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【アフターストーリー】スキル安産 おかわり!
おまけ10 幸運の女神に愛を囁く(ガロン)
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――ぼくね、ガロンおじちゃんのおよめさんになる!
親友ユーリスの3人目の息子にそんな告白を受けたのがあの子が4歳の時。町に出て迷子になり、不埒な男があの子に手をかけたのを助けた時だった。
自分の息子よりも幼い子のキラキラとした瞳がそんな事を言うのを、当時はこそばゆく感じて笑っていた。幼い子が怖い思いをして、それを助けた人に憧れを抱く。そんな拙く淡い思いなのだろうと思った。
「そうした事は、大きくなって大事な人に言うものだよ、エッツェル」
幼い子の頭を撫でながら、私はいつしか忘れるだろう思いだと笑っていた。
◆◇◆
時がたって、私は突然の来訪者に驚いた。身一つで尋ねてきたのはユーリスの3番目の息子、エッツェル。年齢は160歳となっていた。
「ガロン小父様、お会いしたかった!」
そう言って首に飛びついてきた子をどのようにあしらえばいいのか、私は分かりかねた。無下に振り払う事も出来ないし、だからと言って抱きしめてやることもできない。結果腕は情けなく空を彷徨い、言葉をかけてやることも出来ない。
「もぉ、小父様ったら相変わらず奥手だな。こういう時は抱きしめて、キスの一つもするものだよ。ほら、こうやって」
そう言うと、エッツェルは私の頬に唇を寄せる。これが余計に困惑させるのだ。
ユーリスの息子エッツェルは今一番人気のある王子だろう。長身で目鼻立ちがはっきりとした美貌を持っている。性格は明るく屈託なく、誰とも距離を置かない。それでいてまっとうに生きているのだ。
最近では竜人族ばかりではなく、魔人族にも求婚されたと噂があった。彼もまた母親であるマコトさんのスキル「安産」を継承している。そういう事情もあるのだろう。
最近では子の数が増えた。かつては絶滅危惧種とまで呼ばれた竜人族は緩やかにその数を増やしている。大人ばかりだった町には子供の声が混じり合う。そういう微笑ましい光景が広がっている。
それでもスキル「安産」は魅力的らしい。安心して子を産んで貰える事は王侯にはやはり輝かしく映るのだろう。
「ガロン小父様、僕の告白覚えてる?」
なおも首に腕を回し、誘惑するように誘いかけるエッツェルは微笑む。少年の色香を最大限にして誘いかけてくる。
「告白、と言われても」
「あっ、その顔は冗談だと思ってるんでしょ。酷いな、僕は4歳の時から小父様に愛を囁いているのに。小父様はいつも困った顔をして」
拗ねた子供と同じく、僅かに愛らしい頬を膨らませたエッツェルは怒っている。その目は一切の遊びを含んではいなかった。
4歳の時分、この少年をたまたま助けた事を切っ掛けにこの子は私に愛を囁くようになった。小さな時には拙い言葉で「しゅき」と言い、少し大きくなると「小父様のお嫁さんにして」と懇願し、最近では「僕が叔父さんの子供、沢山産んであげるよ」と、妙に艶めかしい事を言うようになってきた。
これにはユーリスも困ったようで、膝に乗って体を絡め誘うエッツェルを叱り、下がらせる事も度々あった。そしてその度に「すまない」と私に詫びていた。
私はまだいい。自身の子よりも下の子供を庇護として可愛がる気持ちはあっても、そこに体を交えるような肉欲は到底持てない。だが私の妻は少し違う。彼は何やら私に負い目があるのか、何かを言いたそうな顔をしてもグッと飲み込んでしまう。
私の妻、ハロルドは人族だ。元は末の王子だったが、彼の特殊なスキルが彼をそこから追い落とした。実の兄に命を狙われ、傷を負って国を出ざるをえなくなったのだ。
その原因は私にある。彼と知り合い、話をして、私がつい余計な事を話したが為に彼は私を慰めた。「素敵な奥さんと、子供に恵まれる」そう言って慰めた。それが彼の特殊スキル「幸分け」に引っかかり、彼の幸せは空になるほどに減り、そのぶんだけ大きな不幸が襲うようになってしまった。
傷ついた彼を抱えて国に戻り、私は彼を幸せにしたいと願った。私の為に不幸になる者をどうして放っておける。それに、私は徐々に彼を愛し始めていた。どんな逆境の中でも笑顔を忘れず、前を向ける彼の強さに惹かれていた。
