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1部 ヤギと奇跡の器
第60話 枕を持って ※
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夕方、アシュレイは安堵と喜びに満ちた表情で帰ってきた。父上が目を覚ましたと嬉しそうに話すその光景は、僕だけではなくルイスも堪えきれずに、少し泣いた。
国王陛下の訪問により奇跡的に意識を取り戻したそうだ。父上は冬眠前の熊のように飲食をした後、疲れてしまったのか再び寝てしまったという。昨日とは違い寝息を立てていることに安心し、アシュレイはこのことを伝えに塔へ来てくれた。
悪魔のいう通り父上は大丈夫だった。
ルイスが吉報を兄様に伝えてくると塔を飛び出す時、わざとアシュレイの馬を借りていった。アシュレイが歩いて帰るか厩舎まで行って馬を借りるかと思案している時に、僕はルイスに考えてもらった言葉でアシュレイを誘った。
今日、悪魔を見た。恐ろしいから泊まっていってほしい、と。
まさかこんなに早くこれを言う日が訪れるとは思わなかった。アシュレイは申し訳ないと思うほど狼狽えて、宿直室に泊まることを快諾してくれる。
ルイスが推測していた通り、アシュレイは夕食が済むと「なにかあったら声をあげるように」と宿直室に引っ込んでしまう。だから僕はルイスに教えてもらった通りの手順で風呂に入り、準備をした。
そして、枕を抱え、僕は今アシュレイの居る宿直室の前にいる。
「アシュレイ、まだ起きていますか?」
「ノア!? どうした!?」
アシュレイがベッドからドタバタ起き上がる音が扉の外まで響いてくる。
「なんでもないのです。部屋に入っても構いませんか?」
「あ、ああ」
そっと扉を開けると部屋は真っ暗で、アシュレイが急いできたのか、僕のすぐそばでその気配だけを感じる。
「あ、灯を……」
「ノア、灯をつけないでくれ……」
アシュレイと同時に灯のことを言っている間に僕は魔法灯のつまみを回してしまった。
「あ……」
僕の目の前に一糸纏わぬアシュレイの姿が浮かび上がる。その筋骨隆々たる体躯に見惚れて、視線を少し下げる。移動した視線の先の茂みに僕は目を奪われた。髪と同じ漆黒の茂みから、僕のものとは比べ物にならないほどの男性器がのぞいている。僕は黒をこんなに鮮やかだと感じたことはない。
「すまない、こんな格好で。夜着がなくてな……。枕を持って……一緒に眠りたかったのか?」
アシュレイは僕を抱き上げて、魔法灯を消す。アシュレイの素肌はとても熱かった。
「怖かったか? 気が回らなくてすまない」
アシュレイは顔中にキスを落としながら僕をベッドに沈める。そして持ってきた枕を元にあった枕の横に並べて僕をそこに引っ張り上げた。アシュレイは横に転がって抱き寄せる。
トクトクと自分の心音が目の前を通過してるみたいだった。僕の太腿に固く熱いものがあたっている。
「アシュレイ……」
「すまない、気にしないでくれ」
僕はこのところずっと考えていた。薬を塗るという口実で僕の責務を果たす時、アシュレイはどう思っているのだろうか、と。でも今感じる熱でアシュレイはずっと我慢してくれていたんだと、申し訳なさと愛おしさで胸が押し潰された。
悪魔の言うとおり、アシュレイは罪の意識から、決して自ら僕を犯すことはないだろう。だから僕が勇気を出さなければ、アシュレイはその罪の意識から解放されることはないのだ。
僕は隠し持っていたルイスからもらった軟膏の容器を開ける。アシュレイがその音に気づき息を少し吸った。軟膏を手に取り、アシュレイの熱い昂りにそっと手を添えた。
「ノア……?」
「ルイスに聞いて……痛くならない準備をしました……」
アシュレイが体を起こそうとする気配を感じたから急いで言った。
