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1部 ヤギと奇跡の器
第59話 困った息子(アシュレイ視点)
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王はなにかをしているのか? そう思った矢先にそんなことも頭から吹き飛ぶようなことが起こった。父の呻き声が聴こえたのだ。
「ディディ……」
「お前は相変わらずクラウディアのことばかりだな」
「ギード……お前また……いい加減ディディのもとへ行かせてくれ……」
母の名を呼ぶ、父の声に俺はベッドに走り出していた。
「父さん!」
国王を押しのけて父の顔を覗き込む。父の目が開いている。
「アシュレイ……」
そして俺の名を呼んでいる。俺は堪らず父の顔を手で包み、何度も父に呼びかけた。
「息子はまだお前を必要としている。この前など査問で泣いていたぞ」
「泣いてなど……!」
頭上から降る揶揄に、我を忘れて反論してしまう。
「いいや、泣いていた」
こどもじみた国王など相手にしていられない、と我に返る。父の頬を撫で、俺はもし父が目覚めたら言うと決めていたことを一気に捲し立てた。
「心に決めた人は俺を迎えに来てくれました。でも塔の生贄なので2年は出せません。父さん、父さんに紹介したい。死ぬことなんていつでもできる。母さんのところに行くのはあと2年我慢してください!」
「2年……」
「俺のわがままです! 困ったでしょう!?」
父は息を吸ったかと思ったら咳き込み、そのまま笑って呼吸困難のようになってしまった。国王もその様子を見て大笑いし、俺だけが2人の間で取り残された。父が息も絶え絶えに言う。
「ああ、ああ……困った……。生贄ということは男性だね……」
「そんな細かいことはどうでもいいのです。小さすぎるのが玉に瑕ですが、聡明で優しく美しい。だけどバーンスタインの家名も捨てません。父さんと母さんの愛を残したい。適当に養子でももらいます。困ったでしょう?」
「はは、ははは、大胆になったなぁ」
「そうだな。アシュレイは処罰に条件をつけるほど強かに育ったぞ」
「処罰……?」
父の顔が曇った。だから俺はもっと困らせようと喚き散らす。
「もう家名のためになんて名誉を求めない! 父さんのためではなく自分のしたいようにする! 塔にも通ってノアを大事にするし、友と夜営でまた馬鹿騒ぎをしたい! 友の出征を見送るなんて御免だ! 父さん! 困ったでしょう!?」
クククと父は変な音を喉から鳴らす。喜んでもらえただろうか? 俺のわがままに困惑してくれただろうか。俺は不安と焦燥で変な汗をかく。
「困った……母さんにもっと……お土産を持って行きたい……2年は自信がないが……もっと困らせてくれ……ふふふ……」
頬にあてていた俺の手を、父がそっと撫でた。昨日からは考えられない手の温もりに、涙腺が緩み、涙が一粒溢れてしまう。
「ほら、な? 泣いているではないか」
「うるさい!」
野次に耐えられず国王にとんでもない暴言を吐いてしまう。
「アシュレイの言う通りだ。もう2度とギードを私に近づけないでくれ。ろくなことにならん」
「ひどい言われようだな」
「ギード、まさかあの境を超えて私を目覚めさせたのではあるまいな?」
父は唐突に意味不明なことを言い出した。
「お前の息子が生贄にちょっかい出すから、塔の魔力量がとんでもないことになっているんだ。そこから拝借したから心配するな。息子に感謝するのだな」
「アシュレイ……お前は……本当に困ったやつだな……」
よくわからない会話の合間にとんでもない暴露が含まれ、望んでいない父の困惑にカッと顔が熱くなる。
「責務を果たしているだけで……」
交わってはいないとも言えずに、途中で黙ってしまった。
「いい伴侶を得たのだな……大切にしなさい……それより……喉が渇いたし……腹も減った……ギードは、もういいだろう。さっさと帰れ」
「へいへい、アシュレイ、オットーがうるさいから外まで見送ってくれ。まったくこの屋敷の人間は……」
王に催促され俺は立ち上がる。先に歩き出した王の背を追いかけた時に、後ろからかすかに父の声がした。