そんな彼との間に子が出来て、一人浮かれた私は後悔した。人族の小さな体で大きな竜人族の子を産む事は大変な難産だ。あまりに嬉しくてそれを失念してしまった。結果、子は無事に産まれたもののハロルドは深く傷ついて出血が多く、瀕死となってしまった。祈るように毎日を過ごし、毎日生きていてくれるかを確かめるようにしていた。
黄金竜は幸福の竜。私の幸せを分けてあげたい。その願いが通じるように、数年してハロルドの幸福は大きく満たされ、その力で目を覚ました。
だから、私に子は一人しかいない。息子シエルベートはスクスクと育ち、美しくたおやかになった。少々気の弱い部分はあるがその分優しい子供だ。そろそろ相手を探し始めてもいいのかもしれない。思って言えば困ったようにはにかんで、「まだ早いです」と笑う。あの顔は誰か思い人がいる。そう思うからこそ、それ以上は言わずに「そうか」と笑っている。
だが結果的に黄金竜の王家は息子シエルベートと私だけ。父はしきりにもう一人くらい欲しい。そう言っているが聞き入れるつもりはない。私は妻を愛しているし、その妻を裏切るような事はしたくない。
それでも押しの強い父が何かしらを言えば、繊細な妻は辛そうにしながらも笑みを浮かべて「まぁ、そうですよね」なんて愛想笑いをするのだ。
「エッツェル、今日はどうした?」
「どうしたんだって……お見合いだよね?」
「え?」
黒い瞳を驚きに丸くしながら、エッツェルは私の顔を覗き込む。私にとっては寝耳に水で、何の聞き間違いかと本気で疑った。
「誰のお見合いだい?」
「誰って、僕と小父様のお見合いだよ」
「そんなの聞いていない! 誰がそんな事を」
「ギーニアス様だけれど」
出てきた父の名前にこれほど怒りを覚えた事はない。私は立ち上がり、城の奥院へと走り出していた。
奥院の更に奥。そこに、引退した父はいる。私はその扉を思い切り開け、今にも食いかかりそうな顔で睨み付けた。
「父上! いったいどういうことです!」
咆吼かと言わんばかりの声に老齢となった父は怯えた顔をする。もうこの人は私を押さえつける力を持たない。王の座も譲ってしまった今、私が優勢だ。
「なんのことだ」
「エッツェルの事です! お見合いだなんて、いい加減にして下さい!」
かつて妻と子を持つ前の事を思い出す。好みでもない相手と無理矢理娶せられ、薬を盛られて興奮させられて交わりを強要されていた日々。妻と子を得てそれは止めさせた。父も息子に跡取りが出来た事で溜飲を下げたはずだった。
父は素知らぬ顔をする。とぼけようとも許す事はできない。妻を侮辱し、まだ少年の域を出ない子供を誑かしたのだ。
一歩前に出ると座っていたソファーから立ち上がり逃げを見せる人を、私は結界の中に閉じ込めた。
「どういうことです」
「わっ、わしは何も」
「嘘を言うな!」
怒りのままに吠えれば父は小さくなる。そして震えながらも相変わらずの強引さで逆ギレを始めた。
「お前とてまだ若いだろ! なのにあの嫁は一人しか子を産まん! ここは若い嫁をもらって更なる子を残す事が王家の為になるではないか!」
「血を繋げる為だけのそうした行いを私が嫌う事を、どうして理解しないのです!」
「良いではないか! ユーリスの子は皆が安産のスキルを持っておる! しかもあの子はお前を好いているではないか! こんな条件を満たす相手などそうはおるまい!」
「私と妻と息子の気持ちを考えているのですか! 侮辱するのも大概にしてください」
「あんな役立たずの嫁など」
言いかけた父の口を、私は強制的に閉じさせた。恐怖に見開くその目を近くに見て、心の奥底が冷え切るのを感じる。その冷気が、父の足元を凍らせた。
「今、なんと?」
「あぁ、いや」
「なんと言いましたか?」
「わしは何も」
視線を逸らし、逃げようとする父を私は解放した。それと同時に、私は人を呼んでいた。
「どういたしました、陛下」
「コイツを端の屋敷に連れて行き、人を付けて見張らせておけ。二度と、私の目の前に立つ事は許さない」
呼びつけられた兵士は困惑したが、長年私の側についてくれていた側近は溜息をついてテキパキと動いてくれる。「とうとうこうなったか」そんな様子だった。
