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ミィパはフレーシに司令室へと呼び戻され、そこで見たことのない怪物に驚く。怪物は本来ならランダウルが座っているはずの席に、あたりまえのように座していた。
「……どういうことか説明してもらえるんでしょうね?」
「ゼネズさまだ」
言ったのはブライレムだった。
「このお方はゼネズさま。魔法技術で生きながらえ、ランダウルどのの姿を借りておられた、我々の真の主だ」
ミィパは困惑して、返す言葉を失う。
ゼネズは立ち上がり、彼女のほうへ歩み寄ってきた。
「驚くのも無理はない、ミィパ……だが私はおまえの忠誠心をよく知っている」
彼はミィパの顎を指で押し上げ、顔を近づけた。
「私の姿には、これからすこしずつ慣れてゆけばよい……」
「――ゼネズさま、よろしいですか?」
ブライレムが言う。
「ディクティニスに奪われたバードラ、本艦の周囲をうろついております。互いに攻撃圏内、つかず離れずでこちらの様子を窺っておるようだ……」
「かまわん、泳がせておけ。この生体戦艦の前にはバードラ級などクズ鉄同然。あれ一隻失ったところで同型艦はこの艦でいくらでも建造できる」
「頼もしいお言葉です。しかしやつらの側には未だ1型がおります。ランダウルどのもこちらに反旗を翻すでしょう。それに今の本艦では砲撃可能になるまでに時間がかかります」
「フム……では今のうちに潰しておくか……。準備ができ次第撃て」
するとヒュシャンが挙手した。
「ゼネズさま、よろしいでしょうか? ブレシッドの兄妹はどうします? もしバードラに乗っているとなると二人を巻き込みかねません」
「計画変更だ。あの兄妹にもう用は無い。……おっと、そうか、おまえは研究対象の喪失を恐れているのだな。……心配するな。代わりに私の体を調べさせてやる。それで我慢しろ」
「承知しました。正直に申しますと、私もあなたの肉体がどうなっているのか知りたかった」
「ならばちょうどよい。手始めに、ランダウルに埋設予定だった例の装置を私に埋め込んでもらおうか」
ヒュシャンが司令室を出てゆくと、ブライレムが言った。
「間もなく砲撃準備が整います」
◇
ローハはメインブリッジの窓越しに、生体戦艦を睨む。すると、通信が入った。
ディクティニスは通信を繋ぐように指示する。
メインスクリーンにゼネズの顔が映った。
「ゼネズ、きさま……!」ローハは歯を食いしばる。
「喜べ、ディクティニス。海底都市の者たちの悲願はまもなく達成される。この私と、生体戦艦によって」
ディクティニスが眉をひそめた。
「……最初からその空中戦艦を復活させるのが目的だったというわけか」
「その通り。ヴァンダルも怪物兵器も所詮は歩兵……バードラ級も僻地制圧や露払いのために造った、いわばハイローミックスのローの担い手にすぎん」
ゼネズはランダウルを見て続ける。
「だが、予定はいろいろと狂ってしまったな」ゼネズの濁った目がランダウルに向く。「順調に進めば私は今もランダウルでいられたのだが、まあいい。大事なのは地上文明の殲滅だ」
「そうはさせぬ! 総員戦闘態勢!」
「ほう、勇ましい。だがこちらも攻撃準備が整いつつある。なので先に言っておこう。さらばだ諸君。冥福を心より祈っている」
通信が切れた。
ローハはディクティニスに言う。
「あの艦にはまだブレシッドの子どもたちが取り残されています。なんとかして助け出さないと……」
「ならば――」ランダウルが言った。「ゼネズを殺せば生体戦艦も自壊する」
「どうしてそれがわかる?」
「私はゼネズに憑かれていた時、ヤツと記憶を共有していた。ゼネズは生体戦艦の力を独占するため、私に艦の自壊装置を埋め込もうとしていたのだ。生命反応が消えると作動する仕掛けだ。しかし私がこうしている今、あやつは自らの体内に自壊装置を埋め込んだに違いない」
