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5章
64 愁蓮視点
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「柊圭それは、できない……そなたの気持ちは嬉しい。十分に紅凛の事を思っての申し出である事に感謝する。だが、俺の意志もあるが、紅凛もそれを望んでいないのだ」
思った以上に掠れた声が出たように思う。なんとか愁蓮はそれだけを口にして、茶を一口飲んで息を吐く。
「紅凛様が、望まれていない……というのは、どう言った……」
訝しげに眉を寄せる柊圭は、腑に落ちないように呟いて、その先の説明を求めてくる。
ここまで来たら、やはり話すべきであろう。そう判断して、居住まいを正すと、柊圭を真っ直ぐ見つめる。
「紅凛は……鈴円様の娘……紅姫だったのだ」
「っ!! なん、ですって‼︎」
予想していた通り、不審気な顔をしていた柊圭の表情が、驚きの色にかわり、次いで悲痛な表情に変わる。
「私達は兄妹だったのだ。気づいたのは、昨年そなたが帝都を発ってから……もう後戻り出来ないほど、私達は互いが無くては生きられぬほどになっていた」
ゆっくりと、ことの経緯を話し始める。あの城が焼け落ちた夜から、紅凛がどう生きて、後宮に入る事になったのか、そして自身と紅凛がどのようにして今の選択をしたのか……。
話を進める最中、柊圭は一度も言葉を発することはなかった。ただ、鍬蓮の言葉に耳を傾けながら、呆然と自身と鍬蓮を隔てる卓の上でゆらゆらと波打つ茶を見つめていた。
その悲痛な表情からは、彼が何を思っているのかは読み取る事はできなかった。しかし話が進むごとに、柊圭の顔色がどんどん青白くなっていった。
「状況については、分かりました……この状況がお二人が望んだ事である事も……」
全てを聞き終えた柊圭が、まるで自身に言い聞かせるように呟く。その唇は随分と震えていた。
「すまない。最初に紅凛が鈴円様の娘と分かった時に、そなたにも一報をと思っていたのだが、そうしてしまったら、紅凛を陳家に取られてしまいそうな気もしてな」
自身の中に巣喰っていた、狡い想いを吐露する。
「いえ……お二人がそのように悩まれて出した結論でございますから、私などが覆せるはずもございません」
ゆっくりと首を振った柊圭は、強張った表情をほんの僅かに緩めて、なんとか絞り出すようにそれだけ言うと、その場で深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。あまりに驚きすぎて、少し……気分が悪く……なりましたゆえ、御前を失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
唐突なその申し入れに、鍬蓮は息を飲む。先ほどから顔色が悪いのは気にはなっていたところだが、どうやら柊圭にとってこの話は、愁蓮が思う以上に衝撃的な内容だったらしい。
「かまわぬ……唐突な話だったゆえ、随分と混乱させたように思う。一度下がって、整理をした後に、また後日話す機会を設けよう。それまではくれぐれも……」
「っはい! 他言はいたしませぬゆえ、ご安心下さい」
再度深々と頭を下げる柊圭は早口にそれだけを告げると、すぐに立ち上がって案内役を呼ぶ前に部屋を出て行く。
いつでも落ち着いて、時に兄のように愁蓮を導いてくれていた彼とは随分と違う印象に、愁蓮の本能が騒めき出す。
「だれか、おらぬか!」
柊圭の気配が、回廊から消えるのを確認して外へ向けて声をかけると、すぐに扉が開いて、順流が顔を出す。
彼はずっとここで他の者が近づかないよう人払いのために待機していたのだが……やはりただならぬ様子で出て行った柊圭の様子に不安をおぼえたらしく、硬い表情をしている。
「柊圭の様子を見張ってくれ」
「承知、致しました」
一礼して出て行く順流の後ろ姿を見送りながら、ざわざわと言いしれぬ不安が愁蓮の胸を支配して行く。
思った以上に掠れた声が出たように思う。なんとか愁蓮はそれだけを口にして、茶を一口飲んで息を吐く。
「紅凛様が、望まれていない……というのは、どう言った……」
訝しげに眉を寄せる柊圭は、腑に落ちないように呟いて、その先の説明を求めてくる。
ここまで来たら、やはり話すべきであろう。そう判断して、居住まいを正すと、柊圭を真っ直ぐ見つめる。
「紅凛は……鈴円様の娘……紅姫だったのだ」
「っ!! なん、ですって‼︎」
予想していた通り、不審気な顔をしていた柊圭の表情が、驚きの色にかわり、次いで悲痛な表情に変わる。
「私達は兄妹だったのだ。気づいたのは、昨年そなたが帝都を発ってから……もう後戻り出来ないほど、私達は互いが無くては生きられぬほどになっていた」
ゆっくりと、ことの経緯を話し始める。あの城が焼け落ちた夜から、紅凛がどう生きて、後宮に入る事になったのか、そして自身と紅凛がどのようにして今の選択をしたのか……。
話を進める最中、柊圭は一度も言葉を発することはなかった。ただ、鍬蓮の言葉に耳を傾けながら、呆然と自身と鍬蓮を隔てる卓の上でゆらゆらと波打つ茶を見つめていた。
その悲痛な表情からは、彼が何を思っているのかは読み取る事はできなかった。しかし話が進むごとに、柊圭の顔色がどんどん青白くなっていった。
「状況については、分かりました……この状況がお二人が望んだ事である事も……」
全てを聞き終えた柊圭が、まるで自身に言い聞かせるように呟く。その唇は随分と震えていた。
「すまない。最初に紅凛が鈴円様の娘と分かった時に、そなたにも一報をと思っていたのだが、そうしてしまったら、紅凛を陳家に取られてしまいそうな気もしてな」
自身の中に巣喰っていた、狡い想いを吐露する。
「いえ……お二人がそのように悩まれて出した結論でございますから、私などが覆せるはずもございません」
ゆっくりと首を振った柊圭は、強張った表情をほんの僅かに緩めて、なんとか絞り出すようにそれだけ言うと、その場で深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。あまりに驚きすぎて、少し……気分が悪く……なりましたゆえ、御前を失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
唐突なその申し入れに、鍬蓮は息を飲む。先ほどから顔色が悪いのは気にはなっていたところだが、どうやら柊圭にとってこの話は、愁蓮が思う以上に衝撃的な内容だったらしい。
「かまわぬ……唐突な話だったゆえ、随分と混乱させたように思う。一度下がって、整理をした後に、また後日話す機会を設けよう。それまではくれぐれも……」
「っはい! 他言はいたしませぬゆえ、ご安心下さい」
再度深々と頭を下げる柊圭は早口にそれだけを告げると、すぐに立ち上がって案内役を呼ぶ前に部屋を出て行く。
いつでも落ち着いて、時に兄のように愁蓮を導いてくれていた彼とは随分と違う印象に、愁蓮の本能が騒めき出す。
「だれか、おらぬか!」
柊圭の気配が、回廊から消えるのを確認して外へ向けて声をかけると、すぐに扉が開いて、順流が顔を出す。
彼はずっとここで他の者が近づかないよう人払いのために待機していたのだが……やはりただならぬ様子で出て行った柊圭の様子に不安をおぼえたらしく、硬い表情をしている。
「柊圭の様子を見張ってくれ」
「承知、致しました」
一礼して出て行く順流の後ろ姿を見送りながら、ざわざわと言いしれぬ不安が愁蓮の胸を支配して行く。
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