これで邪魔は一つ減った。だが問題はエッツェルの方だ。あれは頑固だし、誘いかけたのが父ならば罪はない。気持ちは真っ直ぐな好意なのだろうから、そこを傷つけたくはない。
思い悩んでいれば、廊下にハロルドがいた。
「どうした、ハロルド」
「あぁ、ガロン。あの、さぁ……」
また何か思っている。なのに言えないままでいる。そんな事を思う表情に、私は歯がゆくてならない。こんなにも愛しているのだからどうか不安な顔をしないでもらいたい。そう願っても、なかなか届いてくれない。
「どうした?」
「……今、謁見に来てるのってエッツェルだろ? その……何の要件だったんだ?」
伺うような視線は、だが完全に疑っている。当然だろう、ハロルドはマコトさんの友人で、よくお茶を飲みにいく。だから産まれた時からエッツェルの事を知っている。何度となく私に囁くあの子の愛の言葉を聞いているのだ。
「少し顔を見せに来ただけだよ」
「そう、だよな!」
多分、納得していない。それでも明るく振る舞って自分を殺そうとする。私は逃げてしまいそうなハロルドの手を取って、胸に抱いた。
「少し話がしたいんだが」
「……ごめん、ちょっと疲れてるんだ。また今度な」
そう言って、するりと私の腕の中から逃げてしまう。ハロルドよりも力が強いはずの私は、いつもこの手を強引に引き寄せられずに離してしまう。抜け出てそのままこぼれ落ちてしまう、そんな不安をどこかで感じていた。
◆◇◆
謁見の間に戻ってくると、エッツェルは所在なげにしていた。頼りなく、心細そうに。だがその黒い瞳が私を捕らえると、途端に安堵の笑みを浮かべるのだ。
「小父様」
「エッツェル、今父に確認を取ってきた。何かの手違いだったようだ。申し訳ないが、今日の所は戻ってもらえないか? 後日ちゃんとお詫びと埋め合わせをするから」
穏やかにそう頼み込んだ。すると幼い顔は悲しみと苦しみに歪み、伸ばしかけた手は胸の前で引っ込んだままになって立ち尽くしてしまった。
「エッツェル?」
「僕じゃ、ダメですか?」
「え?」
途端、ポロポロとこぼれ落ちていく涙が床を塗らす。驚いて駆け寄れば、少年の腕が私を捕らえて強く抱きしめてきた。
「僕、小父様の役に立ってみせます。ハロルド様とも仲良くします。僕、ハロルド様の事も好きだから平気です」
「エッツェル」
「決して、ハロルド様との仲を邪魔しません。一番になろうとしません。子供、沢山産みます。だから」
「エッツェル!」
私は体を離して彼を見た。大きな瞳から沢山の涙をこぼす様は少年のままだ。大人の顔をしていてもその心は幼いままだ。そんな子が、なんてことを言うのだろう。まるで子を産むためだけに嫁ぐ。そんな言い方ではないか。
「好きなんです」
切々と紡がれる言葉が痛い。あまりにそれは切なくて、苦しい声だ。
「幼い子供の言う事だと笑うかもしれないけれど。でも、僕は本気なんです。本気でガロン様の事を好きになって、ずっと追いかけてきたんです」
幼い日の告白を子供の戯言と取った私とは違ったのだろう。彼は真剣だった。そしてその一途な思いは今もまだ、続いているのだ。
「都合のいいものでもいい。必要としてくれるならそれでいいんです。側にいられる為なら、何だってします。だから!」
抱きついて、思いの丈をぶつけるように唇を重ねられる。それを受けながら、私は確信する。この思いを受け取る事はできない。
ガタンッと音がした。慌てて振り向けば青い顔をしたハロルドと目が合った。逃げるように踵を返す彼を、私は慌てて追いかけた。
どれほど逃げようと人族の彼に追いつくのはわけない。私は捕まえて、強引に引き寄せた。
「ハロルド!」
顔色もなく、それでも誤魔化そうと笑う姿に苛立つ。
「あの、俺しばらく国に戻るわ」
言って、逃げようと肩を逸らそうとするが離さない。より強く握る腕が痛むのか、綺麗な瞳が僅かに歪んだ。
「帰る国などないでしょ」
「あ……」
都合が悪い。そんな顔をする。どうして彼は私の愛を疑うんだ。どうして受け取ってくれない。言いたい事があるならはっきりと言ってもらいたい。私たちは夫婦なんだ。
「ハロルド!」
「あの子、良い子じゃん。それにスキル持ちだ。若いし、いいと思う。俺の事は気にしないでさ、貰えよ」
「……本気で言っているのか?」
「……本気だ」
ならばどうして目を見ない。逃げるように俯ける!
