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辻本 陽太

愛の印

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山頂から見た夕日はすごく良い景色だった。
でも山に登って汗をかいた。
とっとと風呂に入りたかったけど、それは静も同じの様だ。
タイミングの良いような…こうなったら…

陽太「なぁ、ちょっといい?」 
静「ん?」 
陽太「一緒にさ、風呂入らない?」 
静「えぇ? 」
陽太「いや、待ってるの面倒だし、せっかくなら一緒に入っちゃおうよ」 
静「まぁ、いいけど… 」

ダメ元で言ってみたけど、答えはYESだった。
とんでもないスケベみたいな事を言っているように聞こえる。
でも静は別に嫌そうな顔はしていなかった。

俺が先に体を洗って、その後に静が洗い始める。
静が洗ってる間、俺は浴槽に浸かってボーっと静の事を見ていた。
色々な事を考えていて、ハッと気がついた。
見ている事が静にバレたらきっと怒られるに違いない。
さっさと視線を外してしまおう。

静「…ねぇ、さっきからずっと私の事見てるでしょ」
陽太「なんだ、バレてたのか」 
静「当たり前でしょ、というか、あんまりジロジロ見ないでほしいな。 」
静「その…恥ずかしいから 」
陽太「まぁ、そうだよな。ごめん」 

まさかのバレていたー…。
これは終わったかもしれない。
しかも静の事を見ながらそういう夜の営み?の事を考えてしまって…
…ちょっと興奮してしまっている気持ち悪い自分がいる。
自分から混浴を申し込んで彼女を見て興奮しているキモい俺の事を誰か殴ってくれ。
そんな自虐を考えていたら静が喋ってきた。

静「…ねぇ 」
陽太「ん?」 
静「さっき私の事を見てたのはなんで? 」
陽太「いや、なんかボーッとしてた…」 
静「…もしかしてさ、私の事ジロジロ見てる内に興ヘンな事考えちゃったり? 」
陽太「…はぁ?」 
静「ふふっ、やっぱり初めてなんだ 」

やばい、怒られる…と思った。
が、帰ってきたのは意外な一言だった。
俺の事をからかっているような、興奮を誘っているような、そんな気がした。
まさか…静も俺と同じように、初夜の事を考えていたのか…?
初夜についてお互いが承認している…という事なのだろうか。
俺は初夜を一生の愛人に捧げたい。
それは静も同じなのだろう。
俺と静は風呂を出た。
何も言わなくても分かる雰囲気が二人の間にあった。

俺は…俺は静と初夜を共にした。
そういう行為を致したという事は、俺にとっての一生の愛人は静という事。
それが嬉しかった。
俺は静とこれからずっと一緒に過ごすんだ。
信じられない。昔はただ適当に好きなYouTuberの事を呟いていただけなのに。
恋愛なんて一生、俺には縁がない物だと思っていた。
でも今は、隣に最愛の人が寝ている。
今、俺の人生の中で一番幸せだ。

俺は思う事があった。
静との初夜の事では無い。
結婚式で襲ってきた奴等と、俺がいない間に静を襲った奴。
こいつらについての事だ。
今や静は大人気のVTuberだ。
俺という彼氏がいる事もずっと前から公表していて、それを認めてくれるファン達が今の静を支ているんだろう。

襲ってくる奴は大抵、現役アイドルに彼氏が出来てブチギレるタイプの人間なんだろう。
が、顔も声も出ている現役アイドルですらそんなスパンで襲われる訳無いのに、
顔も住んでる場所も出てない静がこんなに襲われるのは何故だろうか。
こういう事は自分で考えるよりも累さんに聞いた方が早そうだし、聞いてみるか…。

累「なるほど…。」
陽太「無謀ですけど…何か分かりますかね…?」
累「予想は出来ますよ。合ってるとは限りませんが。」
陽太「本当ですか!?」
累「静さんの個人情報を知っている人…つまり友人やクラスメイト等ですね。」
陽太「でも…静の周りにはそんな事する人、いません」
累「一番可能性があるのはそういう人ですが…違う可能性もあるので分からないです。」

やっぱり、累さんでも分からないものは分からないか…。
でも貴重な情報が聞けた。
静の友人…俺は美優さんくらいしか知らないけど、そんな事するクラスメイトがいるだろうか。
俺は高校で3年間、静と一緒のクラスだったが、静の事がそんな事するくらい嫌いな人は居なかった。
だったら先輩後輩だろうか。
客観的に見ても静は恨まれる様な真似はしていないし、やっぱり偶然だったのだろう…。

静と初夜を共にして数ヶ月経った。
何でもない日、静がウキウキした様子で俺に駆け寄ってきた。

静「ねぇねぇ、今度の休日に美優ちゃんとその旦那さんと出かけたいんだけど、陽太くんも行こ?」
陽太「俺は全然良いけど、美優ちゃん達は大丈夫なの?」
静「うん、さっき話した時大丈夫だって言ってた」
陽太「そっか、じゃあ行こう」
静「やった!」