「ありがとう、ギード」
王は多分聞こえていた。しかしそれが旧友の礼儀なのか、照れくさいのかわからないが、父の言葉を無視して歩き出した。
「ディディ……」
「お前は相変わらずクラウディアのことばかりだな」
「ギード……お前また……いい加減ディディのもとへ行かせてくれ……」
母の名を呼ぶ、父の声に俺はベッドに走り出していた。
「父さん!」
国王を押しのけて父の顔を覗き込む。父の目が開いている。
「アシュレイ……」
そして俺の名を呼んでいる。俺は堪らず父の顔を手で包み、何度も父に呼びかけた。
「息子はまだお前を必要としている。この前など査問で泣いていたぞ」
「泣いてなど……!」
頭上から降る揶揄に、我を忘れて反論してしまう。
「いいや、泣いていた」
こどもじみた国王など相手にしていられない、と我に返る。父の頬を撫で、俺はもし父が目覚めたら言うと決めていたことを一気に捲し立てた。
「心に決めた人は俺を迎えに来てくれました。でも塔の生贄なので2年は出せません。父さん、父さんに紹介したい。死ぬことなんていつでもできる。母さんのところに行くのはあと2年我慢してください!」
「2年……」
「俺のわがままです! 困ったでしょう!?」
父は息を吸ったかと思ったら咳き込み、そのまま笑って呼吸困難のようになってしまった。国王もその様子を見て大笑いし、俺だけが2人の間で取り残された。父が息も絶え絶えに言う。
「ああ、ああ……困った……。生贄ということは男性だね……」
「そんな細かいことはどうでもいいのです。小さすぎるのが玉に瑕ですが、聡明で優しく美しい。だけどバーンスタインの家名も捨てません。父さんと母さんの愛を残したい。適当に養子でももらいます。困ったでしょう?」
「はは、ははは、大胆になったなぁ」
「そうだな。アシュレイは処罰に条件をつけるほど強かに育ったぞ」
「処罰……?」
父の顔が曇った。だから俺はもっと困らせようと喚き散らす。
「もう家名のためになんて名誉を求めない! 父さんのためではなく自分のしたいようにする! 塔にも通ってノアを大事にするし、友と夜営でまた馬鹿騒ぎをしたい! 友の出征を見送るなんて御免だ! 父さん! 困ったでしょう!?」
クククと父は変な音を喉から鳴らす。喜んでもらえただろうか? 俺のわがままに困惑してくれただろうか。俺は不安と焦燥で変な汗をかく。
「困った……母さんにもっと……お土産を持って行きたい……2年は自信がないが……もっと困らせてくれ……ふふふ……」
頬にあてていた俺の手を、父がそっと撫でた。昨日からは考えられない手の温もりに、涙腺が緩み、涙が一粒溢れてしまう。
「ほら、な? 泣いているではないか」
「うるさい!」
野次に耐えられず国王にとんでもない暴言を吐いてしまう。
「アシュレイの言う通りだ。もう2度とギードを私に近づけないでくれ。ろくなことにならん」
「ひどい言われようだな」
「ギード、まさかあの境を超えて私を目覚めさせたのではあるまいな?」
父は唐突に意味不明なことを言い出した。
「お前の息子が生贄にちょっかい出すから、塔の魔力量がとんでもないことになっているんだ。そこから拝借したから心配するな。息子に感謝するのだな」
「アシュレイ……お前は……本当に困ったやつだな……」
よくわからない会話の合間にとんでもない暴露が含まれ、望んでいない父の困惑にカッと顔が熱くなる。
「責務を果たしているだけで……」
交わってはいないとも言えずに、途中で黙ってしまった。
「いい伴侶を得たのだな……大切にしなさい……それより……喉が渇いたし……腹も減った……ギードは、もういいだろう。さっさと帰れ」
「へいへい、アシュレイ、オットーがうるさいから外まで見送ってくれ。まったくこの屋敷の人間は……」
王に催促され俺は立ち上がる。先に歩き出した王の背を追いかけた時に、後ろからかすかに父の声がした。
「ありがとう、ギード」
王は多分聞こえていた。しかしそれが旧友の礼儀なのか、照れくさいのかわからないが、父の言葉を無視して歩き出した。
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