強引に奪うようにキスをした。抗議の言葉も飲み込むように舌を差し込み、グチャグチャに絡めていった。逃げる事を許さず、目を逸らすことも許さず、息も出来ぬほどにかき抱いた。
「言いなさい、何を思っている」
「あ……」
「私は貴方だけを欲したんだ。私は貴方を愛している。貴方は、私の事など愛していないのか」
突きつけるように言えば、見る間に涙がたまって落ちていく。強がりな妻の心が決壊した、その証拠だった。
「愛してるよ。それでも、どうにもなんない事ってあるだろ」
「どうにもならない事?」
「俺はヘタレで、お前との子をこれ以上産めない!」
叫ぶような言葉は、いっそ私に深く刺さった。それを、ずっと気にしていたのか。ずっと言わずに、ため込んでいたのか。
ポロポロと落ちていく涙が頬を濡らす。それを煩わしそうに服の裾で拭いながら、ハロルドは私に恨み言を言うように続けた。
「俺はもう産んでやれないんだよ! 体が耐えられないから無理だって言われてるんだ! それでもお前は王族で、お前かシエルしかいなくて、そのシエルに万が一の事があったら跡取りいなくなる。それでも俺はこれ以上は無理なんだ。俺は……それなら耐えるしかないだろ」
私の服を掴んで項垂れ、今にも崩れそうなハロルドの言葉に私はハッとする。この言いようは、彼の言葉じゃない。
「もしかして、ずっと言われていたのか?」
確認すれば、緩く頷かれる。こみ上げる怒りは父に半分、そして守れなかった自分に半分向いた。
「俺は、ダメな嫁だ。周りは何人か子供がいるのに、俺は一人で、もう増やせない。それならいい相手をお前に娶せて、産んでもらうよりほかない。そんな風に言われて、俺が何か言い返せると思うのかよ。事実突きつけられちゃお終いだろ。我慢するしかないだろ」
苦しみに耐えられないように語尾が消えていく。その体を、私はそっと抱いた。金の髪を撫で、包み込むように愛した。
「私は貴方しかいらない。子など、これ以上はいらない」
「だって!」
「いらないんだ! 貴方との子でなければ、愛せないのだから。だからもう、いらないんだ」
腕の中でハロルドはなおも泣いていて、それでも背に腕を回してくる。たったこれだけが愛しいのだ。屈託なく向けられる表情の全てが、愛しいのだ。
「私の側に、いてくれるか?」
「そんな……だって俺、他に行くとこない」
「えぇ」
「ガロンの側にいたい」
小さく陥落したその言葉に、私は目を細めて頷いてそっとキスをする。愛しい気持ちを沢山に詰め込んで、傷つけた心を覆うように願いを込めて。この人に沢山の幸せを分けるように祈って。
「私こそ、側にいたい。ずっと、貴方の側にいさせて下さい」
涙で目を真っ赤にした愛しい人は、ゆるゆると頷いた。
◆◇◆
その後すぐに、凄い剣幕で城に来たマコトさんは何を言うよりも前にエッツェルの頭を拳骨で殴って怒鳴りつけた。
「何考えてんだ、バカ息子!!」
「はっ、母上ぇ」
「大好きだって言うなら、どうしてその人の幸せを壊すような事をするんだ! そんなの愛情じゃない!」
普段花も綻ぶようなたおやかで優しい人が凄い剣幕で怒るというのは、かなりの衝撃映像だ。私もハロルドも驚いて固まっていると、向き直ったマコトさんは地に膝をついて深く頭を下げた。
「ごめんなさい、ガロンさん! ハロルドさん! うちのバカ息子がとんでもないバカな事をして」
「あぁ、いいえ」
「マコト、もういいから」
「本当にごめんなさい!」
マコトさんの方が小さくなって謝り倒すのを隣で見て、エッツェルは酷くションボリと項垂れた。
「別に、二人の仲を切り裂いたり、邪魔したかったわけじゃないもん」
「エッツェル!」
「だって、好きなんだもん! ダメなの? ガロン様とも、ハロルド様とも上手くやるよ! だから!」
「お前はちゃんと分かってない!」
マコトさんの怒声が更にエッツェルを小さくしていく。
「お前にその気がなくたって、誰かが入った事で壊れてしまうものだってあるんだ」
「そんな!」
「じゃあ、もしも俺がいるのにユーリスが新しい若い奥さんを連れてきたら、お前は受け入れられるのか」
言われて、エッツェルはハッとしたようだった。泣きそうに下唇を噛んでふるふると首を横に振っている。
その頭をマコトさんは慰めるように撫でて、「分かれば良い」と言った。
「すまない、ガロン。うちのバカ息子が世話をかけた」
「ユーリス」
事が落ち着いたのを見て入ってきたユーリスが苦笑して私に頭を下げる。それに、私も苦笑した。
「エッツェルは少し国から離す。アレは少し盲目過ぎるしな」
「そんな事は! もとはと言えば父が画策し、彼を誑かしたんだ。国から出すなんて、そこまでの事は」
