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1部 ヤギと奇跡の器
第55話 料理(ルイス視点)
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今日は昼前、兄様たちも連れ立って塔に来た。一階の台所に持ってきた食材を置こうと扉を開けた時、僕はもちろん、兄様たちも立ち止まり動けなくなった。
「アシュレイ……なにしているの?」
カチカチと変な音が部屋に響く。
アシュレイの膝の上に乗せられたノアが、緊張しているのか突っ込まれたスプーンをカチカチいわせていた。
「食べさせているに決まっているだろうが! こうでもしなければ大きくならないんだ!」
おかしな音量で、しかし真剣なアシュレイの怒鳴り声が響く。
「かわいいのはわかるんだけど、ノアももう大人なんだから。兄様だってしないよそんなこと」
「ノア、嫌なのか?」
スプーンを突っ込まれたまま回答を求められているノアが、視線で僕に助けを求める。僕が人権について言及しようとした時、後ろから兄様たちの笑い声が漏れて、爆笑に変わった。
「ノアが困ってるじゃない」
「そうか……」
急にしょんぼりしたかと思ったら、謝りながらノアの頬に何度もキスをしている。ノアが顔を真っ赤にして俯いてもアシュレイはそれをやめなかった。
兄たちの爆笑の中で、その光景を見ていたら、ハンスの気持ちがよくわかった。魔人はろくでもない。
「すごい量の料理だけど……ノアが作ったの?」
「い、いえ! あ、あ、アシュレイ……が……」
「ちゃんと名を呼べたな、偉いぞ……」
「アシュレイ、ちょっと、一旦キスをやめてもらっていいかな……。でもすごいね。量はともかくすごく美味しそう」
「母仕込みの料理だ。お前らの分も作っておいたんだ」
その言葉に兄様たちがピタッと笑いを止め、無言でダイニングテーブルに向かった。
「ちょうど腹が減ってたんだ、すまないねノア。毎度お邪魔しちゃって」
ルークは心にもない言葉を吐きながらもう食べ始めていた。ジルに至っては無言で既に食べている。
「アシュレイが料理するなんて意外だな……」
いくらノアがかわいいとはいえ、昨日の今日でこんな料理を振る舞うなんて心底ビックリした。
「ノアに食べさせるのが夢だったんだ。父と母と食卓を囲む時、いつもノアンが食べているか心配だった。ノア、美味かったか?」
アシュレイがノアに向ける視線で、僕の胸がチクッと痛む。
「うまいぞ! アシュレイ! うまい!」
感動的な場面をジルが完膚なきまでにぶち壊していく。ハンスのいうろくでもない魔人2人がガチャガチャ料理を腹にかき込む中、アシュレイが恐る恐る僕を見た。
「ルイスも……食べないか?」
僕は手のひらまで走り抜ける胸の痛みを、ギュッと握った。
「言っておくけど、僕は兄様たちより味にはうるさいからね?」
僕が笑ったら、アシュレイも笑った。こみ上げるものがあったから、僕は俯きながら椅子に座って、アシュレイの料理を食べ始めた。アシュレイの料理はすでに冷めていたけど、すごく温かくて美味しかった。
「ノア、もういいのか? そんなんじゃ大きくならないぞ?」
「アシュレイ、ノアが魔人になったら少しは大きくなるよ。そんなに無理に食べさせたらお腹壊しちゃうよ」
「そうか。そういえばここで魔人になった奴は今なにをしているのだ?」
唐突なアシュレイの質問に僕はポンと答えを出せなかった。なぜならば、僕がこの塔で働き始めてから魔人になった生贄はいないからだ。
「生贄の任期は2年で、その後に魔人になるんだけど……僕がいる間は、全員満了まで居なかったから」
「じゃあノアはここで魔人になって大きくならなくてはな」
アシュレイはノアに夢中で気付かないのか、あえて聞かなかったのかはわからない。でも大抵の生贄は、退屈と孤独でここを去るのだ。家の名前もわからないからその後どうなったのかはわからない。ノアはここで魔人になってくれるのだろうか?
