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杉崎 累

活動開始

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この世界は美しく出来ている。しかし、中身を見てみれば惨憺たるもの。
人間の憎悪が渦巻き、誰もが仮面を被り生きている。

累「そんな世界が嫌いなんです。」
陽太「…そうか。」
陽太「…いつから、世界が嫌になったんだ?」
累「そうですね…」

昔、母親に虐待を受けた。
結局、今一緒に住んでいる父親が親権を貰って、その母親とは離婚した。

父は母の話をしたがらなかった。
けど再婚は決してしなかった。
男手一つで育てられた私は母の愛情というものを知らなかった。
でも、父親が私を養う為に一生懸命努力している姿を見ると、自暴自棄になるなんて考えは無くなった。

父は、私を自由に行動させてくれる。SNSを始めて、お気に入りの配信者も見つける事ができて、幸せだった。

ある日、気に入ってた配信者からとある人物を紹介してもらった。
『シズ』というニックネームの彼女は、私の同年齢であり、気に入ってた配信者…いや、くるみと呼ぼう。

くるみからの評価もあって、シズ氏はロケットスタートを決めた様に見えた。
私はシズ氏にSNSの事を色々と教えてあげた。
この行為がどう影響するかは知らないが、別にどうだっていいだろう。

私がSNSでやっている事は、くるみ氏の手伝いだろう。
知識豊富だと思われているのか、よく色んな事を訊かれる。
その度に、自分の中の最適解を答えているうちに仲良くなって、色々任せられる様になった。
信頼があるのはいいが、変な方向に向かいたくは無いので全てを受け入れる事はしない。

SNSでよく私に相談する人と言えば、くるみ氏の他にAilyという人物がいる。
彼女はシズ氏やくるみ氏とは違って、過激な事をやっていたりする。
くるみ氏、シズ氏よりも二つ歳上で、高校2年性らしい。

私に相談してくる内容の大半は恋愛関係だ。
と、いっても純粋ではなく、「昨日はA君とヤッたけど、今日はB君とヤッた~w」なんて事を相談してくる。

所謂、問題児という奴だろう。彼女の相談はくるみ氏に比べて稀だが、その分内容が重い。
彼女の相談に乗っていたら私まで裏社会的なとこに侵食されてしまいそうだ。

どうやら私はシズ氏に気に入られた様で、くるみ氏の時と同じ、色々な事を訊かれた。
ただ、シズ氏は覚えが良くてすぐに適応してくれる。だから手間がかからない。

人との接し方が丁寧で、印象は良い。
彼女の特徴といえば、やはり個人情報を大切にしているところだろう。
くるみ氏もAilyも、私にすぐ本名やら住んでる都市とかを送ってきたが、シズ氏にその傾向は見られない。
それに、動画内容も面白くてサムネイルやタイトルも良い。
“彼女は売れる”私はそう確信していた。

シズ氏の繋がりで、前から認知していた『よーた』氏からメッセージが送られてきた。
何故今更送ってきたのかは知らないが、答えない理由もないので答える。
話していると、よーた氏の特徴が分かった。
彼は熱心で優しい人だ。
シズ氏とよーた氏は、好きな配信者が共通という事で意気投合し知り合ったらしい。
この二人は特に仲良くしている事が多い為、最近では“カップル”なんて言われている。
実際は違うらしいが、そう言われるのも納得なくらいには仲が良い。

シズ氏とくるみ氏は同じ中学校らしい。
その学校の名前を聞いて私は驚いた。
私の住んでいるすぐ近くにあるからだ。
私が通っている中学校とは違うが、すぐ近くにあるから行こうと思えば行ける。

ただ、わざわざ会いに行きたいか、と訊かれれば別にそうでもない。
それに、もし会うなら本人達に許可を得てからの方がいい。
しかももうすぐ受験だ。
シズ氏が志望する高校に行けない事もないが、万が一シズ氏が落ちたら無駄な努力だろう。
だから別の高校に志望している。

