Like

DarkQuord

文字の大きさ
上 下
22 / 33
杉崎 累

グループ

しおりを挟む
花屋で働き始めた。
店長は優しい性格で私に色々と教えてくれた。
実力は認めてくれ褒める事もしてくれる。
だが掟を破ったりすれば厳しく叱っている。
教育者として、この人は完璧だ。

愛莉を呼び出してくれたお礼として、約束通り陽太さんに奢る事にした。
そういえば、陽太さんは結局シズ氏と交際を始めたらしい。
昔からお似合いの二人だった。付き合うのも時間の問題だったんだろう。
その二人からよく相談事をされる私からしたら、実にめでたい事だと思っている。

二人の関係が悪化しないよう距離を取りつつ、頼られている分しっかりと期待に応えれるよう最大限の努力をするのが私の務めだ。

やがて陽太さんと合流した。
食事中に色々な事を話した。
その時に私は本名を教えた。
杉崎 累…
中々良い名前だと思う。

陽太さんは、前からずっと言っている“静の人気上昇に伴って、迷惑行為が増えないか”が心配だと話した。
確かに、最近シズ氏は人気上昇に歯車が掛かっている。
女性インフルエンサーという事もあって、定石通りなら迷惑行為が増えてしまうのだが…
まぁ、大丈夫だろう。
彼女には頼もしい彼氏がついてくれている。

───

驚くべき事が起きた。
私の働く花屋に新しく入ってきた従業員…
その彼女が…シズ氏だった。
名前、声、性格…間違いなくシズ氏その人だろう。
ただ、私が累であるという事に彼女はまだ気付いていない様子。
タイミングを見計らって二人の空間を作り、その時に言おう。
教育係を引き受けて上手く関係を作って、呼び出せば怪しまれないはずだ。

呼び出した。
というか、食事に誘った。
適当に店を決めて、当日に待ち合わせ場所で待ってると時間前なのにもうやってきた。

静さん、遅れてすらいないのに開口一言目が、ごめん、待った?である。
どれだけ律儀なのだろうか?
私は待っていないと言い、店へ向かう。
話したげな表情をして、相手が話そうとした時に口を開く。

累「実は…私はTwitterで''ルーイ''という名で活動してる者です。」

そう話すとシズ氏は驚きを隠せない顔をした。
当然だろう。SNSで知り合って頼ってきた人が目の前にいる。
浮気させているみたいで嫌だからそんなに時間を掛けたくないので、さっさと目的に入る。

累「あの…」 
静「…あっ、はい」
累「ここだけの話なんですけど、私のこの名刺に書いてある名前…」 
静「その名前がどうかしたんですか?」
累「この名前…偽名なんですよ…。」 
静「…っえ?」

累「私、幼い頃から母親から虐待を受けていて、父親と一緒にこの県に逃げてきたんです。あの憎たらしい母親が付けた名前で生きていくのが嫌で、中学生の頃から父親の了承を得て偽名を使ってます。」 

杉崎 累…偽名である。
…そんな訳がないだろう。
苗字は離婚前のものを使っているが、累という名前は本当だ。

母親ではなく、父親がつけてくれた大切な名前だ。
嘘というのは本当の情報を織り混ぜる事で更に真実の様に思わせる事ができる。

母親からの虐待は本当、この県に逃げてきたのは嘘。
人というのは衝撃の告白をされると、その人に対しての印象がガラリと変わる。
そして忘れられなくなる。

だからそう嘘の告白をした。
そうすれば私と陽太さん以外の、変な男を頼ってしまう事はないだろう。

内容が虐待という事で、関係がある程度気まずくなっても告白内容で恐怖を覚え遠ざかる事は少ない。
これで目的は達成したので、適当に話して解散する事にした。

これで陽太さんと静さんはOK。
次は愛莉だ。

愛莉はたまに私の別荘に来ては、前みたいに相談事を話していた。

あの時からからすぐは「あの男」の愚痴ばかりだったが、毎回丁寧に対応してきたのが功をなして、
徐々にだが、信頼を得れてきた。

しばらくして、愛莉が話す普通の悩み事の中に気になる悩みが混ざっていた。

”SNSで脅されている“

最初は、あの男が仕組み始めたタチ悪いデマかとおもったが、どうやら違う。

愛莉が言うには、SNSで少し関わりがあった人から「手伝って欲しい事がある」と言われたのが始まりであった。

最初は些細な事だと思い承諾したが、後になって聞かされた内容は、特定の人に対する嫌がらせだった。

愛莉はそれを拒んだが、承諾した証拠をスクリーンショットで保存されている為「後戻りは出来ない。もし逃げたら私のアカウントでこれを拡散する。」と脅されている…らしい。