「だがどうするのだ?」ディクティニスが訊く。「またあの艦に乗り込むつもりかね?」
「……私には大きな責任がある。そしてあの子たちを救う義務も。……その責務を果たすために、パイロットを一名お借りしたい。この艦には三座機が積んである」
「それならば……」出入り口付近で、とある人物が言った。「私が操縦しよう」
キャリー・プレイトだった。
「責務と言うなら、私にもある」
「しかし、その傷では……」
「海底都市の鎮痛剤はよく効く。それに、この艦に乗っている技能持ちは私しかいないようだからな」
彼女は背を向けた。
「時間も選択肢もないだろう? さあ、行こう」
「――わかった」
ローハとランダウルは、キャリー・プレイトと共に格納庫へと急いだ。
三人は艦載機に乗り込み、発艦準備を整える。
「今さらなんだが……」ローハは言った。「大丈夫か? スラウギーとはわけがちがうぞ?」
「操縦系統は大して変わらん。大丈夫だ。あんたらは無事に送り届けると約束する」
「……わかった。信じるよ」
キャリー・プレイトが笑顔で応え、それから問う。
「帰りはどうするんだ?」
「生体戦艦の脱出艇を使ってもらうつもりだ。あれには自動操縦機能がある」
ランダウルが答えた。
「なら迎えにいく必要は無いな」
艦載機がカタパルトに載り、発艦した。
急加速し、一気に大空へ躍り出る。
生体戦艦の攻撃が始まったのはその直後だった。
無数の砲弾がバードラを襲う。
バードラは回避運動をとりつつ主砲、副砲、対空砲――ありったけの武装を総動員して対抗した。
生体戦艦への砲撃は全て命中したが、生体戦艦の巨体の前にはそれが有効かどうか判然としない。
一方でバードラへの攻撃はその船体を激しく揺さぶった。
それでもバードラは撃ち続ける。
さらなる上空から砲戦を見て、ローハは冷や汗を流した。
そんなローハを慮ってか、ランダウルが言う。
「生体戦艦の主砲はバードラのものと同じだ。そしてバードラの装甲は自艦の主砲に耐えるだけの防御力を持っている。そう簡単には沈みはしない」
「ああ、その通りだ」とキャリー・プレイト。「こっちはこっちで厄介事が飛んできた!」
艦載機の機銃が火を噴く。
眼前に迫っていた翼竜型と羽虫型の怪物兵器を撃墜した。
が、怪物兵器は生体戦艦から次々と飛んできている。
「全部を相手してる暇はない! 強行突破するぞ!」
キャリー・プレイトが機体を傾ける。
怪物兵器の飛行編隊を避け、邪魔なヤツだけを撃ち落とす。
銃座のランダウルも後ろから迫る怪物兵器に向けて攻撃していた。
が、死角より羽虫の一匹が主翼に噛み付いてくる。
翼が欠損するものの、飛行能力はまだ損なっていない。
キャリー・プレイトは別の怪物兵器に羽虫をぶつけて斃す。
敵の編隊を突き抜けると、眼前に怪物樹が立ちはだかった。
「コイツは――!」
ローハは慄く。だが、
「またオマエか!」
キャリー・プレイトの声には怒りがこもっていた。
「よくもスラウギーをやってくれたな!」
彼女はとっておきの攻撃を繰り出した。誘導弾だ。
両翼から対艦誘導弾が放たれ、怪物樹を爆砕する。
残骸が宙を舞い、生体戦艦の船体にぶつかって弾かれたのち、落下していく。
ローハはひきつった笑いと共に怪物樹を見送った。
生体戦艦はもうすぐそこだ。
「降りる準備を!」
ローハとランダウルは風防を開き、強風に身を晒した。
生体戦艦の甲板上を、艦載機がすり抜ける。
そのタイミングで二人は飛び降りた。
上甲板で転がって衝撃を逃し、無事移乗する。
キャリー・プレイト機は宙返りしてバードラの方へ戻っていった。
ローハは彼女に向けて手を振って、艦内へ入る。
ランダウルが言った。
「私はまず装備を整えてから司令室に行く。きみは子どもらを」
「わかった。マーシャたちは任せてくれ」
「たのむ。合流できたら格納庫で待ってるんだ」
ランダウルは背を翻す。
そんな彼に、ローハはこう言った。
「死ぬなよ」
