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4章
59 愁蓮視点
しおりを挟む紅凛の強い決意を受け止めて、愁蓮は強く拳を握ると瞳を閉じ大きく息を吸い込んで吐き出した。
互いが納得できる道は、考え得る中で一番険しく辛い道だ。どちらも幸福にはなれないかもしれない。
もしかしたら長い月日を離れて過ごす事によって、紅凛の心が己から離れて行くかもしれない。まだ20にも満たない若い彼女が女の盛りを日陰で過ごす事に嫌気がさして、愁蓮を待つ事に飽くかもしれない。
「もう、こんな生活はまっぴらだから、ここから出して。もうあなたの事は何とも思えないの」と言われる日が来るかもしれない。
もしくはどこからか紅凛の生い立ちが知れるかもしれない。それが1年後かもしれないし5年後かもしれない。もしくは10年耐えた後のようやく再会出来た頃かもしれない。
常に怯えながら過ごす。そんな生活にまだ年若い紅凛に強いていいものなのか。本当に愛しているのなら、心を鬼にして突き放すべきではないのか
様々な想いが胸を駆け巡る。
それでも……共に過ごすことができる未来があるのなら、自分はそれに賭けたい。
『鈴円様、私の勝手で紅凛と共に地獄に落ちることをお許しください』
紅凛の頬を優しく撫でる。
桃のように白く艶やかできめが細かい頬。この感触と熱をしっかりと記憶しよう。
10年後まで、いついかなる時も忘れることなく、愛しく恋しく想おう。
「ならば俺は時々花を届けさせよう。俺の庭に咲いた小さな何でもない花を」
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