「それでもホイホイと乗ったのはあいつの軽率さだ。相手の心を察せられず、自分を押しつけるばかりで周囲の忠告も聞かなかったのはあいつの落ち度だ」
そうまで言われてしまうと、おそらくユーリスの中ではもう決まっているのだろう。気の毒な事ではある。だが、手を取れないなら中途半端に情けなどかけるべきではない。それはエッツェルにとっても苦しい事で、ハロルドにとっても裏切りになる。
「丁度来週、黄昏の国から王妃殿下が遊びに来る。彼に任せて、一年ほど留学させてみようと思う」
「黄昏の国?」
この世界の中心にある閉鎖的な国はあまりに未知の領域だ。どうしてそのような国の、しかも王妃と知り合いなのか。疑問に思えばユーリスは簡単にその秘密を明かしてくれた。
「あちらの奥方も、マコトと同じ異世界人なんだ。以前ちょっとした縁で会話する機会があってな、あちらも懐かしいらしく時々マコトを尋ねてくれている」
「すごい縁だな」
なるほど、縁とは妙な所で繋がっている。彼の国も昔ほどの閉塞感はなくなったと聞くし、この気持ちを切り替えるには良いことなのかもしれない。
「後日改めてお詫びにくる。許してやってくれるか?」
「えぇ、勿論」
おかげでハロルドの心を聞くことができた。ガロンは未だに泣く幼い少年の未来に幸がある事を願うばかりで、あえて声はかけずに送り出した。
親友ユーリスの3人目の息子にそんな告白を受けたのがあの子が4歳の時。町に出て迷子になり、不埒な男があの子に手をかけたのを助けた時だった。
自分の息子よりも幼い子のキラキラとした瞳がそんな事を言うのを、当時はこそばゆく感じて笑っていた。幼い子が怖い思いをして、それを助けた人に憧れを抱く。そんな拙く淡い思いなのだろうと思った。
「そうした事は、大きくなって大事な人に言うものだよ、エッツェル」
幼い子の頭を撫でながら、私はいつしか忘れるだろう思いだと笑っていた。
◆◇◆
時がたって、私は突然の来訪者に驚いた。身一つで尋ねてきたのはユーリスの3番目の息子、エッツェル。年齢は160歳となっていた。
「ガロン小父様、お会いしたかった!」
そう言って首に飛びついてきた子をどのようにあしらえばいいのか、私は分かりかねた。無下に振り払う事も出来ないし、だからと言って抱きしめてやることもできない。結果腕は情けなく空を彷徨い、言葉をかけてやることも出来ない。
「もぉ、小父様ったら相変わらず奥手だな。こういう時は抱きしめて、キスの一つもするものだよ。ほら、こうやって」
そう言うと、エッツェルは私の頬に唇を寄せる。これが余計に困惑させるのだ。
ユーリスの息子エッツェルは今一番人気のある王子だろう。長身で目鼻立ちがはっきりとした美貌を持っている。性格は明るく屈託なく、誰とも距離を置かない。それでいてまっとうに生きているのだ。
最近では竜人族ばかりではなく、魔人族にも求婚されたと噂があった。彼もまた母親であるマコトさんのスキル「安産」を継承している。そういう事情もあるのだろう。
最近では子の数が増えた。かつては絶滅危惧種とまで呼ばれた竜人族は緩やかにその数を増やしている。大人ばかりだった町には子供の声が混じり合う。そういう微笑ましい光景が広がっている。
それでもスキル「安産」は魅力的らしい。安心して子を産んで貰える事は王侯にはやはり輝かしく映るのだろう。
「ガロン小父様、僕の告白覚えてる?」
なおも首に腕を回し、誘惑するように誘いかけるエッツェルは微笑む。少年の色香を最大限にして誘いかけてくる。
「告白、と言われても」
「あっ、その顔は冗談だと思ってるんでしょ。酷いな、僕は4歳の時から小父様に愛を囁いているのに。小父様はいつも困った顔をして」
拗ねた子供と同じく、僅かに愛らしい頬を膨らませたエッツェルは怒っている。その目は一切の遊びを含んではいなかった。
4歳の時分、この少年をたまたま助けた事を切っ掛けにこの子は私に愛を囁くようになった。小さな時には拙い言葉で「しゅき」と言い、少し大きくなると「小父様のお嫁さんにして」と懇願し、最近では「僕が叔父さんの子供、沢山産んであげるよ」と、妙に艶めかしい事を言うようになってきた。
これにはユーリスも困ったようで、膝に乗って体を絡め誘うエッツェルを叱り、下がらせる事も度々あった。そしてその度に「すまない」と私に詫びていた。
私はまだいい。自身の子よりも下の子供を庇護として可愛がる気持ちはあっても、そこに体を交えるような肉欲は到底持てない。だが私の妻は少し違う。彼は何やら私に負い目があるのか、何かを言いたそうな顔をしてもグッと飲み込んでしまう。
