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葵ちゃんサンドウィッチを頬張る

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 次の日の朝、柚奈は7時に起床しみんなの朝食を作っていた。ちなみにそれはサンドウィッチとフルーツサンドだった。サンドウィッチにはハムとレタスが入っており、フルーツサンドには、いちごやみかん、甘いクリームが溢れるほど入っていた。昨日のことを忘れたわけじゃないが、気を紛らわすために柚奈は黙々とサンドウィッチを作った。30分を周るとみんな起きてきた。

「はぁ~、柚奈よ。おはようなのじゃ。今日も朝食作りご苦労じゃ」
「おはようございます師匠。師匠の大好きなフルーツサンドも作りました」

 翔子は顔を洗い、あくびをしながら椅子に座った。ソファで寝ていた豊姫も目をこすり、起きた。翔子はスマホを触り、今日の天気や気温をいつものように確認し、テレビをつけた。サンドウィッチが出来上がり、柚奈が運んできた。

「師匠。お待たせしました。どうぞ。豊ちゃん申し訳ないけど、変態を起こしてきてください」
「感謝なのじゃ。ではいただくかの」
「え~。面倒臭いなぁ。柚ちゃん行ってきなよー。なにやら昨日楽しそうだったからさ」

 翔子は宝石を見るようなキラキラした目で、フルーツサンドを食べ始めた。それに引き換え、柚奈は豊姫に言われた言葉にムカついた。正しくは昨日のことを思い出し、怒りがこみ上げてきたのだ。そんなことも知らずに怜は爆睡だった。丁度そこに葵があくびをしながら起きてきた。

「みんなおはようー。はぁ~、お腹すいたぁ」

 悠長に起きてきた葵は、柚奈の怒りのオーラを感じ取ると何事かと驚いた。そして柚奈は歩き出し、怜の部屋に向かった。それはまるで世界を破壊しに行くような感じだった。それを守護霊たちは怜の無事を祈り、サンドウィッチを頬張った。柚奈が怜の部屋の前に着くと決心を固めた。

(私! しっかりしろ。私は今起こしに来ただけだ。ただそれだけ、昨日のことはもう忘れよう大丈夫。こんなことで狼狽えてたら一生彼氏なんかできない。よし行くぞ)

 柚奈は自分の頬を叩き、気合いを入れ怜の部屋に入った。怜は寝相が悪く、バスローブが少し脱げ、上半身裸だった。部活をやって体は鍛えられていた為、腹筋は割れていた。恋愛経験が少ない柚奈にとっては刺激が高く、部屋から出て、ドアから覗きながら声をかけた。

「先輩ー! 朝ですよ。起きてください」

 柚奈はできるだけ大きな声を出したが、怜はまだ夢の中だった。だんだん苛立ってきた柚奈は中に入り、怜の頬を軽く叩いた。

「先輩先輩先輩! 起きてください」

 頑張って起こす柚奈だが、全然怜は起きなかった。起きるどころか寝相が悪い怜は寝が入りをするときに柚奈の手を引っ張り、ベットに入れた。何が起きたか分からない柚奈は混乱し、布団をどかした。すると真横に怜の寝顔が見えた。柚奈は顔を赤くし、なんとか脱出しようともがくが、緊張し力が出なかった。

「ねぇ! ちょっと……先輩! 離してください。もう力が出ない」

 そんなことを知らず、怜はまだ夢の中で寝ていた。フルーツサンドを食べ終えた翔子がドアを開けた。翔子は怜の隣で添い寝している柚奈を見て気まずくなった。

「す、すまないのじゃ。柚奈よ、起こしに行くふりをしてこんなことをしてるなんて、大丈夫じゃ。みんなには言わないのじゃ」

 柚奈は燃え上がる太陽のように顔を赤くし、説明した。

「ち、違います師匠! これには訳があって、私は起こそうとしたんですが、この変態さんが寝相が悪すぎて」
「良いのじゃ良いのじゃ。気にするな」

 柚奈は怒りと恥ずかしさが頂点にきて、拳を振りかざし、殴り飛ばした。

「変態さん! もう容赦しないですよ。くらえ『怒りのパーンチ柚奈パンチ』です」
「グヘェ」

 怜はベットから吹っ飛ばされ、床に落ちた。気分がすっきりした柚奈は部屋を後にした。翔子は驚き怜に近づいた。怜は涙をこぼしながら、鼻を押さえていた。翔子は捨てられた犬を見るような目で話した。

「ドンマイじゃ」
「うるせぇロリ忍者」

 翔子も苛立ち、ベットにあった枕を怜の顔面に叩き落とした。怜は抵抗できず、もろくらい失神した。数分後、みんなが朝食を食べ終えると鬼の形相で制服に着替えた怜が起きてきた。

「やいやい柚奈! ロリ忍者! それがお前らの人の起こし方か! もっと普通に起こせないのか」
「あれは先輩が悪いです。昨日に引き続き今日の朝もあんなことをするなんて」

 怜は身に覚えのないことを言われ、焦った。それに漬け込むように翔子が話した。

「そうじゃそうじゃ。お主朝なのに狼になるとはな」
「えぇ! 知らないんですけど。てか人を狼男呼ばわりするな」
「覚えてないんですか先輩! 私悲しいです」

 柚奈は演技をし、怜をおちょくった。怜は何も覚えてない為、深刻な問題だと捉えた。聞いていた葵と豊姫は軽蔑するかのような目で怜を睨んだ。敵が多すぎる怜はだんだん自分が悪いんだと思い、土下座をした。

「す、すみませんでしたー。俺だって何も覚えてなくて。なんでもするから許してくれ」

 柚奈と翔子はつい我慢できず、笑い始めた。状況が飲み込めない怜はぽかーんとした顔で二人を見た。

「先輩大丈夫ですよ。昨日のことは許しませんが、今日のことは事故だと思うんで許しますよ」
「怜よ。おちょくってすまなかったの」

 怜は自分が狼になってないことに安堵し、魂が抜けたように座り込んだ。豊姫は二人が遊んでいたことに気づき、状況を理解し微笑んだ。葵は全然理解していなかったが、周りが許す空気だったので、とりあえず一緒に笑った。怜は昨日のことを思い出し、また必死に柚奈の前で土下座をした。

「すまない柚奈。昨日は俺が悪かった。人の気配がしたらまずはノックだよな。どうか許してくれ」
「わかりました。ですが私も部屋を間違えたので、ごめんなさい。しかし、先輩には後で私の頼みを聞いてもらいましょう」
「そんな~。簡単なやつで頼むぜ」

 二人とも昨日と今日の出来事はきっと奥深い思い出に刻まれるのであった。そんな楽しい日常に深い闇が近づいていることに気が付かずにいた。
 同時刻、とある廃校で邪悪な渦が渦巻いていた。

「面白い奴らがいるわね~。次はリリィが行くわ。早く奴らの魂が欲しいわぁ」

 リリィは翔子から奪ったカラスを踏み潰し、狂気的に笑いながら言った。
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