僕がそんな心配をしていたら、兄様たちが立ち上がった。
「ノア、少し出てくる。すぐに戻ってくる」
相変わらずノアにキスをしていたアシュレイも立ち上がった。
「皆さんどこに行かれるんですか?」
ノアの言葉にルークがすぐさま答える。
「仕事さ」
その迅速な答えが、ノアに勘付かせてしまったのだ。兄様とアシュレイが扉に向かう中、ノアが立ち上がり、アシュレイを呼び止めた。
「アシュレイ様、武官にお戻りください。父上は大丈夫です」
アシュレイは振り向かなかった。
「アシュレイ!」
もう一度ノアが呼んだら、アシュレイは振り返って柔らかく笑った。
「ちゃんと名を呼べたな。偉いぞ」
アシュレイはノアの言葉には答えず、兄様と3人一本道を歩いていった。僕はその風景を見て、昨日の帰り道をここから見たらこんな風景だったのだろうか、と思った。
「アシュレイ……なにしているの?」
カチカチと変な音が部屋に響く。
アシュレイの膝の上に乗せられたノアが、緊張しているのか突っ込まれたスプーンをカチカチいわせていた。
「食べさせているに決まっているだろうが! こうでもしなければ大きくならないんだ!」
おかしな音量で、しかし真剣なアシュレイの怒鳴り声が響く。
「かわいいのはわかるんだけど、ノアももう大人なんだから。兄様だってしないよそんなこと」
「ノア、嫌なのか?」
スプーンを突っ込まれたまま回答を求められているノアが、視線で僕に助けを求める。僕が人権について言及しようとした時、後ろから兄様たちの笑い声が漏れて、爆笑に変わった。
「ノアが困ってるじゃない」
「そうか……」
急にしょんぼりしたかと思ったら、謝りながらノアの頬に何度もキスをしている。ノアが顔を真っ赤にして俯いてもアシュレイはそれをやめなかった。
兄たちの爆笑の中で、その光景を見ていたら、ハンスの気持ちがよくわかった。魔人はろくでもない。
「すごい量の料理だけど……ノアが作ったの?」
「い、いえ! あ、あ、アシュレイ……が……」
「ちゃんと名を呼べたな、偉いぞ……」
「アシュレイ、ちょっと、一旦キスをやめてもらっていいかな……。でもすごいね。量はともかくすごく美味しそう」
「母仕込みの料理だ。お前らの分も作っておいたんだ」
その言葉に兄様たちがピタッと笑いを止め、無言でダイニングテーブルに向かった。
「ちょうど腹が減ってたんだ、すまないねノア。毎度お邪魔しちゃって」
ルークは心にもない言葉を吐きながらもう食べ始めていた。ジルに至っては無言で既に食べている。
「アシュレイが料理するなんて意外だな……」
いくらノアがかわいいとはいえ、昨日の今日でこんな料理を振る舞うなんて心底ビックリした。
「ノアに食べさせるのが夢だったんだ。父と母と食卓を囲む時、いつもノアンが食べているか心配だった。ノア、美味かったか?」
アシュレイがノアに向ける視線で、僕の胸がチクッと痛む。
「うまいぞ! アシュレイ! うまい!」
感動的な場面をジルが完膚なきまでにぶち壊していく。ハンスのいうろくでもない魔人2人がガチャガチャ料理を腹にかき込む中、アシュレイが恐る恐る僕を見た。
「ルイスも……食べないか?」
僕は手のひらまで走り抜ける胸の痛みを、ギュッと握った。
「言っておくけど、僕は兄様たちより味にはうるさいからね?」
僕が笑ったら、アシュレイも笑った。こみ上げるものがあったから、僕は俯きながら椅子に座って、アシュレイの料理を食べ始めた。アシュレイの料理はすでに冷めていたけど、すごく温かくて美味しかった。
「ノア、もういいのか? そんなんじゃ大きくならないぞ?」
「アシュレイ、ノアが魔人になったら少しは大きくなるよ。そんなに無理に食べさせたらお腹壊しちゃうよ」
「そうか。そういえばここで魔人になった奴は今なにをしているのだ?」
唐突なアシュレイの質問に僕はポンと答えを出せなかった。なぜならば、僕がこの塔で働き始めてから魔人になった生贄はいないからだ。
「生贄の任期は2年で、その後に魔人になるんだけど……僕がいる間は、全員満了まで居なかったから」
「じゃあノアはここで魔人になって大きくならなくてはな」
アシュレイはノアに夢中で気付かないのか、あえて聞かなかったのかはわからない。でも大抵の生贄は、退屈と孤独でここを去るのだ。家の名前もわからないからその後どうなったのかはわからない。ノアはここで魔人になってくれるのだろうか?
僕がそんな心配をしていたら、兄様たちが立ち上がった。
「ノア、少し出てくる。すぐに戻ってくる」
相変わらずノアにキスをしていたアシュレイも立ち上がった。
「皆さんどこに行かれるんですか?」
ノアの言葉にルークがすぐさま答える。
「仕事さ」
その迅速な答えが、ノアに勘付かせてしまったのだ。兄様とアシュレイが扉に向かう中、ノアが立ち上がり、アシュレイを呼び止めた。
「アシュレイ様、武官にお戻りください。父上は大丈夫です」
アシュレイは振り向かなかった。
「アシュレイ!」
もう一度ノアが呼んだら、アシュレイは振り返って柔らかく笑った。
「ちゃんと名を呼べたな。偉いぞ」
アシュレイはノアの言葉には答えず、兄様と3人一本道を歩いていった。僕はその風景を見て、昨日の帰り道をここから見たらこんな風景だったのだろうか、と思った。
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