累「その…脅してきた人のアカウントを見せてください。」

そう言うと愛莉はスマホを差し出して画面を見せてくれた。
名前やプロフィール画像が察するに、どうやら捨て垢だろう。

累「なら…私が代行してあげましょうか?」
愛莉「え?…でもそしたら累さんが…」
累「私は大丈夫。ちゃんと策がありますから。」
愛莉「そう…」

安心しきれていない、心配が収まっていない声色と表情の愛莉を説得して、私が代行する事になった。
愛莉にも新アカウントという名目で私が使う用の捨て垢を用意してもらった。

それに、こうやって恩を売っていけば困った時に役立つ。

指示は全て捨て垢から行われた。
実際に会ったり、通話も厳禁の、本当に闇バイトみたいな感覚だ。

私の目的は、どうにかしてこの捨て垢を操作する主を突き止める事。
少しずつ時間をかけゆっくりと相手からの信頼を重ねて、口が緩くなるのを狙う。

信頼を重ねるには、どうしてもその“嫌がらせ”とやらを遂行し成功させなければならない。

“嫌がらせ”を受けてしまう人には申し訳ないので、最小限の被害で収まる様バレない程度に加減するが、
それでも可哀想なものだ…。

嫌がらせの内容は、変な荷物を届けてやるという地味なものだった。
荷物はこっちが作って、捨て垢から送られてきた住所に送るだけ。

捨て垢の主は何が何でも自分が関与したという証拠を残したくないらしい。
そして分かった事が一つある。
この嫌がらせに関与しているのは私だけではないという事。

私が参加させられたグループには複数人がいて、ほぼ全員が嫌がらせに対して肯定的な態度を取っていた。
胸糞悪い、吐き気がするくらいの悪徳集団だが、それを操る親玉を取れば崩壊させられると考えて今は我慢する。

支離滅裂な文や、対象を批判する文を書いた紙を送ったり、挙句の果てには腐敗物等を送る事になっていった。
そして最悪の事態が起こった。

悪になりすまし、感情を殺して嫌がらせを続けてきた私は信頼を得すぎた。

グループメンバーA「ねぇ、次に送るのは動物の死体とかにしない?」

一人がそう言った。
倫理的にも限度を越している、悪質極まりない嫌がらせの一つの到達点に来てしまった。
誰もが背徳感を覚える筈の、邪悪な提案。にも関わらず。

グループメンバーB「賛成!でも動物の死体なんて無いよ」
グループメンバーC「うちの近くに野生の猫なら沢山いるよ」

…そう、肯定的な意見を取る者が大半を占めた。
ここで立候補すれば多大な信頼を得る事が出来る。
しかし…あまりにも残酷すぎる。
脳内で倫理的観点と信頼獲得を天秤にかけていると、後ろから声が聞こえてきた。

累の父親「畜生、あの野良め!」

私は父親の方に向かった。

累「どうかしたの?」

父親「また野良猫だ。この家に入りたくて網戸を爪でガリガリやるから穴が空いて、虫が入って来る。」

累「あー…厄介だ。」

父親「しかもこいつ、俺の車を傷つけたりして、挙句の果てには庭で採ってる野菜を食われちまった。」

累「…」


父親「それにあいつ、ここだけじゃない、色んな家に迷惑かけてる。この前なんか隣ん家の家猫と喧嘩して隣ん家の猫が怪我だらけだって聞いたしよ」

猫が好かれる理由に、可愛らしい鳴き声や見た目、それと行動がある。
しかし、それは一部の猫だけに過ぎず、野良猫は野生の本能で生きていくから人間の居住区に居られると、人間にとって害が多い…。

…この猫が存在する事によって私達に利益があるか?
…これだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:314

心療内科と家を往復するだけだったニートの大逆転劇

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:299pt お気に入り:3

処理中です...