夜空に瞬く星に向かって

松由 実行

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第一章 危険に見合った報酬

35. ベレエヘメミナ・ハイウェイ

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■ 1.35.1
 
 
 駆逐艦霧谷は全力で空間を疾走する。
 しかし宇宙空間であるので、色取り取りの星々が煌めく周りの景色からは速度は全く感じられない。
 このまま数十分加速すれば、光速の20%にも達し、周囲の星々が徐々に前方に収束する現象を見られるのかも知れないが、2光分程度の距離の移動であるのでそこまでの速度には達さない。
 だから、周りを見ていても何も変化はない。しかしその実数千Gで加速しているのだ。
 艦橋内にも変化はない。数千Gで加速しようとも、重力推進は艦内の全ての物質を等しく重力で加速するためと、さらに重力ジェネレータにより慣性制御されているため身体に感じる重力は1Gから変動しない。
 
 そんな中、ブラソンは自らのバイオチップの中に保管していたプログラムを一つ起動した。
 このプログラムはブラソン手持ちのハッキングツールの中で最強であったが、パイニエから逃げ出さねばならない事態に陥ったのもこのプログラムの存在故であった。
 このプログラムは実行用行動パターンデータベースが巨大であり、違法に拡張してあるブラソンの脳内バイオチップの記憶野でさえ、ただ保存しているだけでそのおよそ六割を占めるほどの容量を食い潰す。しかし、たとえ持てるリソースの大半を消費してしまうとしても、ブラソンはこのプログラムを手放すつもりは全くなかった。
 そう、例えこのプログラムをただ所持しているだけで国によっては違法と見なされ、国家機関から追い回されることになろうとも。例えこのプログラムの存在によって、生まれ故郷を追われることになろうとも。
 
 そのプログラムは、ブラソンの今までの活動の集大成と言えた。そしてこれから先もその予定だ。
 なぜならそのプログラムには強力な学習機能が備わっているからだった。ブラソンと共に仕事をすればするほどブラソンが実行したあらゆる行動を学習して自分のものにする。そして過去の経験に照らし合わせて、現在目の前で発生している未経験の事態への対処法を編み出して実行する機能。
 すなわち、ハッキングのためのAI(人工知能)。
 AIを極端に忌み嫌うこの銀河系において、良くて違法すれすれ、悪ければ単純所持で極刑となることが確実である、強力なAIプログラムだった。
 ブラソンは惑星パイニエでハッキングを仕事としていた頃から長い間このプログラムを相棒として活動していたため、すでに充分長く彼と共に経験を積んでおり、大概の事は彼からの命令一つで実行するだけの実力を備えていた。平均的な実力のハッカーなど足元にも及ばないほどに。
 そしてブラソンはそのプログラムを呼び起こす。
 
(起きろ、ノバグ。)
 
《はい、ブラソン。ご命令を。》
 
 しばらく聞いていなかった相棒の声がなつかしい。
 「ノバグ」と名付けたこのプログラムは、同時に他のいろいろな作業をこなしつつも的確に指示が出せるように、自然言語を用いたI/Fと音声による入出力機能を備えている。
 
(このリストにある量子通信IDのデバイスを全て無力化しろ。完全に動作しなくなるまで破壊して良い。)
 
 駆逐艦キリタニに乗り込む前にサベスから手に入れた、ベレエヘメミナのセンサープローブのIDリストを彼女に示す。
 
《はい、ブラソン。リストにある全ての量子通信IDのデバイスを動作しなくなるまで破壊します。駆逐艦「キリタニ」ネットワークの存在を確認しました。駆逐艦「キリタニ」ネットワーク上にノバグ01を展開します。許可を。》
 
(許可する。)
 
 彼女が自分の中から出ていく感触がある。正確には彼女が駆逐艦「キリタニ」のネットワークにデータを送り、自身のコピーを作っている。
 ブラソンの脳内だけでは容量が十分ではなく、彼女の全てを展開して持てる力を十全に発揮させることが出来ない。
 彼女はブラソンの指示によって目を覚ますと辺りを「見回し」、十分な空き領域を持った駆逐艦「キリタニ」のネットワークを発見して、そのスペースを使って自分を展開して処理効率を上げることを提案してきたのだった。
 キリタニの上で彼女の分身が動いた気配がした。
 次の瞬間、ブラソンが眺めているセンサープローブのリストが上から順に凄まじい勢いで緑に反転していった。
 
