幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第21話 僕たち

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少し寒いので紅茶でも入れます、とケトルを火にかけた。孤児院出身の庸人でも、火を簡単に扱うことができる。夜も蝋燭に火を灯し回らずともつまみひとつで昼と同じ活動ができる。この国は魔法科学のおかげで人々の労働時間を減らしたのだ。

「ルイスはちゃんと兄様たちに甘えられるでしょうか」

僕のくだらない推測で、兄様たちは別れの時間を調査に費やしていた。自分はといえば、こうやって温まるために湯を火にかけることだけ。あまつさえアシュレイに甘え、この時間が永遠に続けばいいと思っている。

「ノアは俺に話したことを後悔しているか?」

書類を拾い集めていたアシュレイが僕を見ずに質問した。僕は困って答えられなかった。アシュレイの誘惑を責めているわけではないと、言葉にするのが難しかった。ただこうなってしまった顛末に運がなかっただけなのに。

「魔人はその昔、魔法科学をあまり必要としていなかった。なぜだかわかるか?」

唐突な質問に僕は考えをまとめることができなかった。手を空中で彷徨わせ考えあぐねている僕を見て、アシュレイは笑って両手を広げた。僕は走ってその胸に飛び込む。

「そんなことをしなくても自分たちでできたからだ」

アシュレイが僕を抱きかかえて椅子に座った。確かにアシュレイも魔法で湯を沸かしていた。魔法科学を必要としているのはどちらかといえば庸人だ。

「でも、ある時からなくてはならないものに変化した。屋敷を丸ごと燃やすことはできても、灯をつけるなど、魔法ではできないからな。装置に魔力を送ることはできても、装置自体を作ることはできない」

アシュレイは今なぜこんな話をしているのかわからなかった。魔法科学の恩恵は遍く知れ渡っている。

「俺も昔不思議に思ったことがあったんだ。なぜ7賢者はこの塔の仕組みを秘匿するのか。そしてなぜこの国に王が必要なのか」

アシュレイは僕の頭を撫でて少し笑った。

「最近王に謁見する機会が多くてな。その人柄に触れてなんとなくわかったのだ。魔法科学を操る倫理というのは分立しなければ、きっと国は欲望に転げ落ちるのだろうと。以前、ノアもこの国の顛末について2つの可能性をあげていたな」

随分前の話だったけど、初めてアシュレイが興味を持ってくれた話だったからよく覚えていた。福祉が膨れ上がり国民の怠惰で自滅をするか、庸人が外部と結託し謀反を起こすか。これも史実上の他国の顛末であり、僕はそれを防ぐ方法まではわからなかった。

「科学だけでは欲望に堕ち、王の倫理だけでは謀反の火種が絶えない。ノアの仮説がなければ思いもしなかったことだ。この国は魔法科学だけではなく、国の持続可能な装置も作り上げていたのだ」

他の国から魔人が排斥され集落を作ってから200年。他国の侵攻を許さず、内需だけで国民が幸福に暮らせるのは凄いことだった。

「俺は、審判を受けて良かったと思っている。あの時肌で感じたのだ。この国は少し傾き始めている。それは生まれた時から魔法科学の恩恵を受けている魔人の怠惰が始まっていると感じたのだ。ジルも、そしてルークもあの場にいて感じたはずだ。だから……」

アシュレイが手を取り、僕の瞳を覗き込んだ。

「漠然とした不安を言葉にできなかっただけで、ずっと疑問に思っていたのだ。ノアの推察には感謝をしている。だが、俺たちは自分の意思で調査をしている。そこにノアは責任を感じないでほしい」

ケトルからシュンシュンと音が鳴る。お湯が沸いたようだけど、僕はアシュレイの言葉に心を打たれ、動けずにいた。僕は抱えられたまま台所に連れて行かれ、アシュレイが火を止めた。

「ノア、一緒に風呂に入ろう。色気のない誘い文句ですまないが」

「はい……はい……」

アシュレイにしがみついて、震えが止まるように力を入れる。アシュレイは僕の背中を優しく撫でながら、風呂へと向かった。

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