23 / 25
(8)
しおりを挟む
毎日が怖くて仕方がなかった。
ヒスイさんが目を覚まさないのは、まだどこか怪我しているからではないか、そう思って治療をしようとしても回復魔法は発動しなかった。それはつまり、怪我は治り切っているということだ。
「ヒスイさん…」
自分よりも低い体温を持つヒスイさんの手は相変わらず冷たいままだった。
以前、ヒスイさんがルカの体温は落ち着くと言っていたことからずっと傍にはいるが、ルカはこれ以上どうしたらいいのか分からなかった。
ただ、早く目が覚めること祈って過ごす日々が重ねるのだ。
♦︎
ーずっと、このままでいたい。
何も考えなくて、何もしなくてもいいこの時間が楽だった。
もういっそのこと、目覚めたくないと思っていたのに、自分が求めている臭いが鼻に届く。気のせいかと思ったが、その臭いが消えることはなく、次第に温かい体温を感じ始める。
重たい瞼を開けてみると視界には懐かしい光景が目に広がり、無意識に手を伸ばしていた。
触れると同時に自分よりも小さな身体は驚いたように顔を上げ、視線が合うと涙を溜めて溢れ出す。弱い力で必死に拳を握り締める姿を働かない頭でぼんやりと眺めていた。
「っ、ひす、いさっ…ひすいさん…」
…ずっと会いたかった人がいる。
泣いていて可哀想なはずなのに、泣き止んで欲しいのに、自分に縋る姿が愛おしく感じてしまう。
「……ルカ?」
名前を呼ぶと、ルカはまた力を込めて更に泣き始める。さすがに胸が痛くなり始めて、ルカの身体を抱き締めるために身体を起こす。
「ルカ、こっち見て。」
首を振るので背中を優しく叩きながら、こちらをみるのを待っていると、ようやく赤くなった目で顔を上げてくれた。
「泣かないで。」
涙を拭おうとすると、手を叩かれて払い落とされる。予想外のことに驚いていると、ルカは胸ぐらを掴むように両手に力を込めてくる。
「ふざけないで!ヒスイさんのせいじゃん!俺は…ヒスイさんがっ、怪我して、目を覚まさなくて…もう本当に目を覚まさないんじゃないかって……」
「ごめん、俺が悪かった。」
「違う!何で、否定してくれないの?!ヒスイさんも怒ってよ!」
「ごめん…」
「だからっ、ゔー…」
ルカは自分でも心の整理がついていないかのように顔を歪ませて唸ると、また顔を埋めてしまった。ヒスイ自身もどう宥めていいのか分からなくて困惑した。
「なんで?何で、あんなに怪我してたの?」
「…どうでも良くなって。なんかもう、贖罪しても意味がないよなって…」
「贖罪?」
「そう…俺さ……、殺したんだ。仲間の竜人達を全員…。その罪を償うために、あいつに力を貰った。」
ヒスイさんが目を覚まさないのは、まだどこか怪我しているからではないか、そう思って治療をしようとしても回復魔法は発動しなかった。それはつまり、怪我は治り切っているということだ。
「ヒスイさん…」
自分よりも低い体温を持つヒスイさんの手は相変わらず冷たいままだった。
以前、ヒスイさんがルカの体温は落ち着くと言っていたことからずっと傍にはいるが、ルカはこれ以上どうしたらいいのか分からなかった。
ただ、早く目が覚めること祈って過ごす日々が重ねるのだ。
♦︎
ーずっと、このままでいたい。
何も考えなくて、何もしなくてもいいこの時間が楽だった。
もういっそのこと、目覚めたくないと思っていたのに、自分が求めている臭いが鼻に届く。気のせいかと思ったが、その臭いが消えることはなく、次第に温かい体温を感じ始める。
重たい瞼を開けてみると視界には懐かしい光景が目に広がり、無意識に手を伸ばしていた。
触れると同時に自分よりも小さな身体は驚いたように顔を上げ、視線が合うと涙を溜めて溢れ出す。弱い力で必死に拳を握り締める姿を働かない頭でぼんやりと眺めていた。
「っ、ひす、いさっ…ひすいさん…」
…ずっと会いたかった人がいる。
泣いていて可哀想なはずなのに、泣き止んで欲しいのに、自分に縋る姿が愛おしく感じてしまう。
「……ルカ?」
名前を呼ぶと、ルカはまた力を込めて更に泣き始める。さすがに胸が痛くなり始めて、ルカの身体を抱き締めるために身体を起こす。
「ルカ、こっち見て。」
首を振るので背中を優しく叩きながら、こちらをみるのを待っていると、ようやく赤くなった目で顔を上げてくれた。
「泣かないで。」
涙を拭おうとすると、手を叩かれて払い落とされる。予想外のことに驚いていると、ルカは胸ぐらを掴むように両手に力を込めてくる。
「ふざけないで!ヒスイさんのせいじゃん!俺は…ヒスイさんがっ、怪我して、目を覚まさなくて…もう本当に目を覚まさないんじゃないかって……」
「ごめん、俺が悪かった。」
「違う!何で、否定してくれないの?!ヒスイさんも怒ってよ!」
「ごめん…」
「だからっ、ゔー…」
ルカは自分でも心の整理がついていないかのように顔を歪ませて唸ると、また顔を埋めてしまった。ヒスイ自身もどう宥めていいのか分からなくて困惑した。
「なんで?何で、あんなに怪我してたの?」
「…どうでも良くなって。なんかもう、贖罪しても意味がないよなって…」
「贖罪?」
「そう…俺さ……、殺したんだ。仲間の竜人達を全員…。その罪を償うために、あいつに力を貰った。」
0
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる