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橘華 玲慧

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辻本 陽太

不可解

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これは偶然か。
愛莉の住んでいるアパートの一室とその周りが燃えている。
住所こそ知っているものの、部屋番号までは知らない。
だからあの燃えている所が愛莉の住んでいる部屋かは分からない。

だが、脳や思考が妙に怯えていた愛莉の様子と目の前の火事を照合してしまう。
あの後、愛莉は何処に行った?
家に帰っていたのなら今頃は…

俺に出来る事は何も無い。
俺は消防士が火を消すのをただ呆然と見ていた。

結局何も得られずに家に帰ると、静が点いているテレビを目の前に寝ていた。
見ながら寝落ちしたのか…。
俺はそっと静に毛布をかけて、テレビを消そうとした。

「この火事は現在消化活動が行われており、住んでいる内山 愛莉さんとの連絡が取れていないとの事で…」

内山 愛莉…あの部屋は愛莉の部屋だったのか…。
でも、俺は愛莉が俺から逃げたすぐ後にあのアパートに向かった。

だから愛莉は無事…というか生きてはいるはず…。
俺はテレビを消した後、自室に戻って愛莉に電話をかけた。
ただ、予想通り愛莉が電話に出る事は無かった。

怯えた姿といい、変な位置にある火傷の痕といい、愛莉は明らかに誰かに何かされている。
裏に誰かがいて、愛莉に悪い影響を与えている。
それで愛莉が逃げていた所を偶然俺が見つけて話しかけた。
もしそうだとすると、一刻も早く愛莉の無事を確保しなければならない。
…愛莉に逃げられて、その証拠隠滅として犯人は…

…あの火事…自然発火じゃなくて放火か…?

翌日、俺は愛莉の無事を確保しようとした。
だが…電話も出ない、既読すら付かない、居場所が分からない、これじゃあどうにも出来ない。
愛莉の家に行こうにも立ち入り禁止状態。
愛莉の実家は引っ越して別の人が住んでいる。
何も手がかりがない状態だ。

今、無理に何かしようとしても自分の首を絞めるだけになるだろうし…
とりあえずテレビを点けよう。
もし火事についてやっていたら耳に入るし、流れたら聞けばいい。
俺はテレビを点けて、聴き流しつつ過ごしていた。
静が起きてきて、腑抜けた声で「おはよぉ」なんて言いながら朝食を食べ始めた。
俺も朝食を食べようと思い立ち上がった。

「昨晩発生した火事は現在鎮火され、焼け跡から身元不明の一人の遺体が見つかりました。
警察は現在連絡の取れていない内山 愛莉さんとの関連性を調査していま」

俺は慌ててテレビを消した。
静は放心状態になっていた。
焼け跡から一人の遺体…。
愛莉はもしかして…
…いや、待てよ。火事が起きた時、愛莉は本屋に居たはずだ。

俺が火事を見つけた時には既に2~3台の消防車やパトカーが到着していて、近づかない様にと警察が注意していた。
もし愛莉が俺から逃げ出す前に火事が起きたなら…
その遺体は愛莉ではない事になる。
俺は放心状態の静の側で考えを巡らせた。

愛莉の裏に誰かが居て、そいつは愛莉に対して何かしらの暴力を振るっていた。
嫌になった愛莉は家でその誰かと二人きりになった時…

自分の家に放火してソイツを殺したのか?
殺す時、放火でなら証拠隠滅も同時に出来る。
あの肩ら辺にあった火傷の痕は…
放火した時に自分も少し巻き込まれた時についた。

…おかしい。
俺はたかが火事で考えすぎではないだろうか…。
だが、あの愛莉の様子を考えながらだとどうしてもこういう事を考えてしまう。
愛莉は…愛莉は大丈夫か?
これが偶然の重なりだと信じたい。

