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第213話:俺の心配は?

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ヨルミネイトとニニムが帰って来て――ケルダンの物流と経済が回復しても問題は次々と舞い込んでくる...

まず1つ目は俺に監視が付いた所だ...

「保衛部から参りました・・・ヴァシリーイソトフです・・・よろしく。」

老耄だが猛禽類のような冷酷で鋭い目つきの――この油断ならない雰囲気の男は保衛部から派遣された政治将校で嫌みたらしい口調で――いちいち重箱の隅を突いてくる陰険な鼻つまみ者だ。

「名誉伯、早く軍事関連の帳簿を見せて頂きたい・・・おっと?もしかして自分の部隊の予算額すら把握しておられないのですかぁ~?」と俺を苛つかせる辺りに一流のセンス感じるꐦ

今は、この棺桶に片足を突っ込んだ死に損ない老害が早く全身――棺桶に入らないか女神に祈っている所だ...

2つ目はユガンの各地から来る村単位で喰いあぐねた農奴や盗賊騎士の襲来である。

本来なら移動の自由が認められていない各貴族の荘園で働いていた小作農民や農奴などが食うに困らないケルダンでの生活を夢見て他の領からの経済難民として押し寄せているのだ

どうやらケルダンは元スラムと言う事もあり全体的に税を安くして隠し農地や無許可の農地、脱税など税の取りはぐれを少なくしている事や以前――紹介した公営食堂で低額もしくは無償で食べられる食事が提供されている事が原因らしい...

特に主戦派が支配している北東部で無茶な農業計画のもと過酷な農業に従事して来たエレンダ人やユガン人達が大半で彼らには移動の自由がないと知りながらも、このままでは冬が越せず――凍りながら凍死するか、飢えて死ぬか?以外の選択しかなかった為に...

既にガリガリ痩せ細っているたが座して飢え死ぬ事も出来ず村単位で、そのまま着の身着のまま逃げだし――道中も魔物に怯え、命からがらケルダンにまで逃げ出してきたという...

確かに農奴には――あまりに領主が暴虐で、かつ労働内容が過酷だった場合に限り逃げ出す事が認められて土地の権利(耕作権、専有権)と引き換えに自由市民になる事が出来る。

封建の領主は一週間しか連れ戻し権がなかったハズだ。(※領民を碌に管理出来ないと見なされるため...)彼らの正当な権利なのは間違いない。

ある程度――金が掛かるとは言え労働力が増え消費も増えるので長期的に見れば領としては受け入れたいし人道的にも受け入れたいのは山々なのだが...

・・・とは言え他の貴族の領地から人を奪う形になるので貴族社会に身を置いている人間としては・・・大変!世間体が悪かった!!

案の定――既にヨルミネイトの元上司であり北東部の大貴族であるドル卿から『恥を知れꐦ この!さもしい領民泥棒めっꐦ 今すぐ!逃亡した領民の返還を要求する!!』と言う旨の手紙が来たのだ!

もちろん死ぬと分かっている人間を追い返して死なせるのは目覚めが悪い事もあるし面白いので即答で『拒否します、法と人道に乗っ取り陛下の臣民を保護させて頂きます。』と返信して置いた♪

余談ではあるが商人達の情報網を使って本当に困っている飢饉に見舞われた人々だけ選別し他の経済難民を帰すと『この人でなしー!!』『人の心はないのかー?!!』と返される事を知った難民達が暴れ出して大変だったのは言うまでもないが...

一方、盗賊騎士の方の問題は経済難民の件より深刻だ。
農奴や小作人のように喰いあぐねた他の諸侯の騎士達が徒党を組んで交通料を商人達に要求したり地方の村に名誉を穢されたと難癖をつけフェーデ私闘を仕掛け賠償金と称して多額の賠償金を脅し取って行くと言うのだ!!野蛮人めっꐦ 

しかし怒り心頭で犯人を捕まえると――これまた驚き!!!

連れてこられた騎士を見て(どこかで見た事ある顔だな?)と思ったら『お久しぶりです、名誉伯。私の事を覚えておいでですか?以前、公爵殿下が主催なさった狩猟パーティー以来なのですが・・・』と悪びれる事も無く言い放つ盗賊騎士に覚えがあった...
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コイツ?!メリザエフ公爵の所の騎士じゃねぇぇえええかぁぁあ"あ"あ"!!!

