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ルカは故郷に到着した瞬間、走り出した。少し先に嫌な感覚があり、近付くにつれて血の匂いがする。
「ヒスイさん!」
ヒスイさんの姿を見ると胸が苦しくなって泣きたくなった。何度名前を呼んでもピクリとも動かなくて、まるでこの世界が終わったかのような気分になる。
いつもなら治療はすぐに終えられるのに、今回ばかりは倍の時間が過ぎていく。それが更にルカの心を不安にさせ、焦らせる。
『これは酷いな。』
神様はヒスイさんの身体を見渡すと、傍に座って大人しく見守り始める。
「治して!早く!」
『いや、俺は無理だ。治癒の力はヒスイとルカに明け渡しているからな。』
「うそ…」
『大丈夫だ。ルカとヒスイの力なら治るから。』
そう言われても信じられなかった。
ヒスイさんの身体は深い噛み跡だらけで、そこら中から血が流れていた。それだけで、ヒスイさんを襲った奴らは血が狙いだったのだと推測が出来た。
「ねえ、やだ……ヒスイさん、置いてかないで…っ…」
少しずつしか治療が進まないのは、噛み跡に毒が混じっていたことや一つ一つの怪我が酷いことだけでなく、ルカ自身が力を使い過ぎていたこともあった。
ルカがヒスイの怪我を治療が完了したのは1時間を超えた当たりだった。本来なら、数分で終わったはずが今までで1番治療に時間が掛かった。
「っ、はぁ…っ、ひす、いさん…」
力が入らなくなり、ヒスイさんの身体の上に倒れそうになったが、誰かに身体を支えられ倒れることはなかった。視線を横に向けると、コウがおり一瞬目を疑った。
「大丈夫か?」
「な、んで…?」
『俺がつれてきた。名前を付ける約束もしたからな。』
「そ、う……ひすいさ、ん…」
ヒスイさんの身体に触れたくて手を伸ばすと、コウはゆっくりと彼の横に身体を横たえてくれた。
まだ顔色が悪く目を閉じていて、もう目を開けないのではないかと思って勝手に涙が溢れてくる。
力が入らない手を伸ばしてヒスイさんの身体に擦り寄る。
『とりあえず、ルカの家に行こう。』
神様の肉球が再びおでこに置かれると、少しばかり気持ちが楽になる。ルカが頷いた瞬間、当たりは再び光り今度はルカとヒスイが暮らしていた家へと移動した。
♦︎
クロ、いやルカがあんなに感情が揺れているのは初めて見た。あれほど、表情を崩す姿を見たかったのに、これは自分が求めていたものではなかった。
コウは溜息を吐くと神様が命じたように作った夕食を手にしながら、ベッドに持っていく。
そこには何日も眠り続けている者と目を赤くしながらその人から離れようとしない者がいる。
「ご飯食べて。」
そう言うと、ルカは手に力を込めて動きたくないという意思を示してくる。
「食べないなら、暫く引き剥がすよ。」
ルカよりもコウの方が力が強いのは当たり前だった。それをルカも分かっているから、顔を歪めながらも身体を起こすと、渋々ご飯を口に運び出す。
ルカは必要最低限の動き以外はずっと、眠り続ける者の身体を抱き締めていた。まるで、赤子のようにずっと。
コウは食器を洗いながら、隣にやってきた神様に視線を向ける。
「どうして俺を連れてきたんですか?」
『そりゃー、名前を付けるため。』
「本当は、二人の面倒をみさせるためでしょ。」
『…お主、勘がいいなあ。俺も、そこまで力が残ってないから、ヒスイの意識が戻るまでいられるか分からないんだよ。…まあ、名付けるお駄賃ってことで許して。』
最後だけ、軽い口調で言われて溜息を吐くと尻尾で顔を叩かれる。
『あと、お主の名前はリベルな。』
「…そんな簡単に名付けてきます?」
『良い名前だろ?俺が付けたのだから、加護付きで、今後は幸運を呼び込めるぞ。』
「それは、有り難いですね。」
白猫は歯を見せながら笑うと、背中を向けて寝室へと向かう。
「…あの人達、何者なんだ?」
猫の姿でも神々しさを醸し出す神様に、その神様から好かれるルカの存在。そして、唯一ルカの感情が揺さぶらせるヒスイさんとやらの存在。