《全デバイス破壊完了。システム上書きでのみ再起動可能です。》
 
(良くやった。ごくろうさん。)
 
《別命あるまでノバグ01はこのまま待機します。》
 
 ベレエヘメミナのセンサープローブを破壊しなければ、長射程を誇るベレエヘメミナ固定砲台から集中砲火を受ける事は必至だった。
 それをマサシは、光が行き来する僅かな時間差を使って、機動力の高い駆逐艦でレーザーを躱し、動きの無いセンサープローブを撃ち抜くつもりだったようだ。
 大口径の主砲を持つ21865B型駆逐艦といえど、ベレエヘメミナの射程の方が遥かに長い。自分の主砲が届かない遙か彼方から一方的に的にされ、僅かな時間差を利用してレーザーをぎりぎり避けつつ敵に接近し、曲芸の様な機動を行いながらさらにプローブを撃ち抜くなど、幾らマサシの操船が上手くとも自ら進んで体験したいとは思えなかった。
 そもそもベレエヘメミナと砲撃戦をやりたいわけでも無い。
 プローブをハッキングして破壊する事で対処出来るなら、それに越したことは無い。
 
 ハフォンでクーデター情報を収集しているときに、余りの情報の少なさに何度も彼女を使いたくなったが、後を付けられた時に彼女の存在に気付かれる危険を考慮して、使用する事は出来なかった。
 しかしセンサープローブの無力化はブラソンの手に負えなかったので、やむなく彼女を投入したのだった。
 勿論そこには、今からハッキングによる完全陥落を軍公認で行う事が出来る、ベレエヘメミナネットワークが相手だからと云う見切りもある。
 例え彼女の行動がネットワーク上のログに残ろうと、幾らでもその痕跡を消す事が出来る。
 
「マサシ、ベレエヘメミナの砲台はしばらく撃ってこない。安心して突っ込め。」
 
「ありがたい。どうやった?」
 
「ちょいと目潰しをした。奴らは今、シールドの外が全く見えていない。」
 
「最高だな、おい。」
 
「油断するな。そのうち対抗策を採ってくる。しばらくすれば、艦隊からプローブを出すか、艦隊のセンサーとダイレクトリンクしてくるはずだ。」
 
【駆逐艦隊、ベレエヘメミナまで距離20光秒(600万km)。全艦ランダム機動を開始。】
 
 確認できないが、この特殊任務を帯びた駆逐戦隊に所属する全ての駆逐艦がジグザグのランダム機動を開始した筈だ。
 駆逐艦隊を発した光が反乱軍艦隊に到達し、さらに反乱軍艦隊がレーザーを撃ってそれが駆逐艦に到達する頃には、駆逐艦は全く別の場所を飛んでいる。
 光速を越える探知システムは、これまでも何度も考案され、検討され、そして検討された数と同じだけ、その開発は失敗に終わっていた。
 実は地球において、また新たなコンセプトの元で超光速探知システムの開発が着手されているのだが、勿論まだ実用化にはほど遠い状態である。
 いずれにしても今現在銀河系には、何の準備も無く光の速度を超えて敵の存在を探知する方法は存在しなかった。
 
【駆逐艦隊、ベレエヘメミナまで240万km。ベレエヘメミナ固定砲台射程内に進入。】
 
 表示は出たが、もちろん砲撃は無い。
 
(ノバグ、第一、第二、第三基幹艦隊の各旗艦にコード送出。)
 
《はい。第一、第二、第三基幹艦隊の各旗艦にコード送出。完了。》
 
 これで反乱軍艦隊の半数が行動不能になる。
 特に、第一から第三基幹艦隊は太陽系内惑星側を守備しているので、ちょうど駆逐艦キリタニが突入している宙域と重なる。
 マサシは余り気にしていなかった様だが、駆逐艦キリタニは、最も内惑星側に近いエリア、すなわち反乱軍艦隊の密度が最も高い場所を割り当てられていた。嫌がらせというか、要するに自国の軍人を少しでも安全なところに割り当てた結果だと読めた。
 しかしそれをマサシが特に気にしていない風であったので、ブラソンも何も言わなかったのだった。面倒なところを押しつけやがったな、とは思ったが、彼には第一から第四基幹艦隊を一時的にでも完全に行動不能に出来るような手段があったからだ。
 