私の妻、ハロルドは人族だ。元は末の王子だったが、彼の特殊なスキルが彼をそこから追い落とした。実の兄に命を狙われ、傷を負って国を出ざるをえなくなったのだ。
その原因は私にある。彼と知り合い、話をして、私がつい余計な事を話したが為に彼は私を慰めた。「素敵な奥さんと、子供に恵まれる」そう言って慰めた。それが彼の特殊スキル「幸分け」に引っかかり、彼の幸せは空になるほどに減り、そのぶんだけ大きな不幸が襲うようになってしまった。
傷ついた彼を抱えて国に戻り、私は彼を幸せにしたいと願った。私の為に不幸になる者をどうして放っておける。それに、私は徐々に彼を愛し始めていた。どんな逆境の中でも笑顔を忘れず、前を向ける彼の強さに惹かれていた。
そんな彼との間に子が出来て、一人浮かれた私は後悔した。人族の小さな体で大きな竜人族の子を産む事は大変な難産だ。あまりに嬉しくてそれを失念してしまった。結果、子は無事に産まれたもののハロルドは深く傷ついて出血が多く、瀕死となってしまった。祈るように毎日を過ごし、毎日生きていてくれるかを確かめるようにしていた。
黄金竜は幸福の竜。私の幸せを分けてあげたい。その願いが通じるように、数年してハロルドの幸福は大きく満たされ、その力で目を覚ました。
だから、私に子は一人しかいない。息子シエルベートはスクスクと育ち、美しくたおやかになった。少々気の弱い部分はあるがその分優しい子供だ。そろそろ相手を探し始めてもいいのかもしれない。思って言えば困ったようにはにかんで、「まだ早いです」と笑う。あの顔は誰か思い人がいる。そう思うからこそ、それ以上は言わずに「そうか」と笑っている。
だが結果的に黄金竜の王家は息子シエルベートと私だけ。父はしきりにもう一人くらい欲しい。そう言っているが聞き入れるつもりはない。私は妻を愛しているし、その妻を裏切るような事はしたくない。
それでも押しの強い父が何かしらを言えば、繊細な妻は辛そうにしながらも笑みを浮かべて「まぁ、そうですよね」なんて愛想笑いをするのだ。
「エッツェル、今日はどうした?」
「どうしたんだって……お見合いだよね?」
「え?」
黒い瞳を驚きに丸くしながら、エッツェルは私の顔を覗き込む。私にとっては寝耳に水で、何の聞き間違いかと本気で疑った。
「誰のお見合いだい?」
「誰って、僕と小父様のお見合いだよ」
「そんなの聞いていない! 誰がそんな事を」
「ギーニアス様だけれど」
出てきた父の名前にこれほど怒りを覚えた事はない。私は立ち上がり、城の奥院へと走り出していた。
奥院の更に奥。そこに、引退した父はいる。私はその扉を思い切り開け、今にも食いかかりそうな顔で睨み付けた。
「父上! いったいどういうことです!」
咆吼かと言わんばかりの声に老齢となった父は怯えた顔をする。もうこの人は私を押さえつける力を持たない。王の座も譲ってしまった今、私が優勢だ。
「なんのことだ」
「エッツェルの事です! お見合いだなんて、いい加減にして下さい!」
かつて妻と子を持つ前の事を思い出す。好みでもない相手と無理矢理娶せられ、薬を盛られて興奮させられて交わりを強要されていた日々。妻と子を得てそれは止めさせた。父も息子に跡取りが出来た事で溜飲を下げたはずだった。
父は素知らぬ顔をする。とぼけようとも許す事はできない。妻を侮辱し、まだ少年の域を出ない子供を誑かしたのだ。
一歩前に出ると座っていたソファーから立ち上がり逃げを見せる人を、私は結界の中に閉じ込めた。
「どういうことです」
「わっ、わしは何も」
「嘘を言うな!」
怒りのままに吠えれば父は小さくなる。そして震えながらも相変わらずの強引さで逆ギレを始めた。
「お前とてまだ若いだろ! なのにあの嫁は一人しか子を産まん! ここは若い嫁をもらって更なる子を残す事が王家の為になるではないか!」
「血を繋げる為だけのそうした行いを私が嫌う事を、どうして理解しないのです!」
「良いではないか! ユーリスの子は皆が安産のスキルを持っておる! しかもあの子はお前を好いているではないか! こんな条件を満たす相手などそうはおるまい!」
「私と妻と息子の気持ちを考えているのですか! 侮辱するのも大概にしてください」
「あんな役立たずの嫁など」
言いかけた父の口を、私は強制的に閉じさせた。恐怖に見開くその目を近くに見て、心の奥底が冷え切るのを感じる。その冷気が、父の足元を凍らせた。
「今、なんと?」
「あぁ、いや」
「なんと言いましたか?」
「わしは何も」
視線を逸らし、逃げようとする父を私は解放した。それと同時に、私は人を呼んでいた。
「どういたしました、陛下」
