夜空に瞬く星に向かって

松由 実行

文字の大きさ
上 下
42 / 143
第一章 危険に見合った報酬

42. 殺人の定義

しおりを挟む
 ジェトレ村を、お昼前に出発した俺達は夜に少し休憩したくらい。
 殆ど休憩も取らずに、夜通し歩いていた。
 イザベラの姉の挙式が、刻一刻と迫っている事もある。
 少しでも早く迷宮に行くという意見で、全員が一致していた。

 どうやら……
 改造された俺のチートな身体は、数日くらい眠らないでも平気らしい。
 しかし、それ以上に凄いのが悪魔だ。
 イザベラやアモンに聞いた所、彼等は睡眠を全然取らないでも平気だという。
 
 だがメンバーの中で、まともな人間であるジュリアは、そのようなわけにはいかない。
 竜神族の血が流れているらしいとはいえ、眠気を訴えるジュリア。
 俺は、背中を差し出してやった。
 
 ジュリアは嬉しそうにおぶさる。
 これって、ジェトレへ来た時と同じ。
 以前より、遥かに絆が深くなっているからジュリアは俺に甘えまくる。
 そして「こてん」と寝てしまった。 

 そんなジュリアの様子を、イザベラはじっと見つめていた。
 
 イザベラにしてみれば、ジュリアがとっても羨ましいと思ったようだ。
 彼女からもジュリアが起きたら、交代で背負ってくれとせがまれたのは当たり前の事だった。
 ジュリアも、多分断らないだろう。
 俺はまたひとつ、嫁に対する接し方を学んだ。

 常に公平であれと!

 明け方になって漸《ようや》く目覚めたジュリア。
 理由わけを話すと快諾してくれた。
 なのですぐ交代すると、イザベラはおもちゃを与えられた子供のように無邪気に笑った。
 そして安心したのか、ぐっすりと眠ってしまったのである。

 旅立った時から目指す先がキャンプと聞いて、迷宮とのマッチングが余りピンと来なかった俺。
 道すがらジュリアに、色々と疑問をぶつけてみた。

 ジュリアによると……
 この世界では迷宮が発見された場合、規模にもよるが一攫千金を狙って冒険者が殺到するという。
 
 冒険者が大勢居れば、武器防具、魔道具、ポーション、薬草などの迷宮攻略用の商品が大量に必要とされる。
 稼ぎになれば取り扱う商人も大挙して押し寄せる。
 加えて、日々の生活用品も必要になるから、こちらを扱う商人達も集まるのは当然だ。
 こうして人が集まれば、小さな集落や村が直ぐに出来る。
 それがこの世界での『キャンプ』と呼ばれる拠点だそうだ。

 移動が出来るような露店に近い店がまず出店し、小さな村の形態となる。
 迷宮が攻略されるにつれて、得られる冒険者達の利益に比例して段々と大きな店や施設……それらが発展して大きな村、そして町が造られて行くらしい。
 
 本来、俺とジュリアは商人だから店を出す方の立場。
 だけど現在はイザベラの依頼を受けているので冒険者という立ち位置である。

 そんなこんなで漸く、コーンウォールのキャンプへ到着した。
 イザベラも起きていて元気一杯。
 悪魔でも眠ればすっきりするのは同じみたい。

 俺は改めてキャンプを見た。
 ここも外敵の襲来に備えて、頑丈な岩壁でキャンプ全体を囲っている。

 俺達は正門から入る。
 当然所定の入場料、すなわち税金は必要だ。
 その際、身分証明書としてジェトレ村の村民証が役に立ったのは言うまでもない。

 だけど、入って吃驚。
 聞いていたとはいえ、キャンプ内は冒険者と商人ばっかりだから。
 たまに見られる綺麗で且つケバイ女性は、『お水』関係の女性が殆ど。
 ちなみに冒険者の女性は、香りで敵に感づかれてしまうから、あまり化粧をしないのだ。

 俺はつい、ジロジロ観察をしてしまった。

 このコーンウォールのキャンプは、かつての旧ガルドルド魔法帝国の廃墟を囲むように造られた小規模な集落であったという。
 しかし現在、人間族は勿論、アールヴやドヴェルグ、そして俺が初めて見る獣人族など冒険者と商人達の人種は多種多彩となっている。
 
 ごみごみしているが、俺はこのコーンウォールのキャンプの雰囲気が嫌いではない。
 昔、熱中したロールプレイングゲームの町に酷似しているからだ。

「ジェトレの村に比べればずっと規模が小さいけど何か活気がある場所だな」

 俺の言葉を受けて、ジュリアが解説してくれる。

「この規模じゃあ、一般市民は殆ど居ない場所だよ。居るのは冒険者と彼等に対して商売をしようとする商人だけだもの」

「納得! 全てが迷宮ありき……って事か」

「そうだね、迷宮っていうのはこのコーンウォールみたいに古代の遺跡の中にある物もあれば、何者かが意図して最近作られた物もあるんだ。後者はだいたい邪悪な闇の魔法使いが悪意を持って造り上げた物が多いんだよ」

 邪悪な闇の魔法使いが悪意を持って作り上げただと!?
 駄目だ!
 俺、何か……「うきうき」して来た!

「もう! トールったら呆れた! 凄く嬉しそうな顔をしてるんだから」

「そうか?」

「顔に出まくりだよ!」

「あはは……」

「もう! 言っとくけど、そんな危険な迷宮なんか絶対に行かないからね。闇の魔法使いは死霊術師が多いんだ。稀少なお宝を餌にして人間の魂を収集してから悪魔に契約を持ちかけるとんでもない輩共だよ」

 悪魔!?
 悪魔だったらもう俺とジュリアの目の前に居るけど……
 それもふたりもだ。

「悪魔に契約を持ちかける、とんでもない輩共」と言ってからジュリアはハッと気がついた。
 だって悪魔と『契約』したって今の俺達であり、それも単なる契約ではなく家族になってしまったのだから……
 
 ジュリアはバツが悪そうにイザベラを見た。
 
 そして、申し訳無さそうに両手を合わせたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ミッシング・ムーン・キング

和本明子
SF
月が消失してから百年後の地球で出逢った、青年“ライト”と月の化身“ルナ”の物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...