って、今から経験を積んだ方がいいのかもしれないけど……俺は、そうじゃないから」
「そうか……」

 風花はどこか遠くを見つめながら囁くように言葉を紡いだ。
 その視線の意味を知ってか知らずか、ライルはそっと風花の頭を撫でた。

「俺も魔騎士になりたいわけではない」
「そうなの?」

 風花は少し驚いてライルを振り返った。
 ライルの優しい目が正面から風花と重なる。

「俺は、俺の守りたいものを守れるなら、それでいい」
「守りたい、もの……」

 風花は自分の守りたいものを考えた。
 国? 国王?
 護国魔騎士団で任務をこなしていた時にでさえ、そんなことは思わなかった。
 救い出してくれた姉だけは、裏切れないとは思ったが、守りたい、と心から願ったことは今まで一度もない。

 風花はゆっくりと目を伏せて、自分の大切なものを心に描いた。
 姉、精霊たち、はじめて出来たの友人たち。
 自分の中の答えがそれでないことを、風花は理解していた。
 だとすれば、それは……。

 風花はライルをしっかりと見つめ返した。
 ライルは何も言わずに、風花を穏やかに見つめている。
 そして、ライルはゆっくりと口を開いた。

「ふぅは俺が守るよ」

 風花は、その言葉を全身に浸透させて、そして、花が綻ぶように笑った。
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