 イスアナのカシュタペホテルに宿泊している間に、軍のネットワークに侵入し、第一から第四基幹艦隊の旗艦の艦隊管制システムに、入力されたコマンドを全てエラーとしてしまい、指示を受け付けなくなるようなプログラムを仕込んでおいた。
 すぐに異常に気づき、最短の時間で対抗策を考えてくるであろうから、稼げる時間は多分ほんの数分程度になるだろう。しかしそのほんの数分間であっても、第一から第四旗艦艦隊は全く何も行動が出来なくなる。
 これは大きい。
 
【ベレエヘメミナ内縁到達、5秒前、4、3、2、1、0】
 
 カウントダウンに従って急激に大きくなったベレエヘンムと、細い線の様だったベレエヘメミナがすさまじい速度で近づいてきて、カウントゼロの瞬間に目の前に存在する巨大な構造物として現れた。
 
【作戦第二段階;重力ジェネレータにより外部重力焦点を生成し、ベレエヘメミナに沿って東方へ1万キロ飛行せよ】
 
「ベレエヘメミナ内部に重力焦点を生成。マサシ、行け!」
 
「おうよ。」
 
 艦体に対して下方に存在するベレエヘメミナがすさまじい速度で後ろに動き始めた。
 
 
■ 1.35.2
 
 
 直径が70万kmもある円環だと、目に見える範囲ではほとんど曲がっているようには見えない。
 駆逐艦「霧谷」はベレエヘメミナとの相対速度を上げながら、そのすぐ内側を飛翔する。
 ベレエヘメミナが艦体の下方50kmにあることで、まるで細い灰色の道路上を高速な車で疾走しているかのように感じる。
 今、ベレエヘメミナの中では数千Gの重力を持った重力焦点が秒速数百kmという速度で移動して、次々と空間転移シールド用ジェネレータを破壊していっている筈だ。
 ベレエヘメミナ上空での飛行距離カウンターが目にも止まらないスピードで変わっている。現在約1500km。
 もちろん、シールドジェネレータだけを選択的に破壊することは出来ず、そのほかの構造物やもしかすると多数の人間まで巻き込んでいるかも知れない。だがそんな事を構っている暇はない。やらねば、俺がやられる。
 
 数十秒の飛翔の後、3000kmほど前方にベレエヘメミナから打ち出された戦闘機が現れた。
 戦闘機を避けるために、飛行の軌道を大きく変える訳にはいかない。
 ベレエヘメミナからこれ以上離れると、駆逐艦霧谷のパワーコアでは重力焦点を生成するエネルギーを賄いきれず、ジェネレータの破壊が不十分になる可能性がある。
 
「ミリ、あれを落とせるか?」
 
 出番など無いと思っていた砲術士の仕事がいきなり発生した。
 
「やる。」
 
 次の瞬間、戦闘機隊のど真ん中に大穴が発生した。
 4~5機消えたか?
 爆炎を避けたのか、他の戦闘機の機動が一瞬揺らぎ、しかしすぐに立て直してこちらに向かってくる。
 戦闘機がミサイルを発射した。
 ミサイル280発。
 まずいな。これだけの数は避けきれないし、何発もの直撃を受けたならシールドが破れる。
 
「そのまま直進しろ。」
 
 スパイバージョンの上に、戦闘モードの入ったミリのぶっきらぼうな声がする。
 艦首から10発のミサイルが発射される。
 戦闘機隊に向けて進んでいくミサイルが、戦闘機の放ったミサイルとすれ違う瞬間、いきなり全弾爆散する。
 あるものは誘爆し、あるものはベレエヘメミナの空間転移シールドに接触し、あるものは宇宙空間に向けて弾き飛ばされた。
 ミリが何をやったか理解した。
 駆逐艦霧谷が発射したミサイルを、タイミングを合わせて艦首レーザーで撃ったのだった。
 進路クリア。
 霧谷は真っ直ぐ突き進む。
 その間もミリは主砲を合わせて13基あるレーザーを操り、戦闘機を撃墜していく。
 もちろん戦闘機もこちらに向けてレーザー攻撃を加えているが、小型艦とはいっても戦闘艦である駆逐艦のシールドは、戦闘機に積まれたレーザーの遠距離射撃程度ですぐに破られたりはしない。
 カウンターは約2500km。
 