静がこんなに意気揚々としているのも珍しい、いわゆるダブルデートという事になるな。
俺達4人はその日についての予定やらを話し合って決めた。
ダブルデート…楽しみだ。

静が美優さん達とのダブルデートの話を持ち込んだ後、俺と美優の旦那さんが率先して予定日やら集合時間やらを決めた。
行く場所やらはその日の気分で決める事になった。
後は当日になるのを待つだけだ。

静と二人で楽しみに当日になるのを待っていたら、累さんからメッセージが来た。
それは、ここで会って話したい事がある。というもの。
幸いにもダブルデートの日とは被っていなかった為、俺は静に断って行く事にした。

累さんに指定された日、時間通りにそこに着くと既に累さんは着いていてコーヒーを飲みながら俺を待っていた。
慌てて累さんの方へ行くと累さんは俺の足音に気づいたのか、こっちを向いた。

陽太「ごめんなさい…待ちましたか?」
累「いえ、私も今来たところですよ。」
陽太「それにしても…何故こんな所に?」

累さんが指定したのはレストランや喫茶店などでは無く、海がよく見える展望台だった。
俺が着いた頃には夕日が差していて、海がオレンジ色に光っていた。

累「人気のない場所の方が声を聞き取りやすいでしょう。」
陽太「まあ…それはそうですけど…」
陽太「それで…話したい事って?」
累「最近、静さんは元気でしょうか?」
陽太「…え?」
累「2回も暴徒に襲われて、さぞ怖かったでしょう。」
累「そんな体験をしてしまって、落ち込んだりしてないかと…」
陽太「静なら元気ですよ。最近、僕と一緒にデートに行ったんです」
陽太「その時に、こんな感じで二人きりで夕日を見たんです。綺麗だったなぁ…。」
累「元気ですか…それは良かった。最近私は忙しくって全然静さんの生放送とかを見れてないのでね…」

そういえば累さんは就職したんだったな。
俺はまだ働けていない…アルバイトのままだ。
出来るだけ静のそばに居てあげたいからなんだけど…。

陽太「…話したい事って、本当にそれだけですか?」
累「…いえ、もう一つあります。」
陽太「それで…そのもう一つっていうのは…?」
累「最近、愛莉さんを見かけませんでしたか?」

その名前を聞いた瞬間、俺は背筋が凍るのを感じた。
愛莉…本屋で逃げられたあの時から会うどころか見かけていない。
累さんがその名前を出すのは何故だろう。

陽太「見てないですけど…愛莉がどうかしましたか?」
累「実は…昔に陽太さんに頼んで会った時、愛莉さんに懐かれてしまったんですよね。」
陽太「…⁉︎」
累「付き合ってはないんですが、連絡する頻度が高かったのに急に音沙汰が無くなったんです。」
陽太「あぁ…」
陽太「これ…言っていいのか分からないんですけど、愛莉に関する事ならちょっと知ってますよ。」
累「…どんな事ですか?」

俺はあの時に愛莉と本屋で出会い、逃げられた事、
愛莉の様子がおかしかった事、
ニュースでやっていた事、俺の知っている全てを話した。

累「…そうですか。」
陽太「愛莉は無事なんですかね…?」
累「分かりました。ありがとうございました。」

そう言うと累さんは飲み終わったコーヒーの空き缶を持って車で走り去ってしまった。
何だったんだろうか…
でも、累さんも愛莉を探している様子だった。
というか、愛莉と累さんにそんな繋がりがあったとは思わなかった。
でも俺に出来る事はここまでだ。
後は累さんに任せるべきだろう。
俺はそのまま車に乗って家に帰った。

累さんと話してから数日、ダブルデート当日になった。
俺は気合いを入れてかっこいい服装にしてみた。
静は相変わらずかわいくて、けど主張は大人しい服装だった。
美優さん達が俺と静を迎えに来てくれる。
その時間になる少し前から外で待っていようと、外に出た。
俺と静が外に出たのと同じタイミングで美優さん達の車が到着した。

お互いに初めてのダブルデートという事で、車内での会話は弾んだ。
話している内に高速道路に入って、目的地までもう少しというところで違和感を感じた。
横目で静を見てみると少し具合の悪そうな顔をしていた。

美優「大丈夫?エアコン強かったかな?」 
静「いや…ちょっと色々考えちゃって… 」
美優「あ~、たまにそういう時あるよね。酔っちゃてるなら外でも見てな」
陽太「静、あんまり無理しないでな。なんかあったら俺に言って。」
静「うん…分かった…」

静は外の景色を見始めた。
車酔いでもしたのだろうか。
普段酔わない静が車酔いするとは珍しいな。
そんな事を思っていたら、前に違和感を感じた。
俺達が乗っている車が走っている車線。
その車線を逆走している車が見えた。

陽太「おい!前!!前!!!」 

何だあの車!?!?と思ったと同時に俺は叫んでいた。
車線を移動しようとしたが間に合わず、俺達の乗る車は逆走してる車と衝突した。
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