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第五章 インターミッション ~ミスラのだいぼうけん
3. 大勝利のミスラ
しおりを挟む■ 5.3.1
ミスラは初めてのダンジョンの中を進んでいきます。
ダンジョンの中は、人が歩ける平らな所もありますが、でこぼこしていてとても歩きにくいです。
でもこそれこそが前人未踏の地を探検する醍醐味というものです。
ダンジョンの中には、時々生き物(メンテナンス用小型自立ロボット)が住んでいたりします。
ミスラが近付くとみんな逃げて行ってしまいます。
初めのうちは、自分が強いので弱い魔物はみんな逃げていくんだ! と嬉しかったミスラなのですが、だんだんつまらなくなってきました。
勇者の大冒険ごっこもちょっと飽きてきてしまって、そろそろお部屋に戻ろうかな、と思い始めた頃、ミスラはダンジョンの奥の方に本物の魔物を見つけたのです!
--------------------
「寛いでいるところ申し訳ありません。ニュクス、ミスラを連れ戻すのを手伝って戴けませんか?」
「ん? ミスラがどうした? 先ほど主通路で会うたぞ? 飴玉をもらいに行くとか言うておったが。」
「ええ。それから朝食の後に貨物室に降りていったのですが、カメラの死角に入られてしまって。どうやらロックが開いていたメンテナンス通路に入り込んだ様なのです。」
「おお、大冒険じゃのう。」
「笑い事では無いのです。メンテナンス通路は、センサーは設置してありますが、カメラの設置数は多くありません。ミスラの身体の大きさだと、思わぬところにはまり込んでしまうかも知れません。」
「過保護じゃのう。自分で入ったのじゃ、自分で出てくるわい。」
「ニュクス。彼女はチップを持っていないのですよ。危機的状況に陥っても、助けを呼ぶ事が出来ないのです。それに彼女は、自分が宇宙船に乗っているという事をまだ理解し切れていない節があります。我々の常識は、彼女の常識と大きく異なります。」
「言いたい事は分かるがのう。たまには痛い眼を見るのも良い経験・・・・なんじゃいまのは?」
「メンテナンス通路セクターE#26-4D分岐路で、突発的な温度上昇による火災警報です。私が警報を遮断しました。ミスラが迷い込んだと思われるエリアと一致しています。ニュクス、お願いします。マサシやルナだと入り込めない細い通路もありますので。」
「ほんに。世話のかかる悪戯っ子じゃのう。こんな狭い通路で火遊びなぞ、戻ってきたらお尻ペンペンじゃ。」
「申し訳ありません。私もこういう時の為に再度生義体の取得を検討します。」
「そうじゃの。それが良い。儂も手伝うてやるわ。」
「よろしくお願いします。マップ座標送りました。メンテボットの最新情報から推定範囲を絞っています。リアルタイムで更新します。」
「あい分かった。どれ、一仕事するとしようかのう。」
--------------------
ダンジョンは広くなったり、狭くなったりしながらどこまでも続いています。
そんなダンジョンを進んでいくと、ミスラは奇妙な生き物を発見しました。
それはケトナ(カニに似た甲殻類。十本脚でハサミが大小二対。美味。)に似ていますが、銀色をしていて、ケトナよりかなり大きいのです。
その銀色の大きなケトナはミスラに気付いたようです。向きを変えると、前脚をふり上げて威嚇してきます。
◆ギガントスーパーハードシェルクラブ(カニっぽい何か。幅40cm位)があらわれた!
ケトナなら、川で何度も捕ったことがあります。
本当は気付かれない様に後ろから近づいて棒で押さえ付けるのが一番簡単な捕り方なのですが、すでに気付かれているのでその方法はもう無理です。
仕方がないので、こちらに気付いているケトナを捕る方法に変更です。つまり正面から近付いていって素早く背中を押さえつける方法です。
ミスラは装備している木の棍棒を構えて、ギガントスーパーハードシェルクラブに近付いて行きます。
でも、ミスラの棍棒はあまり長くありません。
ギガントスーパーハードシェルクラブ(面倒くさいので、以下「シェルクラブ」)の正面から背中を押さえようとすると、シェルクラブの前足がミスラの手に届きそうです。
目の前で前足を振り上げてこちらを威嚇しているシェルクラブは、ケトナみたいないかにも痛そうな大きなはさみは持っていないようですが、それでも前足で触られると痛そうな気がして、ミスラは思わずためらってしまいました。
結果的には、ここで思わずためらってしまったことがミスラの命を救いました。
ミスラがジリジリ近付いて行くと、突然シェルクラブが飛び上がりました!
飛び上がったシェルクラブは、空中で器用に向きを変えてまるでどこかの異星人の産卵用中間体のように、ミスラに腹を向けて全ての脚を大きく広げて飛びかかってきました!
びっくりしたミスラは、驚きのあまり少し飛び上がり、思わず腕を跳ね上げて後ずさりました。
本当に偶然、跳ね上がった棍棒の先がシェルクラブの腹の真ん中に当たり、突きを入れられたシェルクラブは弾き返されて元の位置に戻りました。
なかなか意表を突いた攻撃だシェルクラブ。
上手く突き返せていなければ、シェルクラブはきっとミスラの顔をガッチリと掴み、お腹からミスラの口の中ににゅ~と産卵管を入れてそのまま管を伸ばし、胃の中に卵を産み付けて、卵から孵った幼生はミスラのお腹の中を全部食い荒らしてしまうのです。
まあ、なんて恐ろしい事でしょう。
とっても驚かされてしまいましたが、シェルクラブと上手く距離が取れたミスラは、どうすればいいか考えています。
迂闊には近寄れません。今回は偶然撃退できましたが、もう一度は無理です。
閃きました!