あのニュースから数日くらい、静が悩んでる様な気がする。
まあ仕方ないだろう。自分の事を虐めてきた人間とはいえ、知っている人間が死んだかもしれない。
そんな事が起きれば誰だって落ち込みはするだろう。
俺だって悩みが増えた。
もうあんな事は忘れよう。
愛莉は大丈夫だ。
あれは偶然が重なった結果だ。
俺は気を紛らわしたくて、何となくスマホをいじってた。

「先週発生した火事が、警察の捜査によって放火事件だという事が判明しました。

警察はこの放火事件の容疑者である内山 愛莉の行方を追っています。」

何となくで点けていたテレビから聞こえたのは不穏なニュース。
放火事件の容疑者として愛莉が指定されていた。
俺の憶測…雑な繋ぎ合わせでしかないと思っていた憶測が当たった。
あの火事は愛莉による放火だったんだ。
それなら愛莉が怯えていた理由も分かる。
逮捕されるのが怖かったんだ。
俺に会った時に逃げ出したのも、通報されると思ったんだろう。
そんなになるなら何故放火なんて…。

…もういいか。
俺が幾ら考えたって答えは解らないんだ。
というか、解らなくていい。
この事について考えるのをやめよう。
冷静になれ。
そういうのは警察の仕事だろう。
それに…もっと大事な事があるだろ?

俺はあの事をキッパリ忘れたい。
そして静と…したい。
その為にはムードを作らないといけない。
色々考えたが、結局一番簡単に出来るドライブにした。
俺は静とのドライブデートいつどこに行こうか、とかの順序を念密に考える事にした。

忘れたい。
忘れたい。
頭の中でずっと渦巻いているこの思い。
不幸を幸せで塗り替えてやろうと思って静をドライブデートに誘う事にした。
あの事を忘れる以外…もう一つの目的もあったりする。
何処に行くとかも決めたし、後は静を誘うだけだ。

陽太「なぁ、最近色々ありすぎて俺も静も疲れてるだろ?」 
静「え…まぁ、そうだね 」
陽太「だからさ、今日は天気いいし気晴らしにドライブでも行かない?」 
静「確かに…気晴らしに丁度いいかも 」
陽太「夕日、見に行こうよ」 

静は承諾してくれた。
準備も終わって待っていると静がかわいくて似合ってる服装で出てきた。
俺は「似合ってる」と一言だけ言って車に乗った。

外の天気は快晴。
ドライブデートするにはとてもいい日だ。
と言ってもこのまま夕日を観に行くスポットに行くと、夕日が観れるまでかなり待たないといけない。
だからショッピングモールに行く事にした。
買いたい物を好きに買わせてあげ、俺も欲しかった物を買う。
俺と静は買い物をしている内に、いつの間にか手を繋いでいた。

俺の知っているスポットの中で一番好きで、人がいないスポットを選んだ。
山頂にあるからちょっと登山しないといけないが、それでもここは綺麗だ。
俺と静は山を登り始めた。
登り始めてしばらくして、後ろから静の息切れが聞こえてきた。
俺は陸上部に所属していたから大丈夫だけど静はキツイか…。

静「はぁ…はぁ… 」
陽太「大丈夫?」 
静「全然…」
陽太「疲れたよね」 
静「後どれくらいあるの…? 」
陽太「あと半分くらいかな?」 
静「えぇ…無理… 」
陽太「分かった、俺がおぶってあげるよ」 
静「え…でも… 」
陽太「大丈夫だって、ほら…よっと」 

俺は疲れ切った静をおぶると、また登り始めた。
さっきよりほんの少しだけ歩き辛くはあるが、別にこれくらい大した事ない。
少し登っている内に静は寝てしまった様だ。
相当疲れてたんだろうな…。
後ろからすー、すーとずっとかわいい寝息が聞こえてくるし、なんかいい匂いもしてくるし、さっきより登りづらくなってしまった…。