【駆逐艦「ゴリス」、駆逐艦「ギョッケ」撃沈】
 
 管制システムが感情のこもらない声で言う。
 ブラソンが反乱軍艦隊を無力化してくれたので、駆逐艦霧谷の周りに他の船は存在しない。しかし他の駆逐艦の中には、ベレエヘメミナ近傍に駐留していた戦艦などに対応されてしまったものが出ているのだろう。
 ベレエヘメミナは空間転移シールドに包まれているので、流れ弾がベレエヘメミナに着弾する事は無い。反乱軍も遠慮無く全力で艦砲射撃を行ってくるはずだ。
 
 メッセージが流れたのとほとんど同じタイミングで、再び大量の戦闘機がベレエヘメミナから打ち出されてきた。
 前方に1200機、後方に1500機。
 これはさすがにまずい。
 
「ミリ、後方ミサイルと、7~13番砲塔の管制を貰う。前方は任せた。」
 
 と、ブラソン。
 そうだろう。幾らミリの射撃の腕前が想像以上に良かったとは言え、前後両方の敵を同時に相手にするのは無理だ。
 
「諒解。」
 
「ランダム機動開始する。重力焦点攻撃を維持。」
 
 と、俺。
 距離が近いのでどれほどの効果があるか分からないが、シールドにばかり頼ると、突然突破される事がある。シールドの負担は少しでも軽減した方が良い。
 
 ミリが主砲を使って敵戦闘機群の中に穴を穿っていく。
 同時に六門のレーザーで、先に出撃してきていた周辺の戦闘機を一つずつ潰す。思ったよりやってくれる。なかなかの腕だ。
 俺はミリが作った穴の中に艦体を滑り込ませるようにする。
 航法管制システムが、俺の指示に対してさらにランダム機動変数を加え、駆逐艦霧谷は端から見れば気が狂ったような動きで戦闘機部隊の中を抜けていく。
 
 1000kmほど先の、後から出撃してきた戦闘機隊がミサイルを一斉放出した。2800発。
 まるで雲のように密集したミサイル群が前方から迫ってくる。
 また10発のミサイルが艦首から放たれる。
 ミサイルはホーミング機能を切ってあるらしく、周囲の戦闘機には目もくれずに、僅かに広がりながら直進する。
 敵のミサイル群とすれ違う寸前で、10発のミサイルが全て自爆する。
 爆発に巻き込まれて数百発のミサイルが爆発し、近傍にいた他のミサイルがさらに誘爆する。残り1800発。
 大きなドーナツ状に残った1800発のミサイルが前方周囲から霧谷に向けて収束する。
 ミサイルとの軌道が交差する寸前、俺は艦を一瞬でベレエヘメミナに対して完全停止させた。
 ホーミング性の良くない1800発のミサイルは、駆逐艦霧谷の未来位置を通過し、ベレエヘメミナの空間転移シールドに突っ込んで、どこか彼方の空間に消えた。
 飛行距離カウンターは4900km。予定の大体半分。
 
「『加速しろ。後ろからも来る。」
 
 と、ブラソン。
 後ろを見ると、1000機近い戦闘機群と、そこから発射されたと思われる3500発のミサイルが、「霧谷」のすぐ後ろに迫っていた。
 霧谷はベレエヘメミナ相対速度で200km/secまで一瞬で加速した。
 ブラソンが後方ミサイルを釣瓶打ちに射出する。
 ブラソンが撃ったミサイルは、単発でそれぞれ妙な方向に飛んで行っていると思っていたら、六門のレーザーがミサイルを次々と打ち落とし始めた。
 ミサイルと戦闘機が密集している部分の前方に的確に、融合弾並みの直径数kmのプラズマと高速な弾体デブリが突然連続して展開された。そこにもろに突っ込んだミサイル群と戦闘機群に、次々と穴が発生していく。
 こいつも大概の腕だ、というか、人間業じゃない。多分、何かプログラムを使って対応しているのだろう。
 
 戦闘機のシールドは弾体デブリには強いが、ミサイル爆発のプラズマに突っ込むと一瞬で崩壊しているようだった。
 逆にミサイルはシールドなど持たないので、無数の弾体デブリに打ち抜かれ、爆発のプラズマに巻き込まれて爆発し、さらに爆発の際に発生したガスの衝撃波であらぬ方向に弾き飛ばされているようだった。
 戦闘機群に先行しているミサイルが次々と爆発し、発生したプラズマ雲を避けきれなかった戦闘機がこれもまた爆発する。
 ベレエヘメミナ近傍50kmという極めて狭い空間に、異常な量の戦闘機とミサイルがひしめき合っているので、思わぬ誘爆と連鎖反応を起こしているのだった。
 カウンターは6500km。
 
