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葵ちゃんと雷の一閃

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「先輩! 何か言ったらどうですか!」

 柚奈は顔を赤くし、スカートを押さえながら怜に声を荒げた。もちろん怜はわざとじゃないことを伝えたいが、鼻血が出ている以上何を言ったらいいかわからなかった。そして精一杯考えた結果、素直に本当のことを話そうと怜は勇気を振り絞り、話し出した。

「ごめん柚奈ちゃん。わざとじゃないけど柚奈ちゃんのパンツを見たのは確かだ。本当にごめん」

 その瞬間、柚奈はさらに顔を赤くし、恥ずかしくなり怜の頬を力強くビンタした。ビンタされた怜は吹き飛び、倒れた。そして柚奈は一言言った。

「本当に最低です」
(やっぱそうなるよね。ごめんな柚奈ちゃん。とほほ……)

 怜は柚奈のパンツを見た瞬間、鼻血が出たことを後悔した。しかし、無事に怜の技が当たり、人形を倒すことができた。次はいよいよランクAへの挑戦だ。二人は集中し、武器を構えた。
 人形は立ち上がり、ランクAになった。そして人形は杖を前に出し、魔法陣を出した。魔法陣は人間と同じくらいのサイズで、紫色に光っていた。

「何!? 魔法陣!? 何をしてくるんだ? ここは先手必勝で攻撃した方がいいのか?」
「いえ、先輩。魔法陣を張っている時の攻撃は時に魔法陣の餌になってしまう可能性があります。なので、ここは相手の動きを見つつ、私たちも霊力を温存しましょう」
「わかった」

 そして数秒経つと人形が詠唱し始めた。

「オオイナル、ドクノチカラヲモツモノヨ。イマココニ、アラワレヨ。『巨大毒蛇オロチ』」
「巨大毒蛇? 召喚ってことか」
「そのようですね。しかもサイズも中々だと予想しましょう。蛇に効くのは氷や雪など寒いものですが、私たちにはそんな力がありませんので、仕方なく本体を狙いましょう」
「そうのようだな。葵ちゃんが思い出してくれればなぁ」
「無理無理。葵、そんなこと全然わからないもん」
「へいへい、さてやりますか」

 怜は楽に勝ちたいと前に出した、葵のスノードームだが、葵が全然覚えてないため無駄のようだ。そんな会話をしていると巨大毒蛇が魔法陣から姿を現した。その全長は十メートル以上で、紫色の鱗を輝かせ、鋭い目つきで怜たちを睨んだ。

「うわー! 蛇だぁ。葵無理無理! こんな大きなヘビなんてごめんだよ」
「おいおい、ならせめて霊力の供給だけでいいから、目は瞑ってろって。そんな葵ちゃんが目を瞑ってたってそんな変わらないだろ?」
「わかった。あとは頼むよ怜」
「先輩、来ますよ。とりあえず私はどうにか蛇の動きを止めます。その間、先輩は人形の方をお願いします」
「おうよ」

 蛇が口を開け、鋭い牙で怜と柚奈に襲いかかった。怜と柚奈はなんとか回避した。蛇が当たった地面は砕け、近くの地面には割れ目が入った。隙を見つけた柚奈が刀を蛇に構え、斬りかかった。

「さぁ蛇さん相手は私です。いきます『渦潮斬り』」

 柚奈が刀を思いっきり振ると、刀から海水が溢れ出て、渦潮のように空高く舞い上がった。渦潮はそのまま蛇に直撃した。蛇は渦潮の中にはまってしまい、抜け出せなかった。巨大な牙で、渦潮を噛みちぎろうとするが、渦潮は激しく回り、蛇の紫色の鱗を削った。蛇は耐えれなく、大きな声を出して叫んだ。
 蛇が柚奈に抑えられた隙を見て怜は人形の方に走り、攻撃を仕掛けた。力強く拳を握り、殴りかかるが、全て避けられてしまった。人形は毒の球体で攻撃し、逆に怜が押されてしまった。

「クソ! やはり遠距離相手はキツイな。まぁとりあえず葵ちゃん、相手は蛇じゃないから目を瞑る必要はなさそうだ。俺たちも戦い方を開ける必要がありそうだ」
「わかった怜。ところでどんな風に戦うの?」
「まぁ見てろって」

 怜は毒の球体は拳で振り払いながら人形から距離をとった。
 そして右手の拳を力強くにぎり、霊力を込めた。次の瞬間、怜は込めた霊力を全て解き放ち、力強く地面を殴った。地面は揺れ、ひびが割れた。そして地面が凸凹になり、地面が出たり、沈んだりと辺りの地面はひどく荒れた。その影響は柚奈にもあり、いきなりの揺れに驚いたが、渦潮にはまっていた蛇は地面が割れて挟まりそのまま、ダメージが蓄積して消えてしまった。
 柚奈は尻餅をつき、その光景に唖然とした。人形も同じく揺れに耐えきれなくなり、杖を下ろした。その隙を見て怜は殴りかかろうとしたが、地面が凸凹のせいでうまく距離を詰めることができず、毒の球体を食らってしまった。

「っく! チャンスを作ろうと思ったが、逆に俺がダメージを食らってしまうとはな。だが、蛇はそのおかげで倒せたらしい、相手は蛇の召喚で霊力があまりないはずだ。ここで決めるか」
「先輩! 今のはなんですか? 私驚きましたよ。しかし、これじゃ足場が悪くて上手く距離が詰めれそうにないですね。どうするのですか?」
「まぁ修行だし、俺のやってみたいことがあるんだけどいいか?」
「いいですけど、何をするんですか?」
「じゃちょっと準備があるんだ。俺の前で相手からの攻撃を防いでくれ」

 柚奈が前に出て、刀を構えると、怜は目を瞑って集中し、両手を膝についた。そして霊力を全身に流れるように上手く霊力を操った。しかし、人形は待つはずもなく、杖を構えて、毒の球体を連射してきた。
 柚奈は刀で連射してくる毒の球体を斬った。怜は毒の蓄積ダメージを受けながらも全身に霊力が流れるよう集中した。そして全身に流れ始めると怜の体は青い電気がビリっと光りだした。
 怜が目を力強く開けると両手を地面につき、クラウチングスタートの体勢になった。

「柚奈ちゃんありがとう。自分の力を上手くコントロールできるか不安だけど、怖がってやらない奴はただの愚か者だ。さぁ準備はいいぜ」
「わかりました。それでは次の毒の球体を斬ったら避けます。それが合図です」
「オッケー」

 毒の球体を柚奈が斬ると素早く横に避けた。その瞬間、怜は走り出した。それと同時に青い電気が怜の体をまとい、ものすごい速さで走り出した。まるでそれは雷に撃たれるくらいの速さだった。その速さを上手くコントロールし、怜は一瞬で人形の前に接近した。そうこれが怜の新しい技『雷の一閃ボルト』だ。
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