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1部 ヤギと奇跡の器
第58話 ベルクマイヤ国王(アシュレイ視点)
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家に帰ると、使用人たちはソワソワしていた。
「アシュレイ様、もうお時間になりますがまだ……」
「オットー、お前はここで最年長であろう。父と国王が旧友であることを知っていたのではないか?」
慌てふためく老紳士の使用人オットーは、おそらく以前、父に頼まれ俺の職を問い合わせた張本人だ。俺を欺くためか、まるで国王と初めて会うような狼狽した演技が癪に触る。
「なぜそれを……」
今度は違った意味で狼狽し始めたオットーが両手を上げてまごまごしたところで、玄関の扉が開け放たれた。
少ない使用人が玄関扉の両側に整列し、一斉に膝を折る。俺も最敬礼で王を出迎える。
「おいおい、やめろ! アシュレイ、今日は旧友として見舞うと言ってあっただろうに」
国王の声が屋敷のエントランスに響き渡る。そしてツカツカとこちらに向かって足音が響いた。
「オットー! ずいぶん歳をとったな! まだお迎えは来ないのか?」
「バーンスタイン卿がこんな時になんて不謹慎なことを言うんです! アシュレイ様はギード様より何倍も繊細なのですよ!」
俺の頭上で砕けた会話が繰り広げられている。少し間が空いたが、2人の表情を見れず歯痒さを感じた。
「その名を久しぶりに呼ばれたよ。本当に……月日が経つのは早いものだな。アシュレイ、いつまでそうしているつもりだ」
王の言葉に俺はすぐさま立ち上がり、目の前の巨体に瞳を奪われる。長く垂らした銀髪から覗く赤眼に、俺は萎縮して体を硬らせた。オットーはそんな俺をよそになおも続ける。
「アシュレイ様は父上の看病でろくに寝ていないのですよ! まったくこんな時にのこのことやってくるなんて」
「ああ、すまんすまん。アシュレイ、ヴェルナーの部屋に案内してくれ。このままだとオットーの小言が止まらん」
父の名を発する国王に俺はなんともいえない感慨を抱き、俯く。
「小言!? なんてことを言うんですか! アシュレイ様が……」
「わかった、わかった。たまらんな。アシュレイはよくこんな中でまっすぐ育ったな」
火に油を注ぐ国王の言葉にオットーの小言が爆発しそうだったので、俺は陛下を父の寝室に案内した。
父の寝室に陛下を通し、そして俺は使用人に外に出るよう合図した。使用人2人が退室し、最後に扉を閉めて出て行こうとした時に呼び止められる。
「アシュレイ、どこへいく気だ。オットーが怒鳴り込んでくるからお前はここにいろ」
「はい……陛下……」
確かに俺を追い出したら、息子を退室させるなど! とオットーが怒鳴り込みかねないと思った。国王はこの家の古い人間をよくわかっている。だから俺のこともよくわかっていたのだろうと査問の問答を思い返していた。
国王陛下は、父のベッドのすぐ横に膝をつき、父の体をくまなく触る。不思議な見舞いだったが、旧友の間でなされることなのかと気にも留めていなかった。風もないのに国王の長い髪がふわりと持ち上がったような気がした。だから窓がしまっていることを確認たのだが、視線を戻したら国王の髪の毛が元の場所へ戻っていた。
「アシュレイ様、もうお時間になりますがまだ……」
「オットー、お前はここで最年長であろう。父と国王が旧友であることを知っていたのではないか?」
慌てふためく老紳士の使用人オットーは、おそらく以前、父に頼まれ俺の職を問い合わせた張本人だ。俺を欺くためか、まるで国王と初めて会うような狼狽した演技が癪に触る。
「なぜそれを……」
今度は違った意味で狼狽し始めたオットーが両手を上げてまごまごしたところで、玄関の扉が開け放たれた。
少ない使用人が玄関扉の両側に整列し、一斉に膝を折る。俺も最敬礼で王を出迎える。
「おいおい、やめろ! アシュレイ、今日は旧友として見舞うと言ってあっただろうに」
国王の声が屋敷のエントランスに響き渡る。そしてツカツカとこちらに向かって足音が響いた。
「オットー! ずいぶん歳をとったな! まだお迎えは来ないのか?」
「バーンスタイン卿がこんな時になんて不謹慎なことを言うんです! アシュレイ様はギード様より何倍も繊細なのですよ!」
俺の頭上で砕けた会話が繰り広げられている。少し間が空いたが、2人の表情を見れず歯痒さを感じた。
「その名を久しぶりに呼ばれたよ。本当に……月日が経つのは早いものだな。アシュレイ、いつまでそうしているつもりだ」
王の言葉に俺はすぐさま立ち上がり、目の前の巨体に瞳を奪われる。長く垂らした銀髪から覗く赤眼に、俺は萎縮して体を硬らせた。オットーはそんな俺をよそになおも続ける。
「アシュレイ様は父上の看病でろくに寝ていないのですよ! まったくこんな時にのこのことやってくるなんて」
「ああ、すまんすまん。アシュレイ、ヴェルナーの部屋に案内してくれ。このままだとオットーの小言が止まらん」
父の名を発する国王に俺はなんともいえない感慨を抱き、俯く。
「小言!? なんてことを言うんですか! アシュレイ様が……」
「わかった、わかった。たまらんな。アシュレイはよくこんな中でまっすぐ育ったな」
火に油を注ぐ国王の言葉にオットーの小言が爆発しそうだったので、俺は陛下を父の寝室に案内した。
父の寝室に陛下を通し、そして俺は使用人に外に出るよう合図した。使用人2人が退室し、最後に扉を閉めて出て行こうとした時に呼び止められる。
「アシュレイ、どこへいく気だ。オットーが怒鳴り込んでくるからお前はここにいろ」
「はい……陛下……」
確かに俺を追い出したら、息子を退室させるなど! とオットーが怒鳴り込みかねないと思った。国王はこの家の古い人間をよくわかっている。だから俺のこともよくわかっていたのだろうと査問の問答を思い返していた。
国王陛下は、父のベッドのすぐ横に膝をつき、父の体をくまなく触る。不思議な見舞いだったが、旧友の間でなされることなのかと気にも留めていなかった。風もないのに国王の長い髪がふわりと持ち上がったような気がした。だから窓がしまっていることを確認たのだが、視線を戻したら国王の髪の毛が元の場所へ戻っていた。
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