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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第52話 明日への期待(アシュレイ視点)
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王都が真っ暗だったということもあるが、眠るノアを起こさないように長い時間かけて帰ってきた。しかしその甲斐虚しく、馬から下ろす段でノアを起こしてしまった。
「は、わ、え? ここがアシュレイの家ですか!?」
ここからノアの興奮は限界を振り切ってしまう。家に帰るなり全ての使用人に挨拶をし、疲れているだろうに、使用人の勧めらるがまま風呂に入りたいと言い出した。使用人もこんな時くらい大人しく寝てればいいのに、庸人の機転を効かせましたとばかりに、風呂は薪で沸かし、部屋は非常用ランタンでそこかしこを明るくしていたのだ。
こんな状態の中、1人で風呂に入らせるのも心配だったので一緒に入ると言えば、ノアは顔を真っ赤にして喜び飛び跳ねる。浴室に入れば入ったで風呂がでかいだ綺麗だとはしゃぎ回り、のぼせ上がらないように見張るのがやっと。タオルの柔らかさにまで顔を真っ赤にしてはしゃいで、このまま熱でも出して倒れてしまうのではないかと心配したほどだった。
見るもの全てにはしゃいで、どうにもならなかったので、半ば強引に寝室に担ぎ入れた。部屋に入ってもなお、窓が大きいだなんだと静かに、しかし顔を真っ赤にしてはしゃいでいたので、俺はノアをベッドに沈める。
「ノア。明日の朝、俺は一度駐屯地に行くがすぐに帰ってくる。今日はゆっくり寝て、一緒に王都に出かけよう。寝坊したら置いていってしまうぞ?」
ノアはその脅しよりも、王都という単語で完全に舞い上がり、両手を口に当てて歓喜していた。まったくの計算外だ。
「ああ、ああ、この屋敷もまだ見てみたいところはいっぱいあるのです。で、でも。そうですか。王都ですか。明日に王都に連れていってくれるのですか。そうですか」
「ノア。今日はいろいろあって疲れただろう。だから……」
言いながら大きなあくびをしてしまう。ノアに言い聞かせながら、その実疲れているのは俺だった。王が俺の魔力で好き勝手したせいで、自分でも驚くほどに疲弊していた。
ノアが静かになった。俺の疲弊を勘付かせてしまっただろうか、と心配になりノアの顔を覗いた。しかしそんな心配をよそに、ノアは布団の端を掴んで目を爛々と輝かせている。その表情を見た途端、予想外に笑ってしまい、しばらく動けなくなってしまった。
「あ、あ、アシュレイ、このベッドはとても柔らかいです」
なにに気を遣ったのかまったくわからない迷言で、ノアは俺に追い討ちをかけてくる。腹が痛いし疲れたしで、俺は面倒になってノアの唇を奪った。唇を離すと笑い出してしまいそうだったので、そのままノアの横に寝転び、抱き竦める。
「ああ、ノアはかわいいなぁ」
「は、あ、アシュレイ、今日。死んじゃうかと思ったけど、こうやって、こうやってされたら、生きててよかったって、愛しています」
もうめちゃくちゃだった。多分ノアも限界なのだろう。
「今日大人しく眠ったら、明日この柔らかいベッドで、ノアの悦ぶ場所を何度も可愛がってやる。日付が変わっても、朝が来ても、ベッドがびしょ濡れになっても、やめない」
「ま……またそんな声を……」
「愛してるんだ。無事に俺のもとに帰ってきてくれて……嬉しかった。俺がどんなに嬉しいかノアにはわかるまい」
「僕も、僕も」
「もう、こんな思いをしたくない。ノア、いつだって無事でいてほしいのだ。いつでも俺のもとに帰ってくると約束してくれ」
ノアは少し黙った。寝たのかとも思ったが、モゾモゾと動いていたから、そのまま強く抱いた。あまり、弱音を吐いている時の顔を見られたくなかった。
「約束します。ルイスとも友達の約束をしました。アシュレイとは……」
「恋人の約束だな」