「ああ。まだ死ねはしない」
ランダウルが向こうへと去っていく。
残ったローハは、また嗅覚を最大限に使って兄妹とアリテームを捜した。
◇
ジェラとマーシャ、アリテームは生体戦艦内のゾンビ兵や怪物兵器の追手を退け、なんとか一息つける場所へと逃れた。
アリテームが扉の向こうを覗く。
「食堂か」
「ちょっと休もう……」とジェラ。「さすがに疲れた」
「二人は先に適当なとこ座ってて。なんかあるか見てくる」
「ありがとう、アリちゃん」
マーシャはそう言い、テーブルの紙ナプキンを使って刀についた血を拭った。
ジェラは長椅子に腰かけて一息つき、隣に座った妹の横顔をそっと窺う。
暗い表情だった。ここまで気落ちしているマーシャを見るのは初めてだ。
彼は妹を励まそうとかける言葉を探すが、結局何も見つからなかった。
どうしようと思い悩んでいると、マーシャが先に言葉を発する。
「……お兄ちゃん、あたしね……ずっと自分が善人だって思ってた……」
「マーシャは善人だよ。それもとびきりの」
「……今は、そう思えないの……」
「……どうして?」
「あたし……今まで誰かを憎いと思ったことなんて、一度もなかった……お兄ちゃんとケンカした時も、ローハさんがお兄ちゃんを傷つけた時も、ミィパに歯を折られた時も……。でも、ゼネズがアノットさんを殺した時は違った……」
マーシャは声が震えていた。
「あたしの心の奥底で、どす黒い気持ちがこみ上げてきたの……ゼネズを地獄に落としてやりたいって、あいつが苦しんで、泣き叫ぶ姿が見たいって思った……あいつを、殺してやりたいって……本気で――」
彼女は歯を食いしばり、涙を流す。大粒の涙だった。
「誰かを憎いって思ったの、初めてで……苦しくて……」
「マーシャ……憎しみは誰の心にもある。……だから、きみは今も善人なんだ」
ジェラはマーシャの肩を抱き、それから彼女に胸を貸した。
「つらい……苦しいよ……お兄ちゃん……」
マーシャはずっと泣き続けた。
飲み物と軽食を持ってきてくれたアリテームも、ジェラと目配せをして、静かに彼女の傍らで寄り添う。
しばらくして、ようやくマーシャは泣き止み、落ち着きを取り戻した。
ジェラは問う。
「もう大丈夫?」
「うん……なんとか。ごめんね、二人とも」
「謝ることないよ」アリテームは飲み物を差し出す。「ほら、水分補給」
彼の言葉にマーシャはすこし笑い、
「ありがと」
とカップを受け取った。
三人は腹ごしらえをしながら、今後どうするか話し合う。
「ぼくはなんとかしてここを出て、ローハさんや伯父さんたちと合流するべきだと思う」
ジェラは言った。
「正直なところ、ぼくらだけじゃあゼネズはおろか四天王さえ倒すのは難しいんじゃないかな……」
「確かに。でもそうするとバードラへの連絡手段が要るけど……アリちゃんできそう?」
「うーん……できなくはないかもだけど、今の生体戦艦は別のコンピュータで動いてるから、ハックするにしても時間がかかると思う……」
「いっそのこと、この艦の心臓部を壊してゼネズごと沈めちゃうってのも、どうだろう……やっぱ危険かな?」
「アリかナシかで言えばアリだと思うけども――」
食堂のドアが開いた。
兄妹は身構え、アリテームも銃口を向ける。
「待て待て! わたしだ。ローハだ」
「ローハさん!? どうしてここに――!」
三人はローハへ駆け寄る。
「引き返してきたんだよ。きみらを放ってはおけない」
「ローハさん……ごめんね、でもありがとう。あたしたちのために」
「当然のことさ」ローハは微笑む。「それに、ランダウルも来ている」
「伯父さんが?」
「ああ。一足先にゼネズのいる司令室へ向かった」
「……なら、決まりだね」
三人は顔を見合わせる。
「ああ。今度こそ終わらせる」
「ここで逃げても、いつかは決着をつけないといけないものね」
ローハも頷く。
「行こう」
かくして四人は決戦の場へと歩を進めた。