【駆逐艦「バットネイ」、駆逐艦「フィルザン」、駆逐艦「バクアー」、駆逐艦「ムデイー」撃沈。強襲駆逐艦隊残四隻】
 
 多分ここだけでなく、他の駆逐艦も同様に大量の戦闘機の迎撃を受けたのだろう。
 俺達の乗る駆逐艦霧谷は、俺が操縦している事、ブラソンが迎撃用のプログラムで高速に対応していること、ミリの本能的な状況判断と射撃技術が卓抜している事、ブラソンが仕込んだプログラムにより、近くにいる艦隊が出足を止められた事から生き残れているようだった。
 
 しかし、先ほど一瞬ではあってもミサイルを避ける為に艦を静止させた事が状況を悪化させた。
 後方の戦闘機群がほぼ真後ろに迫っており、前方からの戦闘機群とも合わせて完全に包囲された形になり始めている。
 ミリは引き続き主砲で戦闘機群に穴を開けているが、いかんせん敵の数が多すぎた。
 小回りの利く機動力という意味では、駆逐艦は戦闘機には敵わない。ベレエヘメミナから50km前後の距離を保ちつつ、相対速度は300km/sec以下という狭い自由度の縛りの中では、到底逃げ切れるものではない。
 戦闘機からのレーザーでの攻撃もかなり直撃弾を出しており、シールドの負荷ゲージがすでに50%を超えている。破られるのも時間の問題だ。本気でヤバイ状況だ。
 
【駆逐艦「キリタニ」空間転移シールド破断部分を形成。破断を1000kmまで拡張のこと】
 
 見れば、後方2000kmくらいの所に、僅かに空間転移シールドが完全に消失した部分が発生していた。視野の中に淡い青色で表示されている。
 
「反転するぞ。1000kmなんて待ってられるか。」
 
「無茶言え。あんな隙間入れるか。」
 
 ブラソンからの返答。
 
「舐めんな。行ける。」
 
「分かった、3秒間コントロール寄越せ。」
 
「は? 何を・・・」
 
 ブラソンが妙な事を言った、と思った瞬間、艦のコントロールが俺の手を離れた。
 一瞬で完全静止。
 霧谷の未来位置を多数のミサイルが通過。
 数発がシールドを直撃。プラズマを生成するが、電磁シールドと重力シールドで何とか逸らされ、艦体に被害無し。
 電磁シールド負荷85%。
 後方から追尾していた数百機の戦闘機が、静止について来れずに霧谷を追い抜いていく。
 
 霧谷が突然、艦体の重心点を中心にランダム回転を始める。
 慣性制御で、艦橋内には遠心力は発生していないが、とりあえず景色がぐるぐる回っていて目が回る。
 艦首、艦尾から断続的にミサイルを発射。
 ミサイルはベレエヘメミナの方向を除いて、半球状に広がっていく。
 ミサイルを継続して発射しながら、主砲を含めた全レーザー砲が連続射撃。
 霧谷が静止した事で、一気に襲いかかろうとした戦闘機群に、ミサイルが到達した瞬間、レーザーに打ち抜かれたミサイルが次々と爆発する。
 ベレエヘメミナの反対側が全て、ミサイルの爆発で発生したプラズマに覆われた。
 ミサイルの直撃を受けたもの、レーザーで打ち抜かれたもの、目の前に発生したプラズマに突っ込んだもの。
 静止した霧谷に不用意に向かってこようとした数百機もの戦闘機が、一瞬のうちに消えた。
 
「返すぞ。」
 
 ブラソンの声と共に、突然コントロールが返ってきた。
 
「お前が持っていたテラ製のゲームがヒントだ。そうだな、命名「ブラッディ・ロ・・・」
 
「言うな。」
 
 霧谷はすでに進路を反転し、相対速度300km/secまで加速している。
 そのまま相対速度500km/secまで加速する。
 突然の無茶苦茶な動きに対応し切れていない戦闘機群は全て後方に置き去りだ。
 空間転移シールドの切れ目が素晴らしい速度で近づいてくる。
 
 突然両脇に何か圧迫を感じた。
 真っ赤なマーカーに彩られた五十隻の戦艦がベレエヘメミナを挟んで、駆逐艦霧谷を包囲しているのが見えた。
 
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