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5章
74 愁蓮視点
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「殿下方が!?」
口元に手を当てて、悲痛な声を上げたのは李昭で、その隣で順流は言葉を失っている。
「おそらく、西楼宮の監視がきつく、自分達で手を下せないからと、そこに出入りしている皇子達を使ったのだろう。皇子たちが渡した菓子で紅凛が死んだとなれば、流石に大々的に騒ぐことはできないだろうと読んだのだろうな」
「っ……しかし、誰が殿下方にその菓子を渡したのかが分かっている以上、自分たちに疑いがかかる事くらいおわかりでしょうに……」
そこまで短絡的ではないのではないかと李昭が眉を寄せる。
「きっとその菓子の送り主のせいにするのでしょうね。恐らく、先帝即位の直前まで敵対して戦い、その後下ったような……まだ腹に一物抱えていそうな家からのものを選んだのでしょう。『後継者たる皇子殿下達の命を狙ったものだったのだろう。紅凛は不幸にも巻き添えをくってしまったのだ』と騒ぐような、筋書きだったのかもしれませんね」
同じように低く唸った順流の言葉に、愁連もうなずく。
それくらいの事は考えているだろうことは、愁連にも予想がついた。
「それで、殿下方は今……」
「大丈夫だ。とにかく落ち着かせて、今は奏秀の宮に身を寄せさせている。あそこならば数日くらいは身をおいていても、不自然はない。おりよくも4日後に奴は地方視察に行く予定らしい。後学のためと銘打って、皇子達も同行させようと思う」
愁連の弟である奏秀は、あの野襲の夜に初陣のため愁連と共に戦場に向かっていたために、災禍を逃れたもう一人の姜家の息子だ。学術に秀でており、皇子たちの学びの師として、子どもたちにも、また貴妃達にも信頼が厚い。
少し歳下ではあるが、同じ年頃の子供がいることから、時には忍んで、時には学びを深めるためだと言って皇子達が数日世話になることがあった。ゆえに今回避難先として愁蓮がすぐに打診したのだ。
可哀想に彼らは、はじめ父である愁蓮も信頼に足るかどうか疑心暗鬼だったらしい。
紅凛を冷宮に送った張本人である愁蓮がもしかしたら黒幕という可能性も考えたというのだ。
寵妃である李昭を守るためか、紅凛の存在疎ましさに、貴妃達や自分達を使って処理させようとしているのかもしれない。そう考えると、闇雲に頼るのは危険すぎる。故に2人で相談して、ひと芝居打ち、愁蓮の様子を伺って、相談を持ち掛けるかどうか決めたというのだ。
皇帝を欺こうなどと、我が子ながら賢く、大胆でいて、曲者になるだろうと、将来が頼もしく思えるが、とはいえやはり子どもだ。
母のように頼っていた者達に利用された彼らの心の傷は大きい。
もう絶対に、彼女達のもとに、彼らを戻すことできない。しかし貴妃達に怪しまれず、調べを進めねばならない以上、苦し紛れにでもこうした措置を取らざるを得なかった。
「流石に……これはやりすぎだ……」
低く呟けば、李昭も順流も厳しい顔でしっかり頷く。
対策はしていたとはいえ、もしまかり間違って、子どもたちが変な気を起こして、毒入りの菓子を口にしていたら……その可能性だってなくはなかったのだ。
「とにかく、秘密裏に北香宮と東楼宮の庭を調べさせる。もしかしたら、新しく何かを埋めたような痕跡があるかもしれない。それが出次第、彼女達を拘束する。李昭は引き続き、紅凛の身の安全を守ることを重視してくれ」
「承知しました」
武官特有の低く張りのある「是」の言葉に、愁連は頷いて順流に視線を向ける。
「順流は明日から、章州へ発つ予定だったな………こちらは気にせず職務を全うしてこい」
「っ……このような状況で、都を離れることになろうとは……申し訳ありません」
唇を噛み、眉を歪める侍従の肩を叩く。
