動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅

文字の大きさ
4 / 25

4

しおりを挟む
「ヒスイさん!」


深いエメラルドグリーンの髪が揺れて振り返る。こちらに顔を向けるとヒスイさんは、柔らかな笑みを浮かべる。自分を見守ってくれる優しさを感じられて好きだった。


ヒスイさんが両手を広げでくれたので、そこに飛び込むように抱き付くと頭を撫でられる。


「ルカはすぐに俺を見つけるね。」


「へへっ、だってヒスイさんの気配は分かりやすいんだ!凄い優しくて、綺麗な感じなんだよ。」


「そうか…」


ヒスイさんのことを褒めると彼は決まって気まずそうに目を伏せる。俺はそれが嫌だった。まるで、自分にはそんな価値がないと思っているようで、胸が痛んだ。彼と出会って1週間が過ぎたが、この姿だけは当初から何も変わらない。


「俺、ヒスイさんが大好きだよ。」


「ルカは可笑しなことを言うね。」


「何で?普通のことだよ。ヒスイさんは優しくて、物知りで、カッコ良くて、とにかく凄いんだ!」


本当はもっと褒めたいところはあるが、あまり伝え過ぎると彼の負担になり過ぎてしまうと思った。でも、少しずつでも良いから、俺が言っていることを受け入れられるようになって欲しかった。


ヒスイさんは自分のことが好きではないのはすぐに分かった。でも、それが何故なのか分からない。俺はヒスイさんが自分のことを好きになって欲しかった。だから、彼に出会う度に好きなところをほぼ毎日教えていた。


「俺もルカが好きだよ。君は、…いつも眩しいね。」


首を傾げるとヒスイは身体を離して、かわりに手を握ってくる。


「今日は、湖に行こう。」


「うん!」


ヒスイさんは毎日、この世界のことについて教えてくれた。彼はこの世界について熟知をしており、赤子当然の俺に様々なことを教えてくれた。


現在、この世界には獣人と獣の2種類が住んでいるらしい。かつては、竜人も住んでいたが希少さや血の効力から他の者に狙われ、ほぼ亡くなってしまったらしい。ヒスイさんは唯一の生き残りで、長い年月を得て竜神と拝められる存在になった。


この世界には魔法が存在するが、治療系を取り扱う者は少ないらしい。軽傷を治すレベルがC級、風邪などの軽い病気を治せるのがB級、重傷を治せれるレベルがA級、重体を治療出来るのがS級に分類される。ヒスイさんはS級だが、俺の方が治癒効果が高いらしくSS級に値すると言われた。


前世では、何の取り柄もない自分がこれほど凄い力を手に入れられたのは不思議な気分だ。この世界なら両親からも愛されたのではないかと無駄に考えてしまう。


「ルカ。」


名前を呼ばれて視線を上げると、思わず息を呑んだ。太陽の光に照らされた彼の髪は輝き、浮世離れした容姿を更に際立たせる。


ヒスイは自分を眩しいと言ったけれど、俺からしたら彼の方が眩しくて仕方がない。本当は自分なんかが近くにいていいのかと自責に駆られるほどだ。


思わず手に力を込めると、ヒスイさんは不思議そうに顔を覗いてきた。


「ルカ、どうした?」


「…湖ってここにあったんだなって思って。」


「ああ、ここ綺麗だろ?」


「うん、綺麗だね。」


ヒスイさんの手を引くように足を進めると、彼は大人しくついてきてくれる。


神様がいたらこんな秀美な容姿をしているのかなとヒスイさんを見て、何度も思った。神様というとあのお調子者の神様を思い浮かべるが、この世界に来た時以来、会話をしたことはない。なので、俺からしてもよく分からない存在だ。


ヒスイさんは放浪の旅をしているらしい。ここに留まってくれるのは、俺の存在が理由だと教えてくれた。この世界の知識を一通り教えるまでは、どこにも行かないでくれるそうだ。俺の力は素晴らしいが人によっては悪行を重ねる道具になるとのことだ。危険も教えるためにも、ここに残ってくれている。


でも、神様が特典として、俺に加護と防御魔法を付けてくれた。だから、自分が危険な目にあっても、それらが守ってくれるのだ。でも、ヒスイさんには伝えていない。


俺は今世になって、ようやく自分の存在を認められていると感じることが出来た。こんなに優しくされたことも初めてで、彼ともっと一緒にいたいと願ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

筋肉質な人間湯たんぽを召喚した魔術師の話

陽花紫
BL
ある冬の日のこと、寒さに耐えかねた魔術師ユウは湯たんぽになるような自分好み(筋肉質)の男ゴウを召喚した。 私利私欲に塗れた召喚であったが、無事に成功した。引きこもりで筋肉フェチなユウと呑気なマッチョ、ゴウが過ごす春までの日々。 小説家になろうにも掲載しています。

魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
15歳で測定する魔力の量によって、人生の大部分が左右されてしまう世界。 そんな世界で、運命の日を迎えたひとりの平凡な少年──リクは、抱いた淡い期待を大きく裏切られる。魔力が前代未聞のゼロと言い渡されたのだ。 深い絶望とともに頭を抱えていたとき、森でポーション屋を営んでいるというくたびれた男が声をかける。路頭に迷っていたリクは、店で手伝いをしてはどうかという彼の誘いを受けることにする。 捨てかけた夢を拾ってもらった少年と、拾った男。ふたりが絆を深めていく、ポーション屋でのお話です。 一人称おじさんくたびれ男性×魔力ゼロ以外平凡青年のBLです。 カクヨムにも載せています。(完結済み)

【完結】獣王の番

なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。 虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。 しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。 やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」 拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。 冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

処理中です...