幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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1部 ヤギと奇跡の器

第54話 温かな指 ※

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アシュレイが唇を離した時、とても苦しそうな顔をしていた。

「アシュリー……」

「すまん……また……」

僕はまた後でしてくれるのかと思った。

「また……してください……」

でもアシュレイは固く目を閉じて顔を背けた。僕はこの時はじめて、アシュレイは自分を責めているのだと気がついた。

「ルイスに……聞いた……俺が孤児院出身かと尋ねられたと。ノアは、この塔に来た時から俺だとわかっていたのか?」

僕は何度も思い出すあの日のことを考えた。

「最初は……そうだといいな……と思ってました……でもやっぱり別人なんだと……」

「こんな形で……再会など……」

アシュレイはあの時、あの冷酷な言葉を悔いているのだろうか。でも僕はどうしても伝えたいことがあって、おずおずと話しはじめた。

「もし、あの時にアシュリーと再会していたらと思うと……アシュレイ様を知らずに僕は……」

アシュレイは僕のブランケットを強く握っていた。もっと上手く伝えなければ、そう思うのになかなか言葉が出てこない。

「アシュレイ様に出会わなければこんな風に……恋しいと思えませんでした……」

草を食んでアシュリーを待つ夕日と、アシュレイに思い焦がれて見た夕日は違った。

アシュレイが顔をあげ、藍と紅の目で見つめるから、僕は一番伝えなければならないことをごまかして俯いてしまう。

「アシュレイ様は、僕がノアンの方がよろしいですか?」

「ノア……」

アシュレイは僕の頬に指を伸ばした。大きくて温かい指が僕の頬に届くのが、嬉しくて仕方がなかった。アシュレイは僕のことをノアと何度も呼び、顔中にキスをしてくれた。

「ノア、これから俺と共に生きてくれるか?」

「アシュレイ様……」

「アシュレイと」

「あ、あ、アシュレイ」

「もう一度」

「アシュレイ」

「ああ……許してくれ、ノアン……ノアを愛している」

その言葉に僕は胸を焼かれて顔に熱が立ち込めた。でもその熱をアシュレイが唇から奪って、何度も優しく長いキスをしてくれる。

僕はこのまま死んでしまうのではないかと思えるほど幸せで、これがずっと続くのだと思ったら、急にアシュレイが唇を離した。

「薬を塗ろう。ルイスに殺される」

突然のルイスに驚いている間に、アシュレイはよくわからない容器を2つ開けてそれらを練り合わせはじめた。

「アシュレイさ……あ、あ、アシュレイ……」

アシュレイは僕がちゃんと呼ばないからか、僕に一瞥もくれず薬を練り続けている。

「アシュレイ、僕はもう大丈夫です……」

アシュレイが僕を見るなりブランケットを剥ぎ取った。悪魔に治療してもらったとも言えずに苦しい言い訳をする。

「アシュレイ様! あの! 僕は小さいですが、体は頑丈なのです!」

「俺では嫌か……?」

言っている間に僕の足を持ち上げアシュレイがベッドに上がる。

「は……恥ずかしいので……」

僕の言葉でアシュレイは腰を折り、僕の目の前まで顔を寄せた。

「これで恥ずかしくないか? 痛みを感じたらすぐに言うんだ」

「んっ……」

アシュレイの指が僕の窄まりに添えられた。さっきまで僕の頬を撫でてくれていた温かい指が。そう思うと別の不安が浮かび上がってきた。

「痛くないか? ゆっくり入れるぞ」

「は……ぁ………あっ……」

僕を思いやり優しく差し入れられるアシュレイの指にさっき感じた不安が的中する。僕の下半身が熱くなって、ムズムズとした感覚が迫り上がってくる。気づかれないよう願うしかないと思うや否や、アシュレイが指を折り曲げあの場所を押した。

「ぃ……あっ……!」

「痛いか?」

急にアシュレイが体を起こし、指を引き抜こうとした時、僕の憂いが全て露呈した。僕は慌てて両足の中心に両手をあてるが、時はすでに遅かった。アシュレイの言葉を思い出さないわけがなかった。お前は男に発情するのか? そう問われた時の恐怖が全身を支配した。

「これは……ちが……ぅ……ごめんなさい……」

僕は卑しい人間です、そう告白した時の胸の痛みが全身を駆け巡る。

「本当に痛くないんだな?」

アシュレイはもう片方の手を太腿に這わせた。その大きな手の熱に、僕の中心が反応していうことを聞かない。やめてほしいと思っているのに、触ってもらいたい場所にアシュレイの手が近づくほど、僕の体は震え、息が浅くなる。

アシュレイは何も言わずに服の下から僕の手をどかして、僕の中心を優しく包んだ。

「ふっ……あ……アシュレイ様……!」

「アシュレイと」

僕に呼び方を正す最中もアシュレイは手を止めなかった。僕の中心を優しく握って、僕がそうするように撫ではじめる。そしてあの場所を柔らかく押すのだ。

「あっ、あ、アシュレイ様!」

アシュレイは僕が何度そう呼んでも、もう呼び方を正さなかった。僕がそうしてほしいと望んでいた快楽は、自分の想像を遥かに超えていた。アシュレイの熱い手に翻弄され、自分でも驚くほどはやく、今日の責務を果たした。
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