「コイツを端の屋敷に連れて行き、人を付けて見張らせておけ。二度と、私の目の前に立つ事は許さない」
呼びつけられた兵士は困惑したが、長年私の側についてくれていた側近は溜息をついてテキパキと動いてくれる。「とうとうこうなったか」そんな様子だった。
これで邪魔は一つ減った。だが問題はエッツェルの方だ。あれは頑固だし、誘いかけたのが父ならば罪はない。気持ちは真っ直ぐな好意なのだろうから、そこを傷つけたくはない。
思い悩んでいれば、廊下にハロルドがいた。
「どうした、ハロルド」
「あぁ、ガロン。あの、さぁ……」
また何か思っている。なのに言えないままでいる。そんな事を思う表情に、私は歯がゆくてならない。こんなにも愛しているのだからどうか不安な顔をしないでもらいたい。そう願っても、なかなか届いてくれない。
「どうした?」
「……今、謁見に来てるのってエッツェルだろ? その……何の要件だったんだ?」
伺うような視線は、だが完全に疑っている。当然だろう、ハロルドはマコトさんの友人で、よくお茶を飲みにいく。だから産まれた時からエッツェルの事を知っている。何度となく私に囁くあの子の愛の言葉を聞いているのだ。
「少し顔を見せに来ただけだよ」
「そう、だよな!」
多分、納得していない。それでも明るく振る舞って自分を殺そうとする。私は逃げてしまいそうなハロルドの手を取って、胸に抱いた。
「少し話がしたいんだが」
「……ごめん、ちょっと疲れてるんだ。また今度な」
そう言って、するりと私の腕の中から逃げてしまう。ハロルドよりも力が強いはずの私は、いつもこの手を強引に引き寄せられずに離してしまう。抜け出てそのままこぼれ落ちてしまう、そんな不安をどこかで感じていた。
◆◇◆
謁見の間に戻ってくると、エッツェルは所在なげにしていた。頼りなく、心細そうに。だがその黒い瞳が私を捕らえると、途端に安堵の笑みを浮かべるのだ。
「小父様」
「エッツェル、今父に確認を取ってきた。何かの手違いだったようだ。申し訳ないが、今日の所は戻ってもらえないか? 後日ちゃんとお詫びと埋め合わせをするから」
穏やかにそう頼み込んだ。すると幼い顔は悲しみと苦しみに歪み、伸ばしかけた手は胸の前で引っ込んだままになって立ち尽くしてしまった。
「エッツェル?」
「僕じゃ、ダメですか?」
「え?」
途端、ポロポロとこぼれ落ちていく涙が床を塗らす。驚いて駆け寄れば、少年の腕が私を捕らえて強く抱きしめてきた。
「僕、小父様の役に立ってみせます。ハロルド様とも仲良くします。僕、ハロルド様の事も好きだから平気です」
「エッツェル」
「決して、ハロルド様との仲を邪魔しません。一番になろうとしません。子供、沢山産みます。だから」
「エッツェル!」
私は体を離して彼を見た。大きな瞳から沢山の涙をこぼす様は少年のままだ。大人の顔をしていてもその心は幼いままだ。そんな子が、なんてことを言うのだろう。まるで子を産むためだけに嫁ぐ。そんな言い方ではないか。
「好きなんです」
切々と紡がれる言葉が痛い。あまりにそれは切なくて、苦しい声だ。
「幼い子供の言う事だと笑うかもしれないけれど。でも、僕は本気なんです。本気でガロン様の事を好きになって、ずっと追いかけてきたんです」
幼い日の告白を子供の戯言と取った私とは違ったのだろう。彼は真剣だった。そしてその一途な思いは今もまだ、続いているのだ。
「都合のいいものでもいい。必要としてくれるならそれでいいんです。側にいられる為なら、何だってします。だから!」
抱きついて、思いの丈をぶつけるように唇を重ねられる。それを受けながら、私は確信する。この思いを受け取る事はできない。
ガタンッと音がした。慌てて振り向けば青い顔をしたハロルドと目が合った。逃げるように踵を返す彼を、私は慌てて追いかけた。
どれほど逃げようと人族の彼に追いつくのはわけない。私は捕まえて、強引に引き寄せた。
「ハロルド!」
顔色もなく、それでも誤魔化そうと笑う姿に苛立つ。
「あの、俺しばらく国に戻るわ」
言って、逃げようと肩を逸らそうとするが離さない。より強く握る腕が痛むのか、綺麗な瞳が僅かに歪んだ。
「帰る国などないでしょ」
「あ……」
都合が悪い。そんな顔をする。どうして彼は私の愛を疑うんだ。どうして受け取ってくれない。言いたい事があるならはっきりと言ってもらいたい。私たちは夫婦なんだ。
「ハロルド!」
「あの子、良い子じゃん。それにスキル持ちだ。若いし、いいと思う。俺の事は気にしないでさ、貰えよ」
「……本気で言っているのか?」
「……本気だ」
ならばどうして目を見ない。逃げるように俯ける!