ミィパはフレーシに司令室へと呼び戻され、そこで見たことのない怪物に驚く。怪物は本来ならランダウルが座っているはずの席に、あたりまえのように座していた。
「……どういうことか説明してもらえるんでしょうね?」
「ゼネズさまだ」
言ったのはブライレムだった。
「このお方はゼネズさま。魔法技術で生きながらえ、ランダウルどのの姿を借りておられた、我々の真の主だ」
ミィパは困惑して、返す言葉を失う。
ゼネズは立ち上がり、彼女のほうへ歩み寄ってきた。
「驚くのも無理はない、ミィパ……だが私はおまえの忠誠心をよく知っている」
彼はミィパの顎を指で押し上げ、顔を近づけた。
「私の姿には、これからすこしずつ慣れてゆけばよい……」
「――ゼネズさま、よろしいですか?」
ブライレムが言う。
「ディクティニスに奪われたバードラ、本艦の周囲をうろついております。互いに攻撃圏内、つかず離れずでこちらの様子を窺っておるようだ……」
「かまわん、泳がせておけ。この生体戦艦の前にはバードラ級などクズ鉄同然。あれ一隻失ったところで同型艦はこの艦でいくらでも建造できる」
「頼もしいお言葉です。しかしやつらの側には未だ1型がおります。ランダウルどのもこちらに反旗を翻すでしょう。それに今の本艦では砲撃可能になるまでに時間がかかります」
「フム……では今のうちに潰しておくか……。準備ができ次第撃て」
するとヒュシャンが挙手した。
「ゼネズさま、よろしいでしょうか? ブレシッドの兄妹はどうします? もしバードラに乗っているとなると二人を巻き込みかねません」
「計画変更だ。あの兄妹にもう用は無い。……おっと、そうか、おまえは研究対象の喪失を恐れているのだな。……心配するな。代わりに私の体を調べさせてやる。それで我慢しろ」
「承知しました。正直に申しますと、私もあなたの肉体がどうなっているのか知りたかった」
「ならばちょうどよい。手始めに、ランダウルに埋設予定だった例の装置を私に埋め込んでもらおうか」
ヒュシャンが司令室を出てゆくと、ブライレムが言った。
「間もなく砲撃準備が整います」
◇
ローハはメインブリッジの窓越しに、生体戦艦を睨む。すると、通信が入った。
ディクティニスは通信を繋ぐように指示する。
メインスクリーンにゼネズの顔が映った。
「ゼネズ、きさま……!」ローハは歯を食いしばる。
「喜べ、ディクティニス。海底都市の者たちの悲願はまもなく達成される。この私と、生体戦艦によって」
ディクティニスが眉をひそめた。
「……最初からその空中戦艦を復活させるのが目的だったというわけか」
「その通り。ヴァンダルも怪物兵器も所詮は歩兵……バードラ級も僻地制圧や露払いのために造った、いわばハイローミックスのローの担い手にすぎん」
ゼネズはランダウルを見て続ける。
「だが、予定はいろいろと狂ってしまったな」ゼネズの濁った目がランダウルに向く。「順調に進めば私は今もランダウルでいられたのだが、まあいい。大事なのは地上文明の殲滅だ」
「そうはさせぬ! 総員戦闘態勢!」
「ほう、勇ましい。だがこちらも攻撃準備が整いつつある。なので先に言っておこう。さらばだ諸君。冥福を心より祈っている」
通信が切れた。
ローハはディクティニスに言う。
「あの艦にはまだブレシッドの子どもたちが取り残されています。なんとかして助け出さないと……」
「ならば――」ランダウルが言った。「ゼネズを殺せば生体戦艦も自壊する」
「どうしてそれがわかる?」
「私はゼネズに憑かれていた時、ヤツと記憶を共有していた。ゼネズは生体戦艦の力を独占するため、私に艦の自壊装置を埋め込もうとしていたのだ。生命反応が消えると作動する仕掛けだ。しかし私がこうしている今、あやつは自らの体内に自壊装置を埋め込んだに違いない」
「だがどうするのだ?」ディクティニスが訊く。「またあの艦に乗り込むつもりかね?」