いきなり知らない場所へと連れてこられたリベラは困惑するばかりだった。
「ヒスイさん!」
ヒスイさんの姿を見ると胸が苦しくなって泣きたくなった。何度名前を呼んでもピクリとも動かなくて、まるでこの世界が終わったかのような気分になる。
いつもなら治療はすぐに終えられるのに、今回ばかりは倍の時間が過ぎていく。それが更にルカの心を不安にさせ、焦らせる。
『これは酷いな。』
神様はヒスイさんの身体を見渡すと、傍に座って大人しく見守り始める。
「治して!早く!」
『いや、俺は無理だ。治癒の力はヒスイとルカに明け渡しているからな。』
「うそ…」
『大丈夫だ。ルカとヒスイの力なら治るから。』
そう言われても信じられなかった。
ヒスイさんの身体は深い噛み跡だらけで、そこら中から血が流れていた。それだけで、ヒスイさんを襲った奴らは血が狙いだったのだと推測が出来た。
「ねえ、やだ……ヒスイさん、置いてかないで…っ…」
少しずつしか治療が進まないのは、噛み跡に毒が混じっていたことや一つ一つの怪我が酷いことだけでなく、ルカ自身が力を使い過ぎていたこともあった。
ルカがヒスイの怪我を治療が完了したのは1時間を超えた当たりだった。本来なら、数分で終わったはずが今までで1番治療に時間が掛かった。
「っ、はぁ…っ、ひす、いさん…」
力が入らなくなり、ヒスイさんの身体の上に倒れそうになったが、誰かに身体を支えられ倒れることはなかった。視線を横に向けると、コウがおり一瞬目を疑った。
「大丈夫か?」
「な、んで…?」
『俺がつれてきた。名前を付ける約束もしたからな。』
「そ、う……ひすいさ、ん…」
ヒスイさんの身体に触れたくて手を伸ばすと、コウはゆっくりと彼の横に身体を横たえてくれた。
まだ顔色が悪く目を閉じていて、もう目を開けないのではないかと思って勝手に涙が溢れてくる。
力が入らない手を伸ばしてヒスイさんの身体に擦り寄る。
『とりあえず、ルカの家に行こう。』
神様の肉球が再びおでこに置かれると、少しばかり気持ちが楽になる。ルカが頷いた瞬間、当たりは再び光り今度はルカとヒスイが暮らしていた家へと移動した。
♦︎
クロ、いやルカがあんなに感情が揺れているのは初めて見た。あれほど、表情を崩す姿を見たかったのに、これは自分が求めていたものではなかった。
コウは溜息を吐くと神様が命じたように作った夕食を手にしながら、ベッドに持っていく。
そこには何日も眠り続けている者と目を赤くしながらその人から離れようとしない者がいる。
「ご飯食べて。」
そう言うと、ルカは手に力を込めて動きたくないという意思を示してくる。
「食べないなら、暫く引き剥がすよ。」
ルカよりもコウの方が力が強いのは当たり前だった。それをルカも分かっているから、顔を歪めながらも身体を起こすと、渋々ご飯を口に運び出す。
ルカは必要最低限の動き以外はずっと、眠り続ける者の身体を抱き締めていた。まるで、赤子のようにずっと。
コウは食器を洗いながら、隣にやってきた神様に視線を向ける。
「どうして俺を連れてきたんですか?」
『そりゃー、名前を付けるため。』
「本当は、二人の面倒をみさせるためでしょ。」
『…お主、勘がいいなあ。俺も、そこまで力が残ってないから、ヒスイの意識が戻るまでいられるか分からないんだよ。…まあ、名付けるお駄賃ってことで許して。』
最後だけ、軽い口調で言われて溜息を吐くと尻尾で顔を叩かれる。
『あと、お主の名前はリベルな。』
「…そんな簡単に名付けてきます?」
『良い名前だろ?俺が付けたのだから、加護付きで、今後は幸運を呼び込めるぞ。』
「それは、有り難いですね。」
白猫は歯を見せながら笑うと、背中を向けて寝室へと向かう。
「…あの人達、何者なんだ?」
猫の姿でも神々しさを醸し出す神様に、その神様から好かれるルカの存在。そして、唯一ルカの感情が揺さぶらせるヒスイさんとやらの存在。
いきなり知らない場所へと連れてこられたリベラは困惑するばかりだった。
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