私の予想通り、シズ氏の人気はどんどんと高まり、それに伴って頼られる事が多くなった。
Discordサーバーの開設や企画案を一緒に考えたり、その他にも色々ある。

「VTuberになりたい」という彼女に、金銭的支援をしてあげようかとも思ったが、
「自分の力で達成したい」との事で断られた。
よーた氏も私と同じく頼られる回数が多くなったらしく、私とよーた氏とシズ氏の3人がファンの間でよく纏められる様になった。

受験に伴い、シズ氏の活動頻度は落ちたが、それでも人気は高まる。
目の前で著名人が誕生するというのは、人生でも見る事はないだろう。
貴重な体験を台無しにしたくない為、私は即力を尽くす事にした。

受験も終わり、高校生になった。
思惑通り、シズ氏とは別の高校に通う事になった。
シズ氏もTwitterでわざわざ私にDMで伝えてくる程合格を喜んでいる。

さて、そんな幸せな事は終わり。最近、私の周りでは不穏な事が起きた。
くるみ氏からブロックされてしまった。
理由はよく分からないが…きっと何か嫌な事でもあったんだろう。
そんなに気にする事ではない。

私の通う高校は実に普通な高校であった。
特別、偏差値が高い訳でも低い訳でも無く、治安が悪い訳でもないし部活が強いとかもない。

部活に行くつもりは無かったので、代わりとしてバイトをする事にした。
その辺にある適当な店…にしようかと思ったがやめた。

接客業をやるんだったら面倒事は避けたいだろう。
人間の心理的に、ケーキ屋と花屋は幸せな気分の人が来る事が殆どだ。
ケーキとか花とかを買うって事は、お祝い事があるって事だろう。
だからクレームとか、面倒臭い客が少ないと考えたからだ。
そうと決まれば応募して、面接をしに行こう。

面接に合格して、家に帰るとシズ氏からDMが来ていた。
「先輩にいじめられてる。」
文と共に送られてきた写真には、第三者から危害を加えられたであろう痣があった。
私は驚いた。あれだけ合格を喜んで幸せな入学を終えて部活に入ったと思ったら早々にいじめられるとは。
そんな目に遭ったら大抵の人は辞めたくなるだろう。

累「誰がこんな事を?」
静「部活の先輩、最悪…」
累「いつから?」
静「部活に入ってすぐに…」
累「陽太さんにはもう言いましたか?」
静「…まだ言ってない。心配をかけたくないから言えない…」
累「すぐに退部するべきです。エスカレートしたら更に大変な事になります。」
静「でも…」

彼女の言い分はこうだった。
「小学生からずっと続けてきた大好きな事を、あんな奴に邪魔されただけで辞めたくない。」
その気持ちは決して理解出来ないものではない。

しかし、自身の命が一番大切だろう…。
私は退部する事を勧め続けた。
嫌われてもいい。シズ氏の無事の方が優先だ。
結局、「考える」と言い残してシズ氏はオフラインになってしまった。
もし…もしもシズ氏が意地を張って退部しなかったら…
確実に虐めは酷くなるだろう。
何とか早く対処しなければならない。

シズ氏が虐めに遭っている件は陽太さんにも言ったらしい。
やはり、退部を勧められたらしい。
結局シズ氏は部活を辞めたそうだ。
これではシズ氏があまりにも可哀想だ…。
私は陽太さんに一件のメッセージを送った。

「静さんの事を虐めた人に接触して欲しいです。」

当然、相手からは疑問の返答が来た。
話を強引に進めつつ、奢事を条件にして陽太さんに接触してもらう事にした。
しばらく経過して、陽太さんから情報が送られてきた。

私の指示通り、適当な訳を作って犯人に外出させる口実を作ってくれた。

内山 愛莉。高校3年生で生徒会長と部長を務めるしっかり者。
…表ではそう見えるだろう。
実のところ、犯人は分かっていた。
しかし、確固たる証拠が欲しかったからわざわざ陽太さんに接触してきてもらったんだ。
結局、この内山 愛莉という人物がやったという事で確定した。