「いや、お前だからこそ、行ってもらわねばならないのだ。頼むぞ」
口元に手を当てて、悲痛な声を上げたのは李昭で、その隣で順流は言葉を失っている。
「おそらく、西楼宮の監視がきつく、自分達で手を下せないからと、そこに出入りしている皇子達を使ったのだろう。皇子たちが渡した菓子で紅凛が死んだとなれば、流石に大々的に騒ぐことはできないだろうと読んだのだろうな」
「っ……しかし、誰が殿下方にその菓子を渡したのかが分かっている以上、自分たちに疑いがかかる事くらいおわかりでしょうに……」
そこまで短絡的ではないのではないかと李昭が眉を寄せる。
「きっとその菓子の送り主のせいにするのでしょうね。恐らく、先帝即位の直前まで敵対して戦い、その後下ったような……まだ腹に一物抱えていそうな家からのものを選んだのでしょう。『後継者たる皇子殿下達の命を狙ったものだったのだろう。紅凛は不幸にも巻き添えをくってしまったのだ』と騒ぐような、筋書きだったのかもしれませんね」
同じように低く唸った順流の言葉に、愁連もうなずく。
それくらいの事は考えているだろうことは、愁連にも予想がついた。
「それで、殿下方は今……」
「大丈夫だ。とにかく落ち着かせて、今は奏秀の宮に身を寄せさせている。あそこならば数日くらいは身をおいていても、不自然はない。おりよくも4日後に奴は地方視察に行く予定らしい。後学のためと銘打って、皇子達も同行させようと思う」
愁連の弟である奏秀は、あの野襲の夜に初陣のため愁連と共に戦場に向かっていたために、災禍を逃れたもう一人の姜家の息子だ。学術に秀でており、皇子たちの学びの師として、子どもたちにも、また貴妃達にも信頼が厚い。
少し歳下ではあるが、同じ年頃の子供がいることから、時には忍んで、時には学びを深めるためだと言って皇子達が数日世話になることがあった。ゆえに今回避難先として愁蓮がすぐに打診したのだ。
可哀想に彼らは、はじめ父である愁蓮も信頼に足るかどうか疑心暗鬼だったらしい。
紅凛を冷宮に送った張本人である愁蓮がもしかしたら黒幕という可能性も考えたというのだ。
寵妃である李昭を守るためか、紅凛の存在疎ましさに、貴妃達や自分達を使って処理させようとしているのかもしれない。そう考えると、闇雲に頼るのは危険すぎる。故に2人で相談して、ひと芝居打ち、愁蓮の様子を伺って、相談を持ち掛けるかどうか決めたというのだ。
皇帝を欺こうなどと、我が子ながら賢く、大胆でいて、曲者になるだろうと、将来が頼もしく思えるが、とはいえやはり子どもだ。
母のように頼っていた者達に利用された彼らの心の傷は大きい。
もう絶対に、彼女達のもとに、彼らを戻すことできない。しかし貴妃達に怪しまれず、調べを進めねばならない以上、苦し紛れにでもこうした措置を取らざるを得なかった。
「流石に……これはやりすぎだ……」
低く呟けば、李昭も順流も厳しい顔でしっかり頷く。
対策はしていたとはいえ、もしまかり間違って、子どもたちが変な気を起こして、毒入りの菓子を口にしていたら……その可能性だってなくはなかったのだ。
「とにかく、秘密裏に北香宮と東楼宮の庭を調べさせる。もしかしたら、新しく何かを埋めたような痕跡があるかもしれない。それが出次第、彼女達を拘束する。李昭は引き続き、紅凛の身の安全を守ることを重視してくれ」
「承知しました」
武官特有の低く張りのある「是」の言葉に、愁連は頷いて順流に視線を向ける。
「順流は明日から、章州へ発つ予定だったな………こちらは気にせず職務を全うしてこい」
「っ……このような状況で、都を離れることになろうとは……申し訳ありません」
唇を噛み、眉を歪める侍従の肩を叩く。
「いや、お前だからこそ、行ってもらわねばならないのだ。頼むぞ」
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