「1人でする準備です。アシュレイ……もう1度……僕を……愛していただけませんか……」
もうこれで拒絶されたら、深追いをしない。そう決めていたから僕は目をギュッと瞑り、アシュレイの答えを待った。
国王陛下の訪問により奇跡的に意識を取り戻したそうだ。父上は冬眠前の熊のように飲食をした後、疲れてしまったのか再び寝てしまったという。昨日とは違い寝息を立てていることに安心し、アシュレイはこのことを伝えに塔へ来てくれた。
悪魔のいう通り父上は大丈夫だった。
ルイスが吉報を兄様に伝えてくると塔を飛び出す時、わざとアシュレイの馬を借りていった。アシュレイが歩いて帰るか厩舎まで行って馬を借りるかと思案している時に、僕はルイスに考えてもらった言葉でアシュレイを誘った。
今日、悪魔を見た。恐ろしいから泊まっていってほしい、と。
まさかこんなに早くこれを言う日が訪れるとは思わなかった。アシュレイは申し訳ないと思うほど狼狽えて、宿直室に泊まることを快諾してくれる。
ルイスが推測していた通り、アシュレイは夕食が済むと「なにかあったら声をあげるように」と宿直室に引っ込んでしまう。だから僕はルイスに教えてもらった通りの手順で風呂に入り、準備をした。
そして、枕を抱え、僕は今アシュレイの居る宿直室の前にいる。
「アシュレイ、まだ起きていますか?」
「ノア!? どうした!?」
アシュレイがベッドからドタバタ起き上がる音が扉の外まで響いてくる。
「なんでもないのです。部屋に入っても構いませんか?」
「あ、ああ」
そっと扉を開けると部屋は真っ暗で、アシュレイが急いできたのか、僕のすぐそばでその気配だけを感じる。
「あ、灯を……」
「ノア、灯をつけないでくれ……」
アシュレイと同時に灯のことを言っている間に僕は魔法灯のつまみを回してしまった。
「あ……」
僕の目の前に一糸纏わぬアシュレイの姿が浮かび上がる。その筋骨隆々たる体躯に見惚れて、視線を少し下げる。移動した視線の先の茂みに僕は目を奪われた。髪と同じ漆黒の茂みから、僕のものとは比べ物にならないほどの男性器がのぞいている。僕は黒をこんなに鮮やかだと感じたことはない。
「すまない、こんな格好で。夜着がなくてな……。枕を持って……一緒に眠りたかったのか?」
アシュレイは僕を抱き上げて、魔法灯を消す。アシュレイの素肌はとても熱かった。
「怖かったか? 気が回らなくてすまない」
アシュレイは顔中にキスを落としながら僕をベッドに沈める。そして持ってきた枕を元にあった枕の横に並べて僕をそこに引っ張り上げた。アシュレイは横に転がって抱き寄せる。
トクトクと自分の心音が目の前を通過してるみたいだった。僕の太腿に固く熱いものがあたっている。
「アシュレイ……」
「すまない、気にしないでくれ」
僕はこのところずっと考えていた。薬を塗るという口実で僕の責務を果たす時、アシュレイはどう思っているのだろうか、と。でも今感じる熱でアシュレイはずっと我慢してくれていたんだと、申し訳なさと愛おしさで胸が押し潰された。
悪魔の言うとおり、アシュレイは罪の意識から、決して自ら僕を犯すことはないだろう。だから僕が勇気を出さなければ、アシュレイはその罪の意識から解放されることはないのだ。
僕は隠し持っていたルイスからもらった軟膏の容器を開ける。アシュレイがその音に気づき息を少し吸った。軟膏を手に取り、アシュレイの熱い昂りにそっと手を添えた。
「ノア……?」
「ルイスに聞いて……痛くならない準備をしました……」
アシュレイが体を起こそうとする気配を感じたから急いで言った。
「1人でする準備です。アシュレイ……もう1度……僕を……愛していただけませんか……」
もうこれで拒絶されたら、深追いをしない。そう決めていたから僕は目をギュッと瞑り、アシュレイの答えを待った。
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