ミスラは、ファイアーの魔法があることを思い出しました!
数歩後ろに下がったミスラは、スカジャ・・・もとい、伝説の勇者の鎧のポケットの中からファイアーの魔法を取り出しました。
使い方は知っています。前にルナが「くれーむぶりゅれ」というお菓子を作ってくれたときに、隣でずっと見ていたのです。
ミスラはファイヤーを右手でしっかり握ると、つまみを最大に回してトリガーを引きました。
青い炎がものすごい勢いで伸びて、一気にシェルクラブを包みます。
シェルクラブは煙を上げながら、すごい勢いで逃げていきました。
今がチャンスです!
徹底的に追跡して相手を追い詰め、確実に仕留め息の根を止めるまで追撃の手を緩めてはなりません・・・・などという、どこかの脳筋種族のようなことはしません。ミスラはお利口さんなのです。
ミスラはくるりと向きを変えると、全速力で来た道を引き返し始めました。
「おった、おった。この悪戯娘めが。心配させおってからに。」
急いでダンジョンから脱出しようとしているミスラの目の前に、再びヴァンパイア(ゴスロリ)が立ち塞がりました!
「ニュクス、ニュクス! 今そこに銀色のでっかいケトナみたいなのがいたの!」
ミスラは後ろを振り返りましたが、もちろんシェルクラブは陰も形もありません。ミスラに退治されて、きっと今頃はどこかに隠れて震え上がっているのです。ざまーみろ。
でもミスラもちょっと怖かったので、もう冒険者ごっこは終わりです。
「なんじゃと? レジーナ、そういう形の自立メンテナンスロボットがおったかいの?」
「いいえ。少なくとも『でっかい』と形容されるサイズのものはありません。」
「なんぞ入り込んでおるぞ。」
「おかしいですね。異物侵入報告は受けていないのですが。調査します。ニュクスはミスラを連れて戻ってください。」
「諒解じゃ。ミスラ、戻るぞえ。ここはちいと危ないでのう。」
ミスラは親切なヴァンパイアさんの護衛で、無事ダンジョンから脱出できました!
こうしてミスラの冒険者人生での初めてのダンジョン探索は大成功に終わったのです。
■ 5.3.2
「ニュクス。異物を発見しました。自立型のナノボット集合群体です。私の船内メンテナンス用ロボットに擬態していました。正確には、メンテボットを数体取り込み、その振りをしていた様です。」
「なんと。自立型ナノマシンとな。そのような物がまだあるのかや?」
「もちろん違法品、でしょう。」
「しかしどうやって船内に侵入出来るというのじゃ。物質の出入りは常に監視しておる筈じゃろう。」
「推測でしかありませんが。ハファルレアが無くした左足の靴と思われます。画像ログを確認しましたが、船内に保護した時には彼女は靴をちゃんと履いていました。しかし、C客室まで運ばれた時にはもう左足の靴は無くなっていました。脱落したのは貨物室でしょうから、場所的にも一致します。彼女とマサシを短時間で収容した混乱に紛れて上手く潜り込んだものと思われます。」
「靴にナノマシンを・・・いや、靴自体がナノマシンじゃったかのかも知れぬのう。多分ハファルレアはその様なこと知らぬのじゃろうな。
「自立型のナノマシン群体の制御にはAIが必要じゃが、なるほど。御法度のクローンアバターを使う様な奴等じゃ。さもありなん、と言う訳じゃの。」
「はい。その通りかと思います。通常の船であれば、ナノボットにより徐々に侵蝕され、気付いた時には手遅れ、と言う事になります。
「本船には、AIによって操られる自立式メンテナンスロボットと、質量ともに上を行くニュクスのナノボットがありますので、問題になる事はありません。そもそも小規模なうちは何とか誤魔化せても、システム等を直接侵攻し始めた時点で私が必ず気付きます。
「もっとも今回は、ミスラに見つけられて火を付けられたようですが。」
「えげつないやつらじゃのう。人質を拉致して罠だらけの隠れ家に監禁したかと思うたら、人質の救出にも罠を仕掛け、救出が成功したと思うたら実は人質自体にも罠を仕掛けておった、という訳か。徹底的にこっちを殺すつもりじゃったのじゃろうな。」
「ミスラのおかげで、本船設備に対する侵蝕はほとんどありませんでした。お手柄ですね。
「しかし、船内を定期的に巡回する半自立式の防衛用義体が必要です。ニュクス、協力お願いできますか?」
「勿論じゃ。他では見ぬような高機能の義体にしようぞえ。」
「ありがとうございます。頼りにしています。では、私は顛末をマサシに報告します。色々とありがとうございました。」
「なんの。結構楽しめたぞえ。たまにはこういうのも悪うないのう。」
「勘弁してください。後でミスラに注意をしておかないと。」
「最大の功労者じゃ。ほどほどにの。褒美をやっても良い位じゃ。」
「そうですね。聞き分けが良ければご褒美をあげることにします。」
「それがええ。」
ネットワーク空間で行われたレジーナのニュクスの会話に要した時間は、僅か0.5秒程度であった。
このナノマシン侵入事件を切っ掛けに、この後レジーナにはきわめて独創的かつ特徴的な半自立型巡回防衛義体が導入されることとなった。
(それでこいつらかー!)
(にゃー。)
色々あったが、レジーナ船内は今日も概ね平和であった。
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