強引に奪うようにキスをした。抗議の言葉も飲み込むように舌を差し込み、グチャグチャに絡めていった。逃げる事を許さず、目を逸らすことも許さず、息も出来ぬほどにかき抱いた。
「言いなさい、何を思っている」
「あ……」
「私は貴方だけを欲したんだ。私は貴方を愛している。貴方は、私の事など愛していないのか」
突きつけるように言えば、見る間に涙がたまって落ちていく。強がりな妻の心が決壊した、その証拠だった。
「愛してるよ。それでも、どうにもなんない事ってあるだろ」
「どうにもならない事?」
「俺はヘタレで、お前との子をこれ以上産めない!」
叫ぶような言葉は、いっそ私に深く刺さった。それを、ずっと気にしていたのか。ずっと言わずに、ため込んでいたのか。
ポロポロと落ちていく涙が頬を濡らす。それを煩わしそうに服の裾で拭いながら、ハロルドは私に恨み言を言うように続けた。
「俺はもう産んでやれないんだよ! 体が耐えられないから無理だって言われてるんだ! それでもお前は王族で、お前かシエルしかいなくて、そのシエルに万が一の事があったら跡取りいなくなる。それでも俺はこれ以上は無理なんだ。俺は……それなら耐えるしかないだろ」
私の服を掴んで項垂れ、今にも崩れそうなハロルドの言葉に私はハッとする。この言いようは、彼の言葉じゃない。
「もしかして、ずっと言われていたのか?」
確認すれば、緩く頷かれる。こみ上げる怒りは父に半分、そして守れなかった自分に半分向いた。
「俺は、ダメな嫁だ。周りは何人か子供がいるのに、俺は一人で、もう増やせない。それならいい相手をお前に娶せて、産んでもらうよりほかない。そんな風に言われて、俺が何か言い返せると思うのかよ。事実突きつけられちゃお終いだろ。我慢するしかないだろ」
苦しみに耐えられないように語尾が消えていく。その体を、私はそっと抱いた。金の髪を撫で、包み込むように愛した。
「私は貴方しかいらない。子など、これ以上はいらない」
「だって!」
「いらないんだ! 貴方との子でなければ、愛せないのだから。だからもう、いらないんだ」
腕の中でハロルドはなおも泣いていて、それでも背に腕を回してくる。たったこれだけが愛しいのだ。屈託なく向けられる表情の全てが、愛しいのだ。
「私の側に、いてくれるか?」
「そんな……だって俺、他に行くとこない」
「えぇ」
「ガロンの側にいたい」
小さく陥落したその言葉に、私は目を細めて頷いてそっとキスをする。愛しい気持ちを沢山に詰め込んで、傷つけた心を覆うように願いを込めて。この人に沢山の幸せを分けるように祈って。
「私こそ、側にいたい。ずっと、貴方の側にいさせて下さい」
涙で目を真っ赤にした愛しい人は、ゆるゆると頷いた。
◆◇◆
その後すぐに、凄い剣幕で城に来たマコトさんは何を言うよりも前にエッツェルの頭を拳骨で殴って怒鳴りつけた。
「何考えてんだ、バカ息子!!」
「はっ、母上ぇ」
「大好きだって言うなら、どうしてその人の幸せを壊すような事をするんだ! そんなの愛情じゃない!」
普段花も綻ぶようなたおやかで優しい人が凄い剣幕で怒るというのは、かなりの衝撃映像だ。私もハロルドも驚いて固まっていると、向き直ったマコトさんは地に膝をついて深く頭を下げた。
「ごめんなさい、ガロンさん! ハロルドさん! うちのバカ息子がとんでもないバカな事をして」
「あぁ、いいえ」
「マコト、もういいから」
「本当にごめんなさい!」
マコトさんの方が小さくなって謝り倒すのを隣で見て、エッツェルは酷くションボリと項垂れた。
「別に、二人の仲を切り裂いたり、邪魔したかったわけじゃないもん」
「エッツェル!」
「だって、好きなんだもん! ダメなの? ガロン様とも、ハロルド様とも上手くやるよ! だから!」
「お前はちゃんと分かってない!」
マコトさんの怒声が更にエッツェルを小さくしていく。
「お前にその気がなくたって、誰かが入った事で壊れてしまうものだってあるんだ」
「そんな!」
「じゃあ、もしも俺がいるのにユーリスが新しい若い奥さんを連れてきたら、お前は受け入れられるのか」
言われて、エッツェルはハッとしたようだった。泣きそうに下唇を噛んでふるふると首を横に振っている。
その頭をマコトさんは慰めるように撫でて、「分かれば良い」と言った。
「すまない、ガロン。うちのバカ息子が世話をかけた」
「ユーリス」
事が落ち着いたのを見て入ってきたユーリスが苦笑して私に頭を下げる。それに、私も苦笑した。
「エッツェルは少し国から離す。アレは少し盲目過ぎるしな」
「そんな事は! もとはと言えば父が画策し、彼を誑かしたんだ。国から出すなんて、そこまでの事は」
「それでもホイホイと乗ったのはあいつの軽率さだ。相手の心を察せられず、自分を押しつけるばかりで周囲の忠告も聞かなかったのはあいつの落ち度だ」
そうまで言われてしまうと、おそらくユーリスの中ではもう決まっているのだろう。気の毒な事ではある。だが、手を取れないなら中途半端に情けなどかけるべきではない。それはエッツェルにとっても苦しい事で、ハロルドにとっても裏切りになる。
「丁度来週、黄昏の国から王妃殿下が遊びに来る。彼に任せて、一年ほど留学させてみようと思う」
「黄昏の国?」
この世界の中心にある閉鎖的な国はあまりに未知の領域だ。どうしてそのような国の、しかも王妃と知り合いなのか。疑問に思えばユーリスは簡単にその秘密を明かしてくれた。
「あちらの奥方も、マコトと同じ異世界人なんだ。以前ちょっとした縁で会話する機会があってな、あちらも懐かしいらしく時々マコトを尋ねてくれている」
「すごい縁だな」
なるほど、縁とは妙な所で繋がっている。彼の国も昔ほどの閉塞感はなくなったと聞くし、この気持ちを切り替えるには良いことなのかもしれない。
「後日改めてお詫びにくる。許してやってくれるか?」
「えぇ、勿論」
おかげでハロルドの心を聞くことができた。ガロンは未だに泣く幼い少年の未来に幸がある事を願うばかりで、あえて声はかけずに送り出した。
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