「はい! アシュレイは恋人だから。約束します」
ノアはヒシっと抱きついたら、急に柔らかくなる。腕の力を抜いて顔を見たら、行儀良く綺麗な顔で寝ていた。まだ幼さの残る額の産毛にキスを落とす。そうして俺もベッドに潜り、眠りに落ちた。
「は、わ、え? ここがアシュレイの家ですか!?」
ここからノアの興奮は限界を振り切ってしまう。家に帰るなり全ての使用人に挨拶をし、疲れているだろうに、使用人の勧めらるがまま風呂に入りたいと言い出した。使用人もこんな時くらい大人しく寝てればいいのに、庸人の機転を効かせましたとばかりに、風呂は薪で沸かし、部屋は非常用ランタンでそこかしこを明るくしていたのだ。
こんな状態の中、1人で風呂に入らせるのも心配だったので一緒に入ると言えば、ノアは顔を真っ赤にして喜び飛び跳ねる。浴室に入れば入ったで風呂がでかいだ綺麗だとはしゃぎ回り、のぼせ上がらないように見張るのがやっと。タオルの柔らかさにまで顔を真っ赤にしてはしゃいで、このまま熱でも出して倒れてしまうのではないかと心配したほどだった。
見るもの全てにはしゃいで、どうにもならなかったので、半ば強引に寝室に担ぎ入れた。部屋に入ってもなお、窓が大きいだなんだと静かに、しかし顔を真っ赤にしてはしゃいでいたので、俺はノアをベッドに沈める。
「ノア。明日の朝、俺は一度駐屯地に行くがすぐに帰ってくる。今日はゆっくり寝て、一緒に王都に出かけよう。寝坊したら置いていってしまうぞ?」
ノアはその脅しよりも、王都という単語で完全に舞い上がり、両手を口に当てて歓喜していた。まったくの計算外だ。
「ああ、ああ、この屋敷もまだ見てみたいところはいっぱいあるのです。で、でも。そうですか。王都ですか。明日に王都に連れていってくれるのですか。そうですか」
「ノア。今日はいろいろあって疲れただろう。だから……」
言いながら大きなあくびをしてしまう。ノアに言い聞かせながら、その実疲れているのは俺だった。王が俺の魔力で好き勝手したせいで、自分でも驚くほどに疲弊していた。
ノアが静かになった。俺の疲弊を勘付かせてしまっただろうか、と心配になりノアの顔を覗いた。しかしそんな心配をよそに、ノアは布団の端を掴んで目を爛々と輝かせている。その表情を見た途端、予想外に笑ってしまい、しばらく動けなくなってしまった。
「あ、あ、アシュレイ、このベッドはとても柔らかいです」
なにに気を遣ったのかまったくわからない迷言で、ノアは俺に追い討ちをかけてくる。腹が痛いし疲れたしで、俺は面倒になってノアの唇を奪った。唇を離すと笑い出してしまいそうだったので、そのままノアの横に寝転び、抱き竦める。
「ああ、ノアはかわいいなぁ」
「は、あ、アシュレイ、今日。死んじゃうかと思ったけど、こうやって、こうやってされたら、生きててよかったって、愛しています」
もうめちゃくちゃだった。多分ノアも限界なのだろう。
「今日大人しく眠ったら、明日この柔らかいベッドで、ノアの悦ぶ場所を何度も可愛がってやる。日付が変わっても、朝が来ても、ベッドがびしょ濡れになっても、やめない」
「ま……またそんな声を……」
「愛してるんだ。無事に俺のもとに帰ってきてくれて……嬉しかった。俺がどんなに嬉しいかノアにはわかるまい」
「僕も、僕も」
「もう、こんな思いをしたくない。ノア、いつだって無事でいてほしいのだ。いつでも俺のもとに帰ってくると約束してくれ」
ノアは少し黙った。寝たのかとも思ったが、モゾモゾと動いていたから、そのまま強く抱いた。あまり、弱音を吐いている時の顔を見られたくなかった。
「約束します。ルイスとも友達の約束をしました。アシュレイとは……」
「恋人の約束だな」
「はい! アシュレイは恋人だから。約束します」
ノアはヒシっと抱きついたら、急に柔らかくなる。腕の力を抜いて顔を見たら、行儀良く綺麗な顔で寝ていた。まだ幼さの残る額の産毛にキスを落とす。そうして俺もベッドに潜り、眠りに落ちた。
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