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過去との邂逅
(幕間)生徒代表運営官補佐の誤算1
しおりを挟む「まったく、あの人はどこに行ったんでしょうかねえ……?」
鬱蒼と続く森への道へ足を踏み入れながら、若草色の髪をなびかせた青年は誰に物言うでもなく呟きを落とした。
青年も昨日の夜、実習から寮へ帰宅したばかりである。
疲労の残る顔を困ったように歪めた青年は、探し人を求めて昼時で人気のない寮の敷地を歩いていた。
青年……ノアハは、学園の生徒代表補佐である。
学年は二学年。
ノアハの探し人は、当の生徒代表運営官であった。
ノアハは何としてでも運営官を探し出さなければならない理由があった。
学園では、毎年成績を加味して生徒代表が二名選ばれる。
その主な仕事は、学園の統率であった。
二名のうち一名は規律を重んじた統制を、もう一名は春学期から冬学期まで生徒が過ごしやすいような運営を任されている。
それぞれ統率官、運営官と呼ばれる学園の生徒代表は、教師によって初学年の終わりに選出され、一名ずつ補佐がサポートに付いている。
ノアハはその運営官の補佐であった。
学業の妨げにならぬよう、運営官の仕事量は多くはないが、地道に処理をしないと後々大変になるような事務作業が多数存在する。
この時期一番多いのは、学園をより良いものへと改善するために、生徒からの要望に一つ一つ目を通すことである。
春学期や冬学期であれば、毎日の授業後に粛々と捌いて行けば良いものであるが、夏学期だけはそうもいかない。
週のほとんどが学外での実習である夏学期は、寮へ戻ってきている二日間で仕事を終えなければならないのだ。
そんな時に運営官の不在。
書類を捌くだけであればノアハだけでも可能であるが、書類には代表印が必須であった。
ノアハは幼なじみでもある運営官の、ライルの行きそうな場所を頭に思い描いた。
「件の精霊さんのところですかねぇ……」
ノアハはいつだったかライルが漏らした妖精について思い出した。
春学期の頭だったか、ライルはノアハと二人きりの執務室で拾ったという妖精の話をした。
妖精といってもそれは比喩だ。
そのくらいのことはノアハでも理解できる。
おそらく彼が妖精だと例えた人物にも心当たりがあった。
初学年に入ったばかりの風花という少年だろう。
風花の異質ぶりは運営官補佐であるノアハの耳にも届いていた。
魔力行使の素養は低いが、精霊に好かれた、器用な闘い方をする生徒であると。
ノアハとライルの付き合いは長い。
貴族の第四子として生まれたライルの乳母は、ノアハの母であった。
ノアハの母はライルの生家の使用人で、父は当主の第一秘書だ。
ライルを産むことと引き換えに他界した夫人の代わりに、ノアハの年子の妹を産んだばかりの母がライルの乳母を務めたのだった。
それ以来、ライルはノアハのそばに常にあったし、ノアハも跡取りではないライルに将来仕えるように常に寄り添ってきた。
ライルが一年飛び級で学園に入学した際ももちろん付いてきたし、なによりもライルのそばにいることをノアハ自身が選んだ。
生徒代表の候補にライルが擁立された時は、自分以外に補佐はさせまいとノアハは努力を惜しまなかった。
生徒代表運営官になったライルは、仕事もまじめにこなしたし、ノアハもそのサポートをできる限りしてきた。
だからこそ。
「面白くありませんねぇ」
だからこそ、ライルが風花のところに通い詰めていることが、許せなかった。
ライルは風花について多くは語らない。
まるで二人だけの秘密とでも思っているようだ。
ライルの隣は常に自分であったのに、今のライルは自分よりも風花を優先している。
今日もライルは風花のところだろう。
であるならば、ノアハのすることは一つだけだった。
「件の精霊に、挨拶しなければいけませんね」
ノアハは残る可能性にかけて、寮の森へと足を運んだ。
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