「……私には大きな責任がある。そしてあの子たちを救う義務も。……その責務を果たすために、パイロットを一名お借りしたい。この艦には三座機が積んである」
「それならば……」出入り口付近で、とある人物が言った。「私が操縦しよう」
キャリー・プレイトだった。
「責務と言うなら、私にもある」
「しかし、その傷では……」
「海底都市の鎮痛剤はよく効く。それに、この艦に乗っている技能持ちは私しかいないようだからな」
彼女は背を向けた。
「時間も選択肢もないだろう? さあ、行こう」
「――わかった」
ローハとランダウルは、キャリー・プレイトと共に格納庫へと急いだ。
三人は艦載機に乗り込み、発艦準備を整える。
「今さらなんだが……」ローハは言った。「大丈夫か? スラウギーとはわけがちがうぞ?」
「操縦系統は大して変わらん。大丈夫だ。あんたらは無事に送り届けると約束する」
「……わかった。信じるよ」
キャリー・プレイトが笑顔で応え、それから問う。
「帰りはどうするんだ?」
「生体戦艦の脱出艇を使ってもらうつもりだ。あれには自動操縦機能がある」
ランダウルが答えた。
「なら迎えにいく必要は無いな」
艦載機がカタパルトに載り、発艦した。
急加速し、一気に大空へ躍り出る。
生体戦艦の攻撃が始まったのはその直後だった。
無数の砲弾がバードラを襲う。
バードラは回避運動をとりつつ主砲、副砲、対空砲――ありったけの武装を総動員して対抗した。
生体戦艦への砲撃は全て命中したが、生体戦艦の巨体の前にはそれが有効かどうか判然としない。
一方でバードラへの攻撃はその船体を激しく揺さぶった。
それでもバードラは撃ち続ける。
さらなる上空から砲戦を見て、ローハは冷や汗を流した。
そんなローハを慮ってか、ランダウルが言う。
「生体戦艦の主砲はバードラのものと同じだ。そしてバードラの装甲は自艦の主砲に耐えるだけの防御力を持っている。そう簡単には沈みはしない」
「ああ、その通りだ」とキャリー・プレイト。「こっちはこっちで厄介事が飛んできた!」
艦載機の機銃が火を噴く。
眼前に迫っていた翼竜型と羽虫型の怪物兵器を撃墜した。
が、怪物兵器は生体戦艦から次々と飛んできている。
「全部を相手してる暇はない! 強行突破するぞ!」
キャリー・プレイトが機体を傾ける。
怪物兵器の飛行編隊を避け、邪魔なヤツだけを撃ち落とす。
銃座のランダウルも後ろから迫る怪物兵器に向けて攻撃していた。
が、死角より羽虫の一匹が主翼に噛み付いてくる。
翼が欠損するものの、飛行能力はまだ損なっていない。
キャリー・プレイトは別の怪物兵器に羽虫をぶつけて斃す。
敵の編隊を突き抜けると、眼前に怪物樹が立ちはだかった。
「コイツは――!」
ローハは慄く。だが、
「またオマエか!」
キャリー・プレイトの声には怒りがこもっていた。
「よくもスラウギーをやってくれたな!」
彼女はとっておきの攻撃を繰り出した。誘導弾だ。
両翼から対艦誘導弾が放たれ、怪物樹を爆砕する。
残骸が宙を舞い、生体戦艦の船体にぶつかって弾かれたのち、落下していく。
ローハはひきつった笑いと共に怪物樹を見送った。
生体戦艦はもうすぐそこだ。
「降りる準備を!」
ローハとランダウルは風防を開き、強風に身を晒した。
生体戦艦の甲板上を、艦載機がすり抜ける。
そのタイミングで二人は飛び降りた。
上甲板で転がって衝撃を逃し、無事移乗する。
キャリー・プレイト機は宙返りしてバードラの方へ戻っていった。
ローハは彼女に向けて手を振って、艦内へ入る。
ランダウルが言った。
「私はまず装備を整えてから司令室に行く。きみは子どもらを」
「わかった。マーシャたちは任せてくれ」
「たのむ。合流できたら格納庫で待ってるんだ」
ランダウルは背を翻す。
そんな彼に、ローハはこう言った。
「死ぬなよ」
「ああ。まだ死ねはしない」
ランダウルが向こうへと去っていく。
残ったローハは、また嗅覚を最大限に使って兄妹とアリテームを捜した。
