幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第51話 常歩の帰路(アシュレイ視点)

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王の宮殿を出るとき、ノアとルイスをどうしたものかと考えあぐねた。だがこんな事態だ。一般人を駐屯地に入れても問題あるまいと判断して、全員で向かった。

駐屯地に着くと、あんなどさくさでよく思いついたものだと感心する方法で兵が戻ってきていた。兵卒が前を行っていた旅団長にことの顛末を伝えて、先頭がすでに門を潜っていたのだ。

兵卒は今日の野営地に行くわけでもなく、これを前を走る兵に伝えたら王都に戻れ、と伝言をして、前の旅団長に伝わる前に先頭を王都に戻した。

「なかなか良い策だったな。おかげで日がな一日ここで待っていなくても済みそうだ」

王都が消灯した時に慌てふためいていた兵卒は、目を輝かせて嬉しそうに笑った。

「バーンスタイン卿、先ほどお伝えいただいた内容、書面にして託していただけないでしょうか?」

嬉しいのはわかるが、そんな書面をなぜ必要とするのかわからなかった。

「なぜだ?」

「先ほどのお話では謀反人との死闘でお疲れかと存じます。兵の王都配備は書面があれば、バーンスタイン卿が立っている必要もございません。今日はブラウアー卿と共に家でゆっくりお休みください」

兵卒の思いもよらなかった気遣いに驚き、そして恐縮した。

「しかし……」

「僕は……王都の灯が消えた時、真っ暗闇でもバーンスタイン卿の意思だけは、はっきり見えました。王と、そして僕たちの後悔をもお救いいただき感謝に絶えません。奇跡の器の手腕を目の当たりにしたのです。僕にできることくらいさせてください……」

最後の方は消え入りそうな声で、モゴモゴと兵卒は呟いた。ソバカスが愛らしい白い肌を赤く染める様を見ていたら、きっとこの兵が伝言の手法を思いついたのだろうと感じた。

駐屯地についた時、既に門を潜ったものを集め、今日の顛末を端的に説明した。謀反があり、現在駐屯地に傭兵と貴族を1人捕獲していること。その者らにより塔の一部を破壊されたため王都の混乱を鎮めるため、本件に伝令及び警護に当たるよう伝えて、先に入った兵が駐屯地への誘導を行うことを指示したのだ。

「名をなんという」

「あ、え、て、テオ=フューラーと、申します」

「伝言の手法で王都への帰還を早めたのも、テオ、お前の判断だな?」

「は、はい、はい、出過ぎたことをいたしました」

「なにを言っている、感謝しているのだ。今から書面を書いてテオに託そう。テオのアイデアでいち早く兵が帰宅できる方法を考えてくれ。それを一任すると書面にも書こう」

「そ、そ、そんな!」

「大丈夫だ。度胸も時には必要だぞ?」

「あ、はい! 恐れ入ります!」

俺は近場の机で書面を作成し、テオにこれを一任した。そしてブラウアー兄弟を呼び、共に馬で帰路につく。さっきから俺から少し距離をあけていたノアは、馬に乗ると船を漕ぎ始めた。

「疲れてしまったようだな」

俺の馬に合わせ常歩でついてきていたブラウアー兄弟に振り返る。

「こっちもそうだ。起こさないようにゆっくり帰ろう」

ジルが眉を下げ、可愛くて仕方がないといった目でルイスを見る。

「ルーク、体は大丈夫か?」

ジルの更に後ろを走っていたルークに話しかける。本当は、ジルとレオとのやり取りの中で、ルークのことを心配していたが、ジルもいる手前、体のこと以外尋ねられなかった。

「ああ、大丈夫だ。今日、帰ったら……ジルともゆっくり話すさ。でも、ルイスが優先だ。怖かっただろうに、1番頑張ったからな……」

「そうだな。後日改めてルイスにお礼を言わせてくれ。ノアもスコーンがどうのとか言っていたから、2人でブラウアー家に訪問させてもらうぞ」

「ああ、大歓迎だ」

ジルは短く言って、そして何かを言いかけた。そのジルらしくない態度に不信感を抱く。

「なんだ?」

「いや、知らない間に大人になるものなのだな、と思って……」

ルイスを愛おしそうに見ながら、ジルは呟いた。それはまさに俺も抱いていた感慨だった。

ルイスが7賢者になると決意をした時の言葉に、驚かされた。そして、さっきの兵卒にも同じように思った。

「寂しいか?」

ジルの表情を見て、素直に出た言葉だった。しかし、ジルは首を横に振り、ルイスの頭を労うように撫でた。

「嬉しいのだ」

それきり、ブラウアー兄弟とは会話が途切れた。疲れもあった。しかしそれ以上に、立ち入れない兄弟の雰囲気があったのだ。
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