マズい!マズいぞぉ!!逮捕しちゃイケない人を逮捕しちゃったぁぁあああ!!!
結局!――どう足掻いてもメリザエフ公爵の強大な軍隊には勝てない!
権力も、こちらが長官くらいの権限しかないのに対して――向こうは公爵殿下...

序列で言うと(もちろん内輪では皇女や皇太子の方が上と言え...)公式には皇帝の息女や子息と同格の扱いをされ本来なら公国の王としてユガンの法律に従う事無く自身の主権を主張できる立場の人間である!

しかもウチは貿易で成り立っていて海路以外の販路は殆どはメリザエフ公爵領の貿易路を通らせて頂いている!!!

海と接しているエレンダや、ネルレイア聖女国との貿易なら――ともかく!

アリア教と言う絶大な権威から来る信用を背景に亜人大陸における基軸通貨として流通しているルクルサ白銀貨とルクルサ大白銀貨を鋳造しているルクルサ神権国と国境を接していて最短距離で貿易できるのはメリザエフ公爵領しかない!!

つまり盗賊騎士を罰してメリザエフ公爵と係争状態になってしまうと――この大陸での事実上の世界銀行にアクセス出来なくなる!――→ケルダン賤貨が信用を失い暴落!!――→ケルダンはデフォルト債務不履行に陥り経済破綻!!

「う、う~ん"ん"!(咳払い!)君!ウチの領で盗賊行為をされたら困るなぁ~~。衛兵!この者の手錠を外してあげなさい!」

「はあ?えっ?!ですが閣下・・・」

「いいから!」

「はっ、はぁ・・・?」と困惑した様子で衛兵が手枷を外すとアユムは盗賊騎士の肩に抱き寄せると『物は相談だが・・・』と言い「大金をやるから二度とウチの領に来るじゃないぞ?私にも立場と言うモノがある・・・分かるな?次に君を顔を見たら問答無用で死ぬ事になるぞ?分かったな?」

・・・と盗賊騎士を脅し宣言した通り金を渡して彼を帰すとメリザエフ公爵に主戦派の各諸侯に対する食料援助をしたい旨を申し出て...

メリザエフに話を通した上で各領の地方へ横領されないように監視付きの食料と農業計画を修正を迫り【領民泥棒とは何事!其方《そちら》の領民が逃げ出して迷惑しているのは寧ろコチラである!】と他領の領民受け入れの正当化を試み...

もくろみ通り――主戦派との関係を壊す事なく農業計画を修正と監視付きの食糧支援に、こぎ着け一部の流民の取り込みに成功した!

その結果――アユムの政治的手腕の御陰でケルダンだけでなく経済派の領地における盗賊行為も激減し(経済派の領地でも盗賊行為をしていました!By:盗賊騎士と愉快な仲間たち!)

これにはラルカ公爵のみならず、メリザエフもニッコリで彼のアユムに対する評価は更に上がったようだ...

『ケルダンにおける減税などの諸政策やサナイのやること成すことに――いちいち注文を付け内政に干渉しようとするのは、まかり成らん!!』と珍しく両者の意見が一致した事で他の諸侯は沈黙し...

納得がいかないとアユムに決闘を申し込んでいたドル卿は『決闘をする気がない』と断られると結局――何も出来ず『おのれぇ~~~!!!貴様に貴族の男としての矜持はないのかぁ~~~!!!』と発狂するばかりであった!

矜持?・・・ある訳ない!そもそも貴族になって日も浅いのに...

ちなみにヨルミネイト達からは『なぜ男らしく受けないですか?!卿!』と決闘しない事を咎められた!

いったい、どっちの味方だよ?!お前ら・・・
元々、おれは流浪の身だったんだぞ?!
ワンチャンでも死ぬ可能性があるモノに参加する気はサラサラないわ!

まったくꐦ 自分の命が危険晒されないからって、好き勝手言いやがってからにꐦ

自分の身を案じる事すらしてくれない彼女達に憤慨するアユムであった...
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