◇
ジェラとマーシャ、アリテームは生体戦艦内のゾンビ兵や怪物兵器の追手を退け、なんとか一息つける場所へと逃れた。
アリテームが扉の向こうを覗く。
「食堂か」
「ちょっと休もう……」とジェラ。「さすがに疲れた」
「二人は先に適当なとこ座ってて。なんかあるか見てくる」
「ありがとう、アリちゃん」
マーシャはそう言い、テーブルの紙ナプキンを使って刀についた血を拭った。
ジェラは長椅子に腰かけて一息つき、隣に座った妹の横顔をそっと窺う。
暗い表情だった。ここまで気落ちしているマーシャを見るのは初めてだ。
彼は妹を励まそうとかける言葉を探すが、結局何も見つからなかった。
どうしようと思い悩んでいると、マーシャが先に言葉を発する。
「……お兄ちゃん、あたしね……ずっと自分が善人だって思ってた……」
「マーシャは善人だよ。それもとびきりの」
「……今は、そう思えないの……」
「……どうして?」
「あたし……今まで誰かを憎いと思ったことなんて、一度もなかった……お兄ちゃんとケンカした時も、ローハさんがお兄ちゃんを傷つけた時も、ミィパに歯を折られた時も……。でも、ゼネズがアノットさんを殺した時は違った……」
マーシャは声が震えていた。
「あたしの心の奥底で、どす黒い気持ちがこみ上げてきたの……ゼネズを地獄に落としてやりたいって、あいつが苦しんで、泣き叫ぶ姿が見たいって思った……あいつを、殺してやりたいって……本気で――」
彼女は歯を食いしばり、涙を流す。大粒の涙だった。
「誰かを憎いって思ったの、初めてで……苦しくて……」
「マーシャ……憎しみは誰の心にもある。……だから、きみは今も善人なんだ」
ジェラはマーシャの肩を抱き、それから彼女に胸を貸した。
「つらい……苦しいよ……お兄ちゃん……」
マーシャはずっと泣き続けた。
飲み物と軽食を持ってきてくれたアリテームも、ジェラと目配せをして、静かに彼女の傍らで寄り添う。
しばらくして、ようやくマーシャは泣き止み、落ち着きを取り戻した。
ジェラは問う。
「もう大丈夫?」
「うん……なんとか。ごめんね、二人とも」
「謝ることないよ」アリテームは飲み物を差し出す。「ほら、水分補給」
彼の言葉にマーシャはすこし笑い、
「ありがと」
とカップを受け取った。
三人は腹ごしらえをしながら、今後どうするか話し合う。
「ぼくはなんとかしてここを出て、ローハさんや伯父さんたちと合流するべきだと思う」
ジェラは言った。
「正直なところ、ぼくらだけじゃあゼネズはおろか四天王さえ倒すのは難しいんじゃないかな……」
「確かに。でもそうするとバードラへの連絡手段が要るけど……アリちゃんできそう?」
「うーん……できなくはないかもだけど、今の生体戦艦は別のコンピュータで動いてるから、ハックするにしても時間がかかると思う……」
「いっそのこと、この艦の心臓部を壊してゼネズごと沈めちゃうってのも、どうだろう……やっぱ危険かな?」
「アリかナシかで言えばアリだと思うけども――」
食堂のドアが開いた。
兄妹は身構え、アリテームも銃口を向ける。
「待て待て! わたしだ。ローハだ」
「ローハさん!? どうしてここに――!」
三人はローハへ駆け寄る。
「引き返してきたんだよ。きみらを放ってはおけない」
「ローハさん……ごめんね、でもありがとう。あたしたちのために」
「当然のことさ」ローハは微笑む。「それに、ランダウルも来ている」
「伯父さんが?」
「ああ。一足先にゼネズのいる司令室へ向かった」
「……なら、決まりだね」
三人は顔を見合わせる。
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「ここで逃げても、いつかは決着をつけないといけないものね」
ローハも頷く。
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