そして、こちらでもう一つ準備しておく。
愛莉とよく接触してた男だ。

名前なんて知らないが、こいつは愛莉とヤッた事が相当忘れられないらしく、その執着は些か狂気的だ。
「愛莉に会わせてあげる」と言ったらすぐ私の話に乗ってきてくれた。

愛莉は私に対してこいつの事を「ろくでなし、良いとこ無い」と言っているので、まあ本当なんだろう。

男には、愛莉が陽太さんとの約束の為に外出する日付、時刻、場所などを教えてあげた。後は勝手に行動するだろう。

土曜日。私は黒色のTシャツと紺色のジーンズを身につけて外出した。
目的地は…内山 愛莉、その人の家だ。
一人の入学生を早々に酷い目に遭わせた責任を取ってもらわないといけない。

午前9:15、私は目的地に着いたので愛莉が出てくるのを待つ事にした。

午前9:30、愛莉が家から出てきた。
すぐに背後につき、怪しまれない程度についていった。

人通りが少なく、周辺に監視カメラが無い道に愛莉が入った時。
誰かが愛莉を後ろから襲い掛かった。
私は二人に気付かれない距離まで近付く事にした。

愛莉「…お前、あの時の…私をレイプするつもり?」
「へへ…前からこうしたかったんだ…」
愛莉「やめろ!触るな…」
「そのうるさいお口はこうしようねぇ」
愛莉「!!!」

どうやら、私の予想は当たりのようだ。
この男は愛莉を見た瞬間、あの日の事を思い出した。
その思い出が、心中にあった執着に火をつけて、愛莉を襲うように体を動かしたんだろう。

愛莉は何かで口を塞がれたようで、モゴモゴと叫びながら激しく抵抗させている音が聞こえる。

「あとちょっと…」

さて、もう限界か。
これ以上待っていると愛莉がこの男にレイプされるだろう。
私に女性を虐げる趣味は無いので、手順通りにやろう。
私は物陰から出て、この狂った男に話しかける。

累「お前、こんなとこで何してんだ?」
「うわっ!?誰だお前!」

男の後ろで押し倒されている愛莉だが、どうやらまだ完全には脱がされていなく、胸や陰部辺りの服は大丈夫に見えた。

「クソっ…!あとちょっとだったのに!あとちょっとだったのに!!」
「お前、邪魔すん」

愛莉「黙れ!キモ豚!」

そう叫んだあと、愛莉は落ちていた板で男を殴ろうとした。
それをされるとこっちの計画が崩れるので、私はその板を手で止めた。

愛莉「ちょっ…何で止めるのよ?」

私は静かに首を横に振った後、男の処理にかかる。

累「お前、そろそろ警察呼ぶからな。」

累「そちらの女性に着いた指紋とか、お前が散々垂らした体液とか髪の毛を調べれば一発で判るんだよ。」

さっきまでの威勢はどうしたのか、男は顔を青ざめた後、どこかへ走って逃げてしまった。

累「…大丈夫ですか?」
愛莉「え…あ、うん…」
愛莉「その、ありがとうございます…」
愛莉「でも、何でさっきは止めたんですか?」
累「あそこで攻撃したら、あいつが訴えた時に勝てないから」

実のところ、正当防衛が成立する可能性が高いから勝てない事はない。

が、あの男に通報という脅しをかければ、勝手に警察
に追われてると勘違いして、男が警察に駆け込める事は無くなるだろう。

しかしあそこで殴れば、あの男が警察に駆け込める程度の口実が出来てしまう。

だから止めた。

愛莉「あぁ…そうなんですね…ところで、名前を伺っても?」
累「杉崎 累です」
愛莉「累…はっ、もしかして…」
累「?」
愛莉「たまに私が相談する人と名前が一緒だなって…」
累「…もしかして愛莉さんですか?」
愛莉「…やっぱり、そうだったんだ!」

勿論、私はそんな事最初から知っている。
だが、これで恩を売る事が出来た。
これは何かに使えるかもしれない。

とにかく、無事目的通りに目的は果たした。
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