そんな事がありつつも、目的地である山頂に着いた。
それとほぼ同時に静も起きたらしい。

陽太「あ、起きた起きた」 
静「んぁ…おはよ 」
陽太「ほら、着いたよ」 

静が背中から降りて、横に来るなり俺の手を握ってきた。
いつの間にか空が赤くなっていた。
目の前にあったベンチに二人で座ると、視界の中心にあった太陽が徐々に落ちていく。
俺と静以外に誰も空間。
寝起きでまた眠くなったのか、俺に静が寄りかかってきた。

静「綺麗… 」
陽太「そうだな…」 
静「疲れながら登ってきた甲斐があった…最後は陽太くんに任せちゃったけど。 」
陽太「いいんだよ、お疲れ様。」 

そして太陽が完全に隠れて見えなくなった頃、そろそろ山を降りようと思った。
俺は静に声をかけたが返答が無い。
顔を見てみると、どうやらまた寝てしまった様だ。
仕方ない。起こすのも可哀想だから俺は登る時と同じ様に静をおぶると、暗くなりつつある山を降り始めた。

駐車場に着いた。
この辺は誰もいない様なものだから夜になると少し怖い。
早く静を起こして車に乗せよう。

陽太「おーい、着いたよー」 
静「ん…どこに…? 」
陽太「車だよ、山から降りてきたの」 
静「え…? 」

完全に寝起きの声と顔で戸惑っている静。
かわいい彼女を早く車に乗せたいのでさっさと説明してしまおう。

静「あれ…?いつのまに…」
陽太「また寝始めたから俺がおんぶして降りてきたんだよ」 
静「え…ごめん… 」
陽太「謝んなくていいよ、静のかわいい寝顔が二度も見れなくて残念だけど」 
静「何言ってんのよ… 」

本音を漏らしつつ俺と静は車に乗った。
今日は満月。
せっかくだから、帰りは月がよく見える海沿いのルートにしよう。
帰るのが遅くなりそうだから俺は食べて帰る事を提案してみる。

陽太「すっかり夜だな、どこかで食べていこうか」 
静「そうね…そうしたいな 」
陽太「静は何が食べたい?」 
静「なんでもいいよ 」
陽太「じゃあ、寿司で」 
静「え?いいの? 」
陽太「いいよ別に、せっかくのドライブなんだから遠慮せず行きたいし」 

寿司に決めた理由がこれ以外に、静が寝言で「おすし…」とか言っていたからなんてとても言えない。
そんな事言われたら寿司屋に行くに決まってる。
海沿いのルートから離れて、一番近いところにある寿司屋に向かった。
しばらく走っていると寿司屋が見えてきた。

陽太「ここにしようか」 
静「うん…分かった 」

幸い、さほど混んでいなくてすんなりと入る事が出来た。
注文して、届いた品々を食べていく。
今までに家族と寿司を食べた事は何度もあるけど、最愛の人と一緒に食べる寿司は一番美味しい。
というか寿司に限った話じゃない。
静と一緒に居れれば俺は幸せだ。

静「はー…、もうお腹いっぱいだよ」
陽太「そうだな、そろそろ会計にするか」 
静「うん、そうだね 」
陽太「俺が全部出すから、静は待ってて」 
静「え?私も出すよ 」
陽太「ダメ、今日は無理してほしくないから俺が出す」 
静「えー… 」

今日は静の為にドライブしてるんだから、たまには俺が負担したい。
それに…昔の家賃やらの恩返しでもある。
静を先に車に乗せて、俺は会計を終わらせる。
車に乗ってまたあの海沿いのルートへ戻ってくると、さっきまでは見えなかった月がよく見える様になっていた。

家に着いて、静に声をかけたがまた返答が無い。
返答が無いという事は寝ているという事だ。
この眠り姫め。
しばらく体を揺すっていると静が起きた。

陽太「お、起きたか」 
静「私…また… 」
陽太「ほんと、疲れてたんだな」 
静「…今日はありがとうね…色々してもらってさ… 」
陽太「いいよいいよ、俺がしたかったんだからさ」 

久しぶりのドライブデートは大成功に終わった。
欲しい物は買えて、綺麗な景色も観れて、最高の一日だった。
後は…あれをするのみか…。
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