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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第50話 それぞれの決意
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「残るはノアだが、王には任期があってな。最低10年、任意で20年まで。長い務めになるから、今日明日で決めなくてもいいが……。塔も破壊され、魔力も底を尽きたままだからな。しばらくは王都も混乱するだろうし、一旦はバーンスタイン家に身を寄せろ」
僕はルイスと同じように今日この日に決断をしなければならないと思っていたから、少し拍子抜けする。
「は、はい」
「お前はまだ若いからな。生贄として責務を果たしながら、時々ここに来て勉学に励むといい」
「塔を出ても大丈夫なんですか? それにもう僕はあの魔法を使ってしまったし、生贄には向かないのではないでしょうか?」
「お前のやったことは命の営みではなく、命の改竄だ。それで適格者ではなくなるのであれば、私の腕を治癒した時に不適格になっているだろうに」
僕は悪魔に教えてもらったときのことを思い出し、そうかと思う。人の命の改竄で子を為せなくなるが、それはつまり命の営みに関係がなくなるので、いつまでも塔にいることはできるのだ。
僕が納得している間にアシュレイが質問をした。
「王の腕を治療したのか?」
アシュレイにどう言おうか悩んでいる間に、悪魔が代わりに答えてくれた。
「練習用にちょっとした傷を治療させたんだ。こんな程度だったら子種に関係せんしな」
悪魔が珍しく話を逸らしてくれた時、アシュレイが呵責で苛むことをわかってくれているのだと不思議な感動があった。
「塔を出るなといったしきたりは、今日ノアがやったようなことをさせないためだ。あれは元来浮く能力ではなく、魔力を操作できる能力だからな。責務によってしか魔力は生成できないが、同時に強大な魔力を手にすることができてしまう」
悪魔は僕の目をじっと見つめたが、僕はそれになんの意味があるかわからなかった。
「お前のように食い物の話ばかりする奴には、関係のない話か。そういえばルイス。たまにはパン以外のものをよこせ。ノアがまるで宝物のように渡すから食っていたが、献上するならもう少しマシなものにしろ。小鳥じゃないんだぞ!」
悪魔は僕のパンに不満を言い、ルイスとアシュレイがなぜか笑い出した。少し悲しかったがさっき塔に出た時に、悪魔はパンをもらいにきてたわけではないと気がついたから、やり過ごすことができた。
「国王陛下、恐れながらひとつ質問があります」
その時笑っていたルイスが声をあげた。
「なんだ、庸人の星」
「ノアが国王になったら、会うことは難しくなるのでしょうか?」
悪魔は笑って、俯いた。
「いいや、そうならないようにノア自身が手配をすれば良い。私がこの宮殿に1人なのは……俺がそう望んだからだ」
アシュレイが僕の手を握る手に力を入れた。そして僕も手に力が入った。
アシュレイの父上が亡くなった日のことを思い出したからだ。あの日、1人で泣いていた日。あの日のことを思い出せば、1人を望んでいたなんて嘘だってわかった。
「これからは僕が会いに来ます」
僕は悪魔に言う。そしてずっと教えてもらえなかったことを聞いてみた。
「悪魔さん、そろそろお名前を教えてくれませんか」
「忘れたと言っただろうが」
即答されて、僕は出過ぎた質問だったと反省し俯いた。そうしたら上から声がした。
「ギード。父もオットーもそう呼んでいた。ノアはそう呼んであげたらいい」
「アシュレイよ、随分と余裕があるのだな。触ったのはノアの乳だけではないぞ」
次の瞬間、ルークとジルが立ち上がった。でもそのまま2人とアシュレイの間に沈黙が流れた。
「父は貴方の中に居る。貴方も、俺の幸福を願ってくれているはずだ」
アシュレイの言葉に悪魔はついと顔を背けた。そして忙しなく立ち上がる。
「王都は今頃混乱しているだろう。軍を駐屯地側から戻し、そのまま王都に配備しろ。全指揮をアシュレイ、お前が担い、ブラウアー兄弟はこれを補佐せよ。情報の公開範囲には留意しろ」
「御意」
アシュレイは僕を抱えたまま立ち上がった。
「ルイス=ブラウアー。7賢者の件については追って機会を設ける。しかし今は塔の復旧が第一優先だ。明日より塔の復旧の全指揮権をお前に与える。お前は宮殿で人気があるようだな。持ち前のツテで1日もはやく塔を復旧するのだ」
「はぃ……あ、御意!」
「ヤギ、お前は一旦、アシュレイの屋敷でしばらく過ごしてろ。あんまり目立つことをするな。道端の草も食べるなよ」
「は、はい。最近はもう……」
「あまり王都を歩いたことがないのだろう。社会勉強だと思って……楽しんでこい。街には美味しいものがいっぱいあるぞ」
その言葉に胸がときめく。
「ル、ルイスの家にも行ってもいいですか!?」
「ああ。パン以外の美味しいものをいっぱい食べてこい」
振り返って、アシュレイを見上げる。僕と目が合うと、なぜかアシュレイは吹き出して顔を背けた。
「ああ、ああ。嬉しい。王都をこんなにはやく歩ける日が来るなんて……ありがとうございます。悪魔さん」
僕は駆け寄り、悪魔にしがみつく。大きな手が僕の頭を包んだら、僕は悪魔の名を思い出したから急いで言い直した。
「ありがとう、ギード」
彼はなんだか悲しそうに笑って、悪魔のままでいい、と小さく言った。
僕はルイスと同じように今日この日に決断をしなければならないと思っていたから、少し拍子抜けする。
「は、はい」
「お前はまだ若いからな。生贄として責務を果たしながら、時々ここに来て勉学に励むといい」
「塔を出ても大丈夫なんですか? それにもう僕はあの魔法を使ってしまったし、生贄には向かないのではないでしょうか?」
「お前のやったことは命の営みではなく、命の改竄だ。それで適格者ではなくなるのであれば、私の腕を治癒した時に不適格になっているだろうに」
僕は悪魔に教えてもらったときのことを思い出し、そうかと思う。人の命の改竄で子を為せなくなるが、それはつまり命の営みに関係がなくなるので、いつまでも塔にいることはできるのだ。
僕が納得している間にアシュレイが質問をした。
「王の腕を治療したのか?」
アシュレイにどう言おうか悩んでいる間に、悪魔が代わりに答えてくれた。
「練習用にちょっとした傷を治療させたんだ。こんな程度だったら子種に関係せんしな」
悪魔が珍しく話を逸らしてくれた時、アシュレイが呵責で苛むことをわかってくれているのだと不思議な感動があった。
「塔を出るなといったしきたりは、今日ノアがやったようなことをさせないためだ。あれは元来浮く能力ではなく、魔力を操作できる能力だからな。責務によってしか魔力は生成できないが、同時に強大な魔力を手にすることができてしまう」
悪魔は僕の目をじっと見つめたが、僕はそれになんの意味があるかわからなかった。
「お前のように食い物の話ばかりする奴には、関係のない話か。そういえばルイス。たまにはパン以外のものをよこせ。ノアがまるで宝物のように渡すから食っていたが、献上するならもう少しマシなものにしろ。小鳥じゃないんだぞ!」
悪魔は僕のパンに不満を言い、ルイスとアシュレイがなぜか笑い出した。少し悲しかったがさっき塔に出た時に、悪魔はパンをもらいにきてたわけではないと気がついたから、やり過ごすことができた。
「国王陛下、恐れながらひとつ質問があります」
その時笑っていたルイスが声をあげた。
「なんだ、庸人の星」
「ノアが国王になったら、会うことは難しくなるのでしょうか?」
悪魔は笑って、俯いた。
「いいや、そうならないようにノア自身が手配をすれば良い。私がこの宮殿に1人なのは……俺がそう望んだからだ」
アシュレイが僕の手を握る手に力を入れた。そして僕も手に力が入った。
アシュレイの父上が亡くなった日のことを思い出したからだ。あの日、1人で泣いていた日。あの日のことを思い出せば、1人を望んでいたなんて嘘だってわかった。
「これからは僕が会いに来ます」
僕は悪魔に言う。そしてずっと教えてもらえなかったことを聞いてみた。
「悪魔さん、そろそろお名前を教えてくれませんか」
「忘れたと言っただろうが」
即答されて、僕は出過ぎた質問だったと反省し俯いた。そうしたら上から声がした。
「ギード。父もオットーもそう呼んでいた。ノアはそう呼んであげたらいい」
「アシュレイよ、随分と余裕があるのだな。触ったのはノアの乳だけではないぞ」
次の瞬間、ルークとジルが立ち上がった。でもそのまま2人とアシュレイの間に沈黙が流れた。
「父は貴方の中に居る。貴方も、俺の幸福を願ってくれているはずだ」
アシュレイの言葉に悪魔はついと顔を背けた。そして忙しなく立ち上がる。
「王都は今頃混乱しているだろう。軍を駐屯地側から戻し、そのまま王都に配備しろ。全指揮をアシュレイ、お前が担い、ブラウアー兄弟はこれを補佐せよ。情報の公開範囲には留意しろ」
「御意」
アシュレイは僕を抱えたまま立ち上がった。
「ルイス=ブラウアー。7賢者の件については追って機会を設ける。しかし今は塔の復旧が第一優先だ。明日より塔の復旧の全指揮権をお前に与える。お前は宮殿で人気があるようだな。持ち前のツテで1日もはやく塔を復旧するのだ」
「はぃ……あ、御意!」
「ヤギ、お前は一旦、アシュレイの屋敷でしばらく過ごしてろ。あんまり目立つことをするな。道端の草も食べるなよ」
「は、はい。最近はもう……」
「あまり王都を歩いたことがないのだろう。社会勉強だと思って……楽しんでこい。街には美味しいものがいっぱいあるぞ」
その言葉に胸がときめく。
「ル、ルイスの家にも行ってもいいですか!?」
「ああ。パン以外の美味しいものをいっぱい食べてこい」
振り返って、アシュレイを見上げる。僕と目が合うと、なぜかアシュレイは吹き出して顔を背けた。
「ああ、ああ。嬉しい。王都をこんなにはやく歩ける日が来るなんて……ありがとうございます。悪魔さん」
僕は駆け寄り、悪魔にしがみつく。大きな手が僕の頭を包んだら、僕は悪魔の名を思い出したから急いで言い直した。
「ありがとう、ギード」
彼はなんだか悲しそうに笑って、悪